13氏族会議
実はかなり先まで既に書いています。
1日ずつ投稿しようと思いましたが、2/5がコンテストの締め切りなので
ある程度まとめて投稿しようと思います。
女神の間。
俺は生涯、そこでの出来事を忘れないだろう。
もしこの時、誰かが別の行動をしたのなら、その後に起こったいくつかの悲劇は防げたのかもしれない。
何年経ってもそう、思ってしまうのだろう。
"オークキング面エルフ"ガバムが口火を切った。
「さてようやく全員揃ったな。では、13氏族会議を始める。」
13氏族とはアストランを統べる13の統治者一族である。
彼らについて説明する前に、まずこの当時のアストランについて書いておこう。
そもそもアストランというのは、異世界の地球だと俺は思っている。
アストランは球体で、太陽や月がある。
そして昼と夜があるから自転もしているはずだ。
もちろん、宇宙から確かめたわけじゃないが、俺の中のイメージでは地球みたいなものだと思っている。
ただし、大陸や国のあり方は全く違う。
アストランには大陸が1つしかない。
俺のいた地球の用語でいうと、パンゲア大陸みたいなものだ。
故にアストランとはこの世界のことだけでなく、唯一存在するこの大陸のことも指す。
そしてアストランで"人類"と言えば人間族、エルフ族、ドワーフ族の3大人型種族を指す。
人類はこの世界の主要プレイヤーの1つだ。
当時のアストランでは4つの勢力が微妙な均衡を保っていた。
魔族。
彼らは高度な知性、魔力と長寿命を持つが、数は少ない。
大陸北部に小国家郡を形成しており、それぞれの国を魔王という絶対的な力を持つ君主が統治している。
魔族は基本的に人類とは相容れず、2つの陣営は過去何度も衝突と和解を繰り返してきた。
魔族は個の力、人類は数。
互いに拮抗しそれ故の緊迫が常にあった。
言わば冷戦状態であり、双方大きな動きに出るつもりはない状態だ。
自然界。
草木や動物にモンスター、いわば自然そのもの。
俺のいた地球では彼らに意識や魂はないと考えられていた。
しかしアストランでは違う。
全てのものに魂が在り、マナが宿る。
ただその意識のあり方はかなり独特だ。
彼ら個々には明確な意識、目的はない。
が、その上位存在である精霊達との共有意識とでも言うべきもので、緩やかに繋がっているのだ。
普段、岩はただ岩としてそこにあるだけだし、動物達は生きるために生きているように見える。
しかし実際には一つ一つの営みは、その共有意識が定める目的に向かってゆっくりと向かっているのだ。
そしてこの当時、人類とは自然界の対立は急激に深まりつつあり、それが俺達が召喚された直接的な理由であった。
人類。
人型種族達は当時急激にその勢力を拡大しつつあった。
その理由は技術力、魔導科学の発展だ。
没落したとはいえ、太古よりの叡智を継承しているエルフ、優れた加工製作技術をもつドワーフ、そして発想力と野心でのし上がった人間…
それら3種族が互いの強みを持ち寄り、技術として昇華させた。
幾度かの革新を経て、人類は大量消費、大量生産の時代に入りつつある。
それがアストランにどんな影響を与えたのか…
そして最後に壊魔。
こいつらが何なのか、それを今ここに書いても大事なことが伝わらない気がする。
だからそれは、俺が経験した色んな出来事を読んで、理解してくれてから改めて書き記そうと思う。
ただ一つ言えるのは、壊魔はアストランに生きる全てのものの敵であり、破壊者だってことだ。
当時壊魔は一種の災害と見做されており、発生し次第場当たり的に対応されていた。
この4つの勢力がせめぎ合っていたのが
当時のアストラン大陸だ。
ちなみに、他にも大勢力は存在し、例えば海の帝国アトランティスや、天空の覇者ウラノスなど。
これらは登場したときに改めてきちんと書こうと思う。
さて13氏族会議だ。
この会議は建前上、人類全体の利益について協議決定する場である。
でも大多数の会議がそうであるように、現実は建前とは異なるものだ。
13氏族会議は、人類内の派閥争いの場となっていた。
かつて志を同じくした13人の人型種族。
彼らが締結したバベル協定こそが人類の繁栄の始まりだった。
始まりは同列。
しかし時を経てその関係性は変質し、13氏族の中に明確な序列を生み出していた。
序列ができれば、派閥も生まれる。
この頃人類は2つの大派閥とそれ以外、という形に分裂していた。
端的にいえばこの時の13氏族会議は、大派閥の利益を確保するための会議になった。
当時発生していた問題の解決ではなく、その後の権益確保ばかりが主たる議題だったのだ。
本当に、本当に馬鹿で愚かな事だと思う。
その会議の顛末はこうだ…
オーク面のガバムが尊大な口調で会議を取り仕切っていく。
「では最初の大方針を定める。召喚された勇者達の活動方針だ。彼らは我ら直属の戦力として、頻発するモンスター被害への対応に当たらせることとする。異論は無いな?」
大多数の者がうんうんと頷いている。
どうやら根回しは完了しているようだ。
この辺りは日本っぽい感じだな、と俺は妙なところに感心したものだ。
そこへ…
「お待ち下さい!」
なんとアリーナが反対意見を表明したのだった。
ところが…
「うむ、異論は無いようだな。」
ガバムはなんと、アリーナを完全に無視して話を進めようとしている。
他の者も、特に上座に近い位置にいるものほど同じようにアリーナの方を見ようともしていない。
「おい、異論はあるみたいだぞ。どこ見てんだ?」
悔しげなアリーナの表情を見て、俺は反射的に口走ってしまっていた。
俺は2つの対照的な表情を覚えている。
1つはアリーナの驚いたような、喜んでいるような顔。
そしてもう1つは蛇のように俺を睨むガバムの顔だ。
虫けらを見るような、嫌な目線だった。
「何かな?シェラザート家の君主よ」
「はい!発言を許可いただき、ありがとうございます。恐れながら、魔王達からの忠告を無視すべきでは無いと、私は考えています。」
この時のざわざわとした空気は、今思い出しても居心地が悪くなる。
失笑9割と1割が同情って感じだった。
大変の氏族達はアリーナをあざ笑っている。
残る少数の面々は、アリーナに目で訴えかけていた。
"やめておけ"と。
「はあはあ、なんとも。その件に関してはすでに議論し、結論が出ているではないか。」
「しかし!ことの重大性を考えれば...」
「お黙りなさい!凋落したシェラザート家如きが!氏族筆頭であるマクシミリアン家に楯突くつもりか!」
キーキーと喚きだしたのはガバムの右隣に座っていた銀髪のエルフだ。
こいつはまあ、"スネ夫"みたいな顔だったな。
いかにもガバムの取り巻きって感じ。
まあ実際そうなんだけど。
「我らの貴重な時間をそのようなことに使うでない!」
そしてガバムの左隣にいたハゲ頭のエルフも同調した。
この辺りで俺にも何となくこの13氏族会議というものの本質が見えてきていた。
結局は強者が自分の理屈を押し通すだけの場なのだろうと。
この3人のエルフが、この場ではもっとも発言力があるようだ。
アリーナの提言も彼らに押し切られる形で流されようとしていたが...
「その話。私も詳しく知りたい。内容を教えてくれ。」
突如参戦してきた男がいた。
そいつはアリーナのすぐ横に座っていた人間の氏族の...幼女...を守るように寄り添っていた男だ。
ここで先回りして書いておくけど、別に話を盛ってるわけじゃないぞ。
ほんとに幼女がいたんだよ!
アリーナも当主としては大概若いがその子はそんな次元じゃなかった。
10歳くらいなんじゃないか?とその時の俺は思ったよ。
彼女、ミリアム・モアナイアがどういう経緯でそんな立場に付いていたかはおいおい説明するとして、とにかくその男はこう続けた。
「僕はジェローム・グレイグ。モアナイア家に召喚された勇者だ。魔王の提言とはいかなるものか、僕たちにも知る権利があるはずだ。」
ジェロームは身長180cmほど。
ブロンドの髪をクルーカットに刈り上げた、この上なくダンディな男だった。
その青い瞳には冷静さと獰猛さが同居しているように感じる。
そして彼はなんと、スーツを完璧に着こなしている。
そこに集まった面々の中で、そんな格好をしているのは彼だけだった。
ちなみに、俺はいかにも"布の服"とでもいうような格好をしていた。
どうやって俺がその服を着たのかは...まあ深く追求したことはない。
氏族達やその付き添いの者を見る限り、アストランに元々スーツなんてものがあるとは思えないので、彼のスーツは何らかの手段により作らせたものなのだろう。
「しかしジェローム殿、そんなことを知っても...」
"スネ夫"エルフがやんわりとたしなめたが、それに対する彼の答えは身も凍るような強い視線だった。
氏族たちを前にしてもいささかも揺らぐことなく放たれる視線に、とうとうガバムが音を上げた。
「わかった。そこまで言うなら話そう。」
魔王の提言。
それは13氏族会議に先立って全氏族に向けてもたらされた。
その内容は...
「現在発生しているモンスターの凶暴化は、人類の魔道科学が原因である。
過剰なマナ採集により自然界のバランスが著しく悪化している。
モンスターによる襲撃はいわば自然界からの警告。
これ以上開発を続ければ取り返しのつかない事態が生じる。
だから魔道科学を破棄せよ。それが魔王達の主張です。」
アリーナがジェロームに向けて説明した。
なんだかどこかで聞いたような話だと俺は思った。
どの世界でも人類は同じ過ちを犯してしまうのかもしれない。
「一理あるように思うが。」
ジェロームが冷静に告げる。
胸を張り、不敵に前を見据える姿からは絶対的な自信というものを感じた。
「ふん!こんなもの、奴らの姑息な策略に決まっておる!
奴らは人類にとって不倶戴天の敵。
そんなものたちの提言など聞く意味は無いわ!」
ガバムが喚き、多くの者たちがうんうんと首を振っている。
「信用できないという具体的な確証は?」
「そんなもの、過去の歴史が...」
「しかし、魔道科学の発展とモンスター襲来の頻度には明らかに相関があります!」
アリーナによれば、特に開発が進んでいる地域ほど凶悪なモンスターが湧き出ているそうだ。
しかし…
「ふん、だからどうした?
それは我々の活動範囲が広がり、モンスター共と衝突しているだけに過ぎん。だがそれも今だけだ。
魔導科学の光はやがてアストランの全てを照らすだろう。
我らの力でアストランは未だかつて無い繁栄を見ることになるのだ。」
ガバムは全く聞く耳持たない。
後で知った事だが、彼を筆頭とする派閥は魔導科学の利権から大量の利益を得ていたそうだ。
だから魔王達の提言はガバムにとって絶対に受け入れられないことなのだった。
「マクシミリアン卿、あなたの主張はいささか客観的根拠に欠けているように思える。
まずはきちんと調査し、具体的な数値を見てから方針を決定すべきではないか?」
「...モアナイア殿。どうやら臣下への教育が行き届いていないようだな。」
突然話を振られた幼女、ミリアム・モアナイアが目に見えてびくりと身を震わせた。
「あ、あの...」
「困りますなぁ。1人の臣下さえまともに扱えないようでは。
こんなことならば、父上様との古いよしみで行っている様々な援助も打ち切るしかないようですの。」
「そ、それは!困ります!そんなこと...!」
どうやらガバムは攻める先を変えたようだ。
矛先を弱いものに向けたのは男としては最低だが、その場では最高の戦術だったかもしれない。
「お、お願いします!どうか...」
「モアナイア殿。何事も誠意というものが大事なのではないかな?ん?」
「ジェローム...お願い...」
ミリアムの嘆願に、さしものジェロームも折れてしまった。
「...わかりました。この件は忘れましょう。」
そう言って、最後に青い双眸からマグマも凍てつかんばかりの視線をくれ、ジェロームは目を閉じた。
ガバムは満足げに頷き、俺たち召喚勇者の活動方針を宣言した。
13氏族の剣として、激化するモンスター災害への対応に当たるべしと...
この時、俺たちはどうすべきだったのだろう。
ミリアムを見捨ててでも、ガバムを止めるべきだったのか?
とにかくこの瞬間、運命の歯車は大きく動きだした。
最悪の方向へと。
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