ウィーゼル守備隊隊長 ジョージ・マクレーンの日記 "復興の日々"より抜粋
ビンス王が私の中でどんどんイケメン敏腕社長になっていく...
あの襲撃から1ヵ月以上が経った。
ウィーゼルは今、復興に向けて進んでいる。
崩壊し尽くした街を見た時、俺はこの街はもう終わりだと思った。
それがどうだ。
人々は絶望から立ち上がり、より強く、より逞しく生きて行こうとしている。
1つはビンス王のお陰だろう。
復興に際し、王は次々と施策を打ち出した。
自らの私財を使って巧みに外部から人材を呼び寄せた。
毎日のように街に繰り出し、功績には惜しみない賞賛を送った。
打ちひしがれた人々を勇気付けるため、演説を行った。
そして俺たちにも...
「よく生き延びてくれた。」
打ちひしがれる俺たちに対してビンス王が開口一番言ってくれた言葉だ。
星獣に手も足も出ず、自分たちの役割を全く果たせなかった俺たち守備隊。
俺は情けなさや恐怖、そして生き残った仲間があまりに少ないことへの悲しみに包まれていた。
「君たちは英雄だ。あの恐怖に立ち向かった。人智を超えるものに...」
俺はビンス王の言葉を何とは無しに聞いていた。
王の言葉を聞き流すなど、普通ならありえない事だろう。
だがこの時は...
「だが君たちはもう一度立ち上がらねばならない。」
この人は何を言っているのだろう?
この時俺はそう思った。
こんな目にあった俺たちに、これ以上何を求めるというのだろう、と。
「君たちが打ちのめされているのは分かる。だがそれは、彼らもまた同じだ。」
王は破壊された市街地を指し示した。
粉塵が立ち込め、火と黒煙が上がり、悲鳴や鳴き声が響き渡る。
それが俺の愛した街、美しかった都市ウィーゼルの姿だった。
俺は涙が頬を伝うのを感じた。
「ウィーゼルは死んだのか?」
王が言った。
「これで終わり?お前達の守ろうとした街はこんなものなのか?」
違う、と俺は思った。
まだウィーゼルは終わっていない、と。
「そんなはずはない!この街は500年を生きた。街とは何だ?家か?建物か?いや、街とは人だ。そこに生きる人々こそが街なのだ。見ろ。」
俺の視界には、助けを求める大勢の人が見えた。
「彼らこそがウィーゼルだ。生きようともがく彼らが。まだ街は生きている。」
王はゆっくりと街に向かって歩き出した。
「私たちが諦めた時、ウィーゼルは死ぬ。だから私は行く。」
ハッとして俺たちは顔を上げた。
「お前達は何故守備隊になった?命をかけて。何がお前達を動かした?ほんの少しでも、その思いがまだあるのなら...私は待っているぞ。」
そう言って、王は去った。
その後俺達がどうしたかは、書き記すまでもない。
俺達は、まんまと王にのせられた訳だ。
だが俺達がどれだけ頑張っても所詮は凡人。
この街の惨状を覆す為には何か、思いも寄らない強烈な風が必要だった。
王が必死に外部から人を呼び寄せていたのも、それを期待していたんだろう。
果たして、そいつはやってきた。
初めてその名が轟いたのは音楽学校での救出劇。
1週間以上かかると思っていた捜索は、奴の力でたった1日で終わった。
それが"史上最強のDランク"伝説の幕開けだったのだ。
彼はウィーゼル中を駆け回り、大勢の命を救い出した。
どんなに深く埋まってしまっていても、あっという間に見つけ出してしまう。
さらに圧巻だったのはその戦闘能力の高さ。
破壊された外壁の防衛では、たった1人で無数のモンスター共を寄せ付けなかった。
そのお陰で外壁の修復が急速に進められたのだ。
それに触発されて、他のレンジャー達も目の色を変えて頑張り始めた。
自分より下のランクの者があれ程の活躍を見せたのだ。
危機感を煽られたのだろう。
皆、競うようにクエストを片付けていった。
それに引っ張られるように、街中が前へ、前へと進み始めたのだ。
今、この街には希望がある。
このまま平和だった頃を取り戻せるんじゃないかってな。
それをもたらしたのは、間違いなくあいつだ。
ただ俺は…
俺はそこまで楽観的になれなかった。
今やっていることは…
もしかしたら、また奪われるために積み上げているだけなんじゃないかってな。
悲観的に考えるすぎるのは良くないことだ。
だけどあれを一度、目の当たりにしてしまうと…
ある日、俺は王にそのことを伝えた。
すると意外な答えが返ってきたんだ。
「正にその通りだ。だからこそ、お前を隊長に戻したんだ。このままではまた、奪われるだけだ。一度起きたことがまた起きない保証はないんだ。だから備えなければならない。」
その日から、俺は再び奴が襲ってきた時の備えに追われることとなった。
まず1番重要なのは、奴をどこで迎え撃つかだった。
外壁を軽々と破壊された以上、篭城には活路がない。
ではやはり、打って出るしかない。
どこへ布陣するか。
まず北部は捨てた。
ウィーゼル北部には巨大な運河がある。
あの巨体でも運河を渡るのはかなり時間がかかるはずだ。
よって北部から来た場合、多少なりとも退避する時間があると踏んだ。
となると南部の大平原が戦場だ。
普通のモンスター相手なら、もう少し複雑な地形に陣取り、地の利を生かして戦うべきだろう。
だがアルデバランに小細工は通用しないと俺は思う。
ならば大平原でできうる限りの備えをするしかない。
奴に半端な攻撃が通用しないのはもう経験した。
だから俺は、ありったけの火薬をかき集めることにした。
まずはウィーゼルで生き残った商人達を通じて。
そして王の名までも借りて国内、果ては国外から。
集めた火薬は生産系の魔術師達に加工させる。
これが、対アルデバランの切り札になるだろう。
それだけではない。
俺はBランクレンジャーのカッツに、あることを依頼した。
奴は普段、戦闘には出ない。
そのためかなり渋っていたが、頼み込んでなんとか引き受けてもらった。
ウィーゼルが生きるか死ぬかという場面だ。
俺もなりふり構ってはいられない。
他にも遠距離武装の仕入。
普通の剣や槍などは役に立たない。
だからそれらの在庫は思い切って売り払い、替わりに大砲や投擲機を仕入れた。
これもどれだけ効果があるかわからないが、無いよりはマシだ。
高ランクレンジャーのスカウトなんてのもやった。
レンジャー達は外部から来ている者も多い。
彼らがアルデバランと戦ってくれるかは正直未知数だ。
だから、何人かには前払いで費用を払ったり、はたまた口説き落としたり。
正直それでも強制はできるもんじゃないが、これも何もやらないよりマシだ。
そうして目まぐるしく日々は過ぎて行った。
俺は守備隊としての業務もあったから、忙しさは半端じゃなかった。
いや、わざとそうしていたんだ。
寝る間もなく動き続ける事で、体に染み付いた恐怖を少しでも洗い流すために。
眠るのが怖い。
眠るといつも同じ夢を見る。
街を覆い尽くす黒い影、真っ赤な太陽、咆哮、血の赤。
そして悲鳴。
夢の中で誰かが叫んでやがる。
その声は逃げても逃げてもずっと付いて来て、とうとう俺は黒い影に捕まる。
影は最初、化け物の形をしてる。
だけどだんだん形を変えていき、気付いたら俺は死んでいった部下達に取り囲まれている。
そいつらはずっと叫んでやがる。
お前は何で生きてるんだってな。
俺は必死に言い訳して、許しを請い続ける。
...許されるはずもない。
あいつらは俺に近づいて来て、赤い赤い口を開いて...
それは死者の口であり、あの怪物の口でもあって...
食われる寸前。俺は自分の悲鳴で目を覚ます。
多分、俺はこの悪夢から逃れられないだろう。
だから動き続ける。
あいつをこの手で倒す日まで...
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