奥村美音
美音は書きやすいのでついつい喋らせちゃいますね。
ちなみに、名前は"みおん"で、"ん"が付きます。
"みお"で音楽だとなんか別の作品になっちゃうので、一応。
てか、名前ミスったな...そんな意図は無かったんですけど汗
12勇者の2人に出会って1週間程。
流石は勇者ということか、俺たちの出番はかなり少なくなっていた。
まあ個人的にはどうでも良いことだったんだが、ハッサイのおっさんなんかは歯痒いみたいだったな。
そんなある日...
「美音!!」
俺たちの野営地を訪れた人たちがいた。
どこかで見たことのある女性が3人。
-誰だったっけ...
彼女達はどうやらあの奥村美音と友人のようだ。
「アミー、ハンナ、ホリー!目が覚めたのっ!?」
美音が彼女達に駆け寄った。
俺たちに対する反応とあまりに違っている。
彼女は3人と抱き合い、笑い、涙ぐんでいた。
そして美音も含めて全員、お揃いの制服のようなものを着ている。
あれは...
「あれ、もしかしてあの音楽学校の...?」
俺が呟いたのが聞こえたのだろうか。
アミーと呼ばれた少女が俺の方を見た。
「あっ!あなたはっ!!あの時は本当にありがとうございました!!!」
たちまち俺は3人に囲まれてしまう。
「ああ、もう体はいいの?」
「はい!セイヤさんが早く見つけれくれたお陰です!こうしてまた皆んなで会えるなんて...」
ホリーの目に涙が浮かんだ。
相当な恐怖を味わったのだろう。
「ちょ、ちょっとあんた!何泣かしてんのよ!!」
それを見て美音がずんずんと迫ってくる。
ゴブリン・タイラントより迫力があった。
「いやいや、誤解だってば!!」
「違うよ美音!この人は私たちの命の恩人なんだよ!」
「えっ?」
ハンナが事の経緯を美音に説明してくれた。
美音は俺と彼女を交互に見つつ、複雑な顔をしている。
「そ、そうだったんだ...」
「美音ちゃんが戻ってるって聞いて、居ても立っても居られなくて...会いに来ちゃった。」
「ありがとう!私がお見舞いに行った時はまだ意識がなかったから...本当によかった...」
彼女達は音楽学校の同級生。
なんと美音は、こっちで学校に通っていたらしい。
互いに抱き合う彼女達を見ると、俺はなんだか胸が暖かくてすっとするような感覚を覚えた。
これがビンス王の言っていた、誇りというやつなのかもしれない。
「セイヤ、美音、少しいいか?」
そこに、守備隊隊長のジョージさんがやって来た。
彼女達は名残惜しげに別れ、俺たちは会議室に入った。
「お前達のお陰で、この戦線もかなり安定して来ている。今こそ攻勢にでる時だと、俺は思っている。」
おもむろにジョージさんが切り出した。
彼が言うには、平地を南下した先、ウィーゼル大森林の方角からモンスター達はやってきているらしい。
「モンスター共の沸いている元を調査、可能であればこれを叩く。勇者2人にセイヤとアリーナがいれば、十分勝算があるはずだ。」
「なるほどな…俺は構わないけど…」
そう言って俺は美音を見やった。
いつもならここで、
男と組むなんてあり得ない!!
的な発言が飛び出すのだが…
「あ、あたしも、別に…というか…構わない…わよ」
美音がしおらしく言った。
どうやら先の一件で俺への評価を改めてくれたらしい。
「よし。決まりだな。それから…」
ジョージさんが咳払いしたあとおもむろに話し始めた。
「お前達が来る前、俺の中には絶望しかなかった。
あの化け物にやられて、モンスター共は暴れまくる。
そのまま呑み込まれる運命なんだってな。だけどそれが変わった。
希望が芽生えた。これならいけるんじゃないかって思えるようになった。
俺だけじゃない。皆そう思ってるはずだ。
希望ってのは人間にとって生きていく理由なんだ。
それを取り戻してくれて、ありがとな。
話は終わりだ。準備にかかってくれ。」
ジョージさんは照れ臭いのか、一方的に話を打ち切って出て行ってしまった。
最初は全く信頼されていなかったが、今は確かな信頼を感じる。
俺はそれに応えられるよう、精一杯頑張ろうと決意した。
その日の夜。
夕食を終え、焚き火で暖を取っていると思わぬ人物がやって来た。
「あ、あの…ちょっと…いいか、いや…いいですか?」
「美音…ちゃん?どうしたの?」
奥村美音である。
「あー、えーっと、そのー…この前は…そのー、なんていうか、そのー…」
「んん?なに?」
「ああああーっ!!失礼な態度とってごめんなさいでしたっ!!!」
美音はがばっと頭を下げた。
桃色の髪がはらりと舞い、残像が残る。
俺は呆気にとられて彼女の顔を見つめた。
改めて見ると、とても整った顔立ちだ。
まだ17、8歳頃だろうか、子供のあどけなさと、大人の美しさが同居している。
桃色の瞳に桃色の髪。
名前からして日本人のはずだが、どう見ても日本人には見えない。
転生したときに肉体がアストランのものに再構成されたのは、彼女も同じだったようだ。
普段はきっと釣り上がった目も、今はおどおどと目線が定まっていない。
顔も真っ赤だ。
なんとなく意地悪したくなった俺は、別に変じゃない…はずだ。
「何事も誠意というのが大事だと思うがねぇぇ。んんん?」
俺はどこかで聞いたようなセリフを言ってみた。
「せ、誠意っ!?どどど、どうすれば!?ま、まさか身体でっ!?いやでもあたしそんなに出るとこ出てないしっ!?ああああっどうしようっ!!」
美音は慌てふためきながら身体を抱き、真っ赤な顔と上目遣いで俺を見ている。
(それ以上やると変な趣味に目覚めそうだったので)俺は冗談だとわかるように大袈裟に笑った。
「はっはっはっ!ごめん冗談だって!全然気にしてないからいいよっ!」
「あ、あはははは。冗談ね、冗談…ってこらぁっ!!色んなヤバいこと考えちまっただろうがっ!!」
今度はプリプリと怒り始めた。
本当に表情の移り変わりが激しい子だ。
そこへ急に…
『自動学習機能により、マスターの趣味嗜好について学習しました。』
という声が聞こえて俺は凍りついた。
「ちょ、ちょっとピタゴラスさん…?今のは違うんだよ?ねぇ、聞いてる?」
『……はい?』
「おい、絶対聞こえてただろ!?余計なこと学習するんじゃないっ!!?」
『……スリープモードに移行します』
「はいっ!無視!!!」
「あんた、それ、誰と話してるの…?」
美音が恐る恐る近寄って来る。
「なんかそのブレスレットから声がした気がするんだけど」
特に隠す理由もないので俺はピタゴラスについて教えてあげた。
「えっ!?神器!?てことは…あんたもしかして…あの時のヘタレ君なのっ!??えっ、全然別人じゃん!?」
美音はようやく俺のことを思い出したようだ。
「そうそう。あのお陰で俺だけ勇者扱いされてないんだよな。2年間もしごかれまくるし、まじ大変だったよ…」
俺達はこの2年間の情報交換をした。
美音はこのオーストンの勇者として、様々な活動を行なったようだ。
また、まだ15歳だったということもあり、ビンス王の計らいでウィーゼル音楽学校にも通っているという。
「あたしは前の世界でも音楽やっててね。クラスも"ミュージシャン"だから、ちょうどいいだろうってさ。」
そう言って美音はエアギターをして見せてくれた。
聞けばバンドをやっていたらしい。
「あたし、日本にいた時は色々あって、あんまり友達っていなかったんだよね。」
そう語る彼女の表情は、別人のように暗く、悲しみに満ちていた。
「だから、今の友達はほんとに大切なんだ。頑張ってあたしが戦えるのも、あの子たちがいるから。」
美音はそう言ってまた頭を下げた。
だから男嫌いなのにわざわざ俺のところにお礼を言いに来たのだろう。
「そういえば、男嫌いなのにフランズ君は平気なんだな。」
「ああ、あの子は男として見れないというか…弟みたいなもんなのよ。国が近いせいか、一緒に活動するのも多いしね。」
男として見れない…俺も前の世界で良く言われたけど…めちゃくちゃ辛いんだよな…頑張れフランズ…!!
俺は心の中で全力のエールをフランズに送った。
いやまじで、ほんと辛いから!
好きな子に男として見られないのは…
いや、もうやめよう…
そんなこんなで無事に美音とも打ち解け、俺たちはウィーゼル大森林に向けて出発することになった。
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