駆け出しレンジャーの手記 クロエ・スチュアート ウィーゼルの街にて
クロエ達がはるばるやって来ました笑
ハッサイさんはすっかり良いおっさんになりつつありますw
私達がウィーゼルに辿り着いたのは、大災害から1ヶ月が経過した頃でした。
ビンス王からの招集に応じてすぐゼーフェルの街を出たのですが、なかなか馬車が手配できず、到着が少し遅くなってしまいました。
ようやく見えてきたウィーゼルは、思っていた以上に復興への活気に溢れていました。
外壁は応急修理されており、以前程ではないにしてもモンスターの襲撃を食い止められそうです。
私達3人は、正門でレンジャーの証であるリングを見せ、中に案内されます。
あちこちに深い傷跡は残っていましたが、それよりもなお立ち上がろうとする人々の活気が感じられ、思わず私たちは笑顔になりました。
「なんだ、物凄い復興してきてるじゃねぇか!ウィーゼルの奴らもなかなかやるな!」
ハッサイさんは相変わらず口が悪いですが、実は嬉しそうです。
なんだかんだで人が好きな人なのです。
本人は絶対に認めないでしょうが。
レンジャー協会に着くと、たくさんのレンジャー達が集まっていました。
ここには大量のクエストがあり、きちんと報酬も支払われるので多くの人材が集まってきているのでしょう。
少し情報収集をしようと、そこかしこの話に聞き耳を立ててみます。
すると…
「…またあいつらが…」
「…あっという間に解決…」
「…史上最強の…」
「…Dランク?嘘だろ…」
何やらあちこちで話題に上がっている2人組がいるようです。
彼らは"史上最強のDランク"と呼ばれ、彗星の如く現れた新人レンジャーだそう。
まあ…だいたい誰のことかは想像できたのですが。
「ちっ!目立ちやがって…」
ハッサイさんはセイヤ様のこととなると殊更に口が悪くなります。
しかしその様子はどことなく鼻が高そうです。
ゼーフェルのレンジャーが有名になるのが嬉しいのでしょう。
そこへ…
「来たぞっ!」
「あんな若造が…」
「本当にあれが…?」
「大したことなさそうだが…」
「わからないのか?とんでもない凄みを感じるぞ…」
「あのエルフ、物凄い美人だ…」
「よせ!あの人にちょっかいを出して半殺しにされた奴が何人いることか…」
セイヤ様とアリーナ様がレンジャー協会に入ってきました。
「おっ!クロエにワッツじゃん!それと…ハッサイのおっさんかぁ…」
「おい!俺がいちゃ悪いかっ!」
「はははっ!冗談冗談!久しぶりだなぁ!」
「おい…なんだあいつらは…?」
「あのセイヤと知り合いだと…」
「ということはあいつらもヤバいのか…?」
なんだか私達まで目立ってしまったので、場所を移して近況を報告し合いました。
ウィーゼルは当初の混乱状態を徐々に脱しつつあるとのこと。
ただ、目下の課題は…
「モンスター?」
「ああ。この辺りのモンスターがめちゃくちゃ増えててな。守備軍もかなり被害を受けてるから、防衛線の維持が大変らしい。」
「レンジャー達にも優先してモンスター退治のクエストが回ってきている状況です。」
ウィーゼル近郊に大量のモンスターが出現しているとのこと。
セイヤ様達も今まさにモンスター退治のクエストを受けようとしていたそうです。
「あ、ちょうどいいしみんなで一緒に行かないか?」
セイヤ様の誘いに応じて、私達5人でモンスター討伐クエストに出ることになったのです。
ウィーゼル郊外に広がる平野部。
そこに対モンスターの前線が設営されていました。
木で作られた即席のバリケードが設置され、その後ろには守備隊やレンジャー達の野営地があります。
「おい...あれはもしかして...」
「史上最強の...」
「二人組じゃないのか?」
「これでここも一安心だ...」
そこかしこで聞こえる囁き声をできるだけ無視し、私たちは前線指揮官のところへ挨拶に行きました。
指揮官の名前はジョージ・マクレーン。
星獣襲来の際に外壁場で指揮をとっており、奇跡的に生還した人物だそうです。
「お前らか。噂は聞いてるぞ。」
嗄れた声に酒臭い息、そして目の下の深い隈が、ジョージさんの味わった恐怖を物語っているようでした。
「今ここには、うじゃうじゃモンスターが押し寄せて来やがる。
大半は大したことないんだが、中にはやばい奴もいるんだ。
お前らにはそういうのの対処をお願いすることになるだろう。」
「遊撃隊ってことか。」
「そうだ。おっと、早速お出ましかな。」
ジョージさんの見やる先に、赤い狼煙が上がっていました。
「Cランク以上のモンスターが出たら、ああして赤い狼煙があがる。そこに急行して戦うのが、お前らの役目だ。さあ、行った行った!」
「てめぇ...誰に向かって物を...」
「まあまあハッサイさん。良いじゃんか。隊長さんも大変なんだろ。じゃ、早速だけど行こうぜ!」
私たちが駆けつけると、そこには...
「オーク・ナイトか。」
30体ほどのオークの群れの中に、全身に鎧をまとった個体が数匹。
Cランクモンスター、オーク・ナイト。
「よし!じゃあオーク・ナイトは俺が...」
「待ちやがれ!こいつらは俺たち3人でやる。」
ハッサイさんがセイヤ様を静止して、とんでもないことを言い出しました。
「ええっ!?いや、流石にそれは...」
ワッツが大慌てで反論しようとしますが、ハッサイさんのひと睨みで黙ってしまいます。
「この1ヶ月、俺たちは遊んでた訳じゃねぇ!テメェなんかの手を借りなくても、こんな奴らどうってこと無いんだよ!」
「本当に大丈夫なのか...?」
セイヤ様が私の目を見て尋ねて来ました。
「はい。やらせてください。」
私は反射的にそう答えていました。
「今は、私たちはパーティです。いつまでもセイヤ様に守られてばかりではパーティとは呼べないと思います。だから私たちに何ができて、何ができないのか。それを見てください。」
セイヤ様とて神様では無く。
その力を振るうべき時に、最大限に振るってもらう為に、私たちは少しでもセイヤ様の負担を減らす必要がある。
そう考えていたのです。
「...わかった。頼んだぞ。」
セイヤ様はその意を汲んでくれたのか、その場を私たちに任せてくれました。
「行くぞおめぇら!」
ハッサイさんが全身にマナを巡らせ、前に出ます。
ワッツも観念したのか、それに続きました。
オーク達が私たちの方に迫って来ます。
「うりゃあああっ!」
ワッツが気合一閃、オークの1匹の首を撥ねました。
仲間の血に興奮したのか、オーク達がその勢いをまして突撃して来ます。
「シールド・フォース!」
マナによって強化されたシールドで、ワッツが無数のオークの攻撃を受け止めました。
「ウィンド・ナックル!」
私は拳に風の力を宿らせ、横を抜けようとするオークを仕留めていきます。
ゴブリンの洞窟で、立ちすくんで動けなかった自分。
私はそんな自分を変える為、この1ヶ月ありとあらゆる鍛錬を積んでいました。
そのおかげか、オーク達と対峙しても恐怖心はなく、相手と自分の動きを冷静に見極め、適切に対処できていました。
「よし、それでいい!落ち着いて対処すればお前らもオークなんぞに負けるはずがねぇんだ!」
すっかり私たちの師匠になったハッサイさんが嬉しそうに叫びました。
私たちは連携し、オーク達を蹴散らして行きます。
ワッツの防御を中心に、入れ替わり立ち替わり敵を仕留める。
これが私達の戦い方です。
オークのような低レベルのモンスターなら、幾度となくこの戦法で倒してきました。
そうしてオークが半分ほど数を減らした時でしょうか。
怒り狂ったオーク・ナイトが私たちに襲いかかって来たのは。
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