ウィーゼル守備隊隊長 ジョージ・マクレーンの日記 "襲来の日"より抜粋
次の街でのお話に入りました。
一気に振り切ってみましたが、どうでしょうか。
あとで自分の首を絞めそうで、ちょっとビビってますw
あの日は雲一つない晴天だった。
あの極彩色に彩られた日の中で、その青が一番印象に残っている。
少し前までの曇天が嘘みたいに綺麗な青空。
こんな日は仕事なんかやめて、昼間っから呑んだくれたい。
俺はそんなことをぼんやりと考えていた。
遠くで、遠雷のような音がする。
あまり深く考えないようにし、俺はさらにどうでもいいことを考えた。
ここウィーゼルはオーストンの首都だ。
風光明媚な観光地として知られている。
美しい神殿が立ち並ぶ市街地は荘厳の一言に尽きる。
俺はこの街で生まれ育ってもう40年近くになるが、過去の歴史を感じさせてくれる建造物には今でも深い感動を覚えるものだ。
再び、重い音が響いて考え事が中断した。
無理矢理に頭を切り替えて俺はさらにこの都市に思いを馳せた。
ウィーゼルは観光だけではなく、音楽が盛んな都市としても知られている。
過去に数多くの偉人を排出し、今でもここにある音楽学校には諸外国から貴族たちが集まってくる。
オーストンは過去、宗教国家として一時代を築いたことがある。
その際、やはり首都であったウィーゼルに、多くの貴族たちが集っていた。
それが今日まで続くウィーゼル音楽の始まりだったらしい。
俺には音楽はさっぱりわからないが...
ズーンッと今度ははっきりと体が揺れた。
俺は大きなため息をつく。
「隊長...」
不安げな部下の視線を感じた。
いやいや、そんな目で見られても俺にどうしろと?
だいたい俺たちはモンスターへの対応が仕事であってこんなのは範囲外だ。
俺は頭を抱えてそう言いたかった。
「だ、大丈夫だ。俺たちがウィーゼルを、ま、護るんだ。」
口から出たのは、自分でも欠片も信じていないセリフだ。
立場ってのは厄介だよな。
自分でも信じられないようなことを言うしやらないといけないんだから。
今や地響きは断続し、揺れるたびに足が地面から離れるほどだ。
間も無く、ウィーゼルの長い長い1日が幕をあけようとしていた。
「アルデバラン、接近!」
部下の1人が言われなくてもわかる報告をしてくる。
そんなことは俺にだってわかってた。
ウィーゼルを囲む見上げるほどの外壁。
今までどんなモンスターも寄せ付けなかったその外壁の、倍以上ある化け物をどうやって見逃せと?
そいつがあっちの方からのしのし歩いてくるのなんて、赤ん坊にだって見える。
俺が知りたいのはそんなことじゃなかった。
どう見ても散歩の途中には見えないそいつに、どうやってお引き取り願うか。
俺はその答えを切実に求めていた。
皆、そのあまりのでかさに声もなく立ち竦んでいた。
彼らの名誉のために書かせてもらうが、あの状況でそうならない奴は人間じゃ無いね。
アルデバラン。
アストランに古くから伝わる13星獣の伝説。
そこに描かれた雄牛の怪物だ。
割と有名な伝説だから、俺でもその絵は見たことがあった。
頭に2本の巨大な角を持つ、二足歩行のモンスター。
でも聞いてないぞ。こんなでかいなんて。
「うぅぅう、う、撃てぇーーーーー!!!」
しゃがれた声を無理矢理ひねり出し、俺は号令をかけた。
弾かれるように部下たちが動き、普段は下にしか向けたことのない大砲を上に向け、発射した。
ウィーゼル守備隊が誇る魔術師たちも、火、氷、風とあらゆる魔法を繰り出す。
的がとんでもなく大きいので外しようもない。
全弾が命中し、奴が煙に隠れる。
これがまずかったのか?
この時攻撃しなかったらあいつは帰ってくれたのだろうか?
いや、そんなことはないはずだ。
なにせ明らかに忌々しげにこっちを見てたんだから。
だが煙から現れた奴の目は、もっと危険な色に光っていた。
アルデバランが、その長い長い腕を振り上げた。
その腕が落ちてくるまで、妙に長い時間がかかったような気がした。
実際には一瞬だったのかもしれないけどな。
振り下ろされた腕は、まるで粘土でも潰すかのように外壁を破壊した。
耳に雷が落ちたのかと思うような恐ろしい音。
その真下にいた部下たちは肉片すら残らなかった。
「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
アルデバランが吠えた。
とっさに耳を塞がなかったら、俺も鼓膜が破れただろう。
さらに隕石のような腕が降ってくる。
振動が激しすぎて、立っているどころかその場所にとどまることすらできなかった。
俺はバランスを崩して転がっていき、外壁の上から落下した。
あの浮遊感は忘れられない。
たまたま落ちた先に誰かの牛車があって、その荷車に藁が入ってなかったら俺は死んでただろう。
そしてあのまま外壁上にいたら、やっぱり死んでただろう。
皆はそのことを運がいいと言う。
俺から言わせれば、あんな目に会う男が幸運な訳ないと思うが。
「がはっ!」
俺は落下の衝撃からなんとか立ち直り、すぐにその場所を離れた。
上から大量の瓦礫が降ってきたからだ。
数百年もの間ウィーゼルを守った外壁は、あっという間に破壊された。
その頃にはもう、俺は歯がガチガチなるほど震え、完全に戦意を喪失していた。
俺は走った。
何も考えず。
とにかく走った。
内壁を超えて、その先まで...
とにかく考えうる限りできるだけ遠くへ行きたかった。
内壁から、砲弾が発射される。
ありったけの火力を込めて、人間の意地を見せようとしているかのように。
やめろ、逃げろ。
俺はそう教えてあげたかった。
あれは人間の敵う相手じゃない、と。
アルデバランが怒りに燃えた目で内壁を睨む。
2本の角に、マナが見えないはずの俺にすらはっきりと見えるほどのエネルギーが集まって行った。
俺はその恐ろしく、だけどどこか美しい姿を見上げていた。
馬鹿みたいに。
角の間に、小さな太陽が現れる。
太陽は徐々に大きくなって行き、アルデバランの頭ほどの大きさにまで育った。
何をするつもりか、わかってはいた。
だけど誰にも止められなかった。
砲弾が奴の顔面を何度も捉えるが、苛立たしげに鼻を鳴らすだけで少しも効いちゃいない。
ついに太陽が、角の間から解き放たれた。
重力がないかのように滑らかに空を滑った太陽は、内壁のちょうど中心あたりに吸い込まれた。
その後のことは、正直よく覚えちゃいない。
閃光、轟音、悲鳴、熱、衝撃。
そんなもんだ。
そういうのが一気に俺を襲った。
俺は吹っ飛ばされて転がり、身体中しこたま打ち付けて、残骸になった外壁にぶち当たった。
まあ、人に言わせりゃこれだって運がよかったってことなのかもな。
死ななかったし、反対側に吹っ飛ばされて奴に踏み潰されることもなかったから。
俺は朦朧とした意識の中で、アルデバランが悠々と歩いていくのを見ていた。
内壁には馬鹿でかい穴が空いていて、もはや奴の歩みを妨げるものはない。
人間の反撃も散発的で、そんなのがあの怪物に効くわけもない。
奴は笑うように吠えまくりながら、内壁を通り抜けて市街地へ向かった。
俺が見たのはそこまで。
次に目が覚めた時、俺の生まれ育った街、音楽と歴史の街は完膚無きまでに破壊されていた。
死傷者は数え切れないほど。
王族の避難はギリギリで間に合ったものの、政治の中心である王宮は半壊。
オーストンの行政は実質的に停止した。
奴はウィーゼルを破壊した後、どこかへ消えて行ったらしい。
一体どこにあんなのが隠れていたのか...
誰か教えてくれ。
俺は運がいいか?
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