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秋葉原ヲタク白書41 地底に潜む宇宙人

作者: ヘンリィ

主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。

相棒はメイドカフェの美しきメイド長。


この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナの為のラノベ第41話です。


今回は"月面基地の人体実験"から脱走した男がコンビに助けを求めますが、追っ手に捕まり連れ去られます。


追っ手は髪を紫に染めたマッシュルームカットの女子?勇んで"月面基地"へと踏み込むコンビでしたが…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 宇宙人、地球に潜入


「宇宙人がアキバに潜入している!」


文字にすると、かなり恥ずかしいフレーズだ。

が、事実だw今、僕の前で肉饅を買っている←


僕とミユリさんは、閉店後の店外デート(アフター)で人影の絶えた真夜中のパーツ通りを神田明神下のココスへと急ぐ途中のコンビニで第3種接近遭遇!


宇宙人は、オレンジ色のツナギに黒い手袋と靴、背中に小型のボンベを背負っている。

お約束のメタルヘルメットのバイザーは真っ黒で、中の顔を窺い知るコトは出来ない。


アジアンなバイト店員が微妙な日本語で恐る恐る声をかける…その、えっと、宇宙人に。


「アノ、オ客様、full face の helmet ハ、ゴ遠慮クーダサイ」


しかし、反応はナイwヘルメットをしてるから聞こえないのだろう。

アジアンバイトは、今度はジェスチャーで、メットを脱げと命じる。


すると"宇宙人"は"わかった"と頷いて、ヘルメットに両手を伸ばす。

古風なネジ式らしく、ヘルメットをクルクルと何回か回しスポンと抜く。


その瞬間、宇宙服の内部に満ちていた緑色の液体酸素がドバッと外へ溢れ出て…

とはならズに、中から紫色のマッシュルームカット女子が現れて店員に宣する。


「テイクアウト。(消費税率は)8%で」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「でも、イートインで食べてったンだょな。意外にセコかったんだょ。宇宙人」

「ええっ。その…宇宙服のママで、ですか?オレンジ色の?」

「そうなの。テリィ様も私も、笑ってしまったの。コス(プレ)パ(ーティ)の帰りだったのかしら?」


ココは、僕の推し(てるメイド)であるミユリさんがメイド長を務めるアキバの御屋敷(メイドバー)

いつも、予想外の出逢いに満ち溢れてるコトから"月の裏でサンタに遭う(アポロ8)バー"とも呼ばれる。


そして、今宵も予想外の出逢いが訪れる。


「助けてくれぇ!追われてルンだああっ!」

「えっ!ええっ?マジで?」

「わぁ!奴等がっ!奴等が来るっ!」


またまたオレンジ色のツナギだ。

今回どうやら何度も目にしそう。


昨夜、パーツ通りで肉饅を買ってた宇宙人と同じコスプレみたいだが、今度は男だ。

心なしかツナギも汚れ、髪はボサボサ髭ボーボーで宇宙のジョン万次郎的外見だが…


イタリアン彫刻みたいな英雄系のイケメンw


ココはアキバで、御屋敷も老舗だから今更コスプレでは驚かないが嫌な予感がスル。

すると、案の定、同じヘルメット姿の宇宙人がさらに2人、御屋敷に御帰宅してくる。


コレが、恐らく彼を追う"奴等"だろう。

宇宙人同士で、鬼ゴッコでもやってるの?


「おかえりなさいませ、御主人様。あのぅ、御屋敷の中ではヘルメットをお取り頂きたいのですが。緑色の液体酸素が溢れ出ない限りは」

「(OKサイン)」

「いやだっ!助けてくれっ!奴等にヲレを渡さないでくれっ!」


"追手"は、例によって無言だが、OKサインを出してネジ式のヘルメットを回し出す。

ソレを見た万次郎(勝手に命名)は、絶望の叫びを上げ最早コレまでと大声で泣き崩れる。


ほぼ同時に"追手"2名はスポンスポンとヘルメットを脱ぐと中から現れた髪は紫色だ。


「こんにちわ。お騒がせしてゴメンナサイ。私達は今"宇宙人捕虜の追跡プレイ"の真っ最中なのです」

「そうなの。さぁフォス太、捕まえたわょ。大人しくルナベースに戻りなさい」

「いやだっ!アソコは地獄だっ!助けてくれっ!ヲレを"奴等"に引き渡さないでくれっ!頼むっ!」


鬼気迫る、とはマサにこのコトか?フォス太(改名w)はバーのカウンターにしがみつく。

紫髪の女子が、何とか外へ連れ出そうと指を1本ずつハガすも両脚を踏ん張り動かナイ。


「私達は、先月オープンしたばかりのアミューズメント施設"|アキバ宇宙ステーション《ASS》"のスタッフです」

「えっ?何ソレ?」

「ASSは、竣工したばかりのパーツ通り沿いのタワーマンション"秋葉原タワーズ&ガーデン"C棟地下にある、月面基地を模したテーマパークです。必ずや幅広い層の御客様、多国籍な観光客の方々にお楽しみ頂けるモノと思います」


紫髪1号が一気にまくしたて2号に引き継ぐ。

タッグマッチのタッチプレイを見てるようw


「ありがとう、エリズ。初めてのお客様にはそれくらいにしておいて。地球のみなさん、ヤッホー!私がルナベース指揮官のレイグ大佐です」


あ、この子は昨夜…


「因みに、昨夜、私はコンビニの肉饅を買った際、いつもの癖でうっかりイートインで食べてしまったのですが、先ほど、既に修正申告を済ませ、適切な納税を済ませている旨を申し添えます」

「おおっ、ソレなら問題ないや」←

「助けてくれぇ!ヲレは、ヲレは殺されちまう!ヲレを"髪が紫の女達"に渡さないでくれぇ!ぎゃわわぁ!」


解説しよう。


全員オレンジの宇宙服?だが"追手"2名は髪を紫に染めたマッシュルームカット女子。

"追われる"1名がジョン万次郎(ひょうりゅうしゃ)みたいだがイケメンなので髭すら3日髭に見えてしまうw


で、全てのイケメンは僕の敵だから、ココはマッシュルームカット女子の味方をする←


「いやぁ、楽しそうなプレイだなぁ。君、ついに捕まっちゃったんだね?ざまぁ…じゃなかった、残念だねぇ実に」←

「ええっ?!ヲレを"紫が髪の女達"に引き渡すと逝うのか?この人殺し!末代まで呪ってやる!呪うぞ!ホンキだぞっ!」

「この宇宙時代に何を非科学的なコトを逝っているの?さぁフォス太、立ちなさい。ルナベースに帰るわょ」


ココで彼女は、僕達に見えないように俯きオホホと不気味に笑う(見えちゃったけどw)。


「あ、ASSは年中無休です。実は、明日は私の"星占いショー"があるの。何しろ立地が良いので、直ぐに満員になってしまうコトが容易に予想されるのだけれど、ソレでも良ければ来る?特別招待券あげちゃうぞ!レイグ大佐お手製のチケットだぞ!今なら裏に落書きサービスするわ!だから…ゼッタイ見に来て!や・く・そ・く!…ドキューン!」


いきなり、大佐は僕の心臓を指鉄砲で撃つ。

完全なる躁状態だょ。(ヤク)でもやってるのか。


第2章 ルナベースは月面基地


「流星雨が降り注ぐ絶対零度の月面。ソコに迫り来る宇宙人を相手に一歩も引かず、人類の盾となって戦う者達がいる…」


お馴染みオレンジ色の宇宙服姿のエリズが、絶好調トークでショー開幕を宣言する。

マンションの貨客用エレベーターの中だが大きなデスクが鎮座しててエラい邪魔だ。


「声紋チェック」


エリズは、デスク上の筆箱に向かってそう逝いながら、後ろ手にB1のボタンを押す←

特に認証の応答音声もナイまま、僕達を乗せたエレベーターは恐らくB1へ動き出す。


うーん。あのデスクは小(大)道具だったかw


今日の客は、僕とミユリさんの他に中国人の家族5人連れが1組いるだけだ。

あ、僕達はレイグ大佐の特別招待券(¥2500)でショーを見に来たんだけど…


中国人パパに聞くと¥500/人だったとのコト。

サイン1つで¥2000UPかょ?やられたw


貨客エレベーターが開くと、ソコは丸い部屋で壁一面に思い切りアナログな機器が並ぶ。

コンピュータと逝うより電子計算機と逝う趣のマシンでリールが不規則に回転している。


どうやら、月面基地との設定らしいが…マンション地下からイキナリ月面ってどーなの?

中央に円形の司令席みたいのがあり、ソコに紫色のマッシュルーム女子が…あれ?何だ?


ヤル気ゼロで突っ伏してるw大丈夫?


よく見たらレイグ大佐だったので、陽気に指鉄砲を撃ち指先を吹き消してオドけてみせたがナゼか大佐は死んだ魚の目をしたままだw


別人?双子?ソコへ突然、警報発令!


「UFO、ソル8で接近中!"ジャドウ"全ステーション、第1級非常態勢!アウターセプター、発進待機!ブルーのグリーンの3!」


おおっ!無機質な機械音声と思ったら、横のコンソールに着席したエリズだw

無理に"機械っぽい"声に似せてるような気がしたケド…気のせい、だょね?


呆気にとられていると、エリズの正面の液晶TVにヘルメットを抱えた男が大写しになる。

同じくオレンジ色のツナギを着用し、似た内装なので基地内の別室との設定と思われる。


「いってくる」

「頑張って」

「UFOめ!撃ち落としてやる!」


あ、あれ?フォス太だw


昨夜は子供みたいに泣き叫んでいたが、今は精悍そのもの、髭も剃り整髪して別人28号w

ヘルメットを被り、カメラ目線でニカッと笑うトコロはハミガキのCFを見ているようだ。


余りの豹変で、思わず苦笑いし画面の彼に声をかけようとしたが、巧みに視線をズラす。

見送るエリズに指2本の敬礼で応えて、彼は壁に開いたシューターへと滑り込み消える。


「アウターセプター、発進スタンバイ」

「UFO、さらに接近中」

「アウターセプター、直ちに発進!」


因みに、最初のセリフはフォス太、後ろ2つは2つともエリズなんだけど"接近中"と"直ちに発進"で明らかに声色を変えているw


やはり1人2役を演じているのだw

ナゼか戦慄し背筋が冷たくなる。


"何だかな感"が急速に高まる中、眼前の液晶画面がヘルメット姿のフォス太の大写しになったので、とりあえずモウ少し付き合うw


円形ホールの中に、勇壮だが、何処か温泉観光地を思わせる安いマーチが流れ、続いて航空機がフライパスして逝く爆音が鳴り響く。


「ミサイル発射タイミング、7382!」


画面の中では、フォス太が人差指で自分の耳、唇の順で触れてから発射ボタンを押す。

すると画面は、多分MY TUBEのSF動画から抜いて来たであろう爆発画像に切り替わる。


おお!今度は音声がないwさっきの出撃シーンも真空だからホントは爆音はNGだょな←

エリズが空々しく周りのスイッチを入り切りして、レーダーをチェックするフリをする。


「UFO、スクリーンから消えました」


ココで僕達にドヤ顔をキメるんだけど、もしかして、ブラボーとか叫んで欲しいのかな?

でも、僕達は中国人家族と気まずく顔を見合わせるばかり。完全にタイミングを逸する←


中国人パパが小声で「アイヤー」と呟く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「どうだった?この"月面基地ショー"は、1980年代に実際にあったらしい、宇宙人による地球侵略を精密に再現したモノなのょ」

「うーん」

「キャストは、私とレイグとフォス太の3名。週6日やってるけど、水金は私の星占いショーも併せてやってるの!」


円形ルームを出ると小さなバーがあり、何とエリズが物販をやってる。

ソレを見て(かなり呆気にとられてた)中国人家族は逃げるように去るw


ソレを見たエリズは、素早く僕達にマトを絞り、マシンガントークの弾幕を張る。


「この"アキバ宇宙ステーション(ASS)"は、全てオーナーであるレイグ1人のものなの。彼女は、マンション建設の時に、親から相続した底地と等価交換で地下室を手に入れ"月面基地ショー"をやるコトを思いついた。でも、思ったより客が集まらなくて、実は、ASSは売り出し中なの。レイグは、毎日、投資家(エンジェル)やデベロッパーと会ってる。このマンションって、まだ新築なのに、もう再開発業者が入り込んで、地上階の店舗や住居を買い漁ってるのょ」

「え?ソレって地上げってコトだょね?未だ新築なのに…」

「ソレと逝うのも、マンション最上階のロッジに覚せい剤を作ってる連中がいて、今年に入ってボヤが3回も。ボヤと逝うより、立派な爆発事故ね。多分マリファナを濃縮する時に使うブタンガスの爆発だと思う。だから、みんな怖がってマンションを出て逝くの。足元を見られて安く買い叩かれてるわ」

「悲劇だな。で、君はどーなの?」

「私?私は"アキバ宇宙ステーション(ASS)"の売り出しには反対。コレでも、ショー女優だから。でも、私以外は素人ばかりだから、人を集めて"月面基地ショー"を続けても"アキバ宇宙ステーション(ASS)"は、もうダメかもしれない。私は、レイグに雇われた恩があるから。初めの頃、レイグはよくチップをくれたの。気前が良すぎたのょね、彼女…経営には向いてナイの」

「…そうか。ソレでレイグは、ショーの最中も頭を抱えてたンだね?僕達が来たのも目に入らなかったみたいだ」

「ううん。違うの。アレは、貴方が思ってるような、そーゆーコトじゃなくてね…」


エリズは慎重に言葉を選ぶ。


「彼女はね…躁鬱病なの。かなーり重度の」


第3章 日本防衛秘密結社"ジャドウ"


「再開発業者なモンか。奴等は財務省(MOF)だ」


僕達は、知り合いの地元不動産屋"遠藤幹夫"を訪ねている。

通称"ミキティ"でネットでは女性に化けてるけど実は男だ。


で、僕は"遠藤幹夫"には"貸し"がある。


「ええっ?"秋葉原タワーズ&ガーデン"のC棟だょ?MOFの理財(局)が買い漁ってるってコトは…ソレはつまり地上げをしてるのは国ってコト?」

「まぁ、そーゆーコトになるな。でも、こーゆーコトは時々あるンだ」

「何で、国が自ら地上げをするのかな?最上階のロッジじゃマリファナを濃縮してる連中がいるよーな不良物件だょ?」

「何か公共事業用地に使いたいンじゃないか?中央通りの拡幅とか」

「まさか、タワーマンション1本マルマル国営の麻薬密造工場に変えちゃう気かな?マリファナ合法化に向けて先行投資を始めましたってか?おおっ!コレって、もう立派な国家ぐるみのインサイダー取引だょ。国家権力が画策する巨大な陰謀に巻き込まれるアキバのヲタク!テリィの明日はどっちだ?!」

「…よくもまぁソレだけペラペラと意味のナイ御託が並べられるモンだな。最上階の爆発事故なら、ヲレも気になるんで、神田消防(アキバファイア)に頼んで火災報告書を見せてもらった。実際、マリファナの密造所では、濃縮過程でブタンガスの爆発事故がよく起きる。ただ、今回の現場は、燃焼遅延剤が撒かれてて、他階への延焼を巧みに抑止してる」

「ん?ワザと爆発事故を演出してるが延焼は食い止めてるってコトか?」

「少なくとも、薬で敵対する組織がシマを荒らされて火をつけた、とか、その手のギャング系の話ではなさそうだ。どうも、誰かが最上階のロッジを無理矢理、密造所に仕立て上げようとしてるよーな気がする」

「うーん。国がニセの密造所を作っては燃やして、不動産価値が下がったトコロを買い漁ってるワケ?しかし、ソレにしちゃ…」

「え?テリィたんも何か知ってるのか?」

「僕の勤務先は"第3新東京電力"ナンだけど、電力系統図を確認したら、あのマンションの地下には、原子力発電所と地中線で直結した超高圧の変電所が入ってる。もちろん、そんなコトは国も承知だろうけど、少なくとも、変電所については買い取る話は全然来てナイよーだ。従って、地下の超高圧変電所は地上げの対象外だから…きっと、みんなが立ち退いた後、電気だけはジャブジャブ使うつもりなんだろう」


"遠藤幹夫"も、頭をヒネる。


「現場は、ダミーを噛ませてるから、国の姿は表には一切出ない。だから、余計に国がビル1本マルマル買い漁る理由がワカラナイ。いずれにせよ、下手に噛むとケガをするのが確実な物件だ」

「うーん。何か巨大な陰謀が渦巻く匂いがスル…」

「やめとけ!触らぬビルに祟りナシ!触らぬブスにもツワリなし!こーゆー物件は、遠巻きに見てるに限る。でも、テリィは、あのマンションに何か用があるんだな?あ、いよいよミユリを囲うのか?喜ぶだろうな、彼女」

「そんな金はナイょ。金はナイけど…ちょっとお出掛けしてみる。うまい具合にウチの超高圧(変電所)も入ってるし」

「しかし、テリィたんの勤め先が電力会社とはな。随分お堅い会社にお勤めだったんだね。ソッチが意外過ぐる」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


コレはコスプレなのかな?


翌日、僕とミユリさんは"第3新東京電力"の作業服にヘルメットでマンションに集合。

今時、女性の保守員姿とか珍しくないけど、ミユリさんが着ると、何か、その、萌える←


僕自身、こんな格好は新入社員研修の時以来なので、最新型の安全帯とか少し手間取る。

ヘッドセットを装着して、ハンバーガーショップのB1に陣取るスピアと連絡を取り合う。


「30秒で侵入」

「ROG。警報システム…カット」

「GO!」


サイバー屋のスピアが、変電所の警報をリモートで切って、電子錠も解錠してくれる。

今時の変電所は、自動化が進み、通常は無人で、保守員が定期パトロールするだけだ。


で、そのパトロールのコスプレをして、ミユリさんと潜入する算段だ。

あ、B2の変電所へは逝くフリだけで、潜入先はあくまでB1にあるASS。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


地下階段のB1非常口から入ると、いきなりコンクリートが打ちっぱなしの廊下だ。

月面基地の司令室とはエラい違いだけど、あれ?遠くから聞こえるのは…悲鳴か?


「助けて…助けて…」


"I say when it's over(終わりを決めるのは私よ)"と口紅で殴り書きされた壁の先を曲がる。

すると、イキナリ目に飛び込んで来たのは、歯医者にあるような大きなイスに拘束されてる男…


問題は、その男の全身には、いくつもの電極が装着されているコトだ。

そして、もっと問題なのは、その男は…あぁ何てコトだ!フォス太だw


彼は、焦点の定まらない目で弱々しく逝う。


「殺してくれ…今すぐ、俺を殺してくれ」


人体実験かっ?!

改造人間(ショッカー)の手術?


戦慄して立ち竦む僕を尻目に、ミユリさんが駆け寄り、電極を外し彼を助け出そうとするが、その時、背後から冷たい女の声がする。


「何てコトをしたの!これで長い時間かけて集めたデータが台無しよ!貴女、自分が何をしたのかわかってる?」


振り向くと、今度は…エリズだ。


今となっては見慣れたオレンジ色のツナギに紫色のマッシュルームカット。

ところが、見慣れないのは、彼女の手に女性用の拳銃(ベレッタナノ)が握られてるコトだ。


「動かないで!不法侵入よ。アメリカなら、貴女達は射殺されても文句は言えないわ」

「でも、ココはアメリカじゃなくて…月面なんだろ?」

「あらぁ。タマには秋葉原のオタクもマトモなジョークが言うのね。笑えないけど」


エリズは唇の端を1mm上げて笑う。


「いきなり、拳銃を向ける女はモテないぞ。こーゆー時は、先ず声をかけた方が1杯おごるのがアキバ流だ」

「へぇ。電力会社のパトロールは、勤務中に飲酒もするの?コンプライアンスのカケラもないのね」

「ソッチこそ、同じアメリカで1970年代に流行った監獄実験のマネっこか?コンプライアンスのカケラもナイのはドッチだょ?」


僕は咳払いしてから蘊蓄を披露←


「ボランティアの学生に、看守やら囚人やらを演じさせ、行動の変化を見る心理実験だ。名門スタンフォード大でも行われてたそうだから、アメリカかぶれのアンタら防衛関係者にゃタマらンだろ?」


エリズが鼻先でフフンと笑う。


「そんな知ったような口を聞いてもムダょ。コレは国家の、いや人類レベルの超機密事項なんだから…ぎやっ!」

「ハーイ、テリィたん!私の星占いショーに来てくれたのね!私は…稀代の大占星術師レイグ!星よ!運命よ!我が前にひれ伏すが良い!」

「おおっ!レイグ!僕だ、フォス太だ!素敵だょ。愛してる!」


突然の急展開!

解説が必要だw


超機密がどーしたとか逝ってたエリズは、スタンガンで撃たれ床に大の字で痙攣中w

彼女を倒し、スタンガン片手に現れたレイグはゴールドの燕尾服&レオタードだっ!


オレンジの宇宙服より断然ステキ☆


さっきまで"殺して"と喘いでたフォス太まで元気百倍の恋する青年に変身してしまう。

役者が揃って拷問イス?だけだった地下室で大占星術師レイグのショーが突如始まる。


「知る事は眠るコト!眠れば恐らく夢を見る!眠りの中で、どんな夢が訪れるか?コレは、暴力と殺人については、歴史上の誰よりもよく知っているシェイクスピアの言葉です!」

「おお、ファンタスティック!さぁ、大占星術師レイグ様!今宵の特等席には、ミユリさんとフォス太をお呼びしてます!It's showtime, folks!」

「きゃー!素晴らしいわ、レイグさん。お願い!私を占って!」


リズミカルな言葉のキャッチボールが始まりレイグの中の躁が加速する。

どうやら、彼女は鬱を脱して躁になり言葉が止まらなくなってるようだ。


ココは、調子を合わせて色々と聞きだそう。


「結局ね、私達はね、日本防衛秘密組織"ジャドウ"なのっ!」

「えっ!あの"ジャドウ"って、レイグさんだったのか!あっはっは」

「そうなの、私達なの。はじめまして!なんちゃって」


突然、浮上した謎の組織"ジャドウ"だが、日本だけ防衛する組織かょ?

ソレに…何回聞いても"邪道"にしか聞こえないんだけど、どうしようw


レイグのハイテンションに感化されたのか、デンパな発言を繰り返すフォス太に尋ねる。


「君は、ボランティア?いぇーい」

「そう。割りのいいバイトって聞いたから」

「じゃ、儲かってるかな?ワナクライ」

「そりゃもう。でも、もう帰りたい。おネムの時間だ、グッナイベイビー」

「実験を途中で止める方法は無いの?ギブアップの時に押すパニックボタンとか?」

「あったけど、俺が前回脱走した時に取り上げられちまった。面目ねぇ」

「ダメじゃん!で、捕まってからはどーよ?」

「ずっと、イスに縛り付けられ、遅れを取り戻すとかで、ズッと実験続きなのさ、ベイビー。何度も何度も同じ映像を見てる。画像はチカチカ。その内、俺の秘密、黒歴史も全部喋らせられちまったw厳しく詰問され、頭の中をいじられ、心も覗かれ、もう限界突破でボロボロ野郎だ、アベマリア」

「そりゃまた酷だね、アンラッキー」

「お願い!宇宙人と戦う宇宙戦闘機パイロットの訓練用データ収集らしいンだけど、もう無理。ココから出せ!ソレもダメなら、イッソ殺して!オーソレミヨ」


ええっ?宇宙戦闘機って、アレってショーの中の話なんじゃないの?

まさか、ショーに(かこつ)けて訓練をしてたの?そんなんで勝てるのかな?


完全に躁モードのレイグが快答!


「大丈夫!"ウチ"には、光線高射砲とかタイムトンネルとか自家用UFOとか、何でもあるの!全部を総動員すれば多分宇宙人に勝てるわ。負けてもタイムマシンでやり直せばいいんだし」

「おおっ!ソイツは頼もしいや!さっきの月面基地っぽい司令部は、実は超科学兵器を総動員するコントロールセンターだったんだ?!いやぁスゴい秘密だ!誰にも絶対話さないから僕を消しちゃダメ絶対」

「心配ご無用。大丈夫!だって、テリィたんには、記憶消去剤を注射しちゃうから!」


え?


レオタード姿のレイグの手に注射器。

アラ嫌だ嫌だ。ソレはナイでしょう。


第4章 消えない過去と美しい未来


ところが、僕達の記憶は消えない。


色々と面倒臭いので、僕もミユリさんも記憶が消えたコトにしてるケド。

日本防衛結社"ジャドウ"もエリズがフォス太を人体実験してたコトも…


全部ハッキリ覚えてるw


僕とミユリさんは、実は未来人と会った時に記憶が欠損したよーナンだが、その時のショックが僕達の脳に何か作用しているようだ。


だから、どうせ忘れちゃうからと、あの後でレイグ達がペラペラと喋ったコトも大体覚えてるケド、ソレは、まぁ、大体こんな感じ。


1980年、既に日本人は日本防衛秘密結社"ジャドウ"を結成している。

本部は、アキバのとあるマンションB1に作られ侵略者に敢然と挑戦中…


…なのだが、実は既に侵略は退けてしまったので超科学兵器の数々はお蔵入りをしてる←


組織も縮小し、今はショーを兼ねた訓練を続けて要素技術を切り売りして生計を立てる。

旧日本軍の秘密兵器をベースにAMC(アキバミリタリークラスター)を名乗って旧軍閥の子孫が運用中だ。


で、その司令官がレイグ、と逝うワケだ。


つまり、レイグは超科学兵器を操る秘密組織の指揮官らしいンだけど…し、しかし、君って、確か躁鬱病だったょね?ソレも重度のw


しかも…


「彼女は、私の元カレを誘惑したのです」


色恋沙汰は、国家機密ではないらしく、後日エリズ自身が、僕に赤裸々に語ってくれる。

エリズは、元カレで俳優志望のフォス太を人体実験の被験体も兼ねASSのバイトに誘う。


ところが、実験を繰り返す内に廃人化して逝くフォス太に上司のレイグが萌えてしまい…


大丈夫なのか"ジャドウ"?

コレで次も日本を守れるか?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ほぼジグソーパズルが出来かけた夜。

御屋敷には、僕とミユリさんだけだ。


「今回は色々とヘマをしたね。変な注射までされちゃってさ」

「もう慣れっこですょ。ソレに、テリィ様が調べてくださらなければ、私達は、今もルナベースの"髪が紫の女達"のコトはハロウィンの仮装ぐらいに思ってた、って思います」

「スタンフォード大の監獄実験は、アメリカ海軍が資金を出してたんだ。今回のフォス太の実験の背後にも、国がいるのは間違いナイ。宇宙人に対する心理作戦を補完するデータ収集とかしてたンじゃナイかな」

「何故、国がそんなコトに興味を持つのでしょう?見方によっては、躁鬱病患者が宇宙戦争ゴッコをしてただけにも見えますケド」

「最近、政府は若者向けの対テロ技術の開発に力を入れてる。若いテロリストの心に入り込もうとしてルンだね。それで、若者を実験台に選んだりしてるよーだけど…あ、エリズ!わぁ素敵だな!断然ソッチの方がイイょ!」


御帰宅して来たエリズは、いわゆる"プラグウェア"を着ている。

今年ブレイクした地上波の昼ドラで主人公が来てる服のコスプレ。


その番組"人妻新世紀オヴァンゲリオン"は昼メロで、オヴァさん達が無駄にカラダの線を強調した"プラグウェア"を着用してるw


僕とミユリさんは、レイグとエリズがショーで着れるように各2着をプレゼント!

エリズの方にだけ、ファンレターをつけて、御屋敷に御招待したワケなんだが…


「あら、うれしい。ファンの方からのプレゼントは大歓迎ょ。ところで、私を呼んだのは貴女達ね?どちら様かしら?御用はなぁに?」

「僕達は、街の噂を耳にした者です。貴女は、ASSのアウターセプターのパイロットと不適切な関係にあり、特殊なプレイを楽しんでいると聞きました。元カレを監獄みたいな実験場に監禁し、実験と称し、最近では彼を鞭打ちしてSM快楽にフケってるとか。貴女を市民逮捕しても良いですか?」

「えっ?えっ?何の話?ソ、ソレに、その言い方だと、まるで私が女王様みたいじゃない?すんごい言い掛かりナンだけど。何か証拠でもあるのかしら?名誉毀損で訴えちゃうぞ!」


笑いながら脅迫するが、動揺は隠せない。


「サスガは心理戦のプロだなぁ。でも、証拠は別の人達に探してもらおうと思ってます。だから、今、メールを打ってルンだけど…どっちの言葉が適切でしょうか?虐待?過失による精神的苦痛?」

「な、何を打ってるの?そんなメール、何処に送るつもり?」

「航空自衛隊の宇宙作戦隊です。恐らく、貴女はソチラの所属でしょ?貴官が市民ボランティアを使って人体実験をやってた事実を知らせます。あ、元カレを感電させるクダリですが、こんなんで良いですか?目を通してコメントください」

「な、な、な、何ょソレ?ボランティアとは、ちゃんと秘密保持契約を結んでルンだから」

「そうデスか!じゃあメールを送っても問題ナイですね」

「待って!」


エリズは唇を噛む。


「記憶がアルのね、テリィたん」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ホドなくして、レイグは長い鬱に入り、今は年間を通じて、ほとんどの期間をエリズ&フォス太の2人でショーをやっているらしい。


何度も芝居を続ける内に、2人の気持ちは確かなモノとなって、今では出撃の時に交わす熱烈ワンキッスでは拍手喝采が湧くそうだw


サスガはフォス太。俳優志望でイタリアンっぽい風貌はダテじゃナイ。

しかし、彼はエリズが航空自衛隊の宇宙作戦隊であるコトは知らない。


どんな人にも、自分が愛する人に対し究極の問いをぶつけなければならない時が来る。

夢を追うために、何を引き換えにし、何を犠牲にして、どれだけの痛みに耐えるのか。


誰もが、自分の夢を、熱く語るコトはある。

だが、その夢を追う強さを持つ人は少ない。


「今回も色々と巻き込んでくださいましたが、でも、結局テリィ様は、私と2人キリになりたかっただけなのでは?」

「おお。実は、ソレこそが僕の見果てぬ夢なんだ。で、ソレでは、メイド長は御不満ですか?」

「とっても光栄ですわ。御主人様」



おしまい

今回は日本のSF少年に絶大な影響を及ぼす"謎の円盤UFO"をネタに、月面基地の女性隊員、迎撃機パイロット、少し懐かしいネット不動産屋などを登場させました。


"謎の円盤UFO"の持つ、今となってはレトロフューチャーな世界観を秋葉原に当てはめて、話を展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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