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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

身に起きた出来事

このお話はノベルアップにも投稿してみました

「なあなあ、ねえちゃん。」

 微睡みながら、誰かが話しかけている。ゴツく低い、男性の声で、どこかの方言の発音に似た喋り方だなぁと思いつつ、また深い眠りに落ちようとすると、お腹に重いものが乗っかる。その衝撃に目を開くと、目の前には小さいものの塊があった。

 よく目の焦点を合わせて見ると、黒い塊は黒猫だった。まだ小さな仔猫だ。

「なあな、ねえちゃん。」

 自分を呼ぶ呼び掛けは、そうもその仔猫から発生しているようである。

 どういう事なんだろうか。

 

 疑問が溢れて考え込むが、まるで追い討ちをかけるように仔猫が話す。

「何シカトしてんねん。儂ぃ腹ぁ減ったから、何ぞくれや。」


 ゴツく低い声は、黒い仔猫から発せられていた。

 可愛いのにゴツい声・・・誰得なんだろうか?

 ともかく、気持ち良く眠っていたのに起こされて苛立つにはいられなかった。


 然し、黒い仔猫はお構いなしに空腹を訴えてくる。


 仔猫のあまりの煩さに、寝床から抜け出すと部屋から出た。



 目がはっきり覚めてきて、何かがおかしいと感じた。 

 周りが静かなのだ。家に人のいる気配がしない。みんな外出しているのかと思ったのだが、玄関に行くと全員の靴は揃っている。室内を見回ってみたけれど、人のいる気配がしない。まるでモデルハウスのような綺麗さなのだ。


 外に出てみる。

 いくらここに人がいなくても、外には家族以外はいるだろう。


「なんで、誰もいないの?」

 

 車どころか、人の姿も全く見当たらないのだ。


「それがあんたの望みやったやろ?」

 

 いつの間にか、黒い仔猫がそこにいた。仔猫は体を丸め、水色の水晶のような眼差しをこちらに向けている。


「よかったなぁ、誰もおらん世界にひとりで住めて。これから気兼ねなくなんでもできるなぁ。」


「違う・・・。」


「何が違うんや、一人になりたいいうてたやないか。」


「違う・・・。」


「この世界、作り上げたんも苦労したんやで。」


「そんなこと、望んでない!!」


 絶叫にも似た叫びに、仔猫はがっかりした表情を浮かべ

「なんや違うんかぁ。」

 猫の言葉が合図かのように、目の前の世界が暗転する。



 気がつくとそこは自分の部屋だった。

 窓を見ると、外には動くものが目に映る。

「夢でよかった。」


 ホッとため息をつくと、寝床から離れる。着替えて、部屋を出る。

 台所にいるはずの母に声をかけようと台所を見ると、母はちゃんといた。

「お母さん、おはよう。」

 

 返事が返ってこない。いつもならちゃんとおはようといってくれるはずだ。


「母さんおはよう。」

「おはよう、今日は一人で起きれたのね。」

 こちらの視線を通り越して、自分の背後にいた兄に返事する母。

「お母さん、何で無視するの?」

 抗議するが、暖簾に腕押し状態で全く伝わっていない。

 ふたりとも、こちらがいないように動いているのだ。

「どうなってるの・・・」

「そら、あんたが魂だけだからや。肉体持たへんからここにおるってわかっとらんのや。」

「・・・肉体を持たない・・・死んだの?」

 仔猫は頷く。「あんたが悪いんや。」

「どういうこと?」

「あんたが、世界を救うこと嫌がったから、神さんの逆鱗に触れて魂だけにされたんや。」

「なんでそんな事されないといけないの?!」

「理不尽を売りにしとるのが、神様や。自分が善ければ万事OKっつ訳やな。自分が作った世界が危ないからここの世界の人間を持ってったらしいわ。で、あんたはそのときに頑なに拒絶したから、こうく状況にある訳や。」

「そんな・・・。」

「ま、そんな訳やから、この世界で漂うとええわ。不死にもなっとるから、ずっと楽しめるで? まあ、儂はここらでお暇するわ。」



 これから続くであろう永い時間に絶望を感じる子どもを残し、仔猫は空気に溶けていった。




読んでもらいありがうございます。

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