青年の正体と、謁見へ
第7話、更新です
────ヤバイ、どうしよう
目の前の青年は自分とイルセを睨みながら何かを話している様だが、言葉がわからない為に何の話をしているのかもわからない
イルセの方を見ると顎に指をそえながら青年の話を聞いている様だった
(私を追ってきてわざわざこの森の中まで?)
確かに怪しまれた上に逃げ出したのは自分だがそれだけでここまで追ってくるものなのか?
─────いや、追ってくるか、言葉も話せないどう考えても怪しい存在など、放っておいていい訳がない、そう考えるとこの青年はこの世界における警察官の様なものなのか、だとしたら随分と仕事熱心なものだ、正直感心する
『────聞こえますか?そこの貴女』
すると突然、頭の中に声が響いた
「はっ、はいっ!?」
思わず返事を返す、が、今のは何なのか、
イルセの方を見ると「あちゃー」と言いたげな顔をしながらこちらを見ていた
(今の声はイルセの仕業じゃない?となるとまさか─────)
慌てて青年の方を向くと青年は自分をじっと見つめていた
『──成程、やはり貴女は異世界から転移してきた人間なのですね』
はっきりと聞き慣れた日本語が聞こえる、だが正確には青年は異世界の言語で話しているがそれに被さるように日本語の言葉が聞こえる、まるでテレビで外国人が出る時にその国の言語に重ねて日本語の訳が重なって流れる様な感覚だった
だが、そこまで考えて気付く
(この男、私が異世界から来たってどうしてわかるの!?)
驚いていると青年が口を開く
『最初に貴女が転移した際にあった魔方陣の側に裸足で歩いた様な足跡がありました、その足跡を追っているととある場所で裸足の足跡が消えていた代わりにブーツの足跡がありました、足跡の大きさを見る限り同一人物と考えて追ってきたのです』
足跡でそこまで特定できるのか、と感心する、だがそれだけでどうやって自分を特定したのか?
『簡単なことです、この世界に生きる者は皆程度の差はあれど魔力を持っています、しかし貴女には一切魔力が感じられなかった、故に貴女を捕まえて転移魔法の魔方陣の絵を見せたのです、そうしたら見事に動揺してくれたので確信できましたよ』
青年の言葉に驚きと同時に納得する
この世界は魔法が使えるのが当然なら【魔力】の概念も当然あるのだろう
青年の言葉から察するに魔力が一切無い人間はそうそう居ないか、一切存在しないかの二択だろう、そして自分は魔法なんて使える訳ないし、「実はこの世界の出身で訳あって異世界に飛ばされてましたー」なんてのも無いはず、つまりあの場所で自分が何を言わなくてもこの青年には自分が異世界の人間であることはバレていたのだろう
『───それで、彼女をどうするつもりだい?』
ふと、横から声がした、見るとイルセが青年と同じ様にこの世界の言語と日本語が重なった言葉で話していた、だがその言葉にはどこか棘があり、決して友好的な声色でもなかった
『他の国ではどうか知らないけど、少なくともラルグリーゼでは転移魔法は重罪、宰相であるキミが知らない訳ないだろう?』
待った、今さらりと重要な話が出なかったか?
転移魔法は重罪?それに今イルセはこの青年の事を「宰相」と呼んだ、役職はよく知らないが宰相と聞くと国の中でも上の立場の人間であるイメージがある
(まさか私、そんな人間に追われてたの!?)
驚いて青年を見ると青年は腕を組みイルセと自分を睨みつける
『ええその通り、この国では転移魔法は世界の理を乱す悪とされています、たとえ道具であっても見つけ次第即処分が当然のことです、そんな中異世界から人間が転移してきたとなれば、その知識で何をしでかすかわかりません』
ぞくり、と肩が跳ねる、そうだ、こういった漫画では主人公が現世での知識を使って無双していく話が多いが、それが世界を乱す要因と見なされば処刑されてもおかしくないのだ
なら、自分はどうなるのだ?
ハッキリ言って自分は頭がいい訳ではない
「銃」や「剣」などの武器の名前は知っていても銃の種類や名称などは一切知らないし、病気があっても治療法などもわからない
『それで?彼女をどうする気だい?言っておくけど彼女は武器の名称も病の治療法も知らない、ただの人間さ、それとも宰相様は何も聞かずに彼女の首でもはねるつもりだったのかい?』
イルセが挑発する様に言うと青年はイルセを睨みつけながら言った
『たとえ彼女が病の治療法や毒の種類を知らなくても、異世界の武器の大雑把な名称は知っているでしょう、そんな人間を放っておく訳にはいきません
────彼女は魔法省へ連れて行き、しばし独房へ入ってもらいます』
──────独房、だって?
なんてことだ、これは自分が想定していた最悪のパターンの1つ、監禁ルートではないか
魔法省というのは気になるがただでさえ急に右も左もわからない異世界に飛ばされた挙句異世界の知識を持っているだけで監禁されるなどあんまりだ
『────ふーん、それは本当に?』
イルセが冷たい声で言い放つ、どういうことだと聞こうとしたが、私が口を開く前にイルセは言った
『本当に彼女を捕らえるつもりなら憲兵の1人や2人、あるいはもっと連れて来る筈だ、なのに来たのはキミ1人─────キミ、最初から彼女を捕らえる気なんてないんだろう?』
その言葉に青年はピクリ、と眉を上げる
『どういう訳か知らないけど、キミは彼女を【異世界から転移魔法で連れてこられた人間】という理由だけで監禁するなんておかしいと思ったんだろう?大方、表向きは彼女を独房に入れて監視するとでも言って、本当はキミが持つ別荘かどこかに隔離しておこうと思ったんじゃあないか?』
話が見えない、だがイルセの言葉を整理すると、どうやらこの青年は自分を捕らえる気は無いらしい、青年の方を向くと青年はふぅ、とため息を1つ吐き
『───ええ、その通り、私は彼女を捕らえる気はありません』
そう言うと青年は私の方を向き何かを呟く
「─────これで、貴女と会話できる様になりました、貴女にも通訳の魔法をかけたので普通に話しても大丈夫ですよ」
先程までの重なった言葉ではなく、日本語単体で聞き取れる、あ、と小さく呟くとそれで十分と感じたのか青年は私に向かって話しかける
「私の名はクーフェニア・アルテリオ、このラルグリーゼにおいて宰相の座に着いています」
クーフェニア、と名乗った青年はそう言うと一礼をする、慌てて自分もおじぎを返す
「これは確認ですが、貴女は本当に異世界の武器の作り方も、毒の製造法も知らないのですね」
勿論だと答える、もともと自分はこの世界に深く関わるつもりも無いのだ、関わらなければ何も問題は起きないはず、あるとしたらせいぜい元の世界に帰る方法を探るときぐらいのものだ
「────わかりました、それでは貴女のことは見逃しましょう、ただし決してこの世界に深く関わらないように」
そう言うとクーフェニアは再び一礼をする
「へぇ、見逃すって?王様にはどう報告するつもりだい?」
イルセが再び口を挟む、クーフェニアは一瞬苛立った表情を見せたがすぐに冷静になりこちらを向く
「ええ、陛下には嘘の報告をします、その為には────彼女に一度、城に来てもらいます」
え、という間もなくイルセが「それはいいね、じゃあいってらっしゃい」と笑顔で手を振り、自分はクーフェニアに再び腕を掴まれて、森を抜けることになったのだった─────
いや、何故!?