説明と、この世界について
第3話、公開
この世界の説明を聞きます
「────えっと、もう落ち着いた?」
少し、まだ興奮はしているが頭が冷静になっていく、そこで再び青年の姿を見る、
青年は先程まで自分が掴んでいた頭を抑えており困り顔の笑みを浮かべている
「少し、けど説明はして」
何とか冷静に言葉を紡ぐ、興奮するとつい口調が荒くなってしまう悪癖はあるが、今回は自分は悪くない、と思いたい
「うん、ただその前にこの世界がどんな所か知っておいた方がいいんじゃない?」
確かに気になる、この世界────もう「国」という説は投げ捨て、まずは情報が欲しいと思う
「──まず、キミが考えている通りここはキミが生まれ育った世界とは一切世の理が異なる世界だ」
ああ、やっぱりかと自分でも驚くほど冷静に考える
「ここはキミの知る常識は一切通じない、科学も無く、魔法が世の常識だ」
やはりというか、異世界=魔法の世界というテンプレートは想定していた為に、衝撃は少なかった
「そして今僕らがいるここは【ラルグリーゼ】という国の外れにある森だ、広いから国民も滅多に寄りつかない秘密基地にはピッタリの場所だ」
滅多に寄りつかない、つまり何かやましいことがある人間がねぐらにしやすいということでもあるのか
───改めて自分が幸運だということに気づく、森を歩いているときに盗賊に襲われる可能性もあったのだ、最初に出会ったのが悪意が感じ取れない少年だったのは本当に良かった
「ねぇ、僕は?」
「ハイハイ、ラッキーと思ってますよ、例え貴方が私をこの世界に連れてきた元凶でも」
手厳しいなぁ、と青年が笑う、とにかく説明の続きを頼む
「うん、まだ聞きたいことは多いと思うけど──何故、キミがこの世界に呼ばれたか、だよね」
そう、そこだ、先程彼は自分が来たのは「想定外」と言った、その言葉の意味は───
「まずキミをこの世界に呼んだのは【転移魔法】という魔法だ、この魔法はその名の通りこの世界とは違う世界──キミが住む世界の道具をこの世界に転移させる魔法だ」
道具、と言ったがその転移魔法とやらで人間の様な生物を転移することは出来ないのか?
「うん、転移魔法は数ある魔法の中でもかなりの難易度でね、普通の魔法使いが10人集まってようやく小さいネジやペットボトルといった道具類で、僕が知る限り人間はおろか犬や猫といった動物も転移してきた、なんて話は聞かないなぁ」
つまり生物が転移してくること自体が想定外、ということだろうか
「まあそれもあるけどさ、僕、たまに転移魔法を使ってキミ達の世界の道具を使ってたりするんだ、それで今日も転移魔法で何か道具を転移してこようと思ってたんだ、僕は魔力が多いから1人でも転移魔法は使えるからね」
最後は聞いていない、が、それが何故自分が転移することに?
「転移魔法の魔方陣も描いて呪文も唱えて後は待つだけ、だったんだけど、その時ちょっと思いついたんだ、人間を転移させることもできるんじゃないかなーって、まぁ期待はしないで追加の呪文を唱えて一旦その場を離れたんだ、そしたら強い魔力を感じたんだ
それで戻って来たらキミがいて何か考え事をしててその場を離れたから探してたんだ」
────えーと、つまりそれは、
言いたくないが声に出して質問する
「──それは、最初から私が目的で転移させた訳じゃないんですね?」
「そうだね」
「貴方も想定していなかった、と」
「うん、本当ビックリ、本当に?って僕も考えてた」
頭が痛い、つまり自分はこの青年の趣味と興味に巻き込まれたらしい、殴りたい
ただそれ以上に聞きたいことはあった
「─────帰る方法は、あるんですか?」
一番重要な説明をする、転移する魔法があるのなら、転移したものを帰す魔法もある筈だ
だが目の前の青年は顔を引きつらして笑い
「いや、本当に申し訳無いと思っているけど、無いんだ、帰す魔法は、本当に」
─────頭が真っ白になる、
帰る魔法が無い?そんな筈は無い、と言いたいが自分は魔法の知識は無い、仮にあったとしても、古すぎて廃れてしまった可能性もある
「うん、君が陥っている状況は間違いなく僕が原因だ、だからせめてもの責任はとるよ」
青年が言う、そうだ、先に説明してもらったとはいえ今の自分はこの世界のことをほとんど知らない、ならば───怪しいが、この青年に自分が帰るための【協力者】になってもらおう
「協力?僕を信用してくれるの?」
正直、あまり信用は出来ない、ただ「責任はとる」と言った以上この世界のことを教えてくれる人間が必要だ、だから協力してほしいと頼むのだ
「よかった!よし、そうと決まればまずは住む家を用意しないと!
あ、言ってなかったけど、僕の名前はイルセ
イルセさんでも、イルセお兄さんとでも、好きなように呼んで───」
「よろしくお願いします、イルセさん」
一応敬語は使う、横でイルセが「キミ素の口調と外行きの口調が全然違うね」と言っていたが、
無視だ無視、まずは住む家を探さないと──!
第3話、更新です