基本的人権を読む
1.日曜日授業参観事件
判決:児童側の主張を認めない
理由:宗教行為許可=公教育の中立性を害する
2.剣道拒否退学事件
判決:校長の裁量権濫用
理由:生徒の受講拒否は信仰に基づく真摯なものでありながら、代替案すらなかった。
論点:宗教的中立が要請される公教育においても、子供の進行を優先すべき場合がある。
宗教的中立性=個人の信教の自由に対する政府の寛容性を要請している。
→政府が特定個人に寛容性を示すことによって他社の憲法上の権利や公共的利益が侵害されるか否かによって政教分離は決められる。
3.「宴の後事件」
判決:プライバシー権の侵害認める
論点:
A)私生活上の事実若しくは事実らしく受け止められるおそれがあること
B)一般人の感受性を基準にして公開を欲しないであろう事柄
C)一般の人々に認められていない事柄
4.加持祈祷事件
論点:宗教的自由も他人の生命、身体に危害を及ぼすことまで含まれていない。
5.牧会活動事件
判決:牧会活動による隠匿=法秩序の理念に反するところなく、正当な業務範囲
理由:牧会活動・・日本国憲法20条の信教の自由のうち礼拝の自由にいう礼拝の一部
内面的信仰の自由を侵す可能性があり、最大限の慎重な配慮必要
論点:外形的に刑法に触れる行為であっても宗教的行為の態様によっては違法性が阻 却されることもある
6.津地鎮祭訴訟
判決:政教分離に反しない
理由:地鎮祭=世俗的であり、神道を応援するものでも、他宗教を圧迫するものでもない。
論点:「目的効果基準」
A)世俗的目的を持つ
B)その主要な主要な効果が宗教を助長し、他を圧迫するものでない。
C)両方をクリアーしている
:アメリカのレモンテスト(+宗教との過度な関わり合いを促さないか)より曖昧
7.愛媛玉ぐし料訴訟
判決:特定の宗教への関心を呼び起こし、違憲
理由:玉串料=慣習化されたものとはいえない。また、県が特定の宗教を特別に支援している。
8.空知多神社訴訟
判決:原審において、他の合理的手段がないか模索すべきであるため差し戻し
論点:国公有地を宗教的施設の敷地として無償提供する行為は、憲法89条に抵触する か。
理由:当該宗教施設の性格、無償提供までの経緯、無償提供の様態、それに関しての一般人の評価、諸般の事情を照らし、社会通念に照らして判断すべき。
9.住基ネット訴訟
判決:住基ネット制度は憲法13条侵害には当たらない。
理由:住基ネット=秘匿性の低い本人確認情報である
その利用は住民サービスの向上と行政の効率化という正当な目的の範囲内で認 められている。
10.京都府学連事件
判決:正当な理由なくして警察官が個人の要望を撮影してはならない
論点:私生活上の自由としてみだりに容貌を撮影されない自由を認める
A)現に犯罪が行われ、または行われて間もないこと
B)証拠保全の必要性及び緊急性があること
C)撮影方法が許容限度内の相当なもの
3要件を満たす場合のみ撮影を認める。
11.前科照会事件
判決:照会は損害賠償に値する
理由:前科などのあるものもこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値す る利益がある。
論点:プライバシー権に踏み込んでいない
最高裁は前科等を「みだりに公開されない」法律上の保護に値する利益の存在を認めたが、「本人の承諾なしに」公開されないとはしていない。
12.「エホバの証人」事件
判決:明確な意思がある場合、意思決定は人格権の一部に相当する
理由:医師は輸血が必要となりうることを手術の1か月前から把握しながら告げなか った。
論点:憲法13条に触れていない
13.マクリーン事件
判決;基本的人権の保障は、権利の性質上、日本国民の身をその対象としているものを除き、在住外国人にも等しく及ぶべきで、政治的活動の自由も、国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動など外国人の地位にかんがみて認めることが相当でないものを除き、保障が及ぶ。
法務大臣が政治的行為を当不当の面から日本にとって望ましいものと言えない と評価することは妨げられるべきでない。
論点:
A)肯定説:前国家的権利性、国際協調主義を根拠に、外国人にも一定の憲法上の
権利は保障されると解する。「性質説」、「文言説」に分かれる。
B)性質説:通説。権利ごとに適用の妥当性を考えるほうが合理的である。
C)文言説:「何人も」「国民」という文言を基準とする。
14.東京都保健管理職登用試験受験拒否事件
判決:国民主権の原理に基づき、外国人が就任することは本来日本の法体系は想定していない。
理由:地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い、またはこれらに参画することを職務とする地方公務員の職務の遂行は、住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あるいはこれらに参画することを職務とする地方公務員は重大なかかわりを有する。
論点:選挙権 :地方についてはその居住する区域の地方公共団体と密な関係を持つ永住外国人は許容する。
公務就任:外交官は対外主権にかかわるので×。国家公務員も国家意思にかかわる公務員になるためには日本国籍を有するという内閣法制局の見解より×。地方公務員については地方によるので△。
15.八幡製鉄事件
判決:政治献金を会社がすることも自由の一環である。
論点:憲法3条に定める国民の権利及び義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用されるものと解すべき
理由:企業も納税者であり意見表明してもよい
会社は自然人たる国民同様、特定の政党の特定の政策を支持してもよい。
16.税理士会政治献金事件
判決:公的な性格を有する税理士会が、多数決原理によって団体の意思として政党に献金し、構成員に協力を義務付けることはできない。
理由:政治団体に対して寄付するかは、選挙における投票の自由と裏表を成し、会員各自が個人の政治的思想や見解に基づいて、自主的に決定すべき
論点:公共性の高いものは人権の享有主体ではない。
17.群馬司法書士会事件
判決:阪神淡路大震災に対する復興支援拠出金のために負担金を徴収することは政治 的または思想信条の自由を害するものではない
理由:
A)職務遂行の上で、他の司法書士会、司法書士との間で提携、協力は活動範囲に含まれる。
B)経済的支援により、円滑な遂行のための公的機能を回復するための融資である
C)金額の多さは目的の範囲を逸脱するものではない。(50円):税理士会事件は5000円である。
18.三菱樹脂事件
判決:客観的に合理的な理由が存在し社会通念として是認されるべきか再考すべき
理由:
A)自由権的基本権=国または統治行動に対して自由や平等を保障する目的
B)私人相互の関係を直接起立することを目的としていない。
C)私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する侵害があり、それが社会的に許容される範囲を超えるとき
→立法措置で是正測るべき
→民法で解決できる
論点:憲法の人権規定の私人相互間への適用
①非適用説・・・現在ほとんどとる者はいない
②直接適応説・・問題発生
I.本来対等な個人同士が意思に基づき権利・義務関係を定めるという市民社会の私的自治の原則が侵害される。
II.憲法の対「公権力の主体」性が希薄化する恐れがある。
III.人権の社会権的側面を私人間に適用すると政府による私人の自由な活動領域への過度の干渉の糸口になる。
③間接適応説・・三菱樹脂事件で通説となる。
憲法規範の趣旨を私人間に及ぼす法律を作成するか、既存の法律を修正しながら、私人間に適用していく。
19.日産自動車事件
判決:男女別定年制は性別に基づく差別
論点:この事件は人権の私人間効力についての判決でもあり、最高裁は男女別定年制を 定める就業規則が、直接憲法14条1項に違反するとはしていない。最高裁は直接適用説をとっておらず、間接適用説に立って就業規則は民法90条に違反すると判示した。
20.昭和女子大事件
判決:政治的活動を理由として大学の「生活要録」に基づきなされた退学処分は、学長の裁量権の範囲
論点:国公立であると私立であるとを問わず、大学に学生を規律する包括的権能があることを認めた。
21.「よど号」ハイジャック記事抹消事件
判決:規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が発生する総統の蓋然性がある場合にのみ、障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべき。だが、拘置所所長の判断は基準に照らし適法。
論点:新聞、図書の閲覧は原則憲法上、人である拘禁者にも認められる。
追加:監獄内における喫煙は証拠隠滅の恐れ、火災発生に伴う被拘禁者の逃走の恐れがあり、禁止。
22.猿払事件
判決:公務員の中立性は国民の利益であり、それがやむを得ない範囲である限り、政治的中立を損なう政治的行為は禁止される。(意見表明の制約を目的としない付属的制約)
論点:比較衝量論
A)その権利の制限で得られる利益
B)制限の不存在で得られる利益
C)制限によって失われる利益
を比較する。
23.北方ジャーナル事件
判決:差し止めを例外的に許す
論点:
A)事前抑制手段:厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許可される。
B)差し止め対象が公務員または選挙の候補者の場合、一般的に公共の利害に関するので原則として事前抑止は許されない
C)しかし、その表現内容が真実でなく、公益を図る目的でないものが明白であって、被害者に回復困難な損害を与えるときは例外を認める。
24.教科書裁判
判決:検定側の裁量権逸脱
理由:文部大臣の判断の過程に、当時の学説・教育状況に過誤がある場合や、旧検定基 準に違反するという評価に誤りがある場合、国家賠償法上違法となる。
論点:
A)検閲の絶対禁止:「行政権が主体となって、思想内容物の表現物を対象とし、その全部または一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止すること」である検閲は禁止
B)検定 :一般図書としての発行を妨げず、発売禁止目的や、発表前の審査などが特質にない。また、思想の自由市場への登場を禁止しているわけでもないので合理的でやむを得ないものであれば、21条に反しない。故に、発表そのものとして禁止するものではない。
太田範囲
出題意図:問1は、講義で取り上げた判例について、正確に内容を理解しているかを問う問題とした。問2は、レジュメ(3)「基本的人権の限界―特別な法律関係における人権制限」で検討した在監者の人権制限についての論点を正確に理解しているかどうかを問う問題とした。
講評:
問1:正誤問題で15問出題し、配点は各2点、合計30点であった。平均点は20点前後。以下に誤りの多かった問題につき述べる。
(1)京都府学連事件の記述に誤りはない。(3)群馬司法書士会事件では、阪神淡路大震災復興支援のための拠出金支出を、多数決で決定し、会員にその協力義務を課すことは認められている。(4)定住外国人地方議会選挙権訴訟では、いわゆる許容説に立ち、法律で定住外国人に地方議会の選挙権を付与することは、憲法上禁止されていないとしている。(6)非嫡出子相続分規定違憲訴訟では、相続開始時に当該民法の規定が憲法14条1項に違反していたと判示した。(8)八幡製鉄政治献金事件において、最高裁は営利法人に対し自然人と同様の政治的行為をなす自由を認めたが、選挙権・被選挙権まで認めたわけではない。(11)前科照会事件最高裁判決は、前科等を「本人の承諾なしに」公開されない利益を認めたのではない。
問2:配点は20点であったが、平均点は12点程度であった。在監者の人権の主要な論点について触れず、また触れていても不正確な記述をしている答案は減点対象とした。以下に、満点を与えた答案に多少の修正を加えた模範答案を記す。受講生の皆さんには、このような答案を書いていただけることを希望する次第。
「在監者とは、未決拘禁者(在監目的は、逃亡・罪証隠滅の防止)、既決受刑者(在監目的は、矯正・教化)、死刑確定者(在監目的は、執行までの心情の安定)の総称で、刑事収用法に従って監獄に収容されている者を指す。明治憲法下において在監関係は特別権力関係と捉えられ、在監者には、人権保障・法治主義・司法審査が排除されて当然であると考えられていた。しかし日本国憲法においては、法の支配の原理の下、特別権力関係によって人権制限を正当化することはできない。そこで、憲法18,31,34条等に基づき、憲法が在監関係の存在とその自律性を憲法秩序の構成要素としていると考えられることを根拠として、在監者の人権制限は、在監目的達成のために必要最小限にのみ認められると考えられている。しかしながら、在監者といえども保障される権利(信教の自由、奴隷的拘束からの自由など)、また当然制限されると考えられる権利(居住・移転の自由、集会の自由など)、一定の制限が認められる権利(表現の自由、通信の秘密など)があり、権利の性質に応じて、考える必要がある。
在監者の人権が、如何なる根拠で、如何なる程度に制約しうるかについて、判例は二つある。一つ目は、未決拘禁者の喫煙の自由が制限された喫煙禁止訴訟である。最高裁は、逃走又は罪証隠滅を防止する目的(未決)及び監獄内の規律及び秩序の維持目的を挙げ、これら目的から、必要かつ合理的な権利の制限が許されるとし、制限が必要かつ合理的なものであるかは、制限の必要性の程度、制限される人権内容、具体的制限の態様を較量して判断するという判断基準を示した。そのうえで在監者に喫煙を許すことにより、通謀や証拠隠滅のおそれがあること等を指摘し、喫煙禁止は人体に直接障害を与えるものではなく、喫煙が憲法13条により保障されているとしても、あらゆる時・ところにおいて保障されるものではないとして、総合考察の結果、喫煙禁止という程度の人権制限は、必要かつ合理的な制限であると判断した。
二つ目の判例は、在監者の閲読の自由が主要な争点となったよど号ハイジャック新聞記事抹消事件である。この事件で最高裁は、閲読の自由が個人の思想・人格の形成発展に不可欠なものであるとしたうえで、憲法19条、21条の派生原理、また13条の趣旨から閲読の自由の保障が導かれるとした。さらに未決勾留で拘禁される者の閲読の自由の制限は勾留目的を達するために真に必要な限度にとどめられるべきだとし、閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるだけでは足らず、相当の蓋然性が認められることが必要であるとした。もっともその判断をするのは監獄の長であり、本件において相当の蓋然性があるとして閲読を制限した長の判断に裁量の逸脱・濫用はなかったとした。
以上のように、在監者の権利については憲法の規定により制限が可能であるが、人権の内容によってその制限に限定があることが明らかとなった。裁判所は人権の重要度により審査密度に差を設けることで、在監者の人権の制限を必要不可欠なものに限定し、特別権力関係論との違いを明確にしている。」
勝山範囲
出題意図
講義で取り上げた憲法上の権利の保障と限界に関する基本的な理解をはかることを主眼として出題した。
設問Ⅰは、政教分離原則の合憲性審査における考慮要素と事案による審査手法の違いに関する理解について語句補充形式で確認した。設問Ⅱは、講義で取り上げた個々の判例の趣旨に関する理解を正誤解答形式ではかった。設問Ⅲは、憲法上の権利の根拠付けについての思考力をはかる問題であった。
講評
平均点は39(50点中)で全体としてよく出来ていた。
設問Ⅰ・Ⅱはいずれも知識や理解を問うものであるため、両設問の得点に一定の相関関係が見られた。ただし、選択肢のない設問Ⅰではよりしっかりとした知識の定着が必要なことから、設問Ⅰで高得点を得た受講生は設問Ⅱでも同様に得点が高かったが、設問Ⅱで高得点であった受講生が設問Ⅰで得点が高いとは限らなかった。
設問Ⅱで誤答の多かった問題は、取材の自由が憲法21条の保障のもとにあるか否かを問う小問1および情報公開請求権の性格に関する小問4であった。小問1に関しては、博多駅事件最高裁大法廷決定が、報道の自由について「表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにある」と述べるのに対し、取材の自由については「憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値いする」とするにとどめ、報道の自由と区別したことの意味を考えてみてほしい。小問4に関しては、政府に対し情報公開を求める権利が憲法21条により保障されているとしても、裁判を通じて個々の国民が情報公開請求権を行使するためには、公開基準や手続等に関する具体的な法律上の定めが必要であり、憲法21条の権利としては抽象的な請求権を認めるにとどまるとの理解が一般的である。
設問Ⅲは、本問で主張されている権利の趣旨をもとに解答を導く問題である。前提(権利主張の趣旨)を理解していない場合は致命傷を負うことになるが、そのような答案はほとんどなく、全体として7割以上の正答率であった。誤答の多かった問題は、報道の真実性の確保(小問2)、公正・公平性の確保(小問4)が主張の論拠になりうるかというものである。権利主張の背景に編集権を通じたマスメディアの情報操作や世論誘導の可能性があることに照らして、今一度正答を考えてみてほしい。




