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2話



『何の為に生きている?』



いつの日か自分に問うたものが心の中に響いた。

いや、部屋の中だろうか。意識が朦朧とし自分が今どこにいて何をしているのかが分からない。

ただ見えているものはこの白い空間だけ。いや、部屋とも取れるのだろうか。

だが、そこには扉もなければ窓もない。白い景色が只々永遠と続いている。

ふと、足に何かを踏む感触があった。その感触に引きずり込まれるように、俺の視線は足元へといった。

その何かを踏む感触の正体は“黒い花”だった。生憎花の種類にはあまり詳しくなく名前はわからなかったが、気づいた時には辺り一面に咲いていた。

また部屋の中に何かが響く。


「……ください」






─────







「起きてください」


突然耳元に少し高めの声が響く。


どこからかはいる光が、目に刺さり思わず腕を前に出し光を遮る。

今は朝なのだろうか、昼なのだろうか、そう考えているとまた、先の声が聞こえた。


「おはようございます」


声の方に顔を向けるとそこには女の子がいた。

彼女は長い黒髪でつい見入ってしまうほど美く、白いワンピースを着ていて、暖かい光に照らされていた。


その姿を見て思わず自分は死んだのかと彼女に聞いてしまった。

腕を支えにして体を起こす。

その時俺は左腕に少し違和感を覚えたが気にせず、彼女の言葉に耳を傾ける。


「覚えていないのですか?」


彼女は不安そうな顔をして答えた。

覚えているも何も俺の最後の記憶は橋の上にいたことだけだった。

彼女にそれを伝えるとため息混じりに、


「昨日は警察に止められて、そのまま帰ろうとしたのを私が呼び止めて家に泊まったんですよ」


と淡々と説明してくれた。

俺は生きていたようだ。だが、記憶にない事なので当たり前だろうが、戸惑ってしまった。それでも俺はあらかた理解するしかないと事を片付け、次の行動に出る。


“君、名前は?”


自分の声のはずが少し遠くにいるように聞こえた。

その言葉を待っていたかのように彼女は笑顔になって、


月澤(つきさわ)夏鈴(かりん)です」


そう答えた。

月澤……どこかで聞いたことのある名前だった。

多分ぼーっとしていたのだろう。気がつくと彼女が俺の前で手を振っていた。ハッとし、俺は一度咳払いをしてから、


“俺の名前は(ひいらぎ)葉月(はづき)だ”


俺が自分の名前を言うと彼女は何度か俺の名前を静かに呟き、少し口角が上がった。


「葉月君ってよんでもいいですか?」


不意に彼女がそう言った。

俺は人から下の名前で呼ばれるのを、あまり好んではいなかった。

男から呼ばれると多大なる嫌悪感、女から呼ばれると少しの嫌悪感とこそばゆい思いがあった。

それなのに俺は、彼女が下の名前で呼ぶことにYESと答えた。

俺がそう答えると、彼女はニコリと笑い、小さな声で俺の名前を呼んだ。


彼女のことはあまり興味がなかったが、彼女があまりにも俺の事について聞いてくるものだから、自分の事を話すついでに聞かれた質問をそのまま返した。

すると、彼女は俺と同い年で同じ高校つまり、同級生という事だ。彼女を学校では見かけたことは無かったが、うちの学校はいわゆるマンモス校。

人数が多すぎて知っている人なんてクラスメイトくらいだ。


白美(はくび)大学付属高校、それが俺たちの通っている学校の名前だ。部活にとても力を入れている学校で、特にサッカー部が強い。

偏差値はそこそこ高いらしいが俺はそういうのに疎く、何一つ理解していない。


自分の名前も彼女に知ってもらえたし、彼女の名前も知ることが出来たので俺はとりあえず、その場を去ることに話を持ち込む。


“すまなかったな月澤。俺はもう帰るよ。いつまでも女の子の家にいるわけにはいかないからな”


そう言って俺はその場から立ち上がり、部屋を出る。その際彼女のベッドに寝ていたことに気がつき、少し気まずかったが一言謝り、その場を後にする。

彼女はどこかもどかしそうにしていた。






─────






彼女の家は俺の家とかなり近いところにあった。彼女の家を出た時に見たことのある景色だったので家までの道はすぐに分かった。距離なんてものは歩いて十数分。この距離ならばまた改めてお礼をしに行けるだろう。


彼女の家を出て、少し歩くと春の暖かい追い風が強く吹いた。その風に背中を押され再び歩み始めた。


­俺の家はマンションで、三階に住んでる。

今は訳あって一人暮らしをしているのだが、この家に住んでもう約一年になる。

親には安いとこで大丈夫だと言ったのだが、俺の姉である『(ひいらぎ)こよみ』の大学から近いこともあったのでたまに姉が泊まりに来ることもある。さすがに大きなところには住めないのでなるべく小さいマンションを選びここに住むことになった。


自分の家の前に立ち、ポケット等を探って鍵を探す。だが、鍵は見つからず試しにドアノブを捻ってみる。すると、ドアノブは簡単に回った。


その瞬間俺の頭の中に何かが過った。思わず頭を抑え、その過ったものを頭の中で鮮明にする。

それは、誰かの面影だった。

ほんの一瞬だけだったが、どこか見覚えのある人だった。


その一瞬を不思議に思いながらも家の中に入る。

中は空き巣に入られたかのように荒れていた。

自分でも頭を抱える程に酷い有様だった。玄関には昨日出すはずだったゴミ袋。リビングに通づるドアの先には脱ぎ散らかされた服。玄関からでも分かるほどに散らかっていた。


「うわぁ〜汚いですね」


不意に先程の彼女が現れた。

俺は思わず飛び上がりそうになったがおさえ、平然を装い彼女に、


“いつからそこに?”


彼女は俺の質問なんか無視して、靴箱の上をまるで新婚生活に文句を言いに来た姑のように人差し指でサッとホコリを取って、


「私ここにお掃除しに来ましょうか?」


彼女は指についたホコリを取りながら、下を向いてそう言った。

彼女がそう言ってくれてとても嬉しかったが、俺は思わずこう聞いてしまった。


“そう言ってくれるのはありがたいけど、昨日今日で知り合ったお前にそこまでさせられない。申し訳ないが、俺はまだお前のことを信用出来ていない。それに、姉さんがたまに掃除しに来てくれるからいいよ”


「お姉さんが来ていてこれなら私が来てやったらもっと、綺麗になるんじゃないんですか?」


最もな意見だ。


「あーあ、葉月君は私が助けなかったら死んでたかもしれないのに」


“だ、だからなんだよ”


「一つくらいお願い聞いてくれてもいいなのになぁ」


彼女は後ろに手を組んで俺に背を向けて話た。

確かに彼女の言葉には筋が通っていた。仮にも捨てようと思って命だが、助けてくれたのだ。願いの一つや二つは聞いて当たり前だと思った。


“わかったよ”


「ありがとうございます!じゃあ、さっそく……」


彼女はそう言うと、履いていたサンダルを脱ぎ捨て、家に上がろうとした。俺は咄嗟に彼女を止めた。


「なんですか?」


“きょ、今日やるんだったらちょっと待っててくれないか?”


「エッチな本でもあるんですか?」


“な、何言ってんだよ!そんなんねぇよ”


「そうですか、葉月君の性癖ちょっと興味あったんだけどな……」


“え?”


「冗談です。誰でも他の人に見られたくないものがあるのは、当たり前です。私は外で待ってますね」


彼女は俺の背中を押して、家の中に入れ、扉を閉めた。

複雑な気持ちになりながらも、俺はとりあえず、リビングに向かった。






マイペースに書いていきます。

申し訳ないです。

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