#レンの運命
あれは、カケルやイクたちと出会い、魔獣とも出会って半年後のことだった。珍しく雪が積もり、学校も休みだったから、みんなで外に出ようという話になった。多分、魔獣を倒したいだけなんだろうけど、絶対に安全というわけでもないのに、どうしてそこまで魔獣を倒そうとするのか、いまだによく分からない。たまに、高価なアイテムが採れるときはあるが、それでも、納得は行かない。危険なことをしたとしても、その分の見返りが無さすぎる。俺だって、カケルがいるから一緒にするだけで、あいつがいなかったら、今は、他のことをしていただろう。
やっと終わった。カケルが俺に仕事をさせるから、こんな時間になった。俺は、不器用だから魔獣を倒す以外のことはできないと言ったのに、生徒会にいるんだから何かしないと、というからしょうがなくいうことを聞いてしまった。大体、生徒会にいるのだって、カケルが強引に入れたからなんだし、別にいうことを聞かなくてもいいんだけど、なぜかわからないけど、いつも言われたことをしてしまう。でも、カケルもなんでもしてくれる。多分、そのせいでカケルの言うことを聞いてしまうのかもしれないけど。
「カケル、出来たぞ」
「そう。じゃあ、そこに置いといて。あとで...。分かった、今見るから」
いつもこんな感じだ。俺はカケルの言うことは基本絶対聞いてるし、カケルに関しては何も言わなくても優しくしてくれる。だから、俺はカケルが嫌いだ。
俺が今していたのは、どこの学校にもある文化祭の予算決めだ。もともと、すべて同じ金額だったけど、変動制にした方が、全員努力するとかでそうなった。なんで、こんな時期から予算を決めないといけないのかよく分からないが、その分生徒会が予算配分を決めなくなって、それを俺がしていた。配分率の評価は、部員数・優勝入賞数・入部数・退部数・部員の勉学成績で決まる。当たり前だが、退部数以外は高い方が得する。一応、変動制は去年かららしいが、今年の部活勧誘活動がすごくて、いくつかの部活は休部寸前にまでなった。さすがに休部は可愛そうということで、通常予算減額で治めたが。まだ、魔獣討伐用に各学生に武器の配布を議論している最中でよかった。配布していたら、それでもめ事を起こさないとも限らない。とりあえず今はまだ、配布はしないことになっている。その代わり、防護壁を改良したり、地下シェルターを作ったりしている。
「ハルさん、予算案できましたよ。ちゃんとレンレンに礼を言っといてくださいよ」
「勝手にお前がレンにやらしただけだろ。迷惑だったよな、レン」
「カケルに言われたからしただけだ。いやだったらカケルでも断ってる」
「えー、レンレンなんでも聞くじゃん。ほら、防護壁内の税金の最適値もすぐにやってくれたじゃん」
「あれは、生徒会のためだ。お前のためじゃない」
「もう、素直じゃないんだから。もっと可愛かったらいいのに」
「何度言ったら分かる。お前は俺に引っ付くな」
「えー、だってレンレンいつもなんでもしてくれるじゃん。それなら抱き着いたって」
「それは別の話だ。カケル、俺から三十センチ以上離れろ」
「二人共、ここで騒がないで。それにカケルもレンレンに引っ付かないの。その年頃じゃ、鬱陶しいと思われるだけだよ」
「え、僕ってそんなに鬱陶しいの」
「鬱陶しい、面倒くさい、しつこい」
別にカケルと一緒にいるのは嫌なわけじゃない。でも、カケルと一緒にいると俺がおかしくなりそうだ。カケルはいつも自由奔放だし、テンション高いし、しつこいし。まあ、しつこいのは、何もされないよりはましなんだけど。
「ハルさん、レン、あとカケルも。ちょっとこれ見て」
最近導入した熱源感知レーダにそれなりに大きな熱源反応が表示されていた。
「これ、今密集してるから大きそうに見えるけど、超級が大量にいるだけだから。ほら、拡大してみればすぐわかる」
「僕たちは先に行くから、ハルさんたちも準備できたら来て。レンレン、銃と剣どっちがいいと思う」
「どっちも持っていけばいい。そんなこと俺に聞くな」
「確かにレンレンの言う通り。じゃあ、魔獣の属性を予想してみて。僕は火だと思うけど。レンレンは」
「水だ。あそこには川がある。それに最近の平均出現魔獣属性は水が八割だ」
「確かに。またカケルの予想は外れるんじゃない。何でカケルの属性予想は絶対に外れるんだろうね」
言われてみれば確かにそうだ。今まで何度も属性予想をしてるのにあたったことがない。しかも、外しているのにも関わらず、ちゃんとそれにも法則がある。七割逆属性で、三割が進化属性だ。進化属性というのは、火なら炎、草なら森、風なら嵐など、属性が進化して強化されることだ。進化属性は師団級に多く、一部の超級魔獣にもある。
「魔獣がいるのは、あそこだよね」
「ああ、もう見えてる。属性は水のようだな」
「いや、そうでもないようだよ」
「イク、どういうこと」
「確かに属性は水みたいだけど、今回はカケルもあってる。あの魔獣の属性は水と火だね」
「属性って、魔獣一種類に一つじゃないの」
「いつ、誰が属性は一つだって言ったの」
「確かにそうだけど。それじゃ、賭けの意味がないじゃん。どうすんの」
「別にそれ関係ないから。今大事なのは、どうやって魔獣を倒すかって事」
どうやってって、魔獣なんだから普通に剣か銃で倒せばいいのに。それに、前にカケルたちが作るって言ってたロボットで倒せばいいだろ。どうせカケルたちならもう作ってるだろうし。
「あ、ちなみにロボットはまだできてないから。完成するのは半年後とかじゃないかな」
「なぜそんなにかかる。カケルたちならすぐに作れるだろ」
「エンジンの効率が悪いんだよね。レンレンならなんかいい方法思いつかない?どちらにしろ参加してくれないと無理だけど」
「カケル専用の機体だったら、参加してやるといっただろ。それが無理なら参加しない」
「相変わらず、レンはカケルのことが好きだね」
「そんなわけないだろ。ただ単に、量産機や汎用機より専用機を造る方が効率がいい。それに専用機なら、一番機体を動かせるカケルのを造るのが最善だろ」
「そんなんことを言って、本当は自分でカケルのを造りたいだけでしょ」
「もし、そういうことなら言ってくれればそうしてあげるよ。カケルはその方が喜ぶし、それで得するのはみんなだから」
「イクやコイもそういってるんだし、素直にカケルに言えば?」
「ソラたち、何を話してるの。僕に隠し事するって何?」
そういうことなら、後でカケルに直接言ってもいいか。大体、あいつに遠慮なんてしなくてもいいんだけど。どうせ何かしたいと言えばさせてくれるし、何か欲しいと言えばすぐに買ってくる。恵まれていると言えばそうなんだろうが、あんまりそういうのは好きじゃない。なんか子ども扱いされてるみたいで腹が立つ。
「レンレン、もし僕に隠し事があるなら言ってよ。多分何を隠してても怒らないから。それに僕はレンレンに隠し事をしてないのに、一方的に隠し事をされるのは嫌だから」
「サプライズとかはどうなんだ。そういうのは本人には隠してすることだろ」
「それは、もちろん隠していいよ。そうじゃないと、せっかくの楽しみがなくなっちゃうしね」
なら、あんまり問題は無いか。ただ、どうやって本当に隠し事をしてるのか、サプライズなのかを見分けるんだ。隠されてるって分かってたら、それはサプライズじゃないし。
そうそう、魔獣に属性があるって言ったて、別にそんなに気にすることじゃない。相性が良い悪いはあるだろうけど、向こうの攻撃がどんなのか、持っている魔石の属性が何なのかで分けているだけだから、いつもそんなに気にしない。どうせ気にしたって、そんなに関係ないし。
魔石というのは、魔獣が持っているコアのことで、人で言う心臓のような部分だ。魔石の場合は魔力が生成されるから、いろんなことに使われている。たとえば、『Majical Board』のエンジンに使ったり、『Majical Board』というのは魔石を使って滑空する乗り物だ。一応、この防護壁内で使える乗り物は、自転車とMajicalBoardだけだ。道幅的には車も走れるのだが、事故等面倒なことが起こるのを防ぐため、最低限しか使えない。ちなみに、イクたちは、MajicalBoardをマジボーと略していた。イクたちは略語を使うのが好きだ。なんでも四音程度まで縮めてしまう。多分その方が言いやすいんだろうけど、時々何のことか分からなくなる。
あ、今更気づいたけど、カケルの専用機のエンジンって魔石を使えばよかったんだ。何でいままで気づかなかったんだ。この魔獣を倒したら、二日で完成してやる。
―1―
今日は二月七日。バレンタインデーまであと一週間だ。カケルには毎年もらってばっかだから、今年こそ何かあげないと。もちろん、この機体でも構わないんだろうけど、一つ問題が。魔石が無い。こいつを動かそうと思えば、それなりに大きな魔石が必要なはずだ。でも今ここにあるのは、全部小型の機械を動かすためだけの魔石だ。こんな大きな機体が少しでも動くはずがない。小型機械用の魔石で動かせるのはせいぜい十キロ・一メートル幅のものだけだ。もし車を動かそうと思えば、小型機械用魔石は二ついる。それに対し、この高さ十メートル以上ある機体を動かそうと思えば、大型機械用魔石が一つか二つはいるだろう。ちなみに、小型機械用魔石は中級魔獣からとれる。低級魔石からも確かに採れるのだが、あまりに効率が悪すぎて、結果的にかなりの量がいる。大型機械用魔石は超級魔獣の一部と師団級魔獣からとれる。一番大きな魔石は超大型機械用魔石と言って、一応豪華客船を動かす目的で名前はある。でも、そんなに大きな魔石は一度も見たことがない。もちろん、大型機械用魔石では動くはずがない。計算上では、二千個搭載すれば動くことにはなっているが、あまりに多すぎ重すぎで使い物にならない。それに魔石には純度があって、もちろん純度が高いほど効率がいい。ただ、超級魔獣からとれる魔石には機体を動かすのに最適な純度の魔石は採れない。大抵純度が低く、動かすのに複数個はいる。純度が高いのは師団級魔獣からしか採れないらしいし、さすがにあと一週間では無理だ。せめて、魔石の部分以外だけでもつくってはみるが。
と、言うことで、結果バレンタインにはカケルに普通にチョコをあげることにした。カケルは魔獣をずっと倒し続けているせいで、女子と会う機会がない。もちろん、この防護壁内には、男子も女子も大量にいる。一つや二つ身近なところで恋愛でもあればいいのにとはおもんだが。それに最近、生徒会は生徒会長以外はもてないという噂まで出てきている。そんなことは無い、と言いたいが、実際生徒会長のハル以外誰ももてない。ハルは毎年、バレンタインにはもちろんチョコが大量に生徒会室の前に山積みになるし、なぜかホワイトデーでも同じことが起こる。確かにバレンタインは理解できるが、カケルから聞いたが、ホワイトデーは男子は女子にお返しをする日のはずだ。それなのに、なぜ男子のハルがチョコをもらうんだ。
「レンレンはバレンタインにどっかデートでも行くの」
「は?何を言ってる。それは俺に嫌味でも言いたいのか」
「違うよ。レンレンと一緒にどっか行きたいけど、予定空いてるかなって思っただけ。無理ならいいんだけど」
「いや、行く。予定なら強引にでも空ける」
まただ。どうして、カケルの言うことを聞いてしまうんだろう。やっぱり無理って言われたら出来ないわけがないと言ってしまうのがいけないのかな。
いつも気になっていたが、どうしてカケルは俺を『レンレン』と呼ぶんだ。他のやつは『レン』か『レンくん』なのに。覚えている範囲ではそう呼べと言ったことはないし、呼んでほしいと思ったこともない。どっちかというと、なんか子ども扱いされてるみたいでいやだ。
「じゃあ、僕たちもどっか行こう、コイ」
「じゃあ、新しいピン止め欲しいから、それ買いに行こう。イクの好きな物も買ってあげるから」
「そういえば、ハルさんはバレンタインに大量のチョコをもらうんですよね」
「そうだな。毎年大量に届くのは確かだ。でも、食べないから捨てるだけなんだけどな」
チョコをもらっておいて捨てるだなんて、一度でもしてみたい。俺がしたことあるのは、チョコをもらって食べ損ねたぐらいだ。さすがにカケルからもらったチョコを食べなかったことは無いが。
「今年は、レンレンから先にチョコ欲しいな。毎年、僕がレンレンにあげてから、ホワイトデーにもらってるじゃん。一度くらい、先に僕がレンレンにチョコをもらってもいいと思うんだけどな」
「なぜ、俺がお前にあげないといけない。確かに、もらったなら、お返しをするのは普通だろうが、わざわざ上げる必要はない。別にバレンタインデーだろうが、チョコを上げる必要はない」
「もう。そんな事言わないでよ。可愛くないんだから」
「俺は男だ。可愛いなんて言うな。それと、いちいち抱き着くな」
「えー、なんで。レンレンそういうところは可愛んだからいいじゃない」
「うっとうしい、うざい、しつこい」
「あ、ハルさん。僕と一緒にチョコを作ってくれませんか。一度も作ったことがないので、今年はやってみようと思ったんですけど」
「もちろん。ソラも初めて会った時とはずいぶん変わったよな。最初は、魔獣どころか、人も怖がってたし」
「そりゃあ、あんなにしつこい人がいたら、嫌でもそうなりますよ」
「レンレンも、ソラもそんなに僕ってしつこいの?」
「しつこい」
「しつこいです」
「二人とも、そのくらいにしてあげたら。さすがに、そこまで言ったらカケルでも傷つくんじゃない」
「ハルさん、微妙に貶すの、やめてくれません?カケルでもって、僕はそんなに傷つきにくいですか」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
ここに来るといつも賑やかだ。静かすぎるよりはましなんだけど、それでも騒がしい。そうだ、チョコを作る代わりにカケルと取引をするのも悪くない。
「カケル、今年は特別にチョコを作ってやる」
「本当?それじゃ、僕も何かプレゼントするね」
「最後まで話を聞け。その代わりに、俺以外にしつこくするのを止めろ。さすがに、全員のしつこくしないのはどうせむりだろ。だから俺だけにしろ」
「え、レンレンにはしてもいいの。それなら全然かまわないけど。じゃあ、もっとレンレンにいろいろしてあげる」
これでよかったのかな。なんかカケルに負けた気がするんだけど。まあいいか。他の誰にも迷惑をかけないんだったら、それで問題ないし。
「俺はソラにバレンタイン用のチョコの作り方を教えるから、あとはみんな自由に過ごしていいよ」
「イクとコイは、チョコ買いに行ったんでしょ。じゃあ、レンレン、今から僕の部屋でチョコ作るから手伝って」
「それはいいが、もうバレンタイン用のチョコを作るのか」
「だって、いつ魔獣が来るか分からないじゃん。作れたらまた作ればいいし」
「なら、俺は自分の部屋で作る。カケルは一人で作れ。さっきも言ったが、今年は俺がお前にチョコをあげるんだ。絶対に先に俺にチョコを渡すな」
一応言っておいたが、それでも心配だ。カケルのことだから、どうせまた忘れてたとか言いそうだし。どちらにしろ、さっさとチョコを作らないと。
ー2ー
とりあえず、まだカケルからはチョコをもらってない。前に一度、早めにチョコを渡されたことがあった。その時はバレンタインというものをよく分かっていなかったから受け取ってしまったが、それからは一度も受け取ることは無い。とりあえず、当日までチョコを渡されなかったのはよかったのだが、何なんだこのチョコの山は。
「いやあ、今年はハルさんだけじゃなくて、他にもチョコを大量に貰ってる人がいるみたいだから」
「ソラ、全部分けれた?」
「はい。ハルさんが2678個、カケルが1376個、レンは1467個、コイは1757個、イクは1686個、スバルは1574個だ。何かと、レンはカケルよりチョコ貰ってるじゃん」
「全部イクとソラとコイにあげる。ちょうど数は三等分できる。ハルは大量にあるから要らないだろ」
「え、僕にはくれないの?」
「お前には、俺が作ったのをやる。それで我慢しろ」
「それならいいよ」
どうせ、こんなに大量にチョコが来るのも、生徒会だけが、魔獣を倒しているからだ。義理チョコとかだろう。それと、もう一つの理由として、生徒会がチョコを買い取ってくれるという謎の噂が広まっている。誰が流したのか分からないが、そんなことをするはずがない。一応、その内容の通告を全施設・全掲示板にしているはずだ。それでもしてくるのはどうかと思うが。
結局来てしまった。バレンタイン用のチョコを作ったんだが、一応店で買っておくのも悪くない。カケルなら、既製品か手作りか、見分けられるだろう。その程度ができないなら、チョコをあげる必要はないと思う。
「あれ、レンレンなんでこんなところにいるの。チョコはもう作ったんでしょ」
なんで、このタイミングでここに居るんだ。
「他のやつの分まで作る余裕がなかった。お前のはもうできてる」
「それならいいけど。レンレンが僕に既製品を渡そうとしてるんじゃないかと思っただけ。ま、レンレンがそんなことするわけないだろうけど」
「もし時間が無くて手作りのチョコを作れなかったら、そもそもチョコを渡さない。既製品なんて渡す必要もない」
五年前と三年前は手作りチョコが間に合わなくて、カケルより先に渡せなかった。もう、そういうことがないように早めに作っている。それでも、カケルより先に渡すことが出来なかった。
あれ、カケルがあの店にいたのって、まさか、俺に既製品を渡すつもりなんだろうか。そんなことないとは思いたいが、あのカケルがそこまで考えることが出来るんだろうか。大体、魔獣と死体にしか興味がないのに、チョコを俺にくれるのが不思議なくらいだ。
義理チョコ、友チョコを含め全員分のチョコを買えたし、生徒会に戻ろう。どうせ、まだチョコが大量に届いてるんだろうな。去年はハルの分だけでコンテナ一つ分以上あった。チョコをそんなにもらっても逆に困るだけだろうに、もらう側の迷惑を考えてほしい。今年はさらに増えそうだけど。KOBの方からも今年は、何機か輸送機が来るらしい。こんな魔獣対策の防護壁区画なんかに輸送機が来ることなんてあったんだろうか。
「ハル、輸送機は何機来るんだ」
「二機だよ。それは、コンテナ輸送機だけど、それと別に郵便輸送機が一機来るらしい。最外区画は空いてたっけ。あそこなら、滑走路を造れる幅があるんだけど」
「西側なら空いてる。東側は機体製造で埋まってる。どうせなら、西側に空港を作ってもいいと思うが」
「そうだな、民営の空港は魔獣がいて使えないだろうから、前々から考えてたんだけど、金が無いんだよね」
「俺とカケルだけでなら、1.5兆円はある。それに、防護壁内の失業率がそろそろ20%を超えそうだと聞いた。空港職員として雇えるなら、失業率を下げられるんだ。その程度の出費は仕方がない」
「いつの間に、そんなに稼いでるんだ。カケルもだが、レンもあいつとよく似てるな」
「どういう意味だ。まあ、確かに似ているところがないと言えばうそになると分かっている。それより、空港建設の計画書は前もって作ってある。また後で持ってくるから、確認をしてくれ」
あれ、何の話をしにここに来たんだっけ。いつの間にか、空港営業に変わってる。
「ハルさん、輸送機が着陸許可を求めてます。許可しますか」
「地盤沈下の恐れがあるとだけ伝えといてくれ。許可はするが、着陸時の事故に関しては責任とれないとだけ伝えといてくれ」
「分かりました。KOB486便、KOB490便の着陸を許可します。地盤沈下の恐れが...」
なんで、カケルが航空便の発着管理をしてるの。空港完成後の指導をカケルに任せられるし、それでもいいか。
「コンテナを生徒会倉庫に入れておきます。冷蔵コンテナなんで数日は大丈夫だと思いますが、すぐに処理をしてくださいね。もちろん、ハルさんだけでなく、コイやイクもだからね」
「カケル、話があるんだが、少しいいか」
「何?また、魔獣を倒しに行くの?それもいいけど、レンレンと行ってみたいところもあるんだけど」
「いや、魔獣関係じゃない。金銭関係だ。さっきハルと話してたんだが、今輸送機が止まってる所に空港を作る予定なんだ。カケル、半分ほど支出してほしい」
「いくら?一兆?もっと?」
「いや、7500億だ。無理ならいいんだが」
「何、レンくん、空港作るの。俺もイクも金出すけど」
「もちろん。コイがするならするよ」
「じゃあ、生徒会長としても出さないのはいけないな。どうせカケルとレンは一番多く支出しそうだから、イクかコイの倍だそう」
「空港建設予定費が、2兆円だ。一応、予備費込みだ。俺とカケルが5000億円、イクとコイには2500億円、ハルは俺と同じ5000億円にしてほしい」
はあ、二兆円か。どうせ、生徒会費として使った分よりはましか。武器をそろえたり、防護壁内の修理費等の合計費よりは少ないし。一応、年間での予算が20兆円となった。一応、半分は税金で賄うし、無理ではないけど、数字はかなり大きいように感じた。
消費税は5%に下げて(元は8%)、所得税は200万以上の通常収入がある人に収入額の2%、そのほかにもいくつか税金がある。普通の動物を飼っても、税金はかからないが、魔獣を飼った場合は年間20万ほど税金がかかる。もともと、魔獣の流入防止が目的だったから、高めにしている。
「俺はいいよ」
「俺も」
「僕も」
「ハルさんがしてくれるのは分かってたけど、イクとコイもしてくれるの」
「しない理由ないもん。ね、コイ」
「もちろん。イクと一緒ならなんでもできるし」
「イク、コイ、それにハルもなんだが、迷惑をかけてすまない。わざわざ数千億単位の出費はしんどいはずなのに」
「何を言ってんの。どうせ、カケルと二人でするつもりだったんでしょ。そんなの俺らが頼られてないみたいでいやだし」
「だって、レンレンと僕でやらないと、イクたちが何を言い出すか分からないし」
「それ本気で言ってる?そうだったら、もう生徒会やめるよ。頼られないのに、こんなところいる必要ないから」
「イクがやめるなら、俺もやめるし」
勝手に始めたことなのに、なんで手伝ってくれるの。カケルならまだしも、コイやイクまで俺がしたどうでもいいことに金を出しそうで嫌なだけなんだけど。
「レン、ちょっといい?」
「なんだ」
「イクとコイがなんで生徒会を辞めたいと言ってるのか分かる」
「大きな金額のことを頼んだからか」
「確かにそれがないとは言えない。でもね、それよりレンが僕以外を頼ろうとしなかったことの方が問題なんだよ」
「何が問題なんだ」
「何がって、レン。多分、レンはいっくんやコイに迷惑をかけたくなくて頼らなかったんだと思ってるんだけど、いっくんやコイからしたら信用されてないとか役立たずだって思われてるように感じてるんだよ」
「そういうことか。それなら俺が悪かった。イクとコイには今後助けてもらうことがあるから、生徒会を辞めるなって言っといてくれ」
「じゃあ、自分で言え。いつも僕のことをバカだっていうけど、今回だけはバカなのはレンの方だから」
「ごめん。一ついい?カケルは普段、まあ理由はいいとして、俺を『レンレン』って呼ぶだろ。もしかして、俺を『レン』って呼ぶのはものすごく怒ってるから?」
「あれ、レンレンのこと『レン』って呼んでたっけ。そんなことないと思うんだけど。それに僕が怒る事ってそう簡単にないはずなんだけど」
さっき、思いっきり怒ってたと思うんだけど。確かに、レンレンが滅多に怒る事がないのが逆に不思議なくらいだし。カケルが怒ることが少なすぎて、いつ怒るか全然分からない。それより、先にコイとイクに謝らないと。
「あ。コイ、イクいた。さっきは済まない。次からは、イクとコイにも手伝ってもらう。だから許して」
「分かったらいいよ。大体、生徒会やめるつもりないし」
「俺も一緒。ハルさんは大丈夫だと思うけど、カケルとレンだけでは魔獣がいなくても生徒会が成り立たないだろうし」
「イク、コイ?それレンレンついでに僕も貶してない?」
「カケルが特に何もできないのは前々から分かってるだろ」
「もう、それ以上言わないで。僕だって、レンレンと一緒にやればなんでもできるんだから」
あれ、なんか忘れてる気がするんだけど。空港建設関連の事よりももっと大事なこと。なんだっけ。生徒会より大事なことは大体、カケル関係なんだと思うけど。何で今日思い出しそうになったんだろ。今日ってなんかあったっけ。あ、バレンタイン。やばい、カケルにチョコ渡すの忘れてた。早く渡さないと、先にカケルからチョコを渡されそうだ。今すぐ行かないと。
「ねえ、カケル。今ちょっといい?」
「やっと来た。いつ来るのか待ってたんだけど。今、暇だからゆっくり話聞くよ」
「か、カケル。これ、バレンタインのプレゼント。いつもカケルから先にもらってるから、今年は俺が先に渡そうと思って」
「え、これもらっていいの?って、あれ。レンレン、これどういうつもり?これ既製品だよね。分からないように、手作りみたいになってるけど」
「さすがカケルだ。手作りと言って既製品を渡したら気づくんだろうかと思ったんだ。こっちが本当のバレンタインプレゼント」
「これは本当に手作りだね。一瞬レンレンから既製品をもらった時は驚いたよ。もしかしたら、時間なかったのかな、それとも手作りでする気がなかったのかな、とかいろいろ考えちゃったじゃん。まあ、手作りする気がなくなる可能性がないから、時間がなかったんだな。それって僕がレンレンに仕事をしてもらいすぎだからだ。レンレンに悪いことをしたなって。もう、やめてよ。さすがに無駄に心配しちゃうから」
「それは済まない。でも、カケルより先にチョコを渡せてよかった。あんなにあったら要らないかもしれないけど」
「やっぱり、義理チョコとか友チョコはいくつもあるから邪魔だけど、本命チョコはもらうとうれしいよ。一個しか存在しないし」
「それは普通ならそうだろう。頑張ってカケルも本命チョコをもらえるようになれ」
「いや、もうもらったけど。ちょうど今」
「何を言っている」
「だ・か・ら、レンレンからもらったチョコは僕にとって本命なの。そんなこと言わせないでよ。恥ずかしんだから」
そうか。あんまりよく分からないが、カケルが喜ぶならそれでいい。俺も満足したし、カケルも喜んでるし、誰も損してないか。
「そういえば、さっき『頑張ってカケルも本命チョコ貰えるようになれ』って言ったけど、もってどういう事?レンレンも本命チョコ貰ったの?レンレンの本命チョコは誰から?」
「そんなのない。それにさっきのは言い間違いだ」
しまった。思っていたことが、いつの間にか声に出てしまった。なんでカケルはこういう時に限って、どうでもいい事に気付くんだ。大体、カケルの前で誰からが本命かなんて言えるか。