表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/47

***   子供の時間、大人の時間。


今回はお客さんの話ではないです。(´ω`*)<スピンオフ。



 うちのお店、目の前に歩道と横断歩道ががあって、店の窓から外が良く見えるんですよね。


 目の前の道路は通学路で毎朝小学生、中学生、高校生と時間によって通学していく姿が見えるんです。でも小学校世代の子供の数が少なくて“集団登校”という制度がない。


 それでも皆、何となく仲の良い子や近所の子達と登校するんですが……。


 最初にその子を注意して見るようになったのは、秋から冬になり始めたばかりの頃でした。それまでもその黒いランドセルが単体で歩いていくのをよく見かけたんですね。


 もう、本当に後ろから見るとランドセルから足が生えているような状態。


 いつも同年代の子達が数人で帰ってくる時間より少し遅い時間に帰ってくるんです。それも一人で。


 毎日毎日、その子が小学生の中では一番遅い下校でしたね。


 それでそんな時が一年ほど続いてある日の朝、冬の冷たい雨が極細い糸のように降る日だったかな……うちの店のテントの下で震えながら信号が変わるのを待ってるその子がいたんですよ。


 店内の時計を見たら、まぁかなりギリギリかアウトという時間でした。


 店主は気になったのでドアを開けてちょっと声をかけました。


 “時間、大丈夫? 寒いなら少しだけでも中に入って待つ?”と。


 店主は滅茶苦茶な冷え性なので、以前から冬の最中半ズボンという制服に正気を疑ってましたから。


 そうしたらその黒いランドセルの男の子は無言のまま首を横に振ると、はにかんだ笑顔を見せてくれました。小さいのになかなか見上げた根性の子です。


 だからという訳でもないですが、何となく店主も外のテント下に出て信号が変わるまでのほんの少しの時間をその男の子と待ちました。


 赤から青に信号が変わると、男の子は店のテント下から元気に飛び出します。アスファルトが吸い込みきれずに水が溜まった路面を駆けていく男の子の背中で、その背中よりも大きなランドセルが上下に揺れました。


 横断歩道を渡りきるところまで見届けた店主はそのまま店内に戻ろうとしましたが、横断歩道の向こう側で男の子がじっとこちらを見ています。


 何となくの、もう一つついでの何となくで、店主は軽く向こう側の男の子に手を振りました。まぁ、大人の気紛れですね。


 男の子はまたはにかんだ笑顔を浮かべて控えめに店主に手を振り返すと、雨の中を駆けていきました。 


 この不思議な朝の出来事は意外にもこの男の子の心に残ったのか、それから時々夕方の下校時間になると店のドアを叩いては、手を振って帰宅を報せてくれるようになりました。


 店主は特に子供に懐かれたりしやすいタイプではないのですが、たまにこの男の子のような感じの子に懐かれます。はて……?


 ですが素直な子は可愛いので店主もその男の子がドアを叩く時は外に出て「おかえり」と言うようになりました。


 最初はモジモジしていた男の子も次第に「ただいま」を言うようになり、店主も男の子が帰ってくるのが遅い日は何となくゆっくり目に閉店準備をしたりしましたね。


 時々「学校で褒められた」と報告したりするようになってからは小さい頭をワシャワシャ撫でてあげました。いや、何か猫の子っぽくて……。


 それに結構治安の悪い地域ですので、大きな声を出せそうにないその男の子が心配でしたし。


 最初にその子に会った時は二年生だったそうなんですが、子供ですしすぐに飽きるだろうと思っていたんですが……。


 それからだんだんと背が伸びてランドセルに足が生えたような状態を脱して、小さかった時はドアを叩くのがやっとだったのにそのうち店の窓を“コツコツ”と叩くようになりました。


 うん……そうなんです。


 ――――彼はでかくなっても飽きなかったんですね~。


 店主も嫌ではないので外に出ては報告を聞いたり、塾に行くのを見送ったりしていました。


 しかし店主には以前から気になっていたことがありまして。何となくお分かりになりますよね?


 ……この子、ずーっと一人で登下校してるんですよ。


 以前他の大人に声をかけられている姿を見かけたのですが、その時には無言で逃げ出していたんですよ……。


 その時に納得しましたね。この子はどうやら店主のコミュ障な部分に通じるものを感じたのか、と。子供は大人が思うよりもずっと敏感に人を見ていますから。


 “人間関係を築くのが苦手な大人である”と当時小学二年生の子に見抜かれたわけです。はい。……情けないですね……。


 そんなわけでこの男の子は小学校四年生になってもずっとそんな感じだったんですよ。その間に頭を撫でられるのを嫌がるような反抗期もなかったです。何だかずっと“素直な良い子”でちょっと心配でした。


 というのも、この子の家は店の近くなのかたまに家族と歩いているのを見かけることがあったんですが、その時は“しっかり者”な感じなんです。


 家族関係を聞いたりはしない仲だったので分かりませんが、下に妹ちゃんがいる長男君でした。厳しそうなお婆さんといるときは特に“しっかり者”の顔で少し笑いました。


 店主に気が付くと、家族にバレないように小さく手を振って来るのが面白かったですね。


 そんな彼がやっと下校を一緒にする子達を得たのが五年生の頃。当時の店主の心境としては“よしよしでかした!”ってな感じですね。


 さすがに一緒に帰っている時に声をかけられるのは嫌な年頃かと店主も涼しい顔でスルーします。


 彼もその時は店の横を通る一瞬こっちに目配せをするんですが、後で塾に行くときにはまた窓を叩いて外に出てくるように催促します。店主ももうそろそろお別れの時期かな、と感じていたので呼び出されたら頭を撫でてやりました。


 それからさらに一年と少しこの「行ってきます」「行ってらっしゃい」「おかえり」「ただいま」の不思議なやりとりは続きました。


 けれど中学一年生の後半になる頃にはだいぶ頻度も少なくなって、声変わりも始まりました。それでも会えば褒めて欲しいのか学校であったことを報告してくれます。


 そんな時は店主も頭を撫でながら夏でも冬でも少し立ち話をしましたね。


 けれど中学二年生に上がってしばらく経った頃から、あの子は店の窓を叩かなくなりました。友達もいるようですし、店主もこれにてお役御免です。


 今でも風が強い窓枠が軋むような日は、うっかり窓の外を見てしまう店主ですが、きっともういたとしても成長期で大きくなった彼を沢山の学生の中から見つけることは出来ないでしょう。


 この不思議な出来事から店主が気付いたのは“子供の時間は大人と違って駆け足で過ぎていくものなのだなぁ”でした。


 今でも横断歩道を渡るチビッコ達を見ていると当時を思い出して寂しいような、嬉しいような温かい気持ちになります。


 それではお客様、またのご来店をお待ちしております。

 

 


子供は成長って言えますが、大人はどう言えば良いんでしょうね?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] すみません。まだ読んでいる途中なのに感想を書かずにいられない……! ナユタ様の温かい人柄と悲喜交々のお話にクスリと笑いちょっと今などはジワリと涙が出てしまっております。 お仕事のエッセイを…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ