*** これは……ネコ、です、か?
大型の猫、良いですよね。(´ω`*)<憧れる~。
それは二月に入ったというのに雪が舞うような寒い日でした。表の横断歩道を渡った植え込みに自転車で走ってきたオジサンが何かを捨てたように見えます。
どうせ缶酎ハイのロング缶か一升瓶でしょう。その時は“店を閉めてから見に行けば良いかな”くらいに考えていました。
そんなことよりも、こんな日はすぐそこのコインパーキングに一年くらい(この時点で)駐車されっぱなしで、中に人の住んでいる気配のある軽自動車が気になります。
いや、まぁ……真夏のマンホールで目玉焼きが焼けそうな日も気になりますけどね?
よそのお店はどうか知りませんが、うちの店ではこんな日は来客が多いかはたまた零か、といった極端な日になります。積雪のある日とか豪雨の日に限ってお客が多かったりして読めない……。
“表の人通りからしてどうやら今日は駄目な方になりそうだな”と店主が思っていたところ、横断歩道を挟んで向こう側の植え込みを通行人が数人覗き込んで行きます。
えぇ、さっきオジサンが何か捨てていったあの植え込みです。
“どうせ暇だからちょっと見に行ってみよう”と店のドアに鍵をかけて横断歩道を渡る商売をなめきった店主。
―――だって開店から三時間、誰も来ないですし。
テッテコ歩いて渡った先で植え込みを覗いたら、真っ黒な塊がポツンとあるではありませんか。う〇こですよ。その上を粉糖をまぶしたように白い雪が彩りを添えます。
―――おや、う〇こと聞いて「ゲッ」と思いましたか?
よくよく犬のう〇こを自宅ゴミで捨てないでこういうところに捨てていく方がいるので、店主はもうこれくらいのことでは動じませんよ?
まぁ内心では店主も“何だ、う〇こかよ”と思ったんですが……そのう〇こが動いたんですよ。
う〇こを捨てていくのはよくありますが、虫のいる奴は初めてです。
――これは……食品衛生上ヤバい。そう思って離れようと立ち上がりかけた店主の耳に、とてもか細くですが“ミュウ”と声が聞こえました。
聞き間違いかと思って再度しゃがみこみ顔を近づけると、やっぱり“ミュウ”と言います。
しかも、一個の塊かと思われたう〇こ(仮)は何と店主の目の前で三つに分裂したのですよ。複数のう〇こ(仮)は震えながらも温かさを求めて再度ヨロヨロと集結しようとします。
え? “それでそのままどうした”ですか?
もちろん、ノープランではありますが慌てて植え込みの中から取り出してテッテコ暖かい店に帰りましたよ?
衛生上よろしくないですが……保健所には内緒ですよ? あれですよ、厨房には立ち入ってないのでノーカンです。
店の椅子に腰掛けて手の中をソッと覗き込みました。良かった、います。
“そりゃそうだろう”と言うなかれ。へその緒が着いたままの子猫三匹。低体温症になっているのか冷たい。このままでは呼吸が止まるのも時間の問題です。
そして我が家は代々飼うなら犬派。何故って……家族が猫アレルギーなんですよ。好きなんですけどねぇ……猫。
おっと、さすって体温をあげようと試みますがあんまりさすると潰してしまいそうです。困った店主はしかたなく奥の手を使うことにしました。
秘技中の秘技。その名も【身内召喚!!】です。店主の兄が遅番の日だったので、つい。
要請から四十分ほど経って駆けつけてくれた兄は“見た目は強面だけど中身は可愛い動物好き”。ちなみにアレルギー持ちはコイツです。
なので、店に着くなり第一声は「ここの連中頭の中どうなってんの?」でした。うん、無理もあるまい……。
アレルギー持ちとは言え動物好きなので速攻動物病院に連れて行ってくれ、私が仕事場から帰った時には実家は子猫グッズだらけ。仕事が早い!
ちなみにいつもなら週に二日帰るくらいの店主ですが、押し付けた後どうなったか気が気でなかったので、ね。
母もおっかなびっくりではありますが、しばらく実家に置くことを許してくれました。ちなみにアレルギー持ちその二です。
店主と父だけがアレルギー持ちではないので、二人には申し訳ない気持ちはありますが……許せ!
さてさて―――翌日から店が終われば実家に帰って子猫三匹のミルクやトイレのお世話です。と、言ってもほぼ兄がやってました。
“無責任だ”ですか? いえいえ、何につけ完璧にこなそうとする兄は店主の作業を奪ってしまうのですよ……。
なので、ほぼミルクやりとゲップのお世話のみ。美味しい役所ですがもう少し構いたい。困るのはトイレ。毎回濡らしたティッシュでトントンするのが大変で……。
真っ黒な三匹は当初どれか一匹が育てば良いかなくらいの状態だったのですが、その後パッチリお目めも開いて、初めて見たのが店主の家族だったせいかやたらと人懐っこく成長しました!
可愛い! うちの子達、超・可愛い!!
その内の一匹が特に店主に懐いてくれて大変可愛がっておりました。
店主を毛並みの悪い弱った仲間だとでも感じていたのか、店から帰って抱き上げれば毎回毛繕いをしてくれて。
飼い主探しもしていたのですがあまり芳しくなかったので、このまま三匹とも残ればこの特に懐いている子を店で飼いたいなぁ……と。
―――やれやれ、俗に言うフラグですよね。
……六ヶ月経ったある日、とんでもない美猫に育った三匹はあっさり貰われて行ってしまいました。
疲れた日常の中にあった癒やしもすっかりなくなって広くなった実家のリビングでその日は少し泣きました。
そのせいで里親募集に乗り気だった母としばらくギクシャクしましたが、今にしてみれば完璧に良い歳をしながら八つ当たりですね。情けない……。
最近ではあの日のような異常気象の寒波がちょくちょくやってくるようになりましたね。
今日みたいに雪がチラつくこんな日は、不意に店の前に見えるあの植え込みを覗きに行きたい気分にかられます。
―――それではお客様、またのご来店をお待ちしております。