*** 終末みたいだけども。
どうも、お久しぶりすぎますね(´ω`;)
一応店主は今日も元気でやっております!
あ、あぁー……ね?
お久しぶりすぎて一瞬ご新規さんかと思って警戒したから、動きが止まってしまいました。いらっしゃいませお客様。
そんなに怖い顔しないで下さいよ。ただでさえ数少ない常連さんを本気で忘れたりなんてしてませんて。ちょっとした冗談ですよ、冗談。
それにしても連日ニュースでロックダウンだ、不要不急の外出禁止だ、テレワークだと言っているのにご来店ということは、お客様は生産端か流通関係の会社の方ですかね? 何にしてもこの大変な時季に本当にご苦労様です。それから、ありがとうございます。
今日もご注文はホットコーヒーでよろしかったでしょうか? ――はい、それでは店主の真ん前のカウンター席で出来上がるまで少々お待ち下さい。
いやー、最近ニュースも新聞もどこを見てもコロナコロナですね。まるでSFというか、終末世界みたいです。オリンピックも流れてしまいましたし、経済的なダメージもかなり深刻で、このままだとコロナで死ぬか、収入が絶たれて死ぬかの二択かもと思っちゃいますよ。
あ、ホットコーヒー、カウンターの上から失礼しますね。熱いですからお気をつけて召し上がって下さい。
――え? “店主は随分他人事みたいだけど、この騒動で売上げはどうなの?”ですか。ハハハ、うちはいつでも閑古鳥で静かなものですから、特にこの騒ぎでどうこういうことはないですよ。ご心配頂いてありがとうございます。
ただ、そうですね。最寄りの……とは言っても、バスで十五分くらいかかる駅前でコロナの拡散があったので、あちらからいらっしゃる方の多い近所の会社が軒並み開店休業状態ですかね。
街のバッドシティ感の割に、近所の会社はすごくホワイトな企業が多くて。どちらもかなり昔からこの辺に拠点を置かれているそうです。
一つの会社は社長さんと重役の方以外の社員さんは、基本自宅でテレワークか、一日のうちいつでも出勤していいという自由出勤、自由退社制度を実施されてます。社長達は会社の鍵を開けたり、システムの立ち上げに毎日いらしてますが。
コロナがニュースで取り上げられた直後からテレワークが出来るよう準備をされていたそうで、かなりスムーズに会社を半分休業状態にすることに成功していらっしゃいます。感服です。
もう一つの会社もほぼ似てますけど、こちらはどうしても出社しないと仕事が出来ない事業なので、自転車通勤のパートさん以外の社員さんは、自宅から会社に配布されたタクシーチケットを使って通勤されてますよ。公共の交通は使わせないそうです。
なのでどちらの会社もあまり人気がありませんが、混乱は全く見られません。特に前述した会社の社長さんは毎年インフルエンザが流行る前に、会社のお金で病院の医療用車両をわざわざ会社の前に呼んで、社員さん全員が無料でワクチン接種が出来るようにされてます。
社長さん曰く“社員に有給取らせて病院行かせたら、有給の意味あらへんやろ。有給は休暇に使うもんや。病院行って一日潰すもんやあらへん。社員は会社の財産やろ”と。ね、いぶし銀でしょう?
“ふふ、そういう会社に雇われたいだけの人生だった……”ですか。ええ、もう店主も激しく同意を示しますよお客様。
何でしょうか。皮肉な話ですけどこういう時だからこそ、会社の常の働き方がものを言いますよね。いきなり『じゃ、明日からテレワーク』とか『国に言われたから、仕事終わって会社を出たら飲みに行かないで帰って』とは、流石に無理です。
“ああ、だからこの店はこういう時のために日頃から暇なのか”……って、それは余計なお世話ですよ。店主の憧れは古いですけど、ヨコ○マ買い出し紀行の世界観なんです。どうせ世界に終わりがくるならああいう風が良い。
まぁ、確かに皮肉にも駅前で飲み屋のバイトをしてるお客様の話にあったように、一日の売上げが四十万から三万に落ちた、とかはないですけど。政治家のお偉いさん方はそういう声を丸っと無視して、ランチや夜間の外食なんかにも言及してますけどね。
稼ぎがないと人間は当然死んじゃうんです。当たり前のことなんですけどね。コロナウイルスが去った後に収入が底をついて死ぬとか笑えないです。
それはともかくとして、最近この騒ぎでお客様の層が多少変わってまして。いつもなら疲れた顔をして赤ちゃんの定期検診を受けに来られる若いお母さんが、旦那さんと一緒にいらっしゃることが増えてます。
たぶん旦那さんの会話内容から、テレワークが出来るご職業なんだと思いますけど、お母さんの表情が目に見えて穏やかで。
コーヒーを飲んで休憩してる時に、いつもならこちらに謝りながら必死で赤ちゃんをあやされるんですが、旦那さんがもう赤ちゃんをめちゃくちゃ愛おしそうにあやすんですよ。
その光景を見てると、ああ、本来子育てってこういう風にするもんなんだろうなと。窓の外を見ていても、普段は一人でおつかいに行くのだと教えてくれた近所の子が、平日の昼間にスーパーへ買い物に行く姿を見かけて手を振った時の表情。まるで遊園地にでも行くのかと思うほど楽しげだったことが印象的です。
普段日中は全く見かけない若い世代の働き手さん達が、子供と手を繋いで歩いている場面は、こんな騒ぎの中でなければ幸せそうですが……。
今ニュースだと医療体制にばかり言及してますし、もちろんそれももの凄く大切なんだと分かってます。実際店主にもガンを患っている母がいるので、医療制度が整っている日本は本当にありがたい国だと思います。
でも何となくですけど、今の働き方の闇ってこういう時にうっすら見えてきますよね。旦那さんだって無茶苦茶な働かされ方をして疲れてなければ、家で子供を可愛がれるんだと思いますし、お母さんだって心にゆとりが出来るはずです。
ヨチヨチ歩きの赤ちゃんが店主にハイタッチをせがんでくるのを、謝って下さりながらもとっても幸せそうに見えるご夫婦を見て、ちらりとそんなことを考えてしまいました。
おや、もうお仕事に戻られる時間ですか? ご苦労様です、大変な時ですのでくれぐれもご自愛下さいね。
――――それではお客様、またのご来店をお待ちしております。
志村けんさんが亡くなってしまいましたね。
いつもテレビをつけたらいる人が映らなくなる。
この先もまだ志村園長を見ていられると思っていたので、
急にいなくなってしまったことが悔やまれてなりません。
ご冥福をお祈り申し上げます。




