*** 消費増税までもう少しですね。
今回はお店を開く前にあった、
専門学校のあれこれを振り返ってみますσ(´ω`*)
あ、いらっしゃいませお客様!
もしかしたらもう十月以降には顔が見られなくなるかもしれないので、駆け込み需要をして下さるなら今の内ですよ~!
“のっけから冗談の内容が重い!”とは心外ですね。ゴリゴリの本気ですよ。最近の売上げに本気で参っているからこれも店主の本心です。
――と、まぁ、それはひとまず置いといてですね、今回は今から飲食店をしてみたいな~という人へのメリットというか、デメリットというか。老婆心みたいな怖い喫茶店経営のお話をちょこちょこしてみようかなと。
“そんなにヤバいのか……?”って、夏場の月の売上げが二年前に比べてマイナス十万だって言ったら分かりますか? 高齢者の多い土地柄だと政治の内容が跳ね返りやすいんですよ。
医療費とか年金の受給額だとか、消費増税で右往左往しますからねぇ。うちみたいな個人店は万策尽きた状態ですよ。
これも人生の勉強だと思って、コーヒーでも飲みながら気楽に聞いて下さいな。
えー、ではですね。本日は【喫茶店を開くのに、喫茶の専門学校に通う必要性はあるのか?】という誰得情報について講義をしてみようと思います。
お客様もこれを聞いたら、退職後に貴重な退職金を使って喫茶店経営なんて夢物語を実践する前にシミュレーションが出来ますよ。なんと言ってもここにその失敗者がいますからね。
えっと、世の中では何かと専門学校的なものがありますが、中でも喫茶の専門学校というのはなかなかピンキリというか、くせ者な業種ではありました。実際に店主も開業する前に退職金もくれなかったブラック企業で貯めた、なけなしのお金で二校通ってみたんですが……。
結果としては一校は五十年の歴史を持ちながら夜逃げ。もう一校はお洒落で設備も整っていたのですが、何を学んだんだかいま一つ身に付きませんでした。
一校目は授業自体は選択制で、好きなものを学べる作り。講師の先生達も各自その分野のプロの方を雇っておられました。夜逃げをしたのは学校法人の方だったので、雇われていた先生達は気の毒でしたね。
この学校、流石に歴史があっただけあって、授業はなかなか受けやすかったです。道具の購入もなかったし、授業は毎回二コマずつの予約制で、人数が埋まり次第終了でした。三十五コマ授業で六万くらいでしたかね?
コマの分だけ支払いをすれば良かったので、消費し切ってさえいれば実質詐欺とは言い切れない感じ。金額も授業内容の割にお手頃でした。皆さん昭和のホテル仕込みで動きはかなり洗練されてましたよ。
ともあれ、店主はこの学校では主にドリンクと軽食、それから簡単な製菓の授業をとりました。
ここでの授業は全部実技で、ほぼ手許を見て同じことをすれば良いという授業。たまにプリントが配られましたが基本は口伝のような授業でした。店主は憶えが悪い自覚があったので、一人だけフィールドワークのように聞きながらメモを取る授業の受け方をしてました。
通ってた高校がフィールドワーク系の授業が多くて助かりましたよ。絵も描いてサクサク授業について行くことも出来たし、人数が少ないから先生の指導も受けやすい。唯一の難点はグループを組まなければならないことでしたが、まぁ、それは慣れの問題ですね。
小麦粉をメリケン粉と呼ぶ洋食の先生や、珈琲と紅茶のことなら何でもござれな先生、ちょっと懐かしい洋菓子の先生も皆良い方でした。
特に店主がお世話になったのは珈琲と紅茶の先生で、未だにあの先生が淹れてくれたロイヤルミルクティーよりも美味しいミルクティーを、飲んだことがありません。それくらい美味しかった。
“……へぇ、でもこの店、ロイヤルミルクティーないんだけど”
――最初はあったんですよ。大人の事情です。お察し下さい。
それでですね。洋食の授業も内容で選べたので、無理だな、と思うような授業は取らないで済んだんです。なので店主はパスタやピラフ系の授業を多く取りました。お洒落なカフェをしたいならともかく、店主が目指したのは純喫茶でしたから。需要の問題です。
ケーキも簡単なパウンドケーキやシフォン、パフェの作り方を学びました。今となってはほとんど作る機会もないですが、それでもノートにかなり細かく書いたので再現は出来ます。
ある朝突然なくなってしまったこの学校でしたが、店主の中では今でも結構良い思い出として残っています。
さて、この学校が潰れてしまって専門学校難民になった店主は、ネットで探した結構有名な喫茶の専門学校に見学に行くことにしました。
今まで通っていた専門学校が古い雑居ビルの中にあったのに、今回新たに探した学校は自社ビルをお持ちで、東京にも分校をバンバン持っている大手。中も綺麗で備品も整っているし、何よりも若い子が多くて活気がありました。
“よくそんなところに行こうと思ったな”ですか。当時は店主も二十代前半だったんですよ。静かにお聞き下さいませ。
えー……それでまぁ、前の学校と違って母体がしっかりしているから、今度は夜逃げもなさそうだと思ってそこの短期コースにしたんですよ。学費の面で明らかに二年コースが無理だったので。
短期コースは何と毎日七時間みっちり授業のある半年の集中型。大体金額にして三十五万から四十万でしたかね? 結構お高めな上に、これに作業着と包丁のセットまで購入させられました。
講師陣は皆さんかなり若手のお洒落さんな方ばかり。授業は前回の学校同様口伝とプリントでした。横文字の多い内容に説明書きが一切ない。質問をすると『そこはまた今度で』と言われ、授業を進めることのみに集中している感じがしました。
しかも当然次の授業で前回の授業の質問についての答えはない。問題はそれだけではなくて、授業の内容もしっかり決められていたことなんですよ。
“授業内容を決めるのはおかしなことでもないんじゃない?”
それも確かに一理ありますが、ここでの問題はその内容があまりにやりたい業種とかけ離れていた場合です。
短期の喫茶コースの授業にアクアパッツァや、ブーケガルニを使った本格派なビーフシチューの作り方なんていりませんよね?
スズキを三枚おろしにさせられた時には、ちょっと何をしにきたのか分かりませんでした。ランチメニューって……これを?? の状態です。謎な授業は留まることを知らず、その後もパンを焼いたり、パスタを麺から作ったりと、喫茶店に何を求めているのかという授業内容の数々。
結局何も身についた気がしないまま半年が経ってしまい、当初その学校がうたっていた卒業後のバイトや就職先の口利きも一切ありませんでした。他にも店舗を開業する際に相談に乗るという内容も全く成されず……。
完璧にお金をドブに捨てた感じの嫌な思い出として、今も店主の中に痼りのように残っています。
結果として卒業後に自分で喫茶店のバイトを探し、二店舗に一年と一年半勤めてノウハウを学びました。独学と夜逃げした学校の教えの方が、見た目だけの学校よりも役だった訳です。
ちなみに後者の学校。今も営業をしていますが、短期コースはいつの間にか存在を抹消されていました。何をするにも専門学校という思いこみは、時として恐ろしい失敗になります。
夢の一歩がバイトだと地味に思えますが、その時に必要なことは現場から知るのも大切ですよというオチ。お客様もくれぐれも気をつけて下さいね!
――――それではお客様、またのご来店をお待ちしております。
お金は大事だよ。
バイトでコツコツ働いて得る知識は馬鹿に出来ない!




