*** うちは緊急取調室ではありませんよ?
見た目は普通の大人しそうな女性だったんですが(´ω`;)
本当に人は見かけによらないですね~;;
あ、いらっしゃいませお客様!
唐突なんですけど、最近会社で同僚とか上司とかからイジメとかにあってたりしませんか?
“え……いや、別に?”ですか。それは良かった。
それにお客様は人からの悪意に鈍そうでいらっしゃいますもんね!
“何、来店して早々にディスられるって……何かした?”だなんてとんでもないですお客様。被害妄想ですよ! 短気は損気って言いますでしょう?
あ、お待たせしました、コーヒーこちらにおかせて頂きますね。
はい、実はついさっきお帰りになったお客さんがなかなか凄くてですね。つい社ち……ゲフン。お客様のことが心配になってしまったというか……。
ではですね~、本日のお題はこちら!
【“ドキッ! 喫茶店を使っての上司への同僚チクり冤罪事件!”】
いやいや、笑われますけどね……これが結構多くて吃驚するんですよ。
中にはとても悪質な、相手にとっての悪意にまみれた嘘だらけのチクりもあってですね、さっきのお客さんなんかがこのタイプに当てはまるかな?
作業しながらぼやーっと耳にしてたんですけど、何だか途中から思わずうん? ってなってしまいまして。
どうにも完璧にイチャモンの部類に入るというのか、それって相手の尊厳を無視しているのでは? といったところまで踏み込んでまして。
「“病院行くのに有給使った”」だの「“医者にかかる間のお金を水増し請求して会社に損害を与えようとしてる”」だの「“身体が弱いふりをしてこちらの仕事を故意にを増やしている”」だの……。
果ては「“あの人の私を見る目がいつもこっちを小馬鹿にしてて許せない”」だのと延々、ノンブレスでまくし立てるんですよね?
もー、上司である人事部の方もタジタジです。
“へぇ、相手がよっぽど酷い奴なんだな”とはそんな暢気なお客様、店主は好きですが足許注意! ですよ。
店主も最初はまぁ、そんな人もいるのかな、くらいで聞き流していたんですが――、
「“だから私、あの人が狡してお金もらった分を取り戻そうと思って、先に私がタイムカード捺しといてあげたんです。うちの会社の為に!”」
――――――んんんん???
“……それはまた……”でしょう? だってまだ普通に当の本人働いてる時間だったんですよ? それを先回り四時間ほどしてガチャン、と。
上司の方も「“いや、でも▼▼さん、それは駄目ですよ。その日ちゃんと△△さん働いてくれてましたよ?”」って言ったんですね。そうしたら……。
「“ほら、□□さんまでそうやって△△さんに騙されて! 職場のみんな騙されてるんです! 私、あの人が仕事の合間に関係ないところで時間潰してるの見たんですから!”」
…………ゴクリ。
「“私、非番の時に見かけて△△さんの後付けたんですから!”」
…………それ、ストーカーでは、って思いました? はは、店主もですよ。
「“え、それどこで? いつ頃? 誰か一緒だった?”」と上司もここでにわかにノート片手に聴取作りです。
――ところが……。
「“**部長と××課長も一緒でした。二年前くらいです”」とか仰るんですよ。せ○こ、それサボリとちゃう、ただの取引先回りや!
これにはさすがに上司の□□さんもノートを閉じました。明らかな言いがかりの上に、二年前くらいの話、ですからね。
「“……あのね、▼▼さん。それは多分業務の一環だし、あなたがそういうから僕も同じ職場の人達に聞いてみたけど、みんな△△さんはとっても真面目で一生懸命働いてくれるって言ってたよ?”」
“上司……頑張ったな”とは、まぁ、少しはそうですね。ですがこの▼▼さんはこれに対して――、
「“みなさんが間違ってるんです。私だけが正しく△△さんが経費を我がことに使う極悪人だって知ってるんです。私あの人にパワハラだってされたんですよ!”」
「“あぁ――あれね……、僕を含め他の人には普通に常識的な注意に聞こえたよ? 遅刻が続くと職場のみんなが困るからね~、ってやつでしょう? 確かに注意とパワハラの線引きは難しいけど、あれは注意だったよ”」
「“……ふぅん、そうですか? じゃあ私とみなさんの受け取り方の違いですね。私にはそう聞こえませんでしたもん”」
――と、まぁ、このように延々と二時間。
相手を貶める為なら二転三転しまくる供述を上司にする。
二・三年前の憶えても確証もない話を見てきたかのようにチクる。
これ実際上司がまともでなければかなり危険なことだと思います。
――大丈夫なのか?
――この会社は本当に大丈夫なのか? とか思っちゃいます。
喫茶店は密室で、店主はただの書き割れなので、その貶められる方の為に後々証言してあげることも出来ない。歯痒いですね……。
これ放っておいたらそのうち名誉毀損とかで訴えたり、訴えられたりする案件ですもん。
「“じゃあ参考までにお聞きしますが、▼▼さんは人事部に△△さんをどうして欲しいんですか?”」
――……嫌な予感、するでしょう?
「“そんなの決まってます! クビにして下さい! 私このままだと仕事にならないだけじゃなくて精神的に参っちゃいます!”」
――それは、多分、ここにいない△△さんの方だと思いますよ……。
だって、どうです? 普通に働いてるのに職場をクビにして下さい! とか正直怖いですよ……。
“最終的なオチはどうなったの?”と、やっぱり気になりますよね?
「“それじゃあ後日、僕がこの店で△△さんと二人で話しますから――、”」
「“ちょっと待って下さい! それだと△△さんが私のことであることないこと□□さんに言うじゃないですか!”」
「“……今、まさに、△△さんがいない場で▼▼さんのお話を聞かせてもらったんですから、ここはフェアーにいきましょう。ね?”」
有無を言わせない圧を感じる□□さんの発言に、▼▼さんも不承不承頷いて……後日当店にまた嵐が吹き荒れる予感だけ残して去って行かれましたよ。
店主としましては“うへぇぇぇぇぇぇ”ですね……コーヒー二杯でされるにはちょっとヘヴィーと言いますか……辛い。
“お疲れ……”とは、他人事ではないですよお客様。ストレスフルな現代社会だといつどこで誰の恨みを買っているかもしれませんからね。
店主も気を引き締めて日々働きたいと思います!
それではお客様、またのご来店をお待ちしております。
嵐が吹き荒れる予感に怯えつつ営業中です!




