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***   あ、これ駄目だ、寝返りできない。

今回はスピンオフというか、そんな感じです。


この辛さを叫びたくなったので、ついつい(´ω`*)



 いらっしゃいませ、お客様。


 すぐに立ちますから、もう少しだけ座ったままで失礼します。


 “いや、それは別に構わないけど……どうした?”とは、このおかしな体制のことですか?


 これはですね、別に歴史的な美術作品に親しもうとか思ってのことではないんですよ……。まぁ、こうして考える人みたいな格好のままで言うことでもないんですが。


 立ちます、立ちます、いま立ち上がってお冷やをお出ししますから少々お待ち下さいま……痛あぁぁっ……!?


 ――――――先程は誠にお見苦しい所をお見せしました。


 “いや、良いけど……腰大丈夫?”だなんて、なんとお優しいお言葉でしょうね。あのクソBA……にも聞かせてやりたいくらいですよ。


 ここに爪切りあるんで爪ヤスリでちょこっと爪を――駄目ですか、そうですか。


 確かに食品に混入物は拙いですね。バレたら。……バレたら。


 大事なことだから二度言いましたが、お気持ちは――変わりませんか。そうですか、残念です。


 “で、店主の腰と爪の垢がどう関係あるの?”とは……話の水の向け方が板に付いてきましたね、お客様。


 談笑するのが苦手な店主を先回りして会話の全面介護とは、七年目にしてようやく良いお客様に巡り会えて感激ですよ。


 と、まぁ冗談はこの辺にしておいてですね――あ、すみませんが、カウンターの方までコーヒーを受け取りに来て頂けるととても助かります。

 

 いやー、まさかこの歳で腰にくるとは思ってもみませんでしたね……あと三十年は先かと思っていたので大ショックですよ。お客様もくれぐれも腰は大事にして下さいね。


 えー、店主がこうなりましたのも遡ること数日前――。


 休日の前の晩から“腰に感覚がないけどいつもみたいに凝ってるのかな”と無視して布団に潜り込んだら、翌日も仕事のある日と同じ時間に目覚めまして。目覚ましかけてないのに、人間の体内時計って不思議ですよね~。


 “まだ寝れるな”と思った店主はゴロッと横に寝返りを……打てなかったんです。まさに今まで味わったことのない激痛。


 結構前の仕事柄、生傷は絶えなかったので痛みには強い方なんですけどあの痛みはちょっと予想外でしたねー……。


 いや、まだ痛むんですけどね? もうそれどころじゃない感じ。その時は休みの日で実家に帰っていたので良かったーとばかりに、家族に助けを求めて近くの町医者さんへ。


 しかし、医者不足の昨今、先生はよその病院にかり出されていて三日後までいないというのです。


 しかたないからその辺の薬局で痛み止めでも買うか、と思っていたら病弱な母が“その腰、ただの腰痛じゃないよ”とイタコのようなことを言い出しまして。


 渋々言われるがままタウン○ークで近くの整形外科に行ったんですよ。


 そしたら先生が話を聞くなり“レントゲン撮りましょう”と。店主もそこで初めて思ったよりヤバイ状況だと察して……結局翌日大病院でMRIに入って結果が出ました。


 ”あ、やっぱりヘルニアですね”と先生。


 いやいや、ちょい待ってくれよ、翌日仕事ですよと言ったら“最低でも四日は確実に休んで”との言葉に翌日から四日自宅謹慎ですよ。


 で、店を開けた瞬間入ってきたBBAの発言が“そんなことで休んでんじゃないわよ! 最近の子はすぐさぼることばっかり!”とね……仰る訳ですよ。


 ですのでさっきのお客様の“大丈夫?”は店主にとって、とてもありがたい魔法の言葉だったんです。


 さて、そもそも何でまだ若い――若いんですよ? 平均寿命の延びを鑑みれば店主はまだピッチピチです。


 “……死語だ”とはお客様、一度は聞き流しましょう。続けますね。では、何故まだ若い店主が腰を痛めたのか! 


 ……大した理由ではなくて立ち仕事や座り仕事の宿命ですがね。使い痛みというやつですか。飲食店に限って言えば、水場の低さにありますかね~。


 もともとシンクの高さって多くは結構低いんですよ。というのもお客様が座るカウンターから見えにくい高さで、なおかつ人の座り心地と食事のしやすい高さって大体決まっているんだそうです。


 なので、お客様の視線に汚れ物が見えない、カウンターから向こう側に水が飛ばない高さに合わせると、自然と店の人間が使うシンクの高さが低くなる。自明の理ですね。


 店主は身長が162センチですから、これもっと身長が大きな方だと二、三年でヘルニアになるかもですよ。

 

 そこで店主も以前から食器洗う姿勢に無理があるなと思っていたので、他の席が空いてる時はカウンター席をお客様に使わせないようにしていたんですよ。

 

 水が飛ぶし、目の前で食器がガチャガチャいってたらうるさいでしょう?


 ――ですがね、お話したいとか、カウンターの中がどうなってるのかとか、食材は冷凍に違いないとか、そういうことが気になるお客様は敢えてやんわり断ってもカウンターに座られます。


 最初は“良いの良いの、気にしないから!”と皆さん仰られるのですが、大抵途中で“ちょっと! いまこっちに洗剤飛んだわよ!”と怒られます。


 “店主はその時どう思うの?”ですか。お客様はパンドラの箱を開くのがお好きなようですね。では、この場をお借りして少し。


 “おぉ、アンタがそこでええて言うたんちゃうんか? こっちは端から水飛ぶし、そこ座るな言うたやろうが。文句言うんやったら何でそこがええ言うたん? あれか、店主が若いからなめとんのか?”


 上記の訳文を下に添付させて頂きます。↓↓↓


 “えぇ、お客様がそちらの席がよろしいとのことでしたので。こちらが注意を怠ったせいで不快な思いをさせてしまって申し訳ありません。若輩者ですのでご教授頂けましたら幸いです”


 というような感じで気を遣っているんですよ、これでも。


 因みにお客様の中には、特に年配の男性や中年の女性に多いのですが、店員が座ることを極端に嫌がる方がおられますね。


 しかもそういうお客様に限って三時間、下手をすれば四時間は居座られるんですよ……。勿論その間お昼ご飯は食べられません。


 延々ご飯を作っては提供して、を繰り返す。そのうちに空腹は飛んでいってしまうのでそれは随分早いうちに慣れたんですが、座れないのは辛い。


 足が棒になるというのか、連日だと感覚がなくなって片方の足に重心乗せたりしちゃうんですよ。お客様も外回りの信号待ちなどされる時は気を付けて下さいね。何事も積み重ねですよ?


 ですので、今回の教訓は“人に何と言われても辛い時は休め”ですね。


 あとそれから、カウンター席にどうしても座りたい方は店主が座って休憩出来るように真正面に座るのは止めてあげて下さい、というこの二点。


 しっかり脳味噌に刻みつけてお帰り下さいね、お客様。ヘルニアは本当に辛いので。


 あ、それから飲み終わったカップはこちらまでお持ち頂けると店主が泣いて喜びます。はい、ご協力感謝ですー。


 ふー……それではお客様、またのご来店をお待ちしております。



前回の業務用スーパー事件は、

読者様からの親身なアドバイスでひとまず何とか……。


あとは値段が、値段がネックなんだ……!

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