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***   それは四年目にして起こった。


 悪ふざけですか? 勿論しますよ?(´ω`*)<アハハ。



 ―――あぁ、いらっしゃいませ、お客様。


 うん? お見かけしないお顔ですね。もしやお客様は当店にお立ち寄り頂いたのはこれが初めてですか?


 ですよね、この近所ではまずお見かけしない真っ当そうなお顔ですもの。


 え? “お客のことをそんな風に言ってはいけない”ですか?


 それでしたら、ちょうど今は店内にお客様以外いないことですし、どうして私が“そんな風”に言うのか――聞いてみませんか?



***



 なんてふざけた前振りはスルーして下さって結構ですよ。なんと読んで下さいました? ありがとうございます。


 さてさて、石の上にも三年ということわざがあるようにそろそろ店主は油断していたのですよ。


 ここに店を構えてからあと二ヶ月で四年目というその日、あの痛ましい事件は起こったんだ……。


 いやまぁ、その一月前だって表のプランターに植えた華が(四千円相当)十回目の盗難にあって、人感センサー付のライトを大枚(五万)はたいて取り付けてもらった直後だったんだけどね?


 その日のランチタイムはここ最近では珍しく混んでいて、二口しかないコンロでフライパンと鍋を操る店主はてんてこ舞い。


 途中で注文を取りに行ったり、配膳したりと大忙しですよ。え? “他に店員はいないのか?”って、そんなの売上カツカツな個人店でアルバイト雇う余裕なんてありませんから。


 情けない話、自分で食べる分で精一杯ですよ。


 そんな最中に品の良いおばさんのお客さんがお店のお手洗いに入っていくのが見えたよ。旦那さんとの会話から近くの病院に来ていたんだろうね。


 でも忙しかった店主はその時はそれ以上のことは気にしないで、目の前のまだ出せてないメニューを書いた伝票と睨めっこしていたんですよ。


 ランチタイムにお手洗いに入ったのはその品の良さそうなおばさんだけ。


 でも取り敢えず掃除の必要があるかもしれないから、山盛りあった洗い物を片付けてからお手洗いを覗いたんですね?


 そうしたら、何と言うことでしょう!!


 お手洗いに飾ってあった一輪挿しがなくなっているではありませんか。しかも挿してあったお花ごと。


 別にこれが百均の一輪挿しとかだったら良かったんですが、この一輪挿し、お店を開くに当たって実家から持ってきたお気に入りだったんです。


 母が二十六年前に幼い私に買ってきてくれた一点物。


 エルマーの冒険っていう児童書に出てくるドラゴンみたいなやつ。すごく気に入ってて守神としてお店に連れてきた子だったんですが――完全に裏目に出ました。


 店の外にある物を持って行く人には注意していたんですが、まさか白昼堂々店の中で盗難にあうとは考えてもみませんでしたね。


 これで店主はこの言葉の意味に心の底から開眼しました。


 【人を見たら泥棒だと思え】


 うーん、 先人の金言! 心に沁みます。ごめんよ母ちゃん……!


 この日を境に店主のお客を見る目が変わり、“いらっしゃいませ”の笑顔もややニヒルなものが混じるようになってしまいました。


 ちなみにそのお客――いえ、盗っ人はそれ以来今日までお店に現れません。せめてあの子が割れていないことを祈ろうと思います。


 最近では怪しい素振りを見せるお客さんには勇気を持って、魔法の言葉を唱えます。良いですか? せーの!


「お客様? そちらの商品は売り物では御座いませんので、お手を触れないようにお願いしまーす」


  ―――とね。


 そんな当店ですが、真っ当なお客様でしたら あり得ないほどの厚遇っぷりをしてみせますよ?



***



 それでは、またのご来店をお待ちしております。


 ――おっと、忘れるところでした。お待ち下さいお客様。


 こちらよろしければポイントカードになっておりまして、十個スタンプが貯まればコーヒーか紅茶を一杯サービスさせて頂いております。


 ちなみにモーニングのセットの金券としてはご利用頂けませんのでご了承下さい。いや、いるんですよ、たまに言うお客さんが。


 ――これに懲りずに覗いてやるかと思われることがあれば、ぜひお立ち寄り下さいませ。




 次回からもこんな感じです。

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