*** 意外とローテクもありですよ。
多少の不便さもたまには良いものですσ(´ω`*)
いらっしゃいませ、お客様。
外は風が強かったでしょう。お陰でさっきから窓の鎧戸がガチャガチャとうるさくて――って、あれ?
お客様、何だか随分と薄着ですけれど子供は風の子を気取ってらっしゃるのですか? あ、違う?
ははぁ、“予報ではもっと気温が高いと聞いてたから!”と。いけませんね、素直に天気予報を鵜呑みにしてしまうなんて。
天気予報は基本的に気温のことしか言いませんが、実際は冷たい風が吹くんですから。家を出る前に玄関先でちょっと空気の冷たさを確認してみるのも大切ですよ。
一概に気温が高くなると予報で言っていたからと信じ込むと朝のうちはまだしも、帰りが辛くなりますよね。気温と体感って違いますから。
あんまり寒いようでしたらそこのストーブで手をあぶって温めると良いですよ。指先を温めるだけでもだいぶ違いますので。騙されたと思わないで試してみて下さい。
“随分懐かしい形だ”で、ございますか。まぁ、お客様のご年齢を店主は知りませんのであれですが――レトロ可愛いでしょう?
“何がレトロだ。昭和だろ、古臭い”って、お客様、素直な感想はこの際その辺にポイッとしておいて下さい。
良いではないですか、ダルマストーブ。確かによく漁師町でスルメ炙ったり、無人駅でヤカン載せられたりしててお洒落な感じはあまりないですが。
このダルマストーブ、ここに中の炎が見えるように窓があるんですけど、どうです――暖かそうでしょう?
見た目には雑貨屋さんにある可愛らしいランタン型のアロマキャンドルを思い出して頂ければだいたい間違いないかと。もしくはキャンプ製品のランタンでも良いですよ。
あれの大きいのがドーンと店の中に置いてある感じですかね。何となく少しはイメージ出来ました?
実際今日みたいに寒い日は、この炎の色に釣られて入ってこられるお客様もいらっしゃるんですよ。
当店の証明はオレンジ色の暖色系ですから、この炎の色で二乗されて室内がより暖かそうに見えるんです。勿論見えるだけではなくて暖かいんですけどね。
それともあれかな、体感温度と同じで視覚的に暖かいと思うと脳もだまされてくれるのかな?
最近のものは昔のものと違ってあんまり横側が熱くならないように設計されているんですって。昔より一般ご家庭サイズで小さいですし。
大きかったり横側が熱くなると、室内に置くならぶつかった時に危ないですからね。
煙突みたいに熱が上に上がって天井にぶつかると、その分の熱がまた降りてくるんだとか。満遍なく室内が暖かくなるのはグルグル循環してる感じになるからなんですね。
意外と小さい店舗の暖房なら割とこれ一台でいけますよ。むしろエアコンと違って空気を乾燥させないから風邪もひきにくくなりますし。
それに何より……コストパフォーマンスが滅茶苦茶良いんですよね。この子のお陰で冬季の光熱費八千円くらいカット出来ましたよ。うちみたいな小規模店舗には本当にありがたい。
――あぁ、ダルマストーブちゃん、君はまさしく救世主だ!
……はい、そこのお客様引かないで。コーヒーここに置いておきますよ?
と、まぁ、良いことずくめなストーブちゃんなんですが、強いて難を上げるとすれば――毎日の灯油補充が結構面倒ではありますね。それに灯油って独特の匂いもありますから。
他にもシーズンが終わったあとの手入れというほどでもないですが、使い切れなかった灯油を抜いて空焼きするのを忘れると、次のシーズンになかなか火がつかなくなるので困ります。
それなりに重くてかさばるので片付ける場所も作らなきゃ――って、あれ? もしかして何だか急に負の方が勝って来ちゃいました?
違います、誤解です。これは店主がズボラなだけですので。ストーブちゃんは何にも悪くありません。
芯に火がつきにくかったら直接小さいチャッカマンで火を点けちゃえば、あっという間ですよ。
ホントホント、簡単ですから。店主なんて最近はもっぱらこの点火の方法です。
それにこのストーブちゃん、何気に老若男女の人気者でして。
使い始めてまだ二年目くらいなんですが、その人気たるや「今年はまだ出さないの?」と訊かれるお客様もおられたりするくらい。
全く初めてお顔を合わされるお客様同士であっても、ストーブちゃんを囲んで手を温めている間にお喋りに花を咲かされていることも多いです。
しかし店内で見ている店主の目には微笑ましいこの光景も、店の外から見る分には真ん中に何があるのか分からないのでサバト感が……。
でも世代を越えてストーブを囲んで交わされる会話の内容は本当に様々でとても面白いですね~。
戦時中の食糧配給の話をされる方もおられれば、お子さんの保育園での焼き芋の話をされる方、マラソン大会が寒かったと話される方、田んぼの手伝いをした幼い頃のことを話される方、祖父母との思い出を話される方――。
ストーブの炎のオレンジ色が手を温めているお客様達の顔を柔らかく照らし出すのを眺めるのも、なかなか良いものです。
こうしてカウンター越しに見ていても、さすがに怒りながら火に当たる人はいないものですね。
不機嫌に入店されて来てすぐは怒っておられた方も、ストーブの火を見ている間に不思議と穏やかになられます。
ダルマストーブの炎はどこか人の郷愁を誘うのかもしれませんね?
あぁ――お帰りですか?
しっかり身体は温められましたか? ……それは良かった。
それではお客様、またのご来店をお待ちしております。
何だかストーブ会社の回し者みたいな回になっちゃいましたねw
さて、今年はそろそろお役ごめんかな?




