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***   クロネコメンバーズ・1

大体いつも二時くらいのご来店。


お腹減るだろうに……凄いなぁ(・ω・`)



 いらっしゃいませ、お客様。今回は当店のお客様の中でも屈指のレア度を誇る方々のお話を少ししましょうか。


 お客様、子育ての時にいるものは何でしょうね? 


 何でも買い与えてあげたり、塾や習い事に行かせてあげられる財力? 


 それとも両親や兄弟の学歴? 


 母親がずっと家にいてくれて手作りのオヤツを毎日用意してくれる?


 確かにどれも大切だとは思うのですが……店主はそれだけじゃないと思うというか――少なくとも我が家はそうだった気がします。


 さてそれでは本日のタイトルをご覧になって下さい。


 はい、今回の主役はベージュ系のズボンに緑のライン、シャカシャカの緑のジャンパーの腕に黄色いラインが入った作業服のあの方々。

 

 電動自転車になる前はそのうち配達中に死人が出るのではないかと肝を冷やしていた店主です。


 青と白の爽やか系の方々もいらっしゃるのですが、うちのお店の近くには某・黒いニャンコの集配所しかありません。しかも電動自転車系の小型運搬だけに特化しています。


 そこに勤めていらっしゃるお母さん方がとにかくパワフルで、店主はこの方々の子育て話を聴くのが大好きです。


 一般的に“ヤンママ”と呼ばれる派手な見た目のお母さん方が多いのですが、このお母さん方、基本的に人の悪口をあまり言いません。悪口は真っ向きって言う強い精神の持ち主のようで、所謂“タイマン”を張っちゃう系。


 だからその会話内容も非常にカラッとしていて気持ちがいいんですよね。


 失礼ながら偏見として、こういう見た目の方々が大の苦手だった店主も思わず考えを改めてしまう感じです。


 “良い体育会系”とでも言うのでしょうか……とにかく人の悪口を生きがいにしている方々が多いこの地域では考えられない奇跡の存在。


 と、前置きが長くなりましたね。当店の周辺は言い方が悪いですが低所得者層が多いのですが(うちを含め)そのせいで共働き、もしくは一人親家庭が多いんです。


 クロネコメンバーズも大半が母子家庭の方で、結婚されてる方は同業種の他の営業所のトラッカーさんを旦那さんにもっている方がほとんど。


 両親の収入を合わせても子供が二人いると生活がカツカツになるご家庭が多いんですね? 


 しかも両親揃っていたとしても仕事はほぼ一日フルタイム。繁忙期には午前様の帰宅で、子供は一人、ないし兄弟とお留守番のところが半数以上を占めています。


 さらに祖父母とは疎遠か、縁を切ったご様子の方も少なくない。


 ただですね――?


 皆さん、驚くほどに子煩悩なんですよ。会話の端々からそれこそ目に入れても痛くないくらいの溺愛ぶり。


 本当に年に数回、極々稀にお昼の食事をとりに来店して下さる程度なんですが、会話のほとんどが家族の話。いらっしゃると二時間半は粘られますが不思議と気にならないですね。


 だいたい四、五人で来店されますが誰も悪口を言うのを見たことも聞いたこともないです。


 “滅多に来ないからだろう?”――はぁ、そう思われるのも仕方がないですけれど、年に数回しか来店なされないのに三時間ずっと人様の悪口を喋り続けられるお客様も多いですよ。何ならほぼそうだと断言できます。


 なのにそんな中で夏は四十度近い中を汗だくになって自転車を漕ぎ(バッテリー節約)、冬はマイナスになる夕方や夜も走り回るのが当たり前の生活をされている方々が、不満を話さないのは奇跡と言って過言でない。


 ―――店主ですか? 


 ……こんなものを書いている時点でお察し下さい。


 ある日のご来店の時は外の気温が三十八度を超えようかという炎天下の日でした。その日も仲良く五人チームでいらしたお母さん方。


 食事をしながらその内の一人の方が、


「そうそう、聞いて聞いて! うちの子さぁ、最近めっちゃアホ可愛いことしてたんよ」


 と、切り出されました。他の四人のお母さん方の視線が一気にその一人のお母さんに注がれます。


「学校の本読みの……音読の宿題? みたいなのがあるらしいねんけど、アタシそんなの聞いたことなかったんよね? それやのにこの間学校の家庭訪問の時に担任に“毎日やってるみたいで凄いですね!”って言われて」


 内容を聞いていたら(例に漏れずに声が大きい)音読カードなるものがあるらしく、親御さんに聞いてもらったらそこにサインをしてもらう仕組みらしいのです。


 けれど聞いたことがないのに担任に誉められたこのお母さんの子供、どうやらお母さんのサインを真似ていたそうで――怒って子供さんに聞いたらしいです。


「アタシ最近夜勤も入れてるから、夕飯作ったらまた家出るやろ? そしたら一人で音読してサインせぇへんかったら、アタシあの子が起きてる時間に家帰らへんし宿題できへんて泣くからもう――あれやん?」


 バンッと、テーブルを一つ叩いたそのお母さんはさらに声を大きくしてこう力説しました。


「はぁ? 何やめっちゃ可愛いなぁコイツ!? ってなるやろ」


 店主は一瞬噴き出さないように息を止めるのに苦労しましたよ。完全に不意打ち。


 しかしその席に着いていた他のお母さん方は慣れているのか真顔で頷くばかり。おかしいのは店主の方でした。


「そやから次から朝の六時に起こして音読させるようにして、サイン捏造できへんようにプリ○ュアの絵描いたったわ」


 ここで他のお母さん方がようやく、


「あんた字下手やのに絵はそこそこ上手やもんねぇ」


「朝の六時って、部活か! しかも面倒くさいやろそれ~」


「子供の字が下手にならへんうちに矯正したらなね?」


「その発想なかったわぁ、今度うちの子にも仮面ラ○ダー描いたろ」


 と、大爆笑の渦。ちなみにこの仲良しグループで旦那さんがいらっしゃる方は二人。後の三人はシングルマザー。今回のお母さんはシングルマザーのご家庭で子供さんお一人。


 二人暮らしのはずなのに実質ずっと一人の娘さんをとっても可愛がっていらっしゃるご様子でした。


「そしたら次の日連絡帳に担任から“良いアイディアですね!”って大きく書かれてて恥ずかしかったわ~……考えたら提出するもんなぁ」


 その言葉を合図にお母さん方は席を立たれて、


「さて、それじゃあ午後も――誕生日プレゼント代の為に!」


「新しい部活用のシューズの為に!」


「修学旅行の積立金の為に!」


「年に一回の家族旅行貯金の為に!」


「半年に一回の食べ放題じゃない豪華焼き肉代の為に!」


「「「「「頑張っていこーぜ!!」」」」」


 店の真ん中で円陣組むのを初めて見たときはびっくりしましたが、もう慣れました。毎回違うのでバリエーションも楽しめるんですよ。


 と、まぁそんな感じで恒例の誓いを叫んだ彼女達はそのあと「騒がしくしてごめんね」と言ってそれぞれ散って行くのでした……。


 “オチは?”ってそんなの、あれですよ。子育てに一番必要なのは何を置いても溢れんばかりの愛情ですよね? という話ですよ。


 それではお客様、またのご来店をお待ちしております。



他にお客様がいない時=円陣。

他にお客様がいる時=全力のタッチ。


微妙な使い分け、ありがとうございますw

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