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***   昨日の味方が今日の敵……。


人との距離感って難しいですよね(´・ω・`)



 ご年配の方々が多い地域でお店をやっていると、ちょこちょこあることなんですが――店の経営方針に口を出してこられるお客様が……。


 今回はそんな“昔、商売をしていた”というお客様のお話でもしましょう。


 これは特に飲食店系に多いと思うのですが、最初にお店を開店したばかりの頃というのはこういうお客様が結構いらっしゃいます。そして本当に助かる助言やちょっとしたコツを授けて下さいます。


 本当に助かるんですよ? ―――最初のうちは、ですが……。


 開店してから一年ほどはつかず離れずの距離を保って教えて下さるのでこちらもほぼ一から十まで話を聞いて、その通りに行動してそのコツをモノにします。


 二年目あたりからはだんだん慣れ始めて自分なりにアレンジし始めて、教えて下さったお客様にお褒めの言葉をかけて頂いたりして非常に嬉しい気分になりますよね?


 なんて言ったって“師匠”のような方から頂くお褒めの言葉ですから。


 “弟子”気分の店主は高揚感も手伝ってどんどん自分のやり方と教えて頂いた手法をミックスしていきます。


 三年目くらいからは徐々に“師匠方”も「もう大丈夫だね」なんて言って自然と足が遠のくものなんですが―――。


 この“師弟関係”が上手く解除されないことがほんのたまにあるんですね?


 そしてそれがバブル世代の方だったりするととても困ったことに……なるんですよ。えぇ。


 情けないことに……原因は店主にもあったんだと思うんですよ。


 “今まで素直に何でも聞きすぎてしまった”。


 素直に言うことを聞く相手というのは“支配”しやすいタイプとみなされるんですね。世間的には。


 そして店主はパッと見た感じの印象が“ぼやーっとしてる”ようなんだそうで――近しい人間には「直立してるとプレーリードックみたい」とか言われる緩い見た目なんだそうです。


 直立してるならミーアキャットだって良いでしょう、そうでしょう……。


 全くひどい言われようですね。せめてもっと人間に近そうな生き物にしてくれと言いたい。


 そして店主、本来人付き合いは苦手なんですが(本当になんで客商売を?)愛想笑いは標準装備です。


 笑顔ってあれでしょう? 口角を軽く持ち上げて目を弧を緩く描くように細めるやつですよね?


 さすがにそれぐらい存じておりますよお客様。 ほら“ニッコリ”出来てるでしょう?


 ――――まぁ、良いです。今はそんな話をしていませんものね。


 ともかくこの上手く解除されない“師弟関係”とういのはとても厄介です。現在“出店したばかり”の方や“若くて頼りなさそう”と言われる方はご注意下さい。


 というのもこの世代の方々はそろそろ体力的に辛くなってきたから店をたたみ始めるという方が多いんですよ。


 長年やってきた店を空っぽの居抜きに戻して、年齢のせいで徐々に減ってきていたとはいえ常連さん達に閉店のお知らせをします。


 いずれは店主も辿るであろう道なので、そこは少しだけ一緒にしんみりしてしまうものがありますが……。


 馴染みの仕入先に連絡を入れてお互いに労いの言葉を交わして契約解消します。


 ―――これで翌日からは現役時代に散々憧れた“毎日が休日”状態。


 しかしそうすると、今までは忙しかったけれど途端にやることがなくなって手持ち無沙汰になられるんですね?


 ここでとても働き者な方がよく罹るある種の病気になられます。


 それがこちら“手伝いに行ってやらなきゃ病”。


 ん? “もっと名前を捻れ”ですか? でも大体この病気を発症した方はこう言われますよ。

 

 そしてふと朝起きた瞬間に天啓のごとく頼りない店主の営業している店を思い出されたりするんです。店主的には“勘弁シテヨー”な状態になりますがそういうことにはお構いなし。


 これが同業者だと好意の押し売りが凄まじくて困ります。


 例えば、


「ここのコーヒー前から思ってたけど薄いんじゃない? うちで使ってた豆はもっと深みがあるのよ。今度持ってきてあげるから私に淹れさせなさい」


「ここのパンは噛んだときの甘味が少ないわよ。うちで注文していたパンはもっと美味しかったから紹介してあげるわよ」


「オムライスに付けるスープは鶏ガラでとらないと駄目よ。今度仕込みをしてあげるから寸胴鍋を持ってくるわね」


「心配だからお金は良いから手伝ってあげる。あんた頼りないから!」


 などなど、際限がない怒涛の要望に店主はタジタジ&ほんの少しの苛立ちを感じます。


 でもヘタレな店主は曖昧に笑ってそれらの要求を湾曲的な方法ではありますが、全て無視していました。


 ですが……あの日その方はついにその一線を越えてしまったんです。


「この人な、うちにコーヒー卸してくれてた業者さん。一回だけで良いからここの豆にしてみて」


 ――正直、この行為には滅茶苦茶腹が立ちました。いくら客が少なかろうが、いくら単品のコーヒーの注文が少なかろうが――。


 この店のコーヒーは店主が契約している業者さんに焙煎の深さやコーヒー豆の種類を注文しているいわば“オリジナルブレンド”。


 開店してから今日までずっと少ないとは言え“当店の”常連さんに「美味しい」と言ってもらってきたのです。


 本来であれば師匠に対して弟子が持ってはいけない感情なのですがここはハッキリ言わなければなりません。


 その長年の仕事で得てきた知識を教えて下さったことがどれだけ今の店主の支えになっているか――師匠である“アナタ”には知っておいて欲しかったのに……。


 ここに来てもう、袂を分かつ覚悟で店主は言いました。


 “――店主である“私”が必死になって得てきたお客様です。

 ――店主であったことのある“アナタ”のお客様ではないのです。”


 連れて来られただけの業者さんは何となく納得している顔でしたが、師匠にはあまり通じなかった様子で、


「ふぅん? 何か今日は機嫌悪いみたいやから帰るわな~」


 と、その日は去って行かれましたが……心の中で二度と来ないで欲しいと感じてしまう店主はとんでもない恩知らずですね……。


 お客様、うちのコーヒーは美味しいんですよ?


 あぁ、でも――きっと、師匠のコーヒーだって美味しかったんですよね。


 ――――それではお客様、またのご来店をお待ちしております。




無理な勧誘、駄目、絶対。

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