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***   足掛け二年間の連載。


今回はスピンオフ作品ですよ。


(´ω`*)<あまーい、恋のお話ですW



 あぁ……卒業式のシーズンが近付いてくると、店主はふと思い出す二人がいます。


 四角く区切られた窓の外で二年間ほど繰り返されたそれはまるで胸をときめかせる学園ドラマか、少女マンガの連載みたいな純情で可愛らしい恋のお話でした。


 というわけで今回は【実録・窓の向こうの恋人達】です。


 お客様が来なくて暇を持て余しきっていた店主の目の前に突然現れた中学生 ――まさに等身大の恋愛模様のお話ですよ。


 え、デバガメ? 人聞きの悪いことを言わないで下さい。


 これは、そう――見守っているだけですよ、えぇ。


 最初に見かけた時は女の子の方は凄い勉強が出来そうな学級委員長を体現したみたいな子で、男の子の方はいかにもなヤンキー系でしたね。制服の下に赤いTシャツ着てズボンをわざとずらしてはくような。


 女の子のほうはいつも一人で本を読みながら登下校してて、男の子の方はガラの良くない先輩とかとつるんでました。自転車通学なんかしちゃ駄目だというのにベコベコの黒い自転車で。


 普段は同じような学生さんが多いのであまり見分けの付かない店主ですが、その二人はあんまり対照的なので印象に残ったんですね。


 これがまぁ、後から考えればテンプレその一になりますか。


 また時々、委員会で他の生徒より下校時間が遅くなる女の子がその男の子みたいなのに絡まれたりしないように見張ってたというのもあります。


 けれど毎日見てて気が付いたんですが、その女の子と男の子、どうやら学年が一つ違うみたいで男の子が一つ上の学年。

 

 だから単純に女の子が二年の時に三年ですね。


 最初は別々に登下校していた二人なんですが……学校内での出来事は良く分からないので、店主には二人がどんな風にして知り合ったのかは残念ながら分からないんですけどね?


 ただ、ただ―――ある日を境に男の子の方が、女の子をうちの店の横で出待ちするようになっていたんです。


 それで女の子が本を読みながらうちの店の横を通って帰るのを、ジッと見つめているんですよ。


 不良少年、学級委員長が気になり出す。


 はい、テンプレその二です。


 それでもまだ毎日ガラの良くない先輩とつるんでいた男の子に、女の子は見向きもしません。


 当然ですよね。実際につるんでいる面々を見たら真面目な女の子に許容できる感じではなかったですし。


 下校の時間に男の子が運悪く先に卒業した先輩達に出くわしていじられている間に、女の子はさっさと横を通り過ぎてしまいます。


 でも、男の子はその先輩達と喋っている間もずっと女の子を見ているんですよ……あ、地味にときめきましたね? 隠しても駄目ですよお客様。


 最初の間はそんな日が続いて読者……ゴホン、店主もヤキモキしていたんですが、ある日! 男の子が! 遂に!


 たぶん女の子が自分の前を横切る時に“お前いつも何読んでるの?”みたいなことを聞いたんだと思うんですよ。


 女の子はちょっと距離を取って男の子を警戒しながら、ブックカバーを外してタイトルと表紙を見せてあげたんですよね。優しい。


 その場では“ふぅん”みたいな反応をしていた男の子。その日はそれで別れちゃって、店主は俄然次の連載が気になりましたね。


 え? “やっぱりデバガメじゃないか”ですか?


 ―――あまりそんな些細なことを気にしては駄目ですよ、お客様。


 それにお客様だって二人がどうなったか最後まで知りたいでしょう?


 ご期待の通り、次の連載で事態は大きく動くんですよ。


 まず男の子、いつも通りガラの悪い先輩達や同級生とつるんでから一旦その場を離れたんです。店主はこれにがっかりしたんですが、早計でしたね。


 男の子は一時間くらいして戻ってくると、再びいつものうちの店横に待機したんです。どうやら女の子がその日委員会か何かで帰りが遅いのを知っていたようです。


 季節はすでに冬でした。男の子が女の子に声をかけた時はまだ夏の頭頃。時期が空いていますよね? 


 これは途中で女の子が塾に通うようになってしまったから、間に男の子が女の子の生活リズムを探る期間が必要だったんです。


 店主にしてみれば結構長い休載期間でした。一時はもう再開してくれないかと心配していたぐらいですよ。最低な大人ですね……。


 でも女の子がなかなか帰ってこない!


 もう寒そうな男の子を四角い窓ガラス越しに見ている店主も気が気じゃないですよ。“早く帰って来てあげて!”と店主が思っていたら、今まで背を丸めていた男の子が急に姿勢を正します。


 と言っても、ポケットに手を突っ込んで上半身を伸ばしただけですが。


 店主もつられて暗くなり始めた窓の外に目を凝らします。


 ―――来ました、女の子です!


 その日はさすがに本を読める明るさじゃなかったので、女の子はすぐにうちの店の横にいる男の子に気が付きました。すると、女の子が横断歩道の向こうから軽く手を挙げます。


 ……ちょこっと校内で進展があったんでしょうか。途中経過が気になる。


 しかし男の子、これに“一瞬遅れて気が付いた”みたいな風を装ってから手を挙げます。うわ、思春期。何だか可愛いですよね。


 信号が変わって女の子が近付いてくると、男の子はちょっと緊張気味。


 店の中まで会話は聞こえないんですが、たぶん“あの本、読んだ?”みたいなことを女の子が言ったんだと思います。


 すると男の子が自慢気に“あの作者の本は全部読んだ”みたいなことを言ったみたいで、女の子が店の中から見ても分かるくらい喜んだんですよね。


 これには男の子も少し驚いたのか一瞬固まってました。でもそれもほんの一瞬で、すぐに嬉しそうに、でもちょっと照れくさそうにはにかみました。

 

 それを見ていた女の子が、いま自分が読んでいる本を鞄から取り出して男の子に見せました。そして何と、その場で貸して“感想教えてよ”みたいなことを言った様子。


 まさか本当に読むとは思っていなかったんでしょうね。見た目の割に意外に律儀というギャップにやられたようです。


 はい、テンプレその三が発動ですよ。


 そしてさらに――ちょこっと触ってしまった男の子の手の冷たさにびっくりしたようで、自分のつけていたミトン型の手袋を男の子に片方貸したんですよ。


 ―――甘酸っぱいなぁ~……! お客様もそう思いませんか?


 この後、このちょっとテンプレ過ぎるイベントをこなしまくった正反対の二人は急激に親好を深めてお付き合いを始めました。


 ですが、男の子の方が先に卒業してしまうのは仕方がないですよね……。


 しかし、ご安心下さいお客様、この二人のテンプレはまだ終わりません。


 男の子の卒業する日、二人は通学路に人がいなくなるまで姿を現さなかったものの、無事に店の横で第二ボタンを渡すというテンプレその四を発動させましたよ。


 うちの四角い窓ガラス越しにドラマチックが止まりませんね……。


 そして男の子のいない学校生活ながらも、女の子が下校する時間帯には必ず男の子のお迎えが――。


 遂に、遂に、女の子の卒業する日がやってきました!


 男の子はこの日のために何と自転車をバイクに(たぶん中古)乗り換えて女の子を迎えに来ました。


 まさかテンプレその五まで用意してくるとは思いませんでしたね……。


 そして驚く女の子に可愛らしいヘルメットをかぶせらせて後ろに乗せると、そのまま二人で走り去っていきました。


 その後の二人がどうなったのかを店主は知りませんが、今も幸せにやっていることを願います。


 いやぁ、それにしても……こんな驚くようなテンプレ過積載の恋愛模様、凄いと思いませんか? 店主もまさか生きてる内にお目にかかれるとは思いませんでしたよ。

 

 あ……“読後感が台無しになる”ですか。そうですね、すみません。


 それではお客様、またのご来店をお待ちしております。




嘘だろうとお思いでしょうが……安心して下さい!

店主の白昼夢とかじゃありませんからW

言ってるじゃないですか、ノンフィクションだって。


――あれ、高一で取れる免許で二人乗りって……野暮ですね、うん!

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