表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/47

***   一瞬うちの店が異世界に通じたのかと。


小さい子は一途ですね。σ(・ω・*)



 もうこの街が店主の知っている“普通の街”とは大分異なっているので、もうそろそろ異世界の扉とやらが欲しくなってきましたね~……。


 どうでしょうか、お客様の中でどなたか“知り合いに魔王がいるけど紹介しようか?”とか言って下さる方はいませんか? 


 何て――はは、いませんよね。そうですよね……。


 もういっそのこと“店ごと転移させてくれたら魔王城の城下町で店開いたって良いわ”くらいの感覚です。


 言語が通じないとか姿形が違ったりだとかして怖いかも知れませんが、逆に考えてみて下さい。言語が通じて全く同じ姿形なのに訳の分からない攻撃を仕掛けてくる住人達。


 ―――どっちが怖いと思います? どう考えたって後者じゃないですか?


 何て言っても仕方がないですね……では少し前うちのお店にちょっと面白くて可愛いお客様がいらっしゃったので今回はそのお話でも。たまには和むお話がないと来店する気も起きなくなりますからね。


 あれは何年か前になるんですが、ちょうど卒業式のシーズンだったんですよね。


 それでその日はお店の窓から胸にお花の飾りをつけてもらった一団が続々と嬉しそうな表情で帰って行くのが見えたんです。


 店主も十年以上前にはなりますが、高校を卒業した日のことなんかを思い出していました。


 ――ごめんなさい、嘘です。もうあんまり憶えてなかった……。


 それで一日中そんな感じの集団がお店の前や横を歩いていく訳なんですが(でも誰も入っては来ない)その中でもちょっと服装のセンスがこの辺りの住人と違う感じの若いお母さんが二人店の前を横切りました。


 要するに少し働いている感が薄いというか、生活に余裕のある方々と言うか……そういうのですね。センスがお高い。


 店主が思うに店から少し離れた場所にある、エスカレーター式の学校のお母さん方ではないかと推測しました。


 というのも、お母さん方の歳が若すぎるんですよね。その学校は幼稚舎からあるので。


 綺麗で若いお母さん方が通り過ぎるのを何となく目で追ってから、店主はシンクの残りの食器を洗おうと思って視線を下に戻しました。


 しかし直後にカウンター越しに店のドアが勝手に開いたのを感じ、来客かと思って視線を上げましたが――――。

 

 ドアは開いているにも関わらず、視線の先に人がいないんですよ。


 プラズマ的な何かの仕業かと思っていたらカウンターから見える席の椅子が独りでに動いたんです。しかも二脚。


 さすがに“え、もしかして異世界にでも通じたか?”とか馬鹿なことを考えてたら(疲れてたんだね……)ひょこっと可愛らしい女の子が二人座ったんですよ。


 いや、まぁ、座ったというか、よじ登ったというか……とにかくそういう感じですかね。


 二人共見た感じは小学校一年生か、それよりも少し下くらい。二人共同じ制服を着てはいますが、この辺では見たことがないデザインです。


 店主は考えました。この子達をお客様とカウントしても良いものかと。


 あ、別に支払い能力があるかとかじゃないですよ? そうではなくて、別に喫茶店に入るのに特別な制約なんてありませんけど、この二人はいくら何でも若すぎます。


 とはいえこちらをチラチラ伺ってくるレディ達をあまり待たせる訳にもいきません。


 店主は戸惑いつつも一応お冷やとお手拭きを用意して席に向かおうとカウンターの中から出た時です。店のドアが凄い勢いで開いたんですよ。


 ――ちょ、乱暴に開けるの止めてぇぇぇぇ!?

 

「あの、すみません! ここに女の子が――いたぁー!!」


 勢いよく飛び込んで来たのはさっき店の前を横切った若いお母さんの一人でした。


 “親方、空から……”というネタが一瞬店主の頭の中を過ぎりましたが、問題はそこではありませんね、はい。


 どうやらこちら、さっきの小さなお客様のお連れ様です。いや……普通に考えてさっきの小さなお客様がこちらのお連れ様ですね。


「二人とも勝手にいなくなっちゃ駄目でしょう!」


 まぁ、この辺りの治安を考えたらお母さんのお怒りもごもっともです。身なりの良い小さい女の子が二人、大人を連れずに歩いていたら危ない!


 さらに少しするともう一人お母さんらしい方が無事に合流しました。


 “これで帰るだろうな~”と思って見守っていたら(実際お母さん方は帰る気だった)なんと二人のおチビさんは帰るどころかケーキセットをご所望。


 店主はカウンターの内側でガッツポーズです。


 ――――でかした、おチビさん達! 


 お母さん方も仕方がないとばかりに席について下さったので、店主の自信作のアップルパイとコーヒーをお持ちしました。


 うっかり来店してしまったお母さん方でしたが当店を気に入って頂けたようでお二人ともコーヒーでのんびりされて、おチビさん達もアップルパイを嬉しそうに頬張っています。


 店主もその日最終のお客様をゲット出来てホクホクしながら洗い物を再会したのですが――。


 アップルパイを食べ終わったおチビさん達が急に泣き出しちゃったんですよね……。


 店主はアップルパイが不味かったのかと心配になったんですが、お母さん方の言葉で納得しました。


「ごめんなさい、この子達すごく仲良しなんだけど……今日でサヨナラしなくちゃで。ね?」


 聞けばやっぱりエスカレーター式の学校の幼稚舎を今日卒園したばかりの二人。


 当然小学校も一緒だと思っていたのにもう一人の子がお家のお仕事で引っ越ししちゃうらしいんですよ。それを聞いていた二人が声を上げないでポロポロ泣くものだから意地らしくて、可哀想でしたねー……。


 おチビさん達がうちの店に勝手に入って来ちゃったのも、そのまま帰るのが嫌だったからだそうです。帰ったらもう一人の子のお家は引っ越し準備で忙しくなっちゃうから。


 店から手をギューッと繋いで帰る後ろ姿を見送りながら、二人の友情が続けば良いのになぁと思わずにはいられませんでした。


 卒業式の季節が近付いて来るとあの小さな背中を思い出す店主です。


 それではお客様、またのご来店をお待ちしております。





まだ友達でいるのかな~……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ