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雨間  作者: 華曲
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1話

——————無音。雨降る日というのは正確には無音ではない。しかし、諜報員が密会に雨の日の路上を選ぶことがあるように、雨は周囲の音を吸収し、世界を遮断する。”聴こえない”というのは無音と呼んでも構わないのではないだろうか?


 何が言いたいのかというと、つまり今彼がいるところがまさにそんな”無音”の世界だった。


 だがしかし、ここでは雨は降っていない。冷たい大理石の床に彼は横たわっていた。何故かなんてわからない。そんなことはどうでもよかった。ただ、ほぼ廃墟と呼んで差し支えないほどひびだらけの部屋の中央で月光を浴びて青く輝く少女に彼はただ意識を奪われていた。


 もしかしたら、その部屋は無音でなかったのかもしれない。彼は少女が彼の意識も周りの音も吸収しているんじゃないかと一瞬思ったが、今の彼にとって大した問題ではなかった。







 ふっ、と意識が引き戻されたように感じた。どうやら眠っていたようだ。さっきまで捲っていた本の頁は同じところを開いていた。



 ふぅ、とため息をつきながら外を窺う。まだ雨は降っているようだ。


 これで何度目なのだろう….ここ最近同じ夢を何度も見ている気がする。朧げな記憶を辿ってみる。しかし夢で見たあの部屋に見覚えなんてない、ただ、冷たい床の感触は目覚めた今でも妙に手に残っていて、錯覚だとわかっていても少し寒気を覚えた。


 そうして彼は一番大切なことは思い出せない。正確には、もっと覚えておくべきことがあった気がすると無意識に感じているだけなのではあるが。


 もう一度眠れば今度こそ思い出せるのだろうか、そう思い再び椅子の背にもたれかかろうとした彼の耳に鳥が囀るのが聴こえてきた。窓から日の光も少し差し込んでいる。どうやら考えているうちに雨がやんだようだ。それならどこかに出かけるのも悪くないのかもしれない。


 念のため彼は傘を持って外に出た。背後で「————雨間を楽しもう」 そんな声が聴こえた気がした。

亀更新です

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