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8、<cafeだんでらいおんとクサカベーカリーに激震が走った朝>

朝チュンの日の朝食ネタをワッシー兄さん視点でお送りします。

「帰るなよ」

 朝食が一人分しかないから買いに行ってくるわ、と言えば案の定「帰ル」と腰を上げる。

「見届け義務あるって言ってるだろうが」

 靴を屋根の上に置いて出掛けようかと思ってたけど。

「ハイハイ、これ以上のご迷惑はおかけしませんよー」

 膝の下で太ももを抱えるようにソファに座ったニーニャは唇を尖らせ、不満そうにこちらを睨んだ。

 コイツ本気で信じてんのかよ。

 ちょっと意外に思いながら朝食の調達のため空に上がった。


 町唯一のパン屋のドアを潜るように入って店内を見回す。

「おはようございます。珍しいと思ったら今日お休みでしたもんね」

 入ると同時に店の看板娘で、チキュウとやらからの『しっぽのないお客さん』である奈々は笑顔で言った。

「昨日、ニーニャさんと飲み行ったんですよね? ニーニャさんめちゃくちゃ強そうだけどどうでした?」

 ああ、千秋に聞いたのか。

 昨日は終業後、着替えるために一旦帰宅し飲み屋の近くでニーニャと待ち合わせた。

 この町のメインストリートに飲み屋も千秋の店もあるんで、ついでに千秋の所に寄ってあいつの翌日のシフトを確認した。本人に聞いたら余計な世話だと機嫌悪くしそうだし。

 まぁホント自分でもそこまでしなくても、とは思うけどあいつが帰ってから俺の仕事がラクになった部分があるもんで。

 本人に言うつもりはないけど、まぁいい機会だし借りを返しとこう的な。


『全てのいきものの祖先はヒトである』

 それが中学の生物で一番はじめに習うこの世の基本。歴史でも似たような内容をやる。

 そして『しっぽのないお客さん』はそのヒトというやつに限りなく近いそうで、力も体も弱く「保護条例」があるくらいだ。


 だから日下部さん一家がこの町に来た時は署内は「要人警護の一歩手前か」というレベルの警備案が練られ、見回り時もいつも以上に注意するよう通達があった。

 特に一人娘の奈々は若い娘さんってやつで、誰にでも友好的とくれば「可愛い女の子にお近づきになりたい」と狙ってる奴は多い。

 俺達警官連中や、日下部さん一家の隣人で街でも屈指の真面目な好青年とされている千秋が気にしていても四六時中ってわけにはいかないし、実は奈々に惚れ込んでいる千秋が毎度口を出そうものなら他の連中と確執が生じる可能性がある。千秋本人もその辺りで苦労しているようだった。

 それがあいつが街から戻り、千秋の店に勤めるようになって隣の奈々と絡むようになったがあいつはセクハラすれすれに奈々に寄って来るやつを的確に、容赦なく追い払っていた。

 ニーニャ本人に『しっぽのないお客さんの保護』の意識はなく、奈々が『もふもふした生き物好き』なのをいい事に下心丸出しの男達が寄って来るのが単に気に食わなかっただけなんだろうが、もともと言いたい放題のキツめなキャラで、しかも女だから追い払われた方も苦笑いで引くしかない。

 こう言っちゃなんだが、ホント適任だったんだよなー。

 奈々が外にいてもあいつが一緒だったら「まぁあいつがいるから大丈夫か」と思えてしまうくらいに。

 それだけ『しっぽのないお客さん』の安全に貢献してるんだ、昨日の負担額も浮いてしまった手前、朝食くらい用意してもいいだろ。

 

「なぁ、あいつって普段、朝何食べてるか分かる?」

「……」

 奈々が笑顔のまま固まって、少しの間が出来た後。

「……へっ!?」

 そう言うなり「まさか猛禽が猫を食ったのか!? いや逆か!?」みたいな驚愕の表情でこちらを見上げて来るから。

「食ってないし食われてないから」

 商品棚を見渡しながら先手を打った。

「ぐっ! そんな事言ってたら絶対怒られますよ」

 おかしな擬音を発し声も眉も潜めた奈々を笑ってから、アドバイス通りの買い物をして店を出た。


 パン屋に行く前にオーダーしておいたコーヒーを取りに、すぐ隣の同級生の営むcafeだんでらいおんに再度入る。

「ブレンド2つテイクアウトで」

 さっきそう頼めば黒獅子の店主・千秋にもひどく険しい顔をされたが。

「予定以上に飲んだから経過観察してただけだぞ?」

 こいつにも誤解のないよう言っておく。

 夜行性の連中も、朝が異様に早い連中もいるんだ。

 どうせすぐに知れ渡るんだ、こいつらには一番に事実を知らせとくのが筋ってもんだろ。

 実にタイミングよく準備されたコーヒーを受け取れば代金はなぜかサービスで、「代わりに」とでも言うかのように二日酔いがきつかろうと今日は来なくていいと伝言を預かった。

 聞けば千秋は下戸で、酒イコール「二日酔い」という認識らしい。


 クサカベーカリーの袋に入った己の定番朝食パンと、職場である「cafeだんでらいおん」の紙コップに入ったコーヒー2つを見たニーニャは大きな目を零れ落ちんばかりに見開いてわなわなと震え、動揺か怒りかに満ち溢れた掠れた声で言った。

「アンタ、なんて事を……」

 やりやがったな、このヤロウ! ってすさまじく顔に書いてある。

 コイツ、ホントなんでも顔に出るな。


 千秋からの休んでいいとの伝言を伝えたが、結局コイツは普段10時出勤の所を約1時間遅れの11時前に出勤したらしい。

 負けず嫌いと言うか、なんというか。

 なんかよく分からない根性がある女だ。


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