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7、それもこれも、どいつもこいつも誤解がヒドイ。

「迷惑かけたわネ。昨日と今日でいくら?」

 帰り支度を始めれば、ワシザキはハンガーに掛けていた上着を取ってくれた。

 ホント意外だけど、色々と気が利く男だこと。

「おごってやるって言っただろうが。まあ、昨日はほとんどゴウダさんが出してくれたんだけど。その代わり冬ごもりン時のメシ頼むわ」


 冬ごもり。

 冬眠の名残りで家族や恋人といった大切な人と年末年始の二日間、家にこもるビッグイベント。

 え、なんでワタシが、と思ったけど昨日から散々迷惑かけてるしなぁ。


「じゃあまぁ、近くなったら食べられない物とかあったら言って」

 実は割と料理には自信があるのヨネ。

 思い知るがいい。

 まぁ、その前にコイツが相手作ってくれたらお役ご免なんだろうけど、もうこの時期じゃ間に合わないかなー

 さっさとトリさん系彼女作ればいいのに。

 って何でアンタまで家出るのヨ。

「お前ライセンス更新して無いだろうが。確実に家に帰ったか見届ける義務があるんだよ」

「翌日でも? はー、1級マジ大変だネ」

 仕事の接待のために1級を更新し続ける男ワシザキ。

 初めて尊敬したワ。


「てかソレちゃんと言ってくれたら昨日ゴネずに帰ったのニ」

 非常識だと思われてるんだろうけど、ワタシだってそれくらいはわきまえてるっての。


「さんざん言っただろうが」

 それはそれは嫌そうに、呆れて言われた。

 ……うん、思い出せる。確かに言ってた。まじスマン。


「まぁ酔った時くらい甘えとけ。お前甘えるのとか本気で苦手だろ?」

 ……あー、昨日愚痴ったせいでそう言う結論に達したかこの男は。

 めんどくさいなぁ、と思うと同時にふと違和感を覚える。


「ね、歩くの大変じゃないノ?」

 ワシザキのアパートメントとワタシ.の家は、町の端と端に位置している。

 普段飛んでいる男が、ずっと隣で地面を歩いてるってものすごい違和感があるんだけど。

 子供の時も、風の抵抗があるせいで「羽持ってる系」はみんなかけっことか陸上競技がニガテだって言ってた。

 それなのに町の端から端まで徒歩とか、キツイんじゃナイ?

「職務上、上にいるだけで普段は普通に歩いたりしてるんだよ」

 ワシザキは呆れたように言うけど、やっぱりほぼ飛んでる所しか見てないからちょっと想像がつかないな。

 でもって、朝からずっとつい目が行ってしまうのは頭。

 顔の回りは黒っぽくて、後頭部に向かうほど茶色になっていてずっと全部羽だと思ってたんだけど、前の方は髪の毛だったのか。

 だっていつもきっちり固めたオールバックだったからさぁ!

「なに」

 ついガン見し過ぎた。

 視線に気付いてチラリと鋭く見下ろされる。

 そんな睨まなくってもいいじゃないノ。


「いや頭、オールバックがデフォルトなのかと思ってたから」

 手櫛で梳かしただけで前髪を下ろした顔はちょっとだけ、ほんのちょっとだけ若く見える。

「ガキの頃、そんなヤツいたか?」

 ああ、うん確かに。

 確かに小学生からオールバックなんて、そんな強烈なクセのある子はいなかった。


 って、おうっとぉぉ! 


「じゃ、ここで!」


 アパートメントの玄関のドアが見える位置で宣言する。

 ドアから入るトコ見えればいいんでショ!?

 これ以上家に近付けてなるものか。

 コイツにあんなもの見られたら何を言われるか分かったもんじゃない。

 何を言われようが、全力でここでお別れする運びにしようと思ってたのに。


「ああ、じゃあな」

 ワシザキはあっさり帰って行った。

 ……初めからこうすりゃ良かったジャン!

 そうだよ、よく考えたら「ベッドに入るまで監視」じゃないジャン!


 あーもー、アイツどんだけ酔ってたんだヨ!

 飲酒1級、意外とアテにならない。


 帰りは飛んでった。

 ああ━━

 高速で飛ぶからどうしてもオールバックになるのか。


 その日の夕方、仕事を終えて職場のcafeだんでらいおんを出れば今朝と同じラフな格好のワシザキが不機嫌そうに眉を顰めて向かいの店の屋根の上に立ってた。

 え、そんなに監督義務があるノ?

 飲酒資格1級保持者のアフターケア義務、キッツイな。

 更新切れなんて連れて行くからだよ、馬鹿だねー。



 それからしばらくして町でゴリラ頭のゴウダさんに会った時ご馳走になったお礼を言ったら「おー、また来たらいい」と言ってもらったけど、ワシザキには「もうお前は飲むな」と言われたし、そもそも資格切れてるしなー。

 んー、でもおいちゃん達と飲むのは楽しいから資格更新しようかなぁ。

 ちょうどパン屋の奈々が役所に行くと言うから、ついでに飲酒資格についてのリーフレットをお願いした。


 奈々にはワシザキと二人で飲んで、そのまま泊まったというのはバレている。しかもおそらく町一番くらいにバレた。

 動揺してあからさまに挙動不審になっている奈々に先手を打って「何もなかった」と説明したら、「お持ち帰りじゃなくて単に保護」だったと認識を改めてはくれたけど、それってワタシが酔いつぶれたみたいじゃないノ。

 反論したいところだけど、他に適当な説明も思い付かないから不本意ではあるけど仕方ない。

 そう思ってたのに奈々が持ち帰ったリーフレットを見てイラッとした。

 

『自宅に送り届けたらお役御免』


 アイツ、1級資格者の義務に関して思いっきり勘違いだか覚え違いしてるじゃないノ!


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