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5、ネコがアホ

パン屋の看板娘・奈々は地球からの異世界転移してきた人間ヒトで、ここでは「しっぽのないお客さん」と呼ばれています。


 実家はダメ、自宅も見せたくない。まあ理由は薄々検討がついてるけど。

 親しい友人である千秋や奈々んとこも当然ダメ。

 だったら━━

「誰んトコならいいんだよ」

 お前は誰が相手ならそう言うの見せられるんだよ。

 言ってみな。連れてってやるから。


「そんなの……」

 頭の中で探す様子を見せたのは僅かな時間。


「え、別にいないわヨ」

 何言ってんの? 馬鹿なの? みたいに言われた気がする。


 ネコの習性ってやつで弱い所を見せたくないのか、それともこいつの元々の性格なのか。

 今までそんなに接点のなかった相手、しかも女。

 答えたそれが本心なのか強がりなのか、こんな時に限って見極めがつかない。

 そういや俺、コイツと店でほとんど話してねーわ。

 そりゃ分かるはずねーよ。

「夏樹は?」

 ぶらぶら歩いて行く背に、先日一人街へ帰って行った男の名を挙げる。


 言いにくいんなら言わなくていい。少しそんな反応を見せるだけでいい。

 あいつがいいなら連絡くらい取ってやる。

 そんな殊勝な気になるなんて、俺もたいがい酔いが回ってるらしい。


「んー、こういうの見せるのは向こうだったしなぁ。こっちがしっかりしなきゃと思っちゃったんだヨネ」

 なんとなく、その光景が見える気がした。


「あーでも。こういうの見せられたらアイツも黙って長期出張なんてしなかっただろうし、連絡も入れてきたのかもネ」

 そうかもしれないとは思うが、そこは黙って聞くに徹する。

 酔っぱらいの独り言だ。


「一生懸命、夢中で仕事してるトコ嫌いじゃなかったんだけどなー。なんか急に無理かも、ってなっちゃったんだヨネ。勝手デショ」

 くるりと半回転してこちらを見て楽しそうに笑った顔は、すこしだけ自嘲気味だった。


 この調子だと明日も一応、様子見に行っといた方が良さそうだな。

 コイツんちは町外れだが俺からしたらひとっ飛びだ。

 ここでゴネ続けられる事に比べれば、面倒でもなんでもない。

 よし、こういう時はさっさと帰らせるに限る。


「しゃーねーな。ウチ来るか? 言っとくけどお前がソファーだぞ」

 当然、冗談だ。

 売り言葉に買い言葉でおとなしく帰るだろ。

 そう思ったのに。

 楽しそうにしていたアーモンド型の大きな目を、零れ落ちんばかりにいっそう大きく見張って━━


「アンタ賢い! それなら部屋見せずに済むじゃん! でもってあんたも1級資格者の職務を全うできるって事カ!」


 全力で讃えらた。


 ……なんか、ものすごくめんどくさくなってきた。

 本気でその気になっている酔っ払い。


「手は出さねぇけど、後で後悔すんなよ?」


 フッと鼻で笑って酔っ払いは顎を上げる。


「アンタもね」


 なんかこいつ、ホント面白れぇな。


 そう思ったのに。

 この女は!


 うちには薄手の布団しかないんだよ。

 俺には自前の羽布団ってやつなもんで。

 本当に俺のアパートでついて来て、そのままソファーに倒れ込む。

 暖房をつけると言ったら「普段使ってないんデショ。ほこりそうだからいいわー」と言ってそれっきり。

 お前、よくここまで歩いて来たな。

 それだけは褒めてやるわ。


 毛布をかけてやってからシャワーを浴びて、一応様子を確認した時は驚いた。


……ちっさっ!


 なんでコイツこんな丸まって寝てんだよ。

 あんなに飲んだ後なのにその体勢、寝苦しくね?

 まぶしいのか両手を軽く握るようにして目と鼻を隠しているので早めに明かりを落とした。


「う゛ぅー、さむ」

 そんなボヤキが聞こえて夜中に目が覚めた。

 ゴソゴソしているので何かと目をやれば、毛布を被ったままハンガーに掛けていた上着を取りに行った。

 やっぱり寒かったか。

 て言うかハイネックなのにノースリーブのセーターなんて着てるんだから、そりゃ寒いだろうよ。

 田舎のここいらじゃこういう時じゃないと着れないとか言ってたが、寒がりが何やってんだ。


 他になんか掛けるもんあったかな。

 体を起こして、ふと思い立ってしまったんだよなー


 声を掛ける代わりにチチッと舌を鳴らしてみた。

 悪かったよ、好奇心と言うか出来心だったんだよ。

 飲酒資格1級たってそりゃ飲めば多少酔うんだよ。

 しかも今夜は完全なプライベート飲み。

 普段の気を張った、あくまでも仕事としての飲みとは違ってどうも油断していたらしい。

 そもそも全然酔わないなら、むしろ金出してまで飲む必要ないってもんだろ。


 ソファに戻ったニーニャは音を拾って三角の片耳を高速で震わせ、気だるげに身を起こす。

 ぼんやりと薄目で周囲を見回してから、体を起こしたせいで熱に逃げられたらしく寒そうに一度身を震わせて毛布をかき寄せた。


 ああもう、ホント悪かったって。


 仕方ねぇな。

 後で思えばそれがおかしかったんだが、もう一度舌を鳴らして呼ぶ。


 毛布を巻きつけたまま、ほとんど開いてない目でフラフラと歩いて来た。

 俺の布団とそっちの布団と、二重にすりゃちょっとはマシだろうと思っただけだっつーのに、なんでこんなに近いんだよ。

 うちのベッドは広い。

 俺、強風の日とか羽を酷使し過ぎると腕がだるくて両手開いて寝るもんで。

 一人寝なのにでかいベッド入れてんだよ。


 だからそんなに近くなくていいんだっつーの。


 のそのそとマットに上がって、ソファで寝ていた時のようにまた丸くなって、そりゃ俺が寝てるんだからあったかいんだろうけどあろう事かグルグル喉を鳴らすとか、ふざけんなよ。

 そりゃこっちが悪かったとは思うけど、オマエほんともう━━

 飲酒2級だったとか嘘だろ。

 オマエ、飲んでいいタイプじゃねーよ。


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