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4、ネコと飲んでみた

「ニーニャ、夏樹帰ったんだろ。ついて行かなくて良かったのか?」

「ヤメテよ。バッチリキッチリ別れたんだってバ!」

 町に1軒しか無い酒場のカウンターに並んで座れば、角を挟んだ向こうのカウンターからからんできた建設会社を営むゴリラ頭のゴウダさん達から早速からかわれる。

 当然座ったばかりでこっちはまだ飲んでもいないというのに、ニーニャは酔っ払いのテンションで威勢よく言い返した。


 あの後なぜか結局、飲む事になった。

 うん、人生そんなもんだろ。

 夏樹を殴ったあの日に声を掛けたのも今回も、こういう奴と飲むと単に面白いからだ。

 まあコイツにはちょっとした借りもあったりするし。


 年に一度の本部から視察に来るお偉いさんの接待要員を務めるために上司命令で1級を維持させられているが、そもそも飲酒資格とその更新料のせいで酒を飲む奴なんて物好きで、少数派だ。

 当然飲み屋の需要もなければ、需要と供給の関係で代金だって安くない。

 よって、20人も入らないこのさほど大きくない酒場にいるのはいつも同じような面子で、しかも先日の騒動はそりゃ町中の話題で、店にいる数少ない客も当然みんな知っている。

 女が酒場に来ることがほとんどなく、その女が盛り上がり上手の盛り上げ上手となれば常連のおっさん達は上機嫌でいい酒を飲ませた。


「飲酒資格、切れてるんだってバ! 久々だから回るんだっテ!」

 そう宣言していたが、警察官の1級資格者が同行しているのをいい事にみんな無責任に飲ませる。


「飲んどけ飲んどけ。お前さんは頑張った!」

「ちょっとした勉強代だっと思やいいんだよ。これでお前もいい女の仲間入りってもんだ」

「そもそも冬ごもりも春もほったらかす夏樹が悪いんだ、お前さんが気に病むこたねーって」

 酔っ払い独特の無責任な発言のオンパレードは、なんだかんだで全部こいつを慰めるものだったから放置した。


「忘れちまえ忘れちまえ、あんな男。もっといい男いくらでもいるからな! 次行け、次」

 まんま猿のおっさんとかに囃し立てられる。

 動物に近い姿ほど本能的で、「ダメなら次」な風潮が強かったりするもんな。


 途中、化粧室に立ったニーニャは戻ってくるなり背後からいきなりがっしりと肩をつかんでくる。

 ちょ、おま、爪出かかってんぞ。

「ごめん、ワシザキ。ちょっと酔った」

 ああ、立ったから酔いが回ったのか。

 まあ久々の所にあれだけ飲めば仕方ないし、おっさん達もあえてそうしてやったんだろう。それを状況報告してくるなんて律儀なことで。

「自覚あんなら大丈夫だろ」

 宣言出来るうちはまだまともだ。更新切れで失効しているとはいえさすが2級資格者。立派なもんだ。


「次はワシザキくん? ニーニャ、見る目あるな」

 お互い頭を寄せて話していたら向こうからゴウダさんに茶化されたが。

「あ、俺トリっぽいコが好みなんで」

 軽く手を上げて辞退しておいた。


「そうだった、そうだった。ワシザキくんトリ専だったよな!」

 そこでこれまた豪快に大笑いする酔っ払い共。

 トリ専、は言い過ぎなんだが。

 まぁ訂正するのも面倒なんで特に反論はしない。


「よし、おっちゃんがおごっちゃろ。マスター、こいつらの分こっちツケといてといてくれや」

 盛り上がりまくりのゴウダさんがご機嫌でカラス頭のマスターに声を掛ける。

 え、俺の分まで?

 マジでか。さすが会社経営者。


 平和なこの町では滅多にない事だが、力の強い相手がトラブルを起こした時などは大抵腕っぷしの強い市民の皆さんにご協力をいただく事になる。

 うちの町の話じゃないが、ゾウ系の男が失恋で暴走したというケースでは町中の重量級が総出で参戦するという大騒動に発展したらしい。

 建築業を営むゴウダさんも頼りになる助っ人で、その迫力は牽制にうってつけでたまに手を貸してもらってる手前申し訳ない気もするが、これは「金は出すから後は頼んだ」という実に無責任な宣言と受け止めてありがたく甘える事にした。

 まあそれが1級資格者が失効者を連れて行く時の典型的パターンだし、もとより覚悟の上だ。


 そう思っていた、が。

 今現在、思った以上に面倒な局面にさらされている。


「ダイジョーブ! 一人で帰れるから!」

 飲酒1級資格者の義務に則り家に送ろうとしたら頑として拒否し始めた。


 てめぇ、涼しい顔してぐっでんぐでんかよ。


「そうはいかねーんだよ。じゃあ実家……は嫌なんだろ? 千秋んとこ行くか?」

 拒否するのを見越して同級生であり、バイト先の店長の家を提案する。

 コイツが仮に応じても大丈夫だろ。

 あの男なら事情を話せば困った顔をしながらも一晩ソファを貸してくれるだろうし、隣に住んでるニーニャと仲のいいパン屋の看板娘も騒ぎを聞きつけて駆け付ける気がする。


「行けるワケないデショ。奈々も心配するだろうし」

 ほら、今日はありがとネ。じゃ、解散! と右手でふざけた敬礼をして、踵を返すニーニャ。


 さすがは飲酒資格2級保持者だけあって、冷たい夜風に当たったせいか足取りは意外としっかりしている。

 でもなぁ。

 これ、俺の前だからなんだろうなぁ。

 こんな時、無意識に相手の本心を読み取ろうとしてしまう職業病が実に恨めしい。


 このまま一人で帰そうものなら部屋に入るなり寝そうだよなぁ。

 そろそろ寒くなってるし、玄関で寝たら後が面倒だぞ。

 何を強がってるのか知らないけど、こんな時は甘えればいいんだよ。

 誰もお前を馬鹿な奴なんて思ってないのが分かっただろ。

 ここは田舎でお前らがいた街よりよっぽど本能的なんだし、そんな強がる必要無いんだっての。


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