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3、ネコの躊躇も容赦もない様がすごかった

今回よりしばらくはワシザキさん視点で。

 都会で男とうまく行かず出戻ったらしい、同級生のニーニャ。

 幼稚園から高校まで一緒だった。

 田舎だからな。この町には幼稚園どころか小学校から高校まで各1校しかないんだから仕方ない。


 ただガキの頃から同じ学校だったとはいえ、それこそ鳥類とネコ科じゃ遊び方も違う。


 ネコのあいつは双子の黒獅子兄弟や三毛猫なんかと一緒にいたはずだ。

 あまり絡む事もなく育ったが、黒獅子兄弟の兄の方と一緒に暮らしていたと弟の千秋に聞いた。

 この双子も両極端で、よく言えば奔放、分かりやすく言えばちゃらんぽらんな兄・夏樹と、温厚で人徳の篤い弟・千秋。

 ニーニャは千秋の営むカフェで昼間だけ働き出したと小耳にはさんだ。


 半年ほどして迎えに来た同棲相手だった夏樹。

 そいつに鉄拳制裁を下したニーニャはそれは冷たい表情で求婚を断った。


 またいい動きで、思いきりよく行ったもんだ。

 すげぇなコイツ。

 割と壮絶だった。

 そういや昔から性格キツかった気もするな。


 でもって冷徹に黒獅子を見下ろす青い目に、思わずゾッとしてそんな自分に驚いた。

 だって俺、警察官だぜ?


 まぁ、ちょっと激しいが女特有の「すぐ許すのは癪だからむくれてみた」ってやつなんだろ。

 大変だな、色男も。

 夏樹もありえないが、男が仕事にのめり込み過ぎただけだろ。

 大切な「冬ごもり」も俗に言う恋の季節「春」も一切連絡しなかったのはさすがにどうかと思うけど、浮気してたわけじゃないらしいんだし、そこは理解してやってもいいんじゃね?

 『度を越した』って点じゃお似合いなんじゃね?

 それが嫌なら別れるしかないだろうけど、どうせちょっとすれば嬉しそうに笑うんだろ。


 そう思ってたのにそいつは以降ずっと仏頂面で、結局夏樹は一人寂しく帰る事になりそうだと町のおばちゃん達が笑っていた。

 意外と冷静で本気だったのか。

 まあ一年近くもありゃ女の方が冷静になるもんかもな。


 主業務の「空からのパトロール」中、河原でこちらに向かってえらく勢いよく大きく両手を振っている奴がいるなとは思っていた。

 これは俺に向かってやってんだな。

 まぁ、バッチリこっちの顔を見ながら手を振ってるからそうなんだろうけど、なんであいつあんなに笑顔なんだよ。ちょっと気持ち悪いわ。

 気が乗らないものの、ものすごい笑顔で、いつまで経ってもそうやっているので降りてみた。

 万が一、勘違いだったとしても職質という大義名分を使える。


「俺、明日帰るわ」

 往来で殴られていた同級生の黒獅子頭の男はあっさりとそう言った。


「へぇ」

「なんかあいつ、実家にも帰らず一人暮らししてるらしいんだよ」

 知ってる。

 なぜなら俺はお巡りさんだからな。

 毎日空を巡回して町の平和に貢献してるからな。


「悪いけど、気にかけといてやってくんない? あんなんだけど女だしさ」


 ああ、こいつは俺が警察官だから呼び止めたのか。

 こいつらが住んでたトコはここよりもずっと都会で、やっぱここよりは平和じゃないだろうからそう言うんだろうけど。


「俺のせいであんなトコ住んでるのかと思うとやっぱ、な」

 そんな苦し気に、眉間に皺を寄せて言うけどよ。

 今さら俺の前でそんな顔したってしょうがないだろ。


 街から少し外れた所にある、陽当たりがいいだけが売りみたいな古いアパートメントの、1階。

 せめて上の階に入ればいいのに。

 まぁみんな身体能力が高いから、その気になれば何階だろうと侵入は出来るんだけど。

 ただ、あいつがあそこを選んだのは、金銭的な事が理由じゃないと思うんだが。

「どうせ辞めて田舎に帰るし」と怖い物なしだったあいつは労働局に訴えて未払いの残業代とか全部勝ち取って来たってハナシ聞いたし。

 憶測だし、勝手に言ったら後で何を言われるか分からないし、こいつも反省すべき点はあると思うから言わないけど。

 でもって、ホントもう呆れるわ。

 そんな事を言うのなら。


「オマエ、もっと早く本人にそういうの見せてやれば良かったんじゃね?」

 余計なお世話なのは分かっているが、つい千秋と良く似たこの男に言ってしまう。

 千秋は素直に聞くからなー

「まったくだな」

 意外と兄の方も素直に笑った。



 本当に夏樹が一人で街に帰って行った日から数日後の夕方。

 そろそろ仕事も上がりかと言う時間に、おかしな光景を目にする。

 ふらっと自宅の裏手にある山に登り一本の木を見上げる、列車で街に帰る男を見送らなかった女。

 白いショートジャケットに黒のタイトスカート姿のそいつは何を思ったかスルスルと木に登り始める。


 ……まさか飛び降りとかじゃねぇよな。

 スカートで登ってんじゃねぇよ。

 あれ、いつも仕事中着てるやつだよな。

 動きやすいようストレッチが利いてるってか。

 俺、女の子は鳥系がいいからヒトの足見てどうこうってのはないけど、いい年した女が何やってんだ。


 2階建ての屋根の高さまで上がり、さらに上を眺め━━それ以上は諦めたらしく枝に座ったのが見えた。

 確かに今日は夕焼けがきれいだけどよ。


 こっちは1キロ以上離れた警察署の屋上で、まさか誰かに見られているとか思ってもないんだろうが。

 落ちても面倒だしな。


 いつでも動けるよう、空に上がっておいた結果。


 やがてふらりと後方に傾ぐ体。


 ああ、クソっ!

 ヒトサイズなんて抱き留めらんねーからな!?

 体当たりで地面に直撃を避ける位だかんな!?


 鉄棒に座って、後方へ回転するように倒れ込む青いネコ目と目が合った瞬間。

 驚いたような、慌てたような顔になるニーニャ。

 そしてその刹那カッと目を剥いたその顔は、お前は化けネコかというような形相そのものだった。

 

「ジャマ!!」


 叫ばれた。

 それはもう、本当に心の奥底からそうだと言うように。


 思わず翼を切って上空へと避ければ、視界の隅に空中でくるりと一回転し地面にきれいに着地するしなやかな猫が見えた。

 右足をきれいに伸ばし、左の膝は曲げ、左手も地に着いて衝撃を三点に分散させてまぁ。

 コイツ、見た目はヒト寄りなのに運動神経はネコなのか。


 ……一応俺も降りるべきか。

 立ち上がり、手を叩いて土を払うソイツから少し離れた所に降りた。

 そんな俺を怪訝そうに不審者を見るような目で睨んで、それから呆れた顔をした。

「よくこうやって木に登って遊んでたじゃナイ」

 はいはい、すみませんね。


 確かにコイツ、夏樹・千秋の黒獅子兄弟とよく木に登って遊んでたわ。

 時々黒獅子兄弟が降りられなくなってるのを助けたり、大人呼びに行ったりしたわ。

 こいつだけはいっつも降りられてたんだったわ。

 邪推して慌てた俺が馬鹿みたいじゃねーか。


「ひたってたとか?」

 ものすごい勢いで反論されるだろうなと思いながら聞いてみれば。


「夕日もきれいだし、たそがれてみようかと思ったけどイマイチそんな気分になる事もなく。お腹空いてきたしこんな事してる場合じゃなく夕ご飯作らなきゃな、と思ったトコ」


 コイツやっぱ面白れぇよな。


「飯。これから作るんなら食い行くか」

 ついて出た言葉は、誘いでも疑問でもない言い方になった。


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