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11、そして悲劇は繰り返されて自己嫌悪しかないうえに結果が解せぬ。

「そう言うお前はなんでそんな男と一緒にいたんだよ」

 心底呆れたように、ため息交じりに言われた。

 ごもっとも。


「もともと結婚願望があんまりなかったんだよねー、それが生活感も常識もぽわんとした相手とずっと一緒だったから余計に考えなくなっちゃったという」

 そして同棲してたからという理由でそのまま続いてしまったという、有りがちっちゃ有りがちな実に救えないパターン。


 相手は仕事に夢中で、こっちも結婚に焦ってる訳でなし結婚する気がないならないで別によくて、その辺に特に不満はなく、その気になれば言ってくるだろうし、それまでにこっちが冷めたら終わりかな、と心のどこかで思ってた。

 こっちに帰って半年近く経ってから、一応プロポーズしに来てくれはしたけど、きっとお互い遅すぎた。

「世の中タイミングだからな」

「それもソーダネ」

 なんて変に真面目に話してしまった事に気付いて、なんとも気恥ずかしくてそれをごまかすようにまた飲んだ結果。


「アハハハ! このままじゃマジで冬ごもりしちゃうケド、どーすんのヨ」

 あーおっかしい!

 宴もたけなわになってご機嫌でワシザキの翼の根元、おそらく肩であろう辺りをバンバン叩いた。


「だーかーら、俺も1級資格者の監督義務もあるし、ほとぼりが冷めた頃にまた考えりゃいいじゃねーか」

 ワシザキは面倒くさそうに、うんざりとそう言ってピクルスをかじる。


「もー、アンタほんとずる賢いわよネ! 警官なのになんでそんなあくどい事考えつくワケ!?」

 そしてまたゲラゲラ笑って。まぁ笑ってるのはワタシだけで、ワシザキは相変わらず顔色一つ変えてなかったけど、顔に出ないタイプだってのは前回飲んだ時に分かったからもう騙されないッテ。


 そうだよ、今夜だけ乗り切りゃいいんじゃないノ!

 こいつトリ専だっていうし、ま・いっか!


 そして迎える前回と同じく「ワシの羽布団」で極上の眠りから目が覚めるという、自己嫌悪しかない朝。

 ま・いっか! じゃねーよ、自分!


 うちのベッドすごい小さいのよ!

 一人暮らしの準備してる時だよ? 自分以外が寝る予定なんて考えたくもない精神状態だったんだから当然でしょ!

 そんなだから密着感が前回の比じゃないのよ!

 最後の最後であんなにハイペースで飲ませるからさぁ!


 やっちまった。

 いや、やっちまったけどそういう意味ではやってナイ。


 酔っ払いトークがどう展開したのか忘れたけど、心底呆れたようなそれこそ軽蔑に近いまなざしで「飲んだイキオイで出来るもんじゃねぇだろ」とか言われてそこは見解が一致したし、その顔で「ちゃんとした関係を築いてから」的な事を言い出すんで「純情か」と笑い飛ばしてやったし。


 そもそも、こいつの下半身が哺乳類なのか鳥類なのかも知らんわ!


 これはアレよ。

 そう、単にうっかりワシザキと「冬ごもり」してしまった事故ってヤツだ。

 偶然二人でいた所、何の因果か猛吹雪の雪山で遭難しちゃって仕方なく一夜明かしました、みたいなもんだ。


 でもネ!

 飲酒1級資格者がどうとかこうとか言ってたけどさ、ワタシの家で飲んだんだから帰宅を見届ける必要もないワケで、ワシザキは帰れたはずじゃん!

 飲んでたから冷静な判断が出来なかったけど、にこやかに「じゃ、良い冬ごもりを~」ってお見送りすれば何とか世間に顔向けで来たハズだと思うのヨ!

 顔はえげつないくらいキツイ男だけど、恐ろしく面倒見がいいってみんな分かってるし「失恋した同級生の話聞いてやってたんだろう」って思ってくれると思うのヨ!


 だいたい目だって暗くても見えるでしょうが!

 ニワトリくらいでしょ、鳥目って!

 もうアンタ、どんだけ酔ってたのよ。顔に出ないにも程があるでショ! アンタ顔に出なさすぎて間違って1級取得しちゃってるんじゃないノ!?


「無事お目覚めおはようおめでとう」

「あ、おはようおめでとう」

 丁寧な冬ごもり明けの挨拶を述べられ、ツッコミ所満載な状況の中つい条件反射で返してしまう。

 今現在、冬眠する文化はなくなったけど冬眠してた頃は冬眠に失敗してそのまま永眠というケースもあったそうで、この挨拶だけが残ったとか。


 背後で羽根布団をしていた男は上半身を少し起こすと、じっとこちらを観察してくる。

「もう酔ってないわヨ」

 自己嫌悪と昨夜の自分の言動すべてに対する反省と後悔に、両手の指先で額を押さえるようにして顔を伏せる。サイドの髪の毛が落ちてきてうまい具合に壁を作った中、固く目をつむってため息をつけば、鳥男が身動きする気配。

 顔色を確かめるつもりなのか横の髪が長めの指にかき上げられた後、冷たくも温かくもない少しかさついたものが頬に触れた。

 ……

 ちょっと。

 今の。

 もしかしなくても、唇だったりとか、する、の、か?

「アンタ……何やってくれてんノ? まだ酔ってんノ?」

 硬直し愕然と問えば。


「1級なめんなよ。酔ってねーって。いやー、鳥がいいと思ってたんだけど案外ネコも行けるわ俺」

 いけるわ、じゃねーよ!


 アンタ今、何を根拠にどうその判断を下したのよ!

 いや、嫌な予感しかしないから言わなくていいケドね!

 でもあえて判断材料の一つを潰させてもらうなら、もしアンタの下半身が哺乳類の場合それは朝の生理現象ってヤツで、判断の根拠にはならないから!

 

「……アンタ、ワタシみたいなの嫌いデショ?」

「ああ? なんで嫌いな女と一緒に飲むんだよ、馬鹿か」


 ……


「いっつも険しい顔して嫌そうにしてたじゃん」

「俺の顔がきついのは元々だろうが」


 ……

 このまま布団の中にいるのはマズい気がする。


「なんもしねーよ。意思の疎通があってからっつたろ」

 じりじりと身を遠ざけようとしたら鼻で笑われた上に呆れたように言われた。


「そりゃどうもッ! こっの猛禽!」

 

 そんな罵られ方したの初めてだわ、と笑うワシ男。

 普段キツイ顔立ちで、ぶっきらぼうな物言いのコイツの、そんな柔らかい声を聞くのも初めてだワ。


 ※※


「ワシザキさん、すごい優しそうだもんね」

 共に冬ごもりを過ごしてしまえば、そうみなされるのは仕方ない。

 久し振りに仕事の後、そのまま職場のcafeだんでらいおんのテラスで奈々と二人お茶をしていたけど、なんでアンタがそんなに幸せそうな顔すんのよ、と言いたくなるような顔で奈々は笑う。

「んー、まぁアイツと一緒だとお酒飲めるし、羽布団になるしねー。その点はいいカナ」

「それだとお金と体めあてみたいだよ?」

 苦笑しながらそう言って、それは楽しそうに、ニヤニヤと笑う奈々。

 アンタまでそんな目をするの。

 めちゃくちゃ正直な感想だと言うのになんで「もー素直じゃないんだから」って顔するの。やめなさいヨ。


 何をどう説明しようが周囲から「ニーニャも別れたばっかりで照れくさいんだろ」「またまたそんな事言っちゃって」的にあしらわれたあげく、「温かく見守るからな」と言わんばかりの生ぬるい眼差しで見られるのは非常に納得がいかない。


本当はここで完結にする予定だったのですが、この二人は勝手に動いてくれるキャラに育ちましたのでもう少しだけ続きます。

ふわふわ女子よりサツバツ女子の方が書きやすいようです。


鳥目って、ニワトリくらいなもんらしいです。

大抵の鳥が暗くても見えてるらしいです。結構衝撃的でした。

子供の頃、実家でニワトリを飼っていましたが夕方になるとすぐ近くに顔を持って行ってもノーリアクションで「これが鳥目ってやつかー、ホントに見えてないんだ」と思っていたので。

昔は家畜として人間に一番近かったであろうニワトリがそんなだから、「鳥類は鳥目」ってイメージが広がったんですかねー


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