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10、世間を欺くための冬ごもり作戦を警官と企む。

後半、妊娠に関する記述があります。不快に思われる方・地雷のある方はご注意ください。

「一発で許すなんて、偉そうなこと言ったけどワタシだって黙って家を出る前に相談すれば良かったんじゃないか、って思ったりするワケよ。今だから言えるんだし、戻りたいかって言われたらその気はないんだけどサ」

 酒の力を借りて誰にも言えない事を口にする。


「おい」

 険しい表情がデフォルトの男からの不機嫌な一言に、一瞬で自己嫌悪を覚えた。

 しまった。

「ごめんごめん、つまんない話して」

「一発じゃなくて二発だったろうが」


 そこか。

 警察官だもんな。

 一発か二発かちゃんとしとかないと後々面倒な事になったりするんだろうナ。


 何とも言えない沈黙。


「ってピクルス出してなかったワ」

 冬ごもり定番のカブをピンクに染めたピクルスが出てないのがさっきから気になってたんだよね。

 ちょうどいいや、と腰を上げかければ。


「好きな女に寂しい思いさせて、フォローもしなかった男が悪いんだろ。それをお互い様って思えるんならいいじゃねぇか。恨みしか残らないよりよっぽどマシだろ」

 料理をつつきながら、ぶっきらぼうに言う男はこちらを見ようともしない。

 そっか、コイツ警官だもんネ。

 まさかケア的な方面もこなせちゃうとは。

「さっすが警察官。言う事に重みがあるワ」

「ばーか」

「褒めてんのよ。ピクルス食べるでショ?」

 て言うかピクルスが無きゃ冬ごもり感ゼロじゃない。

 想定外な事があり過ぎて出し忘れるなんてよっぽどだわ。


「飲ませてくれてありがとネ」

 キッチンに向かいながら背を向けたままそうポツリと告げる。

 なんか言ったらスッキリした。

 でもって聞こえないふりするとか、こういう時はコイツの警官スキルを認めざるを得ない。


「ね、ホントにここで冬ごもりすンの? 布団ないから帰りなよ。っていうか帰りなさいよ」

 なんか、やっぱりマズい気がしてきた。

 いくらガチのトリ専だとしても。

 今日は前回の失敗を踏まえてセーブ気味に飲んだから、量もスピードも精神状態も段違いにまともなもんで。


「酒飲んだから飛べねーんだよ。夜だからもう目ぇ見えないし」

 そう言ってグラスに足される、甘口のワイン。

 久々に飲んだら甘いのが好きになってた。

 前に酒場で飲んだ様子からワタシの好みを把握して選んで来たっぽい。

 さすが接待要員。

 実はすごく仕事出来たりしそうだなぁ。

 ものすごく周りを見てるし、こんなに物騒な人相なのに子供達や奈々にも好かれてるし。


「ワタシ送るカラさ」

 唇を濡らして身を乗り出して提案する。


「で、お前は一人で歩いて帰んのか? 往復1時間以上かかるだろうが、させられっかよ」

 確かにうちとワシザキの家は町の端と端。

 警察官のワシザキにそれは出来ないか。


「だいたいこんな時間に俺が帰ったらそれこそ何言われるか分かんねーぞ」


 ━━確かに!

 冬ごもりの夜に男を帰らせたりしたら醜聞でしかない。

 間違いなく「また男とケンカして追い出した。よりにもよって冬ごもりの晩に」って言われそう!

 元カレが帰ってすぐ飲んだ勢いで男の家に泊まってるだけでももう救いようがないのに、この上そんな事になれば。


 マズい、マズい、マズい。


「とりあえず今年はこのまま冬ごもりするぞ。俺と冬ごもりすりゃお互い体面が保てるだろうが」

 ああ、なるほど。

 そういう事か。

 そうだ、コイツは警察官でワタシなんかよりよっぽどまずい立場だわ。

 ワタシも就職活動中の身。

 町での評判をこれ以上落としたくはない。


「連帯責任つったろ」

「連帯って言うか、ワタシが利用しまくる事になるんだケド……」

「そうかわったもんじゃねーよ」

 なんて言うからさ。

 じゃあお言葉に甘えてやるぜ!

 後悔すんなよ! と開き直って結局そのペースでピクルスをポリポリ、「同級生のだれそれは今」的な話をだらだらしてなんだかんだで盛り上がって━━


「トリ系ばっかだった」

 過去の女性遍歴を答えたがらないワシザキにしつこく食い下がって答えさせた。

「あーうん、同種とか近いのが何かとスムーズなんだよネ」

 分かる分かる。

「同種じゃないと無理」っていうタイプもいるし。

 体格差が大きいカップルだっているけど、割合的に見たらやっぱり少数派だし……なんて思ったのに。

 なおも食い下がって聞いて、「こんなの聞いて何が楽しいんだ」とでも言うかのような辟易とした表情で相手が小さい小鳥だった時もあるとか答えられた時は!

 コワモテのオールバックの男が肩に小鳥さん乗せてデートしてたのか。

 ちょっと想像したら……やだ、なんか可愛いんじゃないの。とか思って、そのギャップにテンションが上がってまた飲んで。


「結婚の話出たんダ? ふーん……」

 体格差があり過ぎて、それが原因で別れる経験2回、か。

「そっか、そんなに言いたくないんだな」と分かってしまうくらいワシザキはうまく躱した。 

 まぁそう言う事をべらべら話しすぎる男もどうかと思うしいいんだけどネ。

 元カノさんもこの町で生活してる可能性高いし。

 でも女の読みを舐めてるわね。悪い。大体分かっちゃったわ。


 ワシザキの様子からすると「一緒にいられればそれでいい」って感じだったみたいだけど、どうも行為が出来ないこと自体を小鳥彼女さんが気に病んだらしい。

 体格差や種族の違いが原因でどうしても子供が出来にくいって組み合わせのカップルもいっぱいいるから、珍しい事じゃないしそれを納得ずくでうまく行ってるカップルだってたくさんいる。体格差が大きすぎると確かに子供は出来にくいけど絶対じゃない。可能性がないわけじゃない。

 でも、そっか。

 ワシザキは性行が出来なくてもその彼女が良くて、でも彼女にしてみたらそれは申し訳ないと気に病んで。

 それだけワシザキの事を想っていたのか。ワシザキが結婚を意識するような相手だったからこそ、か。

 こいつ、こんな顔して気配り上手だし、安定の公務員。よくよく考えたらものすごいいい男の部類に入るもんね。

 そして最終的に小鳥彼女さんは「やっぱりお互い抱き合える相手がいい」って結論に達した、と。

 それも間違いじゃないし、ワタシも分かるもの。

 小鳥彼女さん、つらかっただろうな。


 なんだかこっちがしんみり来ちゃって、気がつけば柄にもなくフォローのために口を開いていた。

「ワタシなんて結婚なんて考えも出来ない相手だったんだから、アンタはすごいじゃないの。結婚をそんなに真剣に意識されたなんていい事だと思うけど」

 いい恋愛だったんだね、なんて恥ずかしくて言えるワケないじゃない。

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