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深淵の神刻魔剣士(更新永久停止中)  作者: 易(カメレヲン)
第壱章 神をも超え得る可能性
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009

 その日の夕方、元龍王は集落の皆を獣王に集めさせ、全てを説明した。

 自分はもうあまり永くはないこと。

 死ぬならせめて戦いの中で死んでいきたいこと。

 僕にその相手を頼むということ。


 獣人たちには反対した者もいた。

 ヴィントはかなり慕われて、かつ、尊敬されていたようだ。

 泣く者も現れて収まりがつかなくなり、結局獣王様が皆の前で言った。


「ヴィント殿はこの集落の皆の盟友にして恩人じゃ。最期の望みとあれば笑って叶えてやるのが道理。それなのにお前らはなんじゃ!泣いて困らせるようなことなどするでない!」


 獣王ヴィルヘルムの求心力は絶大で、獣人達は静まり返った。

 そして、結局は殆どが別れを認め、最後の御礼を言って一人、また一人と去っていった。

 最後まで残っていたのは獣王様と僕だった。


「儂はヴィントと二人で話がしたい」


 そう言って、獣王様は僕を強制的に帰らせた。

 元風龍王ヴィントと現獣王ヴィルヘルム。

 二人のタイプは違うが立派な王達はなかなか話があうようで、明日片方が死ぬなんて思いすらしないほど楽しげに話していた。

 その晩、何を話していたのかは僕は知らない。



 次の日は、生憎の雨だった。

 僕とヴィントは6年前に自然破壊を行った場所にて向き合った。

 当たり前ながらまだあまり周りの木々は回復しておらず、荒れた景色が広がっていた。


「我の頼みを聞いてくれて感謝する。言えることはあと一つだけだ」


 龍は一瞬間を開けると大声で叫んだ。


「挑戦者よ、我を倒してお主の力を見せつけてみよ!!」


 その言葉を合図にして僕とヴィントは魔力を纏った。

 僕は6年前と同じように身体強化(フィジカルブースト)を全開にして、魔力腕を闇属性で展開した。

 今の僕は普通の身体強化(フィジカルブースト)のみであの時以上の強化ができる。

 ちなみに、[時間凍結(フローズンタイム)]での時間停止や[絶対魔力圏(マギ・ドミネイション)]での魔法妨害なら一瞬で勝てるけれどそんなことはしたくはなかった。


 龍のスピードは明らかに落ちていた。

 ブレスの威力も目に見えて下がっていた。








そして、僕はもう動かなくなった龍の前に一人立っていた。



 その日、僕がどうやって集落に帰ったのかは覚えていない。

 時空属性の転移なのか、普通に歩いて帰ったのか、深淵属性による斥力操作で飛んで帰ったのか。

 けれど、確かなことは誇り高き龍の死骸をなんらかの手段で集落の側まで運んでから、何もせずにただ眠りに落ちた、ということだ。




 次の日、僕はベッドから起き上がれなかった。

 この集落に住み始めてから6年、こんなことは初めてだった。

 肉体的に異常はない、はずだった。

 しかし、その次の日も、そのまた次の日も、僕はベッドから起き上がれなかった。

 多分、精神的な一時的なものだろう、と思って時間が過ぎるのに任せることにした。



 遂に一週間が過ぎてしまったその日、獣王様がいつものようにやってきた。

 しかし、獣王様はいつもと違って何も話さずに、一枚の紙を置いて、立ち去っていってしまった。


 その紙に描いてあったものは、


「魔術式だ」


 思わず声に出した。

 魔術式、それは知識として知っていても僕は使ったことはないし、見るのも初めてだ。

 本来は、魔法使いが自分の所持していない属性を使用するために使うもの、又は数人がかりで大規模魔法を展開する時に使うもの。

 僕は現状の属性で殆ど困っていないし、紙は貴重品な上に一回使うと消えてしまうため使ったことはなかった。

 そして、その紙に書かれていた魔術式はとても複雑で解読できるようなものではなかった。

 けれど、そこに刻まれた魔法についてわかったことが一つだけあった。

 風属性、この魔法の属性だった。

 しかし、この集落では魔法はあまり、いや殆ど使われていない。

 僕が魔法を教えた子供達がせいぜい見せ合いっこをするだけだ。

 さらに、魔術式を描くには魔法に対する相当の理解が必要らしい。

 この集落の獣人が作ったとは到底思えなかった。

 魔術式は描いてから何もしなくても半年ほどで完全に消えてしまうらしい。

 そして、この魔術式はあまり劣化した様子が見られなかった。

 そこから導き出される答えとは、、


「ヴィントしかいない!」


 僕は思わず叫んだ。


 なぜこんなものをヴィントが僕に残したのかわからなかった、いや、薄々感づいていたのかもしれないが。

 僕は恐る恐る魔術式に魔力を流しこみ、起動させた。

 一時の雑音の後、聞きなれた、もう聞こえないはずの声が聞こえてきた。


「ハクヤ殿よ、お主がこれを聞いていると言うことは、そういうことなんじゃな。

我がお主に敗れて死に、お主は儂の遺したこの録音の魔術式で儂の声を聞いている、と」


 この魔術式はヴィントの作った録音だった。

 風龍王の名に相応しい、と改めて思った。


「最初にまず礼を言おう。

 儂の望みを叶えてくれたこと、儂を龍として死なせてくれたことを感謝する」


 そんなことを言うのは予想がついていた。

 けど、僕が聞きたいのはそんなことじゃない。

 僕に免罪の言葉を吐いても気が軽くなるはずがない。


「そして、お主は今どうしているか当ててやろう。

 儂を殺した罪悪感から立ち直れていない、そうじゃろう?

 お主は無駄に甘いからのう」


 そうだよ、と心の中で返す。

 まるで、目の前で僕を見ているかのようだ。


「けれどな、儂はそんなことを望んではおらん。

 お主もわかってはいるはずじゃろう?」


 ああ、そんなことはわかっている。

 けれど、わかっていてもどうしようもないと僕が一番知っている。


「じゃから、儂からきつめに一言言っておこう。

 その甘さは、お主を殺すことはないじゃろう。

 お主は選択できるだけの強さを持っている。

 が、死ぬのはお主の大切な仲間、友人、家族じゃ」


 その言葉に一瞬ビクッとした。


「いかにお主が強かろうとお主は全能の神でもあるまい。

 お主が守りたい物全てを一人で守り通すのは不可能じゃ」


 確かにその通りだ。

 でも僕は、、


「シャキッとせんかい!

 お主は今ここで立ち止まっている器じゃなかろうに。

 そんなことをされたらお主に倒された儂の誇りすらも傷つくわ!」


 怒鳴るような声。

 聞くのはこれで二度目だ。


「まあ、怒るのには慣れていないからこれ以上はやめるわい。

 じゃが、覚えておけ。

 今後、救いようのない敵を殺すことを躊躇するな。

 そして、殺した相手に罪悪感を抱くのはやめろ。

 これが、儂からお前さんに言うべきことだ」


 その静かな言葉はなぜが僕の心に銀の弾丸のように突き刺さった。


「と言うわけで、あとは頼みごとじゃ。

 儂は、この集落の警護を儂が死ぬまでという契約で請け負った。

 じゃが、儂は途中で放棄してしまった。

 儂の生きることができた半年の間、そしてお詫びとして半年追加して一年の間は警護を任せる」


 いつもの優しいヴィントの声に戻っている。

 甘いのはどっちだよ、と言いたくなる。


「一年経ったら、お主は7歳じゃろう。

 7歳になったら冒険者ギルドに登録できるはずじゃ。

 儂の記憶が間違っていなければな。

 お主はここでいつまでも留まっているような器じゃあるまい。

 今のお主でも世界を十分に歩き周れるぐらい強い筈じゃ。

 儂の力を一部継承したんじゃから更に強くなっている筈じゃしな」


 力を継承?

 そういえばステータス画面にそんなような物があったような。


「あと、もう一つ。

 この録音という物を教えてくれたのはヴィルじゃ。

 あった時に儂の代わりに礼を言ってくれ」


 わかりました、と口には出さずに答える。


「あと、儂からの助言じゃ。

 お主、遠く離れた手の届かないような場所に好きな奴がおるじゃろう?」


 えっ、なんでそんなことを?


「お主の目を見ていればわかる。

 いつも遠くを眺めるような寂しい目線をしていればわかるわい。

 これでも伊達に長年生きた龍じゃ。

 人の子の感情などはある程度わかる」


 僕は自分でも気づいていなかった。

 そんなことをしていたんだろうか?


「そして、お主が転生者とヴィルから聞いて納得がいったわい。

 お主の思いの相手は物凄く遠くにいる、ということもわかった。

 じゃがな、そんなことで諦めるでない。

 お主が諦めたらそこで終了じゃ。

 決して儂のようにはなるな。

 あと、これは儂の長年の勘じゃがお主は其奴とそう遠くないうちに会える気がするわい」


 ヴィントは根拠のないエールを残していった。

 あと、ヴィントも思うようにいかなかった恋を経験しているのだろうか?


「さて、最後に一言言わせて貰おう。

 儂は強かったか?

 儂は龍として死ねたか?

 お主は儂を破った者として立派に生きてくれるか?

 これらの答えが肯定なら、儂は嬉しい。」


 はい、と心の中にあるいろいろごちゃ混ぜになっている思いを押し込めてそう言った。


 それに満足したかのように声はぴたりと止まった。

 魔術式は輝きを失い、少しづつ薄れていった。

 そして、薄れて消えたと思った次の瞬間、紙もバラバラになり、光の粒となって消えていった。


 最後の一欠片まで消えていくまで僕はずっとそれを眺めていた。

 そして、僕だけが残された部屋で、いない筈の龍に向けて言った。


「ありがとう、ございました」




名前 ハクヤ=アイザワ

年齢 6

種族 普人族

レベル 87

職業 なし

適正 【光】【闇】【時空】【神聖 】【深淵】

魔力 error

体力 10359

筋力 9344

俊敏 10552

精神 20201

気力 20201/20201

スキル

[剣術lv2][並列思考lv9][光属性魔法lv10][闇属性魔法lv10][時空属性魔法lv6][鑑定lv4][偽装lv4][隠蔽lv4][隠密lv2][再生lv2][神聖属性魔法lv2][深淵属性魔法lv2]

固有(ユニーク)スキル

[無限の心臓(オーバーエナジー)][全知の理(アカシックレコード)][時間凍結(フローズンタイム)][絶対魔力圏(マギ・ドミネイション)][龍装顕現(ドラッヘ・コール):風龍剣ヴィント]

称号

[神域に辿りつきし者][深淵に辿りつきし者][龍殺し][下克上][無謀なる挑戦者][大物喰らい][反逆の使徒]

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