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067 双王宣言

World view

[怠惰(ベルフェゴール)]

通常能力:怠惰に過ごしたと見做される時間をストックとし、ストックを消費することでステータスを上昇させる。

     なお、怠惰に過ごしたと見做される場合とは、ステータスが全く変動せず、戦闘行為を行わなかった時間が1年を越えた時である。


暴走能力:未公開

Part A 精霊大陸にある、獣王国ビーガイストリアにて。


 俺は、城のデッキに立つ。

 目の前には、大地を埋めつくさんほどの同胞たち。

 これが、お爺様の求めていた光景。

 これが、お爺様のたどり着くことにできなかった光景。

 お爺様、大樹の枝葉となって見ていらっしゃいますか。


「お前たちも既に知っている通り、リンドロート大陸では我らが同胞が苦しめられている。奴ら普人族は、偽りの神の名の下に我々を劣った種族だと見做し、我々の同族は獣のように扱われている。お前たちはこれを許せるか!」


 これが、規模は違ったとしても、お爺様のやっていたこと。

 人をまとめることの大変さを、王という立場になって初めて知った。


『「許せるわけが無い!」』


 広場から帰ってくる、予想通りの反響。


「そうだ、その通りだ。我々は、絶対に奴らを許してはならない。我らが同胞を救い出さなくてはならない!」


 普人族は、特に、リンドロート大陸の普人族は悪だ。

 まだ幼かった頃の俺から、全てを奪っていった。

 眼帯をつけた左眼の裏に、今でもあの頃の記憶が蘇る。


『「その通りだ!」』


 俺の怒りを代弁するかのように、溢れんばかりの怒りの声が上がる。


「奴らを決して許してはならない。奴らに、我々の同胞が受けた苦しみに相応しい報いを受けさせねばならない!」


 けれど、なぜかこんな時に思い出してしまうのは、唯一俺に優しくしてくれた普人族の少年。

 俺が、今ここにいられる理由。


『「オォー!」』


 普人族は悪だ、最悪だ、全てを奪っていった。

 けれど、全てが悪でないとも知っているはずだった。


「同志達よ、武器を取れ! これが我々の戦いだ。我々には困窮する同胞を救う力がある! どれだけ傷つき、血を流しても、我らが仲間に解放を、陽の光を与えなければならない!」


 仕方がないことだ、これは。

 俺にはもうこの手段しかない。

 戦うことでしか、俺たちは解決できない。


「我々は自由だ! 我々は大樹の神の元に平等だ! その平等を乱す者達には、我らが神に変わって制裁を加えるのだ!」


 もう止められないし、止まらない。

 止める必要もないし、俺が止める理由などどこにもない。


「奪われている尊厳を、名誉を、時間を、我々の手で取り戻す! そのためには手段は一つしかない!」


 これは、俺の望んだことだ。

 俺の望んだ、戦争だ。

 片方だけ残った右腕を、虚空を目指して掲げる。


「故に私は、獣王ダニアストエーレ=ビーガイストリアの名に誓って宣言する! 私は、我々の同胞を一人残らず救ってみせると! 愚かなる普人族に裁きの鉄槌を下すのだ!」


 昔のオレでは想像できなかったような声で、俺は叫んだ。


『「ウオオオオオオォォ!!!」』




 俺が、この国に来てから早3年。

 復讐のために、仲間を助けるために、あの日からずっと腕を磨いて来た。

 俺は一度も忘れたことはない、獣王と呼ばれていた、お爺様のことを。


 俺が生まれる前に俺の父は死に、俺が物心つく前に母が死に、俺は孤児になった。

 当時、集落で孤児はそこまで珍しくもなく、俺は特別不幸でもなかった。

 孤児は、お爺様、つまり獣王様が全員を責任を持って育ててくれていた。

 その中でも特に臆病だった僕は、お爺様といる時間が多かった。

 何度もなんども俺は聞かされた、獣人たちが、皆、幸せに暮らせるような国を作りたい、と。

 それだけあれば、他には何も要らない、と。

 どこか寂しそうな顔をしながら、俺に聞かせてくれてことを覚えている。


 けれど、そんなものは幻想だった。

 平和だった集落には、普人族の操る魔像(ゴーレム)兵器が攻め込んで来た。

 俺は、すぐさま逃走を選んだ。

 あの頃の俺は臆病で、とても正面から立ち向かうような勇気はなかった。

 皆んなで一緒に教えてもらったのに、俺だけしか使えるようにならなかった火属性魔法、爆炎加速(ジェットブースト)を使い、死に物狂いで集落を離れた。

 ある程度逃げたところで、俺は木の上から集落の方見た。

 そう、見てしまった。

 あの日ほど、俺が自分のよく見える目を恨んだことはない。


 女子供は皆捕まって、抵抗した男達は皆殺されていた。

 お爺様は最後まで戦い、幾体もの敵を仕留め、背中に突き立てられた槍を墓標にした。

 お爺様だけは、逃げようと思えば逃げられたのかもしれない。

 けれど、逃げずに最後まで戦っていた。


 俺が耐えられたのはそこまでだった。


 恐怖で、恐れで、俺はそこを逃げ出した。



 次に戻ってきた時には別の集落があった、そう、普人族の集落が。

 俺たちが遊んでいたところでは普人族の兵士が見回り、俺の家があったところには普人族の家族が住み、村の中心にあった龍王砲はどこかに持ち去られていた。

 俺は泣いた、何もできない自分を悔やんだ、世界を恨んだ、人を恨んだ。


 そして、俺が当時アニキと呼んでいた人物を恨んだ。


 アニキ、それは、お爺様の客分として集落にいた、普人族の少年のことだ。

 始めは皆に避けられていたのだが、お爺様の影からよくアニキを見ていた俺は思った。

 あんまり、少なくとも皆んなが言うほど怖くないな、と。

 そして俺は、アニキに声をかけた。


 アニキさえいれば、集落を守れたに違いない。

 確実に、そう思えるほどの人物だった。

 一人で龍を圧倒し、誰よりも、お爺様よりも強く、当時の俺たち全員の憧れだった。

 優しくて、俺たちのリーダーだった。

 アニキは俺たちに魔法を教えてくれた。

 その背中を皆んなで目指していた。

 お爺様とは違う意味で、同じように尊敬していた。


 アニキが旅に出る時、俺たちは木の剣とたくさんの木の実を贈った。

 アニキは、俺たちにお土産をくれると約束した。

 アニキは嬉しそうな顔をして村を去っていった。

 それ以降、俺は会っていない。


 その半年後に集落が壊滅したから、だ。



 集落を逃げ出した後、俺は生きるのにとても苦労した。

 遥かに強大な魔物に追いかけられたこともあった。

 商隊を襲撃して、護衛から命からがら逃げたこともあった。

 それでも、俺は死ななかった。

 闇討ちだったり、昼間の襲撃だったり、毒を混ぜたり、普人族を数えられないほど殺した、心は晴れなかったが。

 そのうちに、少しづつ、俺は強くなっていった。


 その後俺は、レンダール大陸に密航することに成功した。

 レンダール大陸で、俺は差別されなかった。

 何故かはわからないが、普人族を殺すのにはとても好都合だった。


 次に俺が行ったのはアールベック大陸、通称竜大陸だ。

 俺がそこに行ったのは、ただ単に強さが欲しかったからだ。

 誰が相手でも殺せるような強さが。

 圧倒的な強さが。

 

 結果として、求めていた強さは手に入らなかった。

 知ったのは、圧倒的強者(龍帝)の存在だけ。


 左目が眼帯になったのもこの時だ。

 左手を失ったのもこの時だ。

 アレを手に入れたのもこの時だ。


 ただ、俺は強者の部類に入ることには成功した。

 この国の獣王の座をかけた争いで、勝利を収められるほどには。


 

 最後に、俺は、このベルントソン大陸、つまり、精霊大陸にたどり着いた。

 一年前に史上最年少で獣王の座を勝ち取り、今ここに、戦争を起こそうとしている。


 ごめんなさい、お爺様。

 あなたの意思を継ぐことができなくて。


 ごめんなさい、国民の皆さん。

 俺の私的感情に巻き込んでしまって。


 ごめんなさい、元アニキ、藍澤白哉……さん。

 次会った時は、きちんと、話をして、仲直りして、そして、



 俺の手できっちりと殺して(決着をつけて)あげます。


 
















Part B 魔大陸中央部、魔王居城にて。


「さて、お前たちも知っているように、ヤラヴァは我らが手中に落ちた。我らが先祖の叶えられなかった悲願を果たす時だ」


 魔王は、毒々しい玉座にの前に立ちながら。


「勇猛なる魔族諸君よ、暗黒神ハデスが祝福に応え、我らが怨敵に罰を下すのだ」


 跪く魔族の数、数多。


「我らが祖先の怒りを、あの非道な悪魔どもに見せつけてやれ。一人残らず根絶やしにしてしまえ」


 呟く言葉は、暴虐残忍で。


「このまま大陸を奪い取り、我らが手に収める。勇者などという化け物でも、我らが力があれば恐るるに足らん」


 それは、まさに悪魔の姿で。


「進撃し、殺し、殺し、大陸を奴らのの血で真紅に染め上げろ」


 優雅な姿の魔王が紡ぐのは、優雅とは全くかけ離れた言葉。


「今まで殺されてきた者たちの恨みを、数倍にして返してやれ」


 抱いた怒りは本物で。


「都市を、街を、城を、村を破壊し、絶望を教えてやれ」


 紫に輝く左目を輝かせて。


「喩え悪魔と罵られても、それが奴らのやってきたことだと教えてやる」


 迷いは一片もなく。


「死を撒き散らせ、我らが子孫の幸福なる未来のために」


 破壊こそが救いを信じて。


「女子供であっても赦すな、奴らは一匹でも残しておけば禍のもとになる」


 繰り返す歴史を繰り返そうと。


「通った後には何も残すな、全てを叩き潰せ」


 終わらない咎に飲み込まれ。


「希望は一滴たりとも与えるな、与えていいのは絶望と破壊だけだ」


 それは魔王として正しい有様で。


「特に勇者は何が何でも、徹底的に殺せ。奴らの希望を無残に叩き壊せ」


 流血を顧みる筈もなく。


「もし手こずるようであれば、この私が出る。愚かなる悪魔どもを、私が直々に壊してやる」


 最悪のカリスマを持ち合わせ。


「もしそなたたちが戦の途中で力尽きることがあったとしても、その犠牲は決して無駄になど、断じて私がさせない」


 真紅の髪を靡かせながら。


「決して、決して、奴らを許してはならない。妥協は要らない、手加減も要らない、躊躇も要らない」


 純黒のドレスは若干はためいて。


「さあ、次の戦いを始めよう」


 その目は血塗られた未来を見据えて。


「次の標的は教国。偽りの神を騙る国に、真の神の存在を教えてやる」


 神の遊戯盤上の駒として踊りながら。


「その次は帝国と魔法王国だ。そこまで落とせば我らが勝利は同然」


 まだ見えぬ未来を確信しきって。


「我らが魔族に、勝利と栄光を」


 史上最強の魔王、フィラデルフィヤ=ディゼルヘイリアは、冷淡なるその声で宣言する。


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