065 もう一度だけやり直せるのならば
World view
大罪スキルには、破格の性能を誇る通常能力の他に、限定的条件において最強と化す暴走能力が備わっている。
その次の日、俺たちは午前の個人訓練か、ダンジョンに行くかを尋ねられた。
当然、俺は行くことを選んだ。
勇者ならば、過去から逃げることは絶対にない。
参加希望ならばダンジョン前に集合と言われたが、その場から離れてダンジョンに向かおうとする者は決して多くはなかった。
これは騎士団長が温情を働かせてくれた御蔭で、有志参加ということになった結果だ。
クラスメイトの1人があんな事になってしまったのだ。
当然、誰もがトラウマもしくはそれに近いものを植え付けられている。
無理やり参加させるのは良くない、と騎士団長は最低限度の良識だけは持ち合わせていた。
結局、参加する人数はクラスの半数にも満たなかった。
俺こと高室光輝、日暮快斗、名塩さつき、熊切章夫、富山隆彦、天城榮、瀬戸山那奈、北岡武、秋場雪江、上越伸晃先生。
合計して、たったの10人だ。
全体と比べてとても少ないと嘆くべきか、それとも、あんなことがあったのにこれだけ集まったと喜ぶべきか。
「これで全員か、思っていたよりも多いな。では、全員来たまえ、出発する」
騎士団長に付いてゆき、俺たちはまた魔境に足を踏み入れる。
ダンジョン内で出現する魔物の強さも種類も、前回とあまり変わらない。
俺たちのレベルが上がっている分、むしろ弱くなっているように感じる。
クラスメイト達は少数ながら、前回と比べて動きが良くなっていて、有象無象のごちゃ混ぜ集団だった前回と比べたら大違いだ。
人数は少なくとも、自分の意思でここに来ることを選択した集団だからだろうか、目つきが前と違って真剣だ。
ただし、前回から真剣だった快斗や、目つきが前回も今回も狂っている先生を除く。
騎士団員の援護も、あまり必要なくなって来た。
全員がある程度自分達の戦闘スタイルを確立し始めて来たようで、窮地に陥ることが少なくなった。
俺は、聖剣を使って敵を切り裂く、一番普通な戦闘パターンだ。
ほとんどの魔物がバターのように切断できてしまうので、特に小細工をする必要もない。
快斗は、右手に持った盾を使って魔物の攻撃を受け止め、隙があれば左手の短剣で反撃を当てるというスタイルだ。
そこまでトリッキーというわけでもなく、堅実で安定したスタイルだ。
さつきは、後方からの魔法による攻撃が主だ。
魔法以外に全く取り柄がないと落ち込んでいるが、どんどん精度の増していく援護射撃はとても頼りになっている。
熊切は、逃げまくりながら薬品を投げると言った戦法を取っている。
毒だったり、麻痺だったり、粘着質だったりと、色々酷い戦い方ではある。
俺が魔物だったとしたら、絶対相手にはしたくない。
富山は、何であれで戦えているのか分からない。
一応鎧は着ているが、手甲だけはつけずに素手で魔物と殴り合っている。
本人曰く、変なスキルは固有スキルの御蔭で対応できるから、危険なく心ゆくまで会話(物理)できる、らしい。
脳筋の思考回路は理解に苦しむ。
天城は、拳銃を使って魔物を撃ち殺している。
本当に何で拳銃があるのかは不明だが、今日はとある人のせいで常識枠の仲間入りをしている。
瀬戸山さんは、おっかなびっくり弓を使って戦っている。
固有スキルが一発芸だから、と言って得意でもない武器を使っているらしい。
そこまで上手ではないが、頑張って練習したのだろうか、ギリギリ実用に耐えうるレベルになっている。
北岡も、同じく継続戦闘能力に恵まれない固有スキルの持ち主だ。
こっちは、弓ではなく槍を持って頑張っている。
秋場さんは、至近距離まで接近してから魔法の連射というスタイルだ。
遠くからだと当たらないかもしれないからと言って接近するのは、どう考えても脳筋の才能がある。
ただ、戦闘中の詠唱なしで発動できる魔法は、確かに強力だ。
先生は……一番この世界にいてはいけない人だと思う。
機械仕掛けの可動式砲台を動かして、笑いながら魔物を鏖殺している。
確かに[機械神]には相応しいのかもしれないが、此処に於いては全てが間違っている。
なお、悲しいことに召喚組の中では一番強いっぽい。
そんな感じで、あまり苦戦はせずに10階層の扉までたどり着いた。
この先には昨日の化け物がいる、そう考えると、鼓動が不規則に早打ちし始める。
リベンジしたい気持ちはあるが、絶対に敵わないことは分かっている。
そう考え、俺たちは戦略的撤退を選んだ。
発見したゴキブリを逃してしまった時のような、モヤモヤした感情を噛み締めつつ。
午後は、当然魔法の時間が始まる。
教官を務めてくれているライ=クレアーレは、一人でもケルベロスを倒せるだろう。
だから、俺も倒せるようになる必要がある。
俺は、俺は、それでも「勇者」なのだから。
数日後、俺たちはまた同じ扉の前にやって着た。
扉の様子は前と全く変わらず、相変わらず俺たちの前に立ちはだかる。
今日のために、数日かけて計画を立ててきた。
悪鬼を倒すための算段は、もう整っている。
不安要素といえば、ライ=クレアーレ教官が同行できないことだ。
昨日、何としてでも外せない用事があると言って帝都を去ってしまったのだ。
けれど、問題はない。
元々俺たちで倒さなければ意味はない。
余計な保険など必要ない。
そして、俺は、あの日へと続く扉をもう一度開けた。
赤き双眼に睨まれて、戦慄していたあの日とは違う。
俺たちは、強くなった。
戦闘を繰り返し、レベルも上がった。
無詠唱魔法も実戦で若干とはいえ使えるようになった。
土俵に上がることすらできなかった時とは違い、俺たちは対等とは言わないまでも戦える。
1人の犠牲と1人の無粋な乱入者の御蔭で手に入れた、あの日に再挑戦する権利。
その権利を、俺たちは決して無駄にしない。
「作戦通り行くぞ!」
そう俺が叫ぶとほぼ時を同じくして、部屋の中心にケルベロスが召喚された。
最初に動くのは、北岡だ。
「魑魅魍魎、一反木綿」
妖怪を召喚する固有スキル、魑魅魍魎。
魔力の消費が大きいらしく、強力な妖怪は長時間喚ぶことができないらしい。
ただ、条件特化の個体ならば、拘束に特化した個体ならば、ケルベロスの足を鈍らせる程度の仕事はできる。
ケルベロスは、いきなり右後ろ足に絡みついてきた布を振りほどこうとする。
けれど、相手は拘束のプロ、そう簡単に沈みはしない。
すぐに諦めて、こっちへ向かってきた。
「我が望むは壁
愚かなる敵を焼き尽くす、炎の壁
火属性魔法、炎壁」
「連続起動、地牢」
炎の壁がケルベロスを阻み、隆起した地面がケルベロスを捉えようと襲い掛かる。
いくらケルベロスが凶悪でも、この魔法の嵐を無傷で超えるようなことはできやしないだろう。
けれど、まさかこれだけで倒せるとは思っていない。
倒すのは、俺たちの仕事だ。
「限界突破ァ!」
切り札も何も必要ない。
最初から、全開で叩き潰す。
聖剣を構え、ケルベロスに斬りかかる。
今回は、前回のように弾かれるようなこともない。
「機砲兵、砲撃開始」
先生の従える機械仕掛けの歩兵たち、その両手から爆炎と共に砲弾が放たれる。
ケルベロスにとって致命打になるわけではないが、決して無視できるダメージでもない。
できるだけ回避をしようと試みてはいるものの、避けきれない弾を受けている。
全開状態なら全て避けられたかもしれないが、今のケロベロスは行動を制限されている。
「絵描創造、栄光の天弓」
空中に絵を描き、それを実体化する固有スキル。
何かの神話上のモチーフがあるらしいが、よく分からない。
わかることはただ一つ、本家よりは劣るものの、それが強力な武器だと言うことだ。
光の弓から放たれる輝く矢は、ケルベロスに襲いかかる。
天城は、何故かロケットランチャーっぽい物を使用している。
本人曰く、出費がかさむことだけが欠点らしいが、間違っているのはそこだけではないと思う。
熊切は、相変わらず、瓶に詰めたタチの悪い薬品による攻撃を繰り返している。
戦い方は勇者ではないが、この場で一番貧弱なステータスのはずなのに最前線近くで戦う行為はまさに勇者だ。
残念ながら、今回は快斗と富山はあまり戦力にならない。
一番ステータスが高い俺でさえ大剣のリーチに入るのがギリギリなのに、ケルベロスにほぼゼロ距離まで接近しなければ攻撃できないなどと、俺よりステータスで劣る彼らにとっては自殺行為でしかない。
それでも富山は直前までケルベロスと殴り合いをするつもりでいたらしいが、全員で説得してなんとか止まってもらった。
一応魔法は使えるが、魔法を中心とした戦闘スタイルではないため、そこまで強力なものは使えない。
それよりは、疲れ果てている帰り道で活躍してもらった方がいい。
そして、決着の時は訪れた。
度重なる攻勢に、ケルベロスの巨体がぐらりと傾く。
その瞬間、俺は最後の切り札を発動させた。
(光縛)
無詠唱で放つ光の帯が、ケルベロスの三本の首に絡みつく。
効果は一瞬、でも、それだけ足止めできるのならば十分だ。
その一瞬のうちに、一本目の首は俺が叩き斬った。
「巨岩大砲、解放」
二本目は、秋場さんの最大魔法によって吹き飛ばされた。
「機砲兵、最大火力」
三本目は、先生の機械兵による一撃で焼き尽くされた。
こうして、俺たちを苦しめた巨大な敵は、地面に倒れ臥す。
その次の瞬間には光の塵となり、代わりに宝箱が出現する。
リベンジ完遂の瞬間だった。
その後、俺たちは休憩を挟んだ後で地上への帰途についた。
疲れが取れきっていないはずなのに、全員の足取りは軽く、とても早く戻ってくることが出来た。
だが、地上に戻ってきた俺たちを待っていたのは、焦燥感がはっきりと顔に浮かんだ騎士だった。
「報告いたします、信じられないことだとお思いになるでしょうが、今から申し上げることは真実です」
騎士は不安を掻き立てるような事を口にして、一旦口を閉じた。
そして再び開き、信じられないような事を口にした。
「ヤラヴァ共和国の首都イーゼンハイネが、魔王軍の強襲を受け、一晩で陥落した、とのことです」
風雲急を告げる、そんな言葉が頭の中を支配した。
次は登場人物紹介です。
ストーリーは何も進みません、期待しないでください。
その後、接続章です。
名前 コウキ=タカムロ
年齢 16
種族 普人族
レベル 34
職業 勇者(固定)
適正 【光】【火】
魔力 9132/9132
体力 4013
筋力 4512
俊敏 3712
精神 2012
気力 2012/2012
スキル
[剣術lv3][聖剣適正lv--][絶対鑑定lv--][限界突破lv--][アイテムボックスlv2][魔力操作lv7][火属性魔法lv2][光属性魔法lv2]
武技
聖剣:
固有スキル
[勇気の誓い]
称号
[勇者][異世界人]




