063 神ならぬ身で
『氷帝』ゼニアは、世界一の氷属性魔術師である。
たった一度の魔法で見渡す限りを氷原に変えることができるという、対集団戦闘のスペシャリストである。
次の日の晩、私は無断で借用していた本を返却した。
当然、見つかるようなヘマをするわけがなかった。
そして、私はダンジョンの前に立っていた。
書庫の資料から見つけた、城内の地図に描いてあった通りの場所だ。
強力な魔法を使用するのに必要な魔力を確保するため、レベルを早めに上げておきたい。
騎士団員との訓練にもそろそろ飽きてきた頃だ。
睡眠魔法で眠りに落ちた警備の騎士を放置して、私はダンジョンの内部に足を進める。
ダンジョン内は薄暗いけれど、何かの手段で光源が確保されているようだった。
暗ければ魔法で明かりを灯す必要があったが、どうやらその必要はないらしい。
視界の右端に、黒い影のようなものが映る。
それは、所謂コウモリのような姿をした、影に潜む魔物。
確か名称は、シャドウバッドとかいうものだったはずだ。
単純すぎる名前だが、それに対するツッコミは持ち合わせていない。
純粋な攻撃力としては低めだが、防具もつけていない上にレベル0の私にとっては直撃すれば軽くはない怪我を負うレベルである。
ただし相手の耐久力としてはとても低く、こっちの武器が当たれば致命傷を与えられる。
だが、私は武器を持っていない。
模擬戦用の木剣はアイテムボックスに入っているが、改造したアイテムボックスから即座に取り出すののは至難の技である。
だから、武器を使わなければいい。
([限外新化]を[剣術]に使用)
右から襲いかかってきたシャドウバッドを、右手の手刀で真っ二つに斬り捨てた。
シャドウバットは、ただの動かぬ屍と成り果てる。
今、私は右手を剣に見立ててスキル[剣術]を使用した。
私はチート、もはやバグ。
全てのルールを嘲笑い、捻じ曲げる最悪の権化。
だから、私は、笑って歩くことができる。
それから先の敵も、はっきり言って雑魚だった。
襲ってくるのを、片っ端から切り捨てる。
魔法の試し打ちの実験台になって貰った魔物もいた。
蜂型の魔物、子竜のような姿をした魔物、蛇の魔物、鏡の魔物、小人型の魔物。
どの魔物も、私を苦戦させるようなことはなかった。
10回階段を降りた先の階に、私は扉を見つけた。
豪華絢爛な造りのその扉は、あたかも、ずっと挑戦者を待ち望んでいたように見える。
だったら、私がそうなろう。
ここまでの階層で魔物の集団を殲滅し、レベルも26まで到達している。
魔力回復ポーションのストックもまだある。
多分、余裕を持って勝つことができる、そう思った。
それはある意味若干間違っていたが。
扉を開き、少し驚いた。
そこにいたのは、三つの頭を持った黒い巨大な犬。
魔物図鑑では見なかったが、多分ケルベロスとでも呼ぶべき魔物だろう。
今まで蹴散らしてきた雑魚と比べると、威圧感が桁違いだ。
楽に倒せる相手ではないだろう。
常識を吹き飛ばさない限度の範疇で、手加減はしない。
そう決めて、私は詠唱を開始した。
「我は望む、神の如し干渉を」
[並列思考]のおかげで、詠唱中でも戦闘行為を行うことができるのはかなりの強みだ。
突進してくる黒犬に備え、両手に[剣術]を適用する。
「其れは白銀の翅、天駆ける希望の双翼」
ケルベロスの頭による噛み付きを回避して、右手で足に向かって切りつける。
硬質的な音が鳴り響き、ケルベロスの足によって右手が弾かれる。
擬似的な剣と化した右手でも、ケルベロスの防御を抜くことは叶わなかった。
けれど、何の問題もない。
「神聖属性魔法、単純派生、銀翼生成」
詠唱が完成した時点で、私が負けないことは……確定するのだから。
瞬時、私の背中を起点として光が集まってゆき……
神聖属性魔法は、大きく分けて二種類に分類される。
まず、浄化魔法。
全てのものを浄化し、アンデッドに対しては強力無比な攻撃魔法として作用する。
次に、回復魔法。
全ての傷を癒し、時には部位欠損すら回復する。
その癒しの力は、まさに神技の域。
その力は、まるで、魔力を糧に肉体を新たに再生するかのような。
では、再生の力を、より高めることができる者がいるとしたら、どの様な事が起こりうるのだろうか。
再生を越えたモノ、神の域、それに名前を付けるとしたら、新生とでも名付けるしかないだろう。
故に、再生の先の力を手にした者、八十島三日月は、魔力を糧に新たな肉体を創造することが可能である。
それが、どんなものであっても。
それが、例え人間には元々無かった器官だとしても。
大空を翔る翼でも、異形の触手でも、固い甲羅でも。
そして、彼女の背中に巨大な銀の双翼が形作られた。
翼を広げ、私は舞い上がる。
ケルベロスは慌てて私を引き摺り下ろそうとするが、もう遅い。
その次に瞬間には、もう私は手の、いや、牙の届かない範囲にいる。
ケルベロスに如何に強力無比なステータスが備わっていたとしても、その牙が一撃で私の命を屠りうるものだったとしても、その牙は私に届かない。
空を取った時点で、もはや私の負けは存在しない。
肉体そのものを創造する魔法であるが故に、最初の魔法で魔力を大幅に持って行かれたが、その後の魔力消費は極小だ。
ポーションを飲みながらでも余裕を持って戦えるので、魔力切れの心配はない。
後は、ケルベロスが特殊な攻撃を仕掛けてこない限り、上空から魔法を打つだけの作業だ。
「我は望む、神の如し干渉を
其れは罰、我に敵対した者を打ち滅ぼす
神聖属性魔法、単純派生、虚偽天罰」
これは、神聖属性魔法の浄化魔法の派生。
浄化魔法で浄化する対象を、私が敵と認めた相手だけにした魔法。
破壊力では、多分結構上位に位置するのではないだろうか。
突き進む破壊の槍を目にして、ケルベロスはさすがに不味いと気がついたらしい。
咄嗟に駆け出して、回避を試みるが、完全に回避する事は出来ずに、左後ろ足を焼き尽くされていた。
これを繰り返せば遠くないうちに潰す事ができるのはわかった。
けれど、同じことを繰り返すのは芸がない。
だから、次は拘束してから叩き込む。
魔力回復ポーションを10本ほど飲み干して、尽きかけていた魔力を回復する。
そして、ケルベロスにとってのさらなる絶望を唱える。
「我は望む、神の如し干渉を
其れは腕、全てを捉えて離さぬ異形の触手
神聖属性魔法、単純派生、冒涜ノ触腕」
私の肩を起点として、無数の触手が形成される。
黒い様な白い様な紫の様な、異様な色の無数の触手を動かし、私は遥か下に待ち構えるケルベロスを捉えにかかる。
同時に、先ほどと同じ詠唱を開始する。
「我は望む、神の如し干渉を」
ケルベロスは今度こそ本格的に不味いと思ったのだろうか、慌てて走り出すも、足が欠けている現状ではまともに走ることなどできない。
「其れは罰、我に敵対した者を打ち滅ぼす」
触手に拘束されたケルベロスは必死で逃げようとする。
だが、触手は一本一本の力は弱くとも数の暴力でケルベロスを逃さない。
「神聖属性魔法、単純派生、虚偽天罰」
必死で抗うケルベロスを嘲笑うように、破壊の光はケルベロスだけを焼き尽くした。
後には、拘束していた対象が消え、力なく空中で絡まる触手だけが残った。
これは、はっきり言ってやりすぎたかもしれない。
強敵だと思ってあまり手加減せずに戦っていたけれど、もう少し手加減しても勝てたのかもしれない。
それと同時に、切り札を切らなかったことは正解だったと思った。
今でも若干オーバーキル気味だったのに、そんなことをしたらオーバーキルどころではなくなっていただろう。
そんなことを考えていると、ケルベロスのあったところに宝箱が出現した。
無造作に箱を開けると、中には魔力回復ポーションが数個あった。
今まで私が使ってきたのよりも若干高品質かもしれないが、この戦闘、というより蹂躙劇で消費した分の方が遥かに多いだろう。
若干の補填になったと考えれば、それでもいいだろう。
この先に進みたいが、そろそろ時間的な問題がやってくる。
あまり目立たないためには、夜が明ける前に部屋に戻る必要がある。
その後、私は毎晩ダンジョンにアタックした。
けれど、時間的な制限の問題で、私はそれほど深くまで到達することはできなかった。
召喚されてから二週間目の夜でも、私は23層までしか踏破できなかった。
とはいえ、元々目的は攻略ではなくてレベル上げなので、大した問題ではない。
ちなみに、20階にいたボスは10階のケルベロスより弱かった。
巨大な亀のような魔物だったが、足が遅く、銀翼生成を使う必要などなかった。
そして、虚偽天罰の一撃でノックアウトされた。
もしかしたら、耐久型だったのかもしれない。
もしかしたら、何か強力な隠し札があったのかもしれない。
ただ、超高火力の魔法との相性は良くなかったようだ。
その日の昼の訓練で、騎士団長は言った。
「では、君たちには今日から実戦訓練を行ってもらう。具体的に言うと、ダンジョンに潜ってもらうつもりだ」
実戦訓練は既にしているけれど、と心の中で吐露する。
「だが、そんな訓練用の武器では、物足りなかろう。今から実践用の武器を与えてやる。私についてこい」
別に武器など必要ない。
魔法を主に使って戦えばいいし、発動までの時間稼ぎならばどうとでもなる。
余計なトラブルを避けるためには、武器を持っておくのも良いかもしれないが、高価過ぎるものもまたトラブルを呼ぶだろう。
騎士団長に付いてゆき、私達は宝物庫に案内された。
そこで私は、日本刀のような武器を見つけた。
一瞬驚いたが、異世界に日本文化が変な形で浸透しているのは良くあるパターンだと思い出す。
とりあえず、他に魅力的な武器が全くないので、手に取った世界観破壊未遂物をそのまま選ぶことにした。
そのまま私たちはダンジョンへ向かう。
少し歩き、ここ何日かの間で見慣れたダンジョンの入り口が視界に侵入してくる。
夜の姿には見慣れてはいても、明るい光の中にあるのを見るのはこれが初めてである。
だから、今こそが抜け出すチャンスである。
ダンジョンの中は暗くて狭いので、私がいなくても気がつかないだろう。
気がつくとしてもあのボス部屋だが、あのケルベロスを相手にしていて、クラスメイトを捜索するような真似がまさか出来るわけがない。
そう思いつつ、私はこっそりと列を抜け出した。
勿論、ある手段を使用して。
その日は一日中、帝都の中を歩き回った。
城の中で無断で貰った適当な品々を売りさばき、金銭に換え、食料を購入する。
そして、帝国を出る準備は完了した。
夜、私は銀翼生成を使用し、帝都を去った。
名前 セレネ=ヤソシマ
年齢 15
種族 普人族?
レベル 71
職業 聖女(固定)
適正 【神聖】
魔力 18432/18342
体力 3013
筋力 1552
俊敏 4001
精神 9115
気力 9115/9115
スキル
[剣術lv8][並列思考lv6][アイテムボックスlv8][魔力制御lv9][神聖属性魔法lv4]
固有スキル
[限外新化]
称号
[聖女][異世界人]




