059 全てを見下す覚悟
World view
死者を蘇らせることはできない。
基本的には。
ケルベロスは、起き上がると、僕の方に向かってきた。
その目に宿る光は、今までの残酷な、圧倒的強者の光ではない。
なんとかして絶望に、恐怖に、抗う決意の光。
全てのことは予想通り。
「ああ、まだ生きていたんですね。鬱陶しいから早く死んでいただけませんか?」
同時に、[■■]を俊敏値に対して発動させ、ケルベロスの速度を一気に落とす。
龍装剣を喚び出し、一閃。
勇者を苦しめた化け物を、一瞬にして葬る。
宝箱が出現するが、今更こんなところで出現する物に興味はない。
勇者たちに顔を向けると、その顔には、僕への畏怖、尊敬、驚き、などなど、様々な表情が浮かぶ。
「それはそうとして、こんなところで何をやっているんですか? 一応あなた方は勇者でしょう? 僕が偶然ここに来なかったら死んでいましたよね?」
誰も声を出そうとしない。
「そんなんじゃ、命がいくつあっても足りないと思いますよ。僕にとってはどうでもいいことですが」
当たり前だ、この状況で声を出すような異常者がいるとは思いたくない。
「一応忠告しておくだけしておくと、この先に進むのはやめたほうがいいですよ。まあ、今すぐに進まないぐらいの分別はあると思っていますが」
実際、こいつらがこの先に進むなどとは思っていない。
ただ、「勇者」の場合は話が別だ。
この勇者は、危ないほど「勇者」過ぎる。
ここで死んで貰うわけにはいかない。
ストッパー係として、まずは騎士たちを再起動させる必要がある。
異空間から、幾つかの適当なポーションを取り出す。
無限回廊深層クオリティーのため、死んでさえいなければ一滴垂らすほどで全快するだろう。
高性能ポーションを勇者に向けて投げてやりながら、言い放つ。
「僕は生きている人を見殺しにするほど人間をやめているつもりはないので。かけてあげるだけで効果を発揮しますよ」
騎士団の方達には勇者の手綱以外にも一つだけやって欲しい仕事もある。
これぐらいの出費は痛くもないし、むしろ余っている位だ。
いや、最近は少しづつ減っているが。
「では、僕はこの先に行きますので。くれぐれもついて来ないでくださいね、魔物と間違って殺してしまうかもしれないので」
もう一度釘を刺し直し、出口へ向かう。
けれど、
「ちょっと待ってください」
予想外のことに、僕を呼び止める勇者がいた。
「何ですか?」
「えーっと、その」
つまり、何も考えずに呼び止めた。
又は、考えていたことが吹っ飛んだような感じだろうか。
「特に用事がないのなら、行ってしまっても構いませんか?」
実際は、急いでいるわけでもないため、もう少し待って話を聞いていても問題ない。
けれど、そんなことをしたら僕に対しての印象操作が働かなくなってしまう。
「まず、助けてくれて本当にありがとうございます」
「はいはい、そうですね。で、わざわざ呼び止めてたったそれだけですか?」
助けられたらお礼を言う、日本人なら当たり前のことだ。
けれど、それはここで普通言うようなことではない。
つまり、テンパっていることは明らかである。
声色で何となく判断することもできてはいるが。
「一体、何をどうしたんですか?」
何をどうしたか、あまりにも抽象的過ぎる。
この場合は、ケルベロスをどうやって潰したのかだろう、多分。
「ああ、ケルベロスの話ですか? それなら、ただ単に斬ったただけです」
もし違ったらそっちを答えればいい。
心を読んでも良かったが、[切札殺し]がいる今、無闇に手札を晒し過ぎるのは良くない。
もっとも、この程度ならば公開しても良かったのかもしれないが。
「一体どうやってこのダンジョンに入ってきたんですか?」
質問の嵐だ。
と言うか、聞きたいことを聞いてくるだけと言う支離滅裂なスタイルだ。
僕の答えには何の反応も示さない。
きっちりと答えている分、僕はよっぽどのお人好しなのだろうか。
もし僕がお人好しだとしたら、世界中のお人好しに謝って回る必要がある、と思う。
「説明するよりも、地上に出ればすぐにわかりますよ」
王道勇者のことだから、地上での惨状について詳しく語ると暴走する可能性がある。
ここで勇者と衝突するわけにはいかない。
もし、ここで戦うとなったら、十中八九、いや、十割以上の確率で僕が勝つ。
殺さないように手加減することも、目をつぶっていても簡単にできる。
ただ、ここで僕が手加減するようではダメだ。
同時に、僕は勇者を殺すわけにはいかない。
そのため、ここでは勇者と衝突を避けるのが一番なのだ。
「そうだ、えっと、クラスメイトが一人下に落ちてしまったんです。どうか、もし下層で遭遇したら、助けてくれませんか?」
これは難しい質問だ。
僕は、勇者と今ここで戦闘するわけにはいかないが、それと同時に勇者に肯定的に見られる訳にはいかないのだ。
ひとまず、勇者からのヘイト管理を優先することを基軸に置きながら、出来るだけ丁寧な言葉を選ぶ。
「すみませんが断らせて頂きます」
勇者が、一体何を言われたのかわからないといったような驚きの表情になる。
一瞬の沈黙の後、今にも掴みかからんばかりの剣幕で怒鳴ってきた。
「何でですか!」
そう言うと思っていた。
少しぐらい怒るのは想定の範囲内。
ここから先は少し賭けになるが、勇者をギリギリ激怒させない程度に話そう。
「その落ちてしまった誰かさんを助けることで、僕にどんなメリットがあるんですか? ないでしょう?」
ただし、メリットがあれば助けますよ、と心の中で付け足す。
「でも、俺たちを助けてくれましたよね!」
この勇者は、人を助けないぐらいで斬りかかってくるような非常識人ではないと信じている。
恩人相手にそんなことをするのは、少なくとも勇者の行動ではない。
「僕の通り道に魔物がいたのを排除しただけで、あなたたちを助けたつもりは一切ありません。これ以上は話し合うだけ時間の無駄ですね。では、帰り道もお気をつけて」
そう言い残すと、まだ何か言いたそうにしている勇者を放置して、僕は部屋を出た。
本心を隠してわざとキツく言う、これはツンデレなのだろうか?
いいえ違います、行動自体は類似していても、ワザとそう行う僕は決してツンデレではない。
それ以上に、ツンデレとは基本的に女子のみが許されている特権であり、良からぬことを企んでいる男に対して使っていい呼称ではない。
そんなことを思いつつ、僕は下を目指す。
ただ、なぜか三日月のことが思い出される。
日本人の集団を見たからだろうか、クラスのような集団を見たからだろうか。
出来る限りあまり、思い出さないようにしていたのに。
そうしたら、僕は人間に戻ってしまう。
深層、といっても51階で、暴食持ちの勇者と遭遇した。
遭遇とはいっても、顔を晒すようなことはせず、気絶しているところを見つけて放っておいただけだ。
今後、彼にやってもらうことを考えると、今直接会うのはオススメできない。
やったのは、ただ単に51階から上に登る転移門を隠蔽すると言う簡単なお仕事。
そして、51階から60階までの全ての宝箱を乗っ取り、その中身をエリクサーのようなものに置き換える仕事。
こっちも数は結構余っているが、1000個以上も出品するのはかなり痛い。
だが、品を惜しんで勇者が死んでしまったら元も子もない。
勿体ないなと思いつつも、全ての宝箱の中身を入れ替えた。
そして、最深層にたどり着いた。
結局、このダンジョンは100階層まであった。
階層の数では無限回廊と同じだが難易度としては遠く及ばない。
最終的な難易度としては、無限回廊以外の五大迷宮よりは高いといった感じだ。
序盤の難易度は低いが、階層が深くなるにつれてどんどん難しくなっていく。
ただ、あのケルベロスの配置は明らかに不自然だ。
他と難易度の調整を図るならば、30階程度にいるのが自然だ。
まるで、後から入れ替えたかのような。
それ以外にも、一つ面白い出来事が起こっていた。
80層のボス部屋にて、部屋に入ると、その瞬間に宝箱が現れた。
何が起こったのか正確には分からないが、起こった出来事についての検討はついている。
ダンジョンコアに触れ、神権を使用して支配権を簒奪する。
若干抵抗されたが、最終的には僕の神権が勝利を収めた。
勝利を、収めてしまった。
すぐに、僕は事の失敗を悔いた。
抵抗されたと言うことは、このダンジョンには支配者がいた。
ただ、ダンジョンマスターは僕の許可がない限りはダンジョンの外に出ることはできない。
そして勿論、僕はこのダンジョンのマスターに外出許可を出した覚えはない。
考えられることとしては、ここの支配権が神の手にあったということ。
僕は、この時点で、神の持つダンジョンを奪ったということになる。
つまり、この時点で僕は神に目をつけられた可能性はある。
だが、大した問題ではない。
この可能性も既に想定済みである。
もはや戦争を吹っ掛けることは決定していることであり、宣戦布告が少し早まっただけだと考えればいい。
そして、現在僕が支配下に置いているダンジョンには、既に神からの干渉を阻害している。
また、リビュントラの死亡にも気がついていない。
戦力を整えているのが僕だということには気がついている可能性があっても、迷宮神リビュントラが黒幕だと考える可能性が高い。
切り札を見せてしまったならば誤魔化しが効かないが、今はまだ時間がある。
今は、このまま現状維持ということでいいだろう。
それより、今はダンジョンの最深層の加工に力を尽くすべきだろう。
まずは、頼んで製作してもらった映像の魔導具を設置する。
次に、部屋の中に適度な量の武器を配置する。
最後に、転移陣の繋げる先を魔大陸に変更する。
黒冥城への転移陣は、一回だけ使用可能なものを配置する。
準備は完了。
失敗する可能性はあるが、そうなったとしても問題ない。
何処もかしこも不確定要素の塊なのだ、他にも駒はあるのだし、補うことは簡単だろう。
最後に、ダンジョンの管理権を放棄してロックする。
そして僕は転移陣に乗り、「勇者の試練」を後にした。
名前 ハクヤ=アイザワ
年齢 15
種族 現人神(邪神)/ダンジョンマスター
レベル 1073
職業 神奪者lv23
職業履歴 見習い魔術師 見習い剣士 魔術師 剣士 魔法剣士 極大魔導師 殲剣王 深淵魔導師 神聖魔導師 時空魔導師 視の王 偽の王 反逆者 龍継者
適正 【光】【闇】【時空】【神聖】【深淵】
魔力 6,014,789,023/6,014,789,023
体力 1,598,920,989
筋力 1,989,289,890
俊敏 1,328,034,903
精神 1,492,085,672
気力 1,492,085,672/1,492,085,672
secret




