005
水晶玉は、光らなかった。
「そんなはずはない。属性を絶対に持っているはずだ。水晶玉が壊れているんだ!」
ブラッド=ウォルター、つまり僕の父親は叫んだ。
「そうよ、もう一回見てみましょう。うちの子は立派な魔術師になるのよ!」
メルヴィー=ウォルター、つまり僕の母親は叫んだ。
しかし、もう一度触っても水晶玉は光らなかった。そして、次の子は普通に風属性を示した。
周りの大人から嘲笑の目線が浴びせられた。僕は一応は赤ん坊なのでそんな目線など気づいていないように振舞っていた。しかし、心の中では大声で叫んでいた。
(何でかはわからないけど、ラッキーかも。これで跡継ぎにならずに済む。魔法派閥って言ってんだから、適性が表示されない子供を跡継ぎにするはずがない!)
僕は喜んでいるが、両親は何が何だかわからないといったようすで、僕を抱いて嘲笑の目線から逃げるように家まで走って行った。両親が少しかわいそうになって、僕は属性をちゃんと持ってるよとすら思うほどだった。何も言わなかったけど。
その日の夕方、僕は一人ベッドに残された。いつもなら僕が寝付く(と思う)まで待っているのに僕をベッドに放置すると、部屋から出て行った。
僕は多分期待されていないのだろう。しかし、そんなことはどうでもよかった。僕は貴族になんかになる気はない。というわけで、質問タイムに移ろう。
なぜ、僕の属性は表示されなかったのか。
<水晶玉に手を触れる人が光属性、闇属性、時空属性を持っているはずがないから、不要なため表示する機能がなかったのです>
なぜ持っている人がいるはずがない、のか。
<まず、光属性は、聖光教の教会で神の加護を受けたもの、または勇者しか使えません。
闇属性は、魔族の中で上位に位置するものしか使えません。
そして、時空属性はあなた以外の持っている人の情報はありません>
光も闇もレアだったが、時空属性はちょっとレアとかいうレベルを超越していた。
なぜ、今まで誰も持っていなかったのに時空属性なんて属性とスキルがあるのか?
<それは答えられません>
さしものアカレコ先生も封印に対しては無力らしい。こうなった場合、これ以上追求しても無駄だということはわかっている。
というわけで、属性を持っていないことについても質問してみる。
属性を持っていない子はどれぐらいいるのか。
<約十万人に一人の確率でいます>
無属性ってのは案外それほどレアじゃないらしい。そのあと、いつものように鑑定などの訓練と魔法の訓練を行い、眠りについた。そういえば、身体強化によって成長が促進された結果、起きていられる時間が増えたような気がするなー、と思いながら。
ガタガタという音で目が醒めた。そこはここ約一ヶ月ちょっと慣れ親しんだ、魔法の効果の実験の犠牲となったかわいそうな木製のベビーベッドではなく、、檻の中だった。
東の空が薄っすら明るみを帯びている。時間帯はおそらく早朝。そして、外に見えるのは木木木、見渡す限り木である。多分この推定馬車が走っているのは森の中の小径であろう。
ちなみに、なぜ「推定」なのかというと、ここはファンタジー世界だけど、(神様たちのせいで)変になってる部分がかなりあるからである。
そんな推定の文字が取れるのは明け方という微妙な時間帯を抜け、100人中99人が朝だと定義するような頃である。ちなみに一人は天の邪鬼である。
なんでそんなことが分かったのかというと、この馬車を運転している、つまり僕を檻の中に閉じ込めている男たちの話を聞いたからである。
「それにしてもうまい仕事だよな。これ」
「ああ、ガキ一人を森の中に捨てて戻ってくるだけで金貨20枚なんてな。少しヤバイ仕事かもしれないけれど、その分報酬が弾む」
少しボロっちくなった革の鎧を着て、無精髭を生やし、腰には短剣らしきものを持っている三人組だ。まるで絵に描いたようなゴロツキ達である。そしてこいつらは僕を森の奥に捨ててくるように依頼を受けたらしい。
「金貨20枚で何を買おうか?この鎧も古くなってきたし買い換えるっすか?」
「おいおい、そんなことお前が本気で言ってるのか?いつも一晩でパーっと使い切っちまうくせにか?」
「はっ、ちげえねえ。今晩は酒か?女か?」
「じゃあ俺は酒に賭けるぜ」
「おい、お前ら。俺をなんだと思ってんすか」
「俺と同じでダメ冒険者、だろ?」
「まさにそうだな」
「ひっでえ言われようっすね。せめても中堅冒険者とでも言ってくれよ」
「じゃあお前はその自覚はあるのか?」
「ないっす」
「即答かよ。せめてもうちょっと悩んどけよ」
「ちぇっ、悩んでもなんにも変わんねーっすよ。どうせ俺らは万年E級冒険者」
「おいっ、馬車に八つ当たりをすんな。これは一応依頼主の持ち物なんだろ。傷ついたりでもしたらイチャモンつけられて報酬から引かれるかもしれないだろ」
「わーったっすよ。貴族ってのは面倒っすねー」
男どもはくだらない会話を繰り広げる。
けれど、僕の置かれた状況がある程度理解できた。僕の両親は僕を捨て、こいつらに森の奥まで僕を捨てに行くよう依頼を出したということだ。
そして推測だが、両親はこいつらにまだ報酬を払っていない。そして、こいつらはおそらく切り捨てられるだろう。ゴロツキどもなら死んでも問題にならないからだ。
これで、僕を知るものはいなくなり、抹殺完了だ。直接両親が手を下さなかったのは息子への最後の同情だろうか。それとも、殺人の履歴が残る魔道具でもあるのかもしれない。
どちらにせよ、僕が助かったのは事実だ。しかし、0歳児が森の奥で生き延びられるはずがない。せいぜい魔物の餌になる程度だ。ただし、それは普通の0歳児に限った話だ。チートの塊には常識は通用しないのだ、と証明してみせよう。
今、僕は多分逃げ出そうと思えば逃げ出せるだろう。身体強化をいつもより強くかければ鉄格子ぐらい曲げられると思っている。けれど、それではダメだ。そんなことをしたら、男達との戦闘は多分避けられないだろう。こいつらはE級冒険者とか言っていたので、そこまで強いわけではないだろう。戦闘に勝つ自信はある、多分。
しかし、勝ったとして僕はこいつらを殺せるのか、答えは否だ。僕は多分人を殺す自信はない。その場合こいつらは僕の両親に僕のことを伝えるだろう。そんなことをしたら強い追ってをけしかけられる危険がある。僕が0歳最強とはいえ、大人の強者大勢相手に勝てるかと言われて、はいと言えるほどうぬぼれてはいない。
だから、この場合の最善手は、何もせずにこのまま森の中に捨てられることである。そうすれば両親は僕が死んだと思って何も手出しをしてこないだろう。
もし、将来僕の存在が露見したとしても、それまでに強くなる為の時間と環境がある。
けれど、僕が一番恐れていることは僕を捨てた後にこいつらが僕に暴力をふるうとした場合だ。僕は自衛の為にチートスキルたちを解放せざるを得なくなる。けれど、僕がそんなことを考えているとはつゆ知らず男たちは話し続ける。
「それにしてもこの森はいつ来ても不気味っすよね。流石は帰らずの森というだけのことはあるっすね」
「ああ、この道より森の中に入ったやつは帰ってきた試しがないらしいな。俺らはそんな無謀じゃないし入る気はないけどな」
「B級でも呼んで攻略してくれたらいいのに。そうすればこの森も安全に通れるのに」
「一応一人はこの街にもBはいるっすよ」
「お貴族様の息子だろ。どうせ金で買ったランクに決まってるさ。俺たちよりちょっとやそっとは強いかもしれないけど頼りになんかなりゃしねーよ」
冒険者ランクは金で買えるらしい。腐っている。こんなんでいいんだろうか冒険者ギルド。
そしてここは帰らずの森というらしい。なぜだろうか、質問してみることにしてみる。
<元風龍王ヴィントが住み着いているからです>
、、、遭いたくない。
そんなことを考えているうちに目的地に着いたようだ。太陽は高く上っている。
「はあ、やっとついたぜ」
「これでこの依頼の半分は終了っすね。後は戻るだけっす」
「早くガキを捨てて帰っちまおうぜ」
「確かにこの森からは早く抜けたいな。俺も嫌な予感がする」
「それにしても不気味なガキっすよね。泣かないし笑わない」
不気味なガキで悪かったな、と心の中で突っ込む。
「まあ関係ない話だ。どうでもいい。早く終わらせようぜ」
男たちは檻の鍵を開けると、僕を持ち上げて可燃物のゴミをゴミ収集車に放り込む様に森の中に放り込んだ。土の匂いが鼻につく。
身体強化を一瞬発動させたから怪我こそなかったものの、もうちょっと丁寧に扱ってほしいものだ。
僕は男たちがいなくなるのを待った。馬車の音が聞こえなくなるのとほぼ同時に僕は身体強化を発動させた。1秒あたり100の魔力消費だが今の僕には全く負担にならない。
身体強化の恩恵に授かって、僕は歩き始めた。
人間が生きていくのに最低限必要なものは衣食住、つまり服と食料と住処だ。そして、その中で今一番優先度が高いのは食料だ。
僕はまず、水場を探すことにした。
時空魔法の空間感知を最大限で発動させる。僕の空間感知は1キロの範囲が限界だ。もっとも、これは魔力の限界ではなくて脳の処理の限界だったりする。
森の中にそれほど強い魔物はいない様だった。所謂ゴブリン、コボルト等の魔物しか見かけなかった。この後なら戦ってもいいが、今はまず水場を見つけることが優先だ。
魔力を放出して威圧すると一目散に逃げていった。
あまりかからないうちに水場を見つけることができた。森の中の小川だ。青く澄んだ流れはまさに踊っている様だ。水を飲んでホッと一息つく。
アカレコ先生にこの近くにある食べられる木の実などを教えてもらって食いつないで行こう、と考えていた時だった。
「我はこの森の管理者。この森を荒らす者よ、赤子だからと言って情けはかけんぞ」
50メートルを超える巨体、緑色の鱗、巨大な翼、輝く二つの目、全身に纏われた膨大な魔力。
絶望が、上空にいた。
名前 [カレル]
年齢 0
種族 普人族
レベル 0
適正 【光】【闇】【時空】
魔力 162948374/162948374
体力 9
筋力 14
俊敏 18
精神 25
気力 25/25
スキル
[剣技lv3][並列思考lv5][魔力制御lv5][光属性魔法lv2][闇属性魔法lv2][時空属性魔法lv1]
固有スキル
[無限の心臓][全知の理][時間凍結]
称号