004
鑑定の儀、と父親は言った。それまでにもしかして[偽装]を身につける必要があるのかもしれない。
親が部屋にいる間、それがずっと気がかりだった。
その日夕方になってやっと自由時間が訪れた。間髪入れずアカレコ先生に質問する。
鑑定の儀とは何か?
<鑑定の儀とはラノリア王国特有の、年の終わりの12月31日に今年一年に生まれた子供全員の適正属性を調べる儀式です。この時の属性によって親の教育方針が変わることもあります。ちなみに今日は12月5日です>
鑑定の儀はすぐそこまで来ていた。でも、適正属性だけなら[隠蔽]や[偽装]は必要なさそうだ。でも、少し不安があるので聞いてみる。
鑑定の儀で調べられるのは属性だけなのか?
<はい、そうです>
ファンタジー世界ということはステータスを表示する魔道具は一般的なのに、属性だけというのは違和感を覚える。なので早速聞いてみる。最近アカレコ先生に頼りすぎている気がするが。
ステータスを表示する魔道具はないのか?あったとしてそれはどこにあるのか。
<あります。冒険者ギルドの発行するギルドカードの裏面がそうなっています。ただし、ギルドカードは本人の意思がないとステータスを表示できない上に、冒険者ギルドは製法を秘匿しています。また、冒険者ギルドの登録は7歳からです>
やっぱり定番のファンタジーだ。冒険者ギルドは存在していた。
ギルドカードに[隠蔽]や[偽装]は効くのか?あと、ギルドはなぜ製法を秘匿しているのか?
<効きます。もう一つの案件については答えることができません>
アカレコ先生が答えをよこさなかったのは初めてだ。
なぜ答えられないのか?
<記憶が封印されているからです>
そういえば[全知の理]の説明文にそんな記述があったような気がする。でも、封印されている記憶というのにも興味がわいた。
どの部分の記憶が封印されているの?
<固有スキルの取得条件と、それ以外は答えることができません>
確かに固有スキルの取得条件なんてバラしたら強くなりすぎる。あと、封印についても封印がかかっているようだ。
その記憶も封印されているの?
<はい、そうです>
随分と厳重な防御網のようだ。いつかその封印の中身を覗いてみたい気がする。でも、今は突破する方法を持っていないので、気にするだけ無駄だろう。そういえば、さっきラノリア王国とか言う名前が出てきていた。僕はこの地域ついて何も知らない。聞いてみるのも悪くはない。
ここはどこなのか?
<ラノリア王国のウォルター伯爵領です>
ウォルター、どっかで聞いたような名前だ。って、僕のファミリーネームじゃないか。確信に近い推測をしながら早速質問する。
僕の父親、ブラッド=ウォルターは何者なのか?
<ラノリア王国の伯爵で、魔法派閥です>
やっぱり貴族だった。父親がどれほど偉い貴族なのかも気になった。
ラノリア王国にはどれぐらいの貴族がいるのか?
<公爵が2人、侯爵が5人、伯爵が13人、子爵が56人、男爵が103人、名誉男爵が34人います。ちなみに、政治に口を出せると言われるのは伯爵からです。ただし、貴族の子供は成人するまでは貴族と同じような待遇を受けます>
なるほど、父親は前世で言えば会社の管理職ぐらいの立ち位置にいるのか。一つ心配になったので聞いてみる。僕に兄弟はいるのか?
<いません。ブラッド=ウォルターに、側室はいますが今はまだあなたは一人っ子です>
なるほど。ということは僕は権力闘争に巻き込まれる恐れがある。貴族の下らない喧嘩に巻き込まれず自由に生きたいのだが、もしかしたら家出でもする必要があるのかもしれない。そんなことはないことを願いたい。とりあえず、今は何もできないので特に焦ることはないだろう。でも、対策を立てるのに早すぎる早すぎるということはないだろう。せっかくなのでこの世界のことも聞いてみよう。
この世界に大陸はいくつあるのか?
<5つあります。1つは今あなたが住んでいるリンドロート大陸です。主に普人族が住んでいます。全大陸中2番めに広いです。
2つめはレンダール大陸です。ここも主に普人族が住んでいます。
3つめは全大陸最大のアールベック大陸、通称竜大陸です。主に竜、龍、龍人族が住んでいます。山地が主で、灼熱の平野があったり、極寒の氷原があったり、弱いものが入ったら二度と出てこれないと言われています。
4つめはベルントソン大陸、通称精霊大陸です。主に獣人、エルフ、ドワーフ、妖精族が住んでいます。精霊が多くいます。
5つめはエディンバラ大陸、通称魔大陸です。主に魔族が住んでいます。マナがとても濃く、強力な魔物が生息しています。
将来は竜大陸にも行けるほど強くなりたいなと思う。そして、ファンタジーだけに多様な種族がいるようだ。
この世界にはどんな種族がいるのか?
<普人族、魔族、エルフ、ドワーフ、獣人、竜人、妖精、天人族、機人族がいます。また、獣人といっても様々な種類があります>
天人族まではまだわかる。でも、ファンタジー世界とは少し言い難い種族が一つある。
機人族って何?
<機械の体を持つ種族です。とても高い身体能力をもちます。個体によっては特殊能力を持ちます。ただし、全く魔法が使えません。主に機械都市メヒャーニクに住んでいます>
これもある意味ファンタジーなのかなぁ?さらにカオスになってると神様は言っていたけど、あながち間違いじゃない気がする。機人族に転生するのもロマンだったのかもしれないが、魔法が使えないという欠点がある以上、普通の人間に転生してよかったんだと思う。
気を取り直してこの世界についての質問を続けよう。
どんな国があるのか、そしてそれぞれの国の特徴は?
<まず、ここ、リンドロート大陸の北西の端に位置するラノリア王国です。王権による政治で表向きは安定していますが、魔法派閥と聖光教派閥の慢性的な対立が続いています。
ラノリア王国の東に位置する国がリンドヴァル王国です。王権による政治で恐怖政治を行っています。
ラノリアから見て南東、リンドヴァルの南に位置する国が大陸最大の領土を持つエルヴァスティー帝国です。皇帝に絶対的な権力が与えられる国です。軍事力も最も高いと言われています。
帝国の南西に位置する国がルオノヴァーラ魔法王国です。魔法の技術については普人族一と言われています。魔法が一番優れている人が魔道王と呼ばれ、国のトップに立ちます。
帝国の南に位置する小さな国がコルヴィ教国です。聖光教の本教会があり、神の教えは絶対という宗教国家です。因みに国のトップは教皇です。
教国のさらに南、つまり大陸の最南端に位置する国がヤラヴァ共和国です。名目上は共和国ですが、実際には元老院による独裁政治が行われています。
レンダール大陸には、都市連合国家シュタットの一国のみです。26の都市によって成り、それぞれの都市にそれぞれ異なった特色があります>
魔法派閥と教会派閥の対立か、ある意味厄介な国に生まれたものだ。でも、魔法派閥側の家に生まれたのは幸運かもしれない。教会派閥だと魔法を禁止されるかもしれないからだ。
今は魔法派閥の家に生まれたんだから、魔法の練習でもするぐらいにしておこう。
次の日、スキルの成長度合いを見るためにステータスを見ると、変なことに気がついた。
名前 カレル=ウォルター
年齢 0
種族 普人族
レベル 0
適正 光 闇 時空
魔力 213613/213613
体力 6
筋力 8
俊敏 12
精神 17
気力 17/17
スキル
[剣技lv3][並列思考lv5][魔力制御lv1]
固有スキル
[無限の心臓][全知の理][時間凍結]
称号
[並列思考]はずっと使っていたからかレベルが上がっている。[魔力操作]はレベル10が最大なのか、上位スキル[魔力制御]に変化したようだ。
魔力はおかしい値に成っているけれど[無限の心臓]の効果だとわかっているのでそれほど不思議ではない。
問題なのはその他のステータスだ。いつの間にか、体力、筋力、精神、気力の値が上昇している。
なぜ、魔力以外のステータスも上昇しているのか?
<身体強化で常時体に負荷がかかっていたため、成長速度が増加しました>
魔力を上げるための行動は魔力以外も上昇させていたようだ。
身体強化を常時かけることにデメリットはあるのか?
<特にデメリットはありません。強いて言えば成長速度が早くなりすぎるという点です。ただし、身体強化を強くかけすぎると体が耐えられなくなることがあります。ただし、前例はありません>
身体強化はかなり強力なようだ。ただし、かけすぎないように注意する必要があるようだ。ひと段落したところで、[魔力制御]のスキルについて見てみる。
[魔力制御lv1]Rare
自分の魔力を制御することができる。
[魔力制御]になったので魔力弾を撃ってみると、[魔力操作]の時よりもよりコントロールの精密性が増したような気がした。
また[並列思考lv5]は、同時に思考できる数が増えていた。
今やりたいことは終わったので、魔力の固形化の続きを開始した。昨日作っていた日本刀は、魔力を20000ほど使うと一般的な刀と同じぐらいにまでなった。
そしてわかったことは、魔力を常に注ぎ込み続けると時間が経っても消滅しないということと、[魔力制御]になった影響か一度固定した形を変えられるということだった。
というわけで魔力で三本目の手をつくってみることにした。魔力を常時注ぐ必要があるため左肩のあたりから三本目の手が出るようなイメージで三本目の手を作る。
しかし、一瞬手ができたと思ったら霧散してしまい、疲労感が襲ってきた。魔力をかなり消費するみたいだ。久しぶりに魔力切れを体験するが、あまり気分のいいものではない。
しかし、これは魔力を増やすのにものすごく使える。身体強化と同時に魔力の腕を展開することを開始した。
数日後、とうとう魔力が一億を突破してしまった。まさに人外とでもいうべき量だ。一体これほどの魔力をどうすれば良いのかわからない。因みに、魔力の腕は10本も展開することが可能になってしまった。魔力をこれ以上増やす必要はないとおもえてきたので、魔力腕は中止して身体強化だけにすることにした。
さて、[並列思考]の枠が一つ空いたので、属性魔法を使うことにした。何か思い立った時には、いつもお世話になるアカレコ先生だ。
光属性魔法、闇属性魔法、時空属性魔法の一番簡単な魔法とその詠唱は?
<光属性魔法はライト、つまり明かりを灯す魔法です。詠唱は
「光よ、闇を照らせ、ライト」
闇属性魔法はダーク、つまり暗闇を生み出す魔法です。詠唱は
「闇よ、光を消し去れ、ダーク」
時空属性魔法は、周囲の空間を感知する魔法です。詠唱はありません>
詠唱がないとはどういうことか?
<それについては答えられません>
知識に封印がかかっている。何か秘密があるのだろう。ではまず、詠唱から始めてみよう。
「ひきゃりよ、やみをけししゃれ、りゃいと」
喋れないということを忘れていた。けれど、前と比べてかなり喋れるようになっている。
普通はこんな短期間で喋れるようになるのだろうか?
<身体強化の影響で成長が早くなっています>
そうですか。けれど、成長が早くなっていると言ってもまだ少し足りない。
詠唱なしで魔法を発動させることはできるのか?
<できます。このような魔法を発動させたいというイメージを持てば発動できます。ただし、魔法の制御に大量の魔力を消費するので必要な魔力の量が10倍になります>
できるらしい、無詠唱。というわけで、早速光属性の魔法を使ってみる。光の球を左手のうえ10センチぐらいのところにイメージする。
けれど、その日は属性魔法を習得することはできなかった。
光属性魔法が使えるようになったのは五日後だった。スキルに[光属性魔法lv1]が追加されていた。
[光属性魔法lv1]Super Rare
光属性魔法が使える。
今まで無属性魔法を使ってきたから始めて効果が目に見てよくわかる魔法を使えたことにかなり興奮した。
その日はひたすら光の球を作って消してを繰り返していたら、[光属性魔法lv2]になっていた。
同様にして、[闇属性魔法lv2]、[時空属性魔法lv1]を習得したその日、鑑定の儀の日がやってきた。
[闇属性魔法lv2]Super Rare
闇属性魔法が使える。
[時空属性魔法lv1]Hyper Rare
時空属性魔法が使える。
その日は曇っていた。時空属性魔法でもう既に外の建物の形だとかは把握していたが、外に出るのは初めてだった。
「カレルはいくつの適性を持っているかしら」
「きっと二つ以上はもっているさ。もし一つでも、訓練すれば必ず強力な魔法がつかえるようになるよ」
その通りです。三つ持っています。身体強化の影響で今はもうほとんど普通に喋ることができるようになっているが、喋るのはやめて心の中にとどめておく。
だって、0歳児が喋ったら不気味すぎる。広場らしき場所に向かって抱っこされながら行く途中にそんなことを思う。
広場につくとそこにはたくさんの幼児と、連れの大人であふれていた。子供達は順番に水晶玉らしきものを触っている、否、触らされている。
子供達は何も分かっていないようで、不思議そうな顔をしているが、大人たちは子供の属性を視て一喜一憂している。稀に2属性持ちがいると、その親は飛び上がらんばかりに喜んでいる。また、属性を持たない子は誰もいないようだ。
そして、まだ光、闇、時空持ちもいないようだ。まあ、時空属性なんて持っている子供がいるはずもないとは思っているが。
自分の番が近づいてきて水晶玉が見えるようになってきた。水晶玉は火属性なら赤、地属性なら茶、風属性なら緑、水属性なら青に光るようだ。
光なら黄かな、闇なら黒かな、時空なら、、と妄想しているうちに僕の番がやってきた。
そして、前の子と同じように水晶玉に触れ、水晶玉は、
光らなかった。
名前 カレル=ウォルター
年齢 0
種族 普人族
レベル 0
適正 【光】【闇】【時空】
魔力 134125125/134125125
体力 9
筋力 13
俊敏 17
精神 24
気力 24/24
スキル
[剣技lv3][並列思考lv5][魔力制御lv4][光属性魔法lv2][闇属性魔法lv2][時空属性魔法lv1]
固有スキル
[無限の心臓][全知の理][時間凍結]
称号