003
次に目を覚ました時、僕は金髪翠眼の女に抱きかかえられていた。
驚いて逃げ出そうとするも、体がうまく動かない。
「はいはい。カレルちゃんは元気でちゅねー」
声を聞くと、違和感を感じた。
耳に入ってくる言語は知らない言語なのに、不思議と意味がわかるのだ。
そして、金髪の女は僕をあやすように、赤ん坊に話しかけるように言ったこともわかった。
赤ん坊じゃないのにと思って抗議の声を上げようとした。
「あう~あう~」
声が思ったように出せない。一体どうしたんだ、と思って周りを見わたそうとする。
すると、青髪茶眼の男が部屋に入ってきた。
「メルヴィー、カレルは元気か?」
「うん、あまり泣かない子だけど、しっかりしてそう。目の色は変わっているけれど、きっと立派な魔術師になるわよ」
「そうか。それを聞いて安心した。さすがは俺とメルヴィーの子供だ。いいか、カレル、立派な魔術師になるんだぞ」
どうやら僕はカレルと言う赤ん坊に転生したらしい。そして女の方が母親のメルヴィー、そして青髪の男が父親のようだ。魔術師、魔術師と連呼していることから、魔術師の家系なのかもしれない。
「カレルはまだ子供よ。そんなこと言ってもわかるわけないじゃない。ねえ、カレル?」
「あう~あう~」
親の言っていることがわかるのに話せないというのはとてももどかしい。早く言葉を喋れるようになりたいものだ。
夕方になって、親が僕を寝かしつけた。これはチャンスだ。神様によれば、この世界にはステータスなるものが存在するらしい。まず、口に出してみることにした。
「あう~あう」
やっぱり、喋ることはまだできないらしい。次は、頭の中で念じてみた
(ステータス)
すると、頭の中にこのような情報が浮かび上がってきた。
名前 カレル=ウォルター
年齢 0
種族 普人族
レベル 0
適正 【光】【闇】【時空】
魔力 10/10
体力 3
筋力 2
俊敏 5
精神 7
気力 7/7
スキル
[剣技lv3][並列思考lv4]
固有スキル
[無限の心臓][全知の理][時間凍結]
称号
明らかに突っ込みどころが多すぎる。
まず、魔力、体力、筋力、精神は普通の値だろう、少し精神が高い気もするが。
スキルはまだわかる。
[剣技lv3]は剣道をやっていたからだろうし、[並列思考lv4]も前世でそのようなことをやっていた。
でも、その下の物々しい固有スキルたちには突っ込みどころが多すぎる。特に[時間凍結]なんて明らかにやばそうじゃないか、そう思っていると画面が切り替わった。
[時間凍結]
自分の周囲半径100メートルの自分以外の時間を10秒間停止させる。
1度使うと再度使用可能になるまで1ヶ月かかる
思った通りかなりやばい代物だった。
1ヶ月のリキャストタイムがあるとはいえ、チートすぎる。
神様が言ってた、あの時君は時間を加速させたんだよ、的なので手に入れたのだろう。
他の固有スキルも見てみることにする。
[無限の心臓]
魔力を使った分だけ最大魔力が増える。
魔力を1秒あたり最大値の1%生産する。
火、水、風、土属性魔法が使用不可能になる。
[全知の理]
世界中のすべての知識を知ることができる。(一部封印されている知識を除き)
必要な時に必要な知識を検索し、提供する。
[無限の心臓]も[全知の理]も[時間凍結]に負けず劣らず、いや、それ以上のチートだった。
[無限の心臓]は名前からして多分魔王の固有スキルだろう。
文字通り、ほぼ無限の魔力をつかえるんだから、魔法を打ち放題だ。
火、水、風、土属性魔法が使用不可能なんて、些細なことのように思える。
ということは[全知の理]は勇者の固有スキルなのだろう。
両親の言葉を生まれて間もない僕が理解できる理由は、これのなのだろうか?
<はい、そうです>
とつぜん、頭の中に声が響いてきた。
驚いてあたりを見回してみる。
でも周りには誰もいない、誰だ? と思う。
<[全知の理]です。このスキルは使用者自身の力だけで使いこなすことが困難なので、検索用の疑似人格を持ちます>
頭の中にまた声が響いてきた。
どうやら[全知の理]の仕業らしい。
どうやら僕の思考を読んで話しかけているようだ。
どこぞの神と同じように。なので、頭の中でこう考えてみる。
[全知の理]は、もともと勇者の物で、[無限の心臓]は魔王の物だったのか?
<その通りです>
思った通り、頭の中に疑問を浮かべた時に発動するようだ。
けれど、疑問を持つたびに答えが返ってくるなんて、厄介なスキルだ。
どうにかならないものか?
<はい。そのような設定にすることも可能です。そのような設定にしますか?>
どうにかなるようだ。そういう設定にしたい、と思う。
<設定を変更しました。これからは[全知の理]に知識を求めた時のみ発動します>
これで[全知の理]の問題も解決した。
あまりにすんなりと解決して、なんだか少し変な気分だ。
すっきりしたので、[剣技lv3]と[並列思考lv4]も見てみることにする。
[剣技lv3] Normal
剣をうまく扱うことのできるスキル。
剣を扱う時、動きに若干補正。
[並列思考lv4] SuperRare
同時に複数のことを考えられるスキル。
lv4では、同時に5つのことを考えられる。
どちらも、思った通りの内容の普通のスキルだ。
スキルの後にあるのはレア度だろうか。[全知の理]、略してアカレコ先生に聞いて見る
<はい、その通りです。Normal、Rare、SuperRare、HyperRareの四段階です。>
最初からSuperRareのスキルを持っていることもかなり特殊かもしれない。
もし、鑑定などのスキルがあるなら、テンプレ通りに偽装を取る必要がある。
そんな風に思っていると、急に眠気が襲ってきた。0歳児の体では、長時間の睡眠が必要なのか。そして、僕はそのまま意識を手放した。
次にチャンスが巡ってきたのは昼前だった。
両親は僕が昼寝をしていると思って部屋から出て行った。
0歳児の体で、起きていられる時間は限られている。
その中でも、自由に行動できる時間はさらに限られている。
その時のために、何をするかは既に決めてあるのだ。
まず、アカレコ先生に質問する。
偽装スキルはあるのか、あるとしたらどうやって取得するのか?
<はい、あります。ステータス画面の数値を書き換えるようにし続けると取得できます>
アカレコ先生は、今日もチートっぷりだ。
でも、少し気になることがあったので、聞いてみる。
偽装でスキルや固有スキルは隠せるのか?
<いいえ、できません。それ以外に[隠蔽]が必要になります>
危なかった。ステータスを隠すだけじゃあまり意味がない。じゃあ、[隠蔽]は、どうやって取得するのか?
<ステータス画面のスキルを隠すようにし続けていれると取得できます>
[偽装]も[隠蔽]も早めに取りたい。[並列思考]で同時に行おう。
[偽装]と[隠蔽]の訓練を行いながら、もう一つのテンプレとでも言うべきスキルについて、ほぼ有ると確証しつつも質問する。
鑑定スキルはあるのか。あるとしたらどうやって取得するのか?
<はい、あります。他の物の情報が欲しいと思いながらものを見ていると、取得できます>
やっぱり、[鑑定]もあった。
[並列思考]で、同時に訓練に追加する。
そして、必須級に思われたスキルは全てわかったので、最後に異世界最大のテンプレとでもいうべき魔法について聞いてみる。
魔法はどうやって使うのか、使うのに必須のスキルは何か?
<魔法は4種類存在します。無属性魔法、属性魔法、精霊魔法、竜言語魔法、非属性魔法です。
無属性魔法は[魔力操作]というスキルが必要です。体内の魔力を直接操作して魔法を行使します。効率が悪いので、身体強化以外はほとんど使われません。
属性魔法には[魔力操作][◯属性魔法]というスキルが必要です。体内の魔力を詠唱で具体的なイメージに変化させ、効果を発現させます。これはいわゆる普通の魔法です。
精霊魔法は精霊と契約して使用する魔法です。特に必要なスキルはありませんが、精霊との契約が必要になります。詠唱をすると契約している精霊が体内魔力を使って魔法を発動させてくれます。
竜言語魔法は竜人または竜のみが使用できる魔法です。体内にある特殊な発声器官を使って魔力そのものを詠唱に乗せ、強力な効果を発現します。
非属性魔法は、どの魔法にも属さない魔法です。[◯魔法]という魔法ごとに対応するスキルが必要です。奴隷契約や従魔契約等の時に使われる契約魔法、召喚魔法などが主に挙げられます。>
精霊と契約なんてしていないので、精霊魔法は除外。
奴隷契約をする気はないし、従魔契約も契約する相手がいないし、こんな室内で召喚なんて出来ないので、非属性魔法も除外。
竜言語魔法はさらに論外。残ったのは無属性魔法と属性魔法だが、どちらにも[魔力操作]というスキルが必要らしい。
[魔力操作]はどうやって取得するのか?
<体内の心臓あたりに溜まっている体内魔力を感知することができれば取得できます>
魔力は心臓あたりにたまるらしい。ファンタージの定番どおりだ。
あと、今後属性魔法を使うこともあるだろう。
[◯属性魔法]はどうやって取得するんだろうか?
<[魔力操作]で、魔力の感知が出来たあとに、詠唱などで魔力を具体的なイメージに変える訓練をすれば、取得できます。ただし、適性のない属性は使えません>
[魔力操作]が前提スキルらしい。
まずは、魔力を感知するところから始めてみよう。
いろいろなことをしたい時は、やっぱり定番の[並列思考]を使うのが一番早い。
他が無茶苦茶すぎるからあまり目立たないが、十分チートと言っていい性能だ。
この日は眠くなるまで[隠蔽]、[偽装]、[鑑定]、[魔力操作]の訓練を行ったが何も取得できなかった。
そこまで甘くはないらしい。
その後、時間が空くたびに[隠蔽]、[偽装]、[鑑定]、[魔力操作]の訓練を行った。
そして、最初に成果が現れたのは5日後だった。
いつものように魔力を感知しようとしていると、心臓のあたりに何かエネルギーのような物を感じた。
ステータスを見ると、[魔力操作lv1]が追加されていた。
[魔力操作lv1]Normal
自分の魔力を操作することができる。
これで魔法が使える!と喜んで、定番のアカレコ先生に聞いてみることにしてみる。
これで魔法が使えるのだろうか?
<はい、無属性魔法が使えます>
属性魔法にも興味はあるが、まずは何と言っても魔法を使いたい。どんな無属性魔法が使えるのだろうか?
<無属性魔法でオーソドックスな物は、体に魔力を行き渡らせて強化する身体強化です。魔力をエネルギーの塊として凝縮して放つもの、周囲に魔力を周りに撒き散らして威圧するなどもありますが、燃費が悪いのであまり使われません>
他の無属性魔法にも興味はあるが、まずはアカレコ先生オススメの身体強化を使ってみよう。
心臓あたりにあるエネルギーを身体中に行き渡らせるようにイメージする。
何回か行っていると、魔力が心臓から抜けて全身に行き渡っていくような感覚がした。
そして、急に疲労感に襲われた。
驚いてステータスの魔力を見ると、
0/20
となっていた。どうやら魔力切れらしい。[無限の心臓]で、魔力の上限が増えている。
疲労感は、[無限の心臓]の効果で、魔力が半分回復するまで続いた。
どうやら、魔力を使い切ると半分まで回復するまで疲労感に襲われるらしい。アカレコ先生に確認してみると
<そうです>
と、返って来た。
魔力操作の訓練は、[無限の心臓]と、身体強化とのコンボで魔力の最大値の上昇に切りかえることにした。
あと、[魔力操作lv1]は身体強化が使えるようになった時点で[魔力操作lv2]になっていた。
あと、身体強化を使うとハイハイだけれどベビーベッドから脱出することができるようになった。
身体強化で魔力が減らなくなったのは魔力の最大値が1000を超えた時からだった。
どうやら身体強化には魔力を1秒ごとに10消費するらしい。
つまり、1秒ごとに魔力の最大値が10増加するということだ。
[無限の心臓]がチートっぷりを発揮し始めた。
どんどん魔力が余っていくので、身体強化にさらに多くの魔力を注ぎ込むことにした。
注ぎ込む量は20になり、50になり、100になった。
試しに100をつぎ込んだ身体強化の力を試してみようとしてみたら普通に立ち上がることができ、少し力を込めると木製のベビーベッドの柵が潰れてしまった。
赤ん坊の姿でこれ以上は危険だと思い、100で止めることにした。
これでも十分危険だと思うが。
ちなみに、潰れてしまったかわいそうなベッドには布団をかけて誤魔化しておいた。
これでいつまで持つかはわからないが、まあ、当分の間は誤魔化せるだろう。
というわけで、身体強化以外の魔力の使い道を探らなければならない。
他の無属性魔法では、威圧だと親を呼び寄せてしまう危険性が有るので、魔力を凝縮して放つ、いわゆる魔力弾を使ってみることにしてみた。
右手の前に、試しに100程度の魔力を凝縮して、本棚の方へ向かって放つ。ちなみにどれぐらいの魔力の量かはっきりわかるようになったのは[魔力操作lv6]になった時からだ。
魔力弾はひょろひょろと力なく飛んで、本の背表紙にぶつかって消えた。
思っていたよりもかなり弱かった。これでは燃費が悪くて使う人がほとんどいないというのも当然だ。
けれど、今の僕は燃料が余り余っている状態だ。魔力弾ならば、かなり魔力を消費することができる。
何回か試験を行った結果200までなら安全ラインだとわかった。
200までの魔力で[魔力操作]の訓練も兼ねて曲打ち、戻ってくる魔力弾など、いろいろな打ち方を試した。
結果、魔力弾は込めた魔力の量によって操作できる幅が広がるとわかった。
数日の間魔力弾を撃ちまくっていたが、魔力弾などでは全く魔力の回復量に追いつかなくなるまでにそこまで時間はかからなかった。
鑑定を筆頭とする三種のスキルはまだ取得できていないのに魔力だけがどんどん伸びていく。
属性魔法も試したいとは思うが、[並列思考]を一つは開けておきたいし、今までずっと無属性魔法を使ってきたので、途中で属性魔法に移行するのは気が引ける。
そこで、オリジナルの無属性魔法を作ってみることにした。
魔力を凝縮させて固形化する魔法だ。魔力を試しに1000ほどつぎ込んで固形化するイメージをする。すると、いびつな形に固まった透明なナニカができて、数分持った。
これだと全く使い物にならない。次は10センチ四方の立方体をイメージしてみる。魔力を2000ほど持って行かれて、10センチ四方の立方体が出来た。
これなら武器も作ることができるかもしれない。次は日本刀をイメージしてみる。魔力を5000ほど使って透明な日本刀ができた。これなら、実用性があり、魔力も足りそうだ。
試しに魔力でできた日本刀をベビーベッドの端にぶつけてみる。すると、すぐに魔力が霧散してしまった。これだと武器にはならない。
魔力の量を変えて試してみたかったが、両親が部屋に入ってきた。生まれてまだ間もないのに、魔法を使っている子供なんてどう考えてもきみが悪い。後ろ髪を引かれる思いだが、訓練は一旦中断する。
「本当にカレルは泣かない子ねー、ブラッド」
父親の方の名前を初めて聞いた。ブラッドというらしい。そういえばステータスの僕の名前に苗字があったはずだ。きている服も上等だし貴族なんだろうか?
「我慢強い子は大物になる。この子もきっと立派な魔術師になる。鑑定の儀が楽しみだ」
えっ、鑑定の儀?
名前 カレル=ウォルター
年齢 0
種族 普人族
レベル 0
適正 【光】【闇】【時空】
魔力 65135/65135
体力 5
筋力 6
俊敏 9
精神 14
気力 14/14
スキル
[剣技lv3][並列思考lv4][魔力操作lv9]
固有スキル
[無限の心臓][全知の理][時間凍結]
称号