026
とりあえず宣言しておくと、第弐章の終わりより前では急展開はありません。
逆を返すと、第弐章の終わりには急展開を予定しています。
イェスミラから魔導街ルオノヴァーラまでの旅は、本当に何もなかった。
そして、僕はさっき魔導街ルオノヴァーラの目前にまでたどり着いたのだが、街に入ることができなかった。
その理由は、ルオノヴァーラ魔法王国が魔法絶対主義の国だったからだ。
僕は、帝都の時と同じように、入都審査の列に並んだ。
そして、普通に身分証明書として冒険者カードを提示したのだが、それだけでは終わらなかった。
「すみません、この水晶玉に手を触れていただけませんか?」
ローブを着た衛兵らしくない衛兵が言った。
その瞬間、僕は悪い予感しかしなかった。
けれど、不安な心の内を隠して、平静を取り繕った。
「ええっと、ただこれに触るだけでいいんですか?」
「はい。お願いします」
水晶玉と魔法と触れるだけ、本当に嫌な予感がする。
ここはルオノヴァーラ魔法王国、それゆえに魔法関連技術も発達している。
もし、これが適正属性を見るための魔道具ならば、ラノリア王国の鑑定の儀で使われていたものより性能が優れていると考えるべきだろう。
つまり、最低でも僕の光属性は見抜かれるということである。
最悪の場合、僕が闇属性を所持していることがバレたら魔族として指名手配されかねない。
しかし、ここで逃げるのも愚策である。
僕はここでギルドカードを見せてしまっているから身元が割れているし、もし何も起こらないとしたら笑い者である。
というかここで逃げ出すのは、いつもはあまりプライドとかを気にしない僕でも、プライドに傷が付く行為だと思う。
もし、闇属性として指名手配されそうになったら、奥の手の深淵属性の精神干渉を使えば誤魔化せないこともない。
万万万が一指名手配されたとしても、登録名が偽名なので、光属性の幻術を使って髪の色とかを変えることでもごまかせる。
そう自分を安心させると、僕は意を決して水晶玉に手を触れた。
水晶玉は、光らなかった。
どうやら僕はことごとく水晶玉が光らない運命にあるらしい。
それにしても、さっきまでのいらない心配はなんだったんだろうか、少し真剣になって考えてしまったことがなんだか可笑しくなって、苦笑してしまった。
「すみません、無属性の方の入都はお断りなんです」
えっ、そんなこと聞いてないんですけれど!
「えっ、そうなんですか?」
「ここまでわざわざ来ていただいたのに申し訳ないんですが、ここには入れないという決まりなんですよ。次の方のご迷惑となってしまうので、お早めにお引き取りいただけませんか? ってなわけで、さっさと消えろ無能野郎」
丁寧な口調からの豹変ぶりには驚かされるが、ここで怒って態度を荒げても時間の無駄だ。
ちょっと光属性だけでも見せて驚かせてやろうか、という思いを心の奥底に押し込めて、そそくさと退散することにした。
「わかりました。では、失礼します」
というわけで、僕は街に入ることができなかった。
まあ、別におかしな話ではない。
魔法絶対主義というのだから、普通ならば満足に魔法を使うことのできない無属性は忌避されるのも当然だろう。
まあ、僕は魔力量の多さに物を言わせた無属性魔法だけでも結構戦える自信はあるが。
それにしても、
今回のこの事態を招いたのは、[全知の理]で情報を仕入れなかったからだ。
帝都での一件の後から、僕は必要以上に[全知の理]に頼るのをやめていたので、魔導街に無属性は入れないという、おまけみたいな情報など全く知らなかったのである。
しかし、前世の頃の僕ならこの可能性ぐらいは予想することができたはずである。
確か、前世の頃は僕の予想は不慮の事態を除けば、ほぼ100%の未来予知に近いものにまで昇華していたはずだ。
ラノリア王国での、適正属性鑑定の魔道具の性能から考えて、光属性が鑑定対象から外れている可能性も十分ありえた。
ラノリア王国で両親が僕を無属性だからといって捨てたことから、無属性がこの「魔法王国」で不遇な扱いを受けている可能性も十分にあった。
これらの情報から、僕なら僕が魔導街の入場を制限される可能性も十分に導き出せるはずである。
これまでずっと[全知の理]に頼って来たツキだな、と僕は自嘲した。
けれど、何かわからないことがあったらすぐに[全知の理]という体制をやめれば、そう長くないうちに”擬似”未来予知の感覚を取り戻せるだろう。
今後は[全知の理]を使うのは本当に必要な情報だけにして、残りはギルド地下の書庫で調べたりして情報を集めよう、と僕は決心した。
とりあえず、今はまだ十分に食料などはあるので、今ここですぐに困るというわけではない。
しかし、今まで目標として来たルオノヴァーラ魔法王国でこんなことが起こってしまったので、次にどこを目指すか決めなければならない。
まず、ラノリア王国は却下、理由は言わずもがな。
エルヴァスティー帝国、直前に来た国に戻るつもりはない。
リンドヴァル王国、エルヴァスティー帝国を突っ切るので、元来た道を戻ることになる。
コルヴィ教国、光属性を神の属性として神格化しているこの国に行ったら色々と厄介なことになる。
何にせよ、僕は神の祝福のみで授かることにできる光属性を生まれながらにして持っているのだ。
神の御子とか言われて祭り上げられたりするかもしれないし、神への冒涜として死罪になるかもしれない。
ヤラヴァ共和国、ここはあまりいい印象はない。
僕がこの国について知っていることといえば、元老院による独裁政治が行われている、ということである。
つまり、リンドロート大陸にはあまり行きたい国はないのである。
では、どの大陸に行くか?
ここは迷わず答えよう、レンダール大陸である。
レンダール大陸、全大陸中最小にして、単一国家によって形成されている。
その国家とは、都市連合国家シュタットである。
また旅を始める、ということで異空間の中身をチェックする。
食料は少し減ったということがわかるぐらいで、尽きる様子はほとんどない。
『漆黒の鎌』で買った武器? も、ダニエレ君からもらった木剣も、睡眠に使っている布団も、魔導水泉も、例の呪いの剣も、何一つなくなっているものはない。
それにしても情の再生剣を使うのはいつになるのだろうか、とふと思った。
ルオノヴァーラ魔法王国は小さな国である、しかし、その小さな国は同時に二つの重要な役割を果たしている。
一つは魔術師の育成、世界中の人間の有名な魔術師のうちの多くをこの国が輩出している。
もう一つは、リンンドロート大陸からレンダール大陸への玄関口である。
この国は大陸の西端に位置しているため、この国にある港町ノアンからは、唯一レンダール大陸へと渡航する船が出ているのである。
また、地理的にはラノリア王国からも船を出すことはできるのだが、ラノリア王国の国策は都市連合国家シュタットの、多様性という理念と相反するため、二国の間に国交はないのだ。
逆にルオノヴァーラ魔法王国は自分達が魔法の研究をできればいい、というインテリ派の理念を掲げているので、シュタットの理念とうまく噛み合っているため、リンドロート大陸の中で唯一シュタットと結構良好な仲を築いている。
なお、これらは全て[全知の理]による知識だ。
今聞いたわけではなく、僕がまだ獣人達の集落にいた時に聞いた知識である。
本当に便利なんだけれどな、と今は[全知の理]を使わないことにしている僕は少し恨めしく思った。
港町ノアンは魔導街から南西の方角にある。
そして、当然のことながら大きな街道が港町まで通じている。
僕は時間短縮のために飛んで行ってもいいのだが、ここも普通に歩くことに決めた。
時間はまだ十分にある、というか、制限時間も何もこの先の予定すらも決まっていない旅だ。
ゆっくり行ったって問題はないし、咎めるような人もいない。
変に生き急いでも仕方がないし、ここはきちんと大地を踏みしめて歩こう、そう思った。
港町ノアンまではそこまで時間はかからなかった。
魔導街からノアンまでは三日ほどでついた。
一日あたり60キロ強ぐらい歩いているので、まあ、200キロ弱といったところかな。
そこまで遠いというわけではないが、そこまで近いというわけでもない。
ただし、人の通行は前に比べてもかなり多かったので、やっぱりルオノヴァーラ魔法王国は都市国家シュタットと良好な仲を築いているのだな、と再確認させられた。
単にs他に仲良くできる国がないだけかもしれないが。
「すみません、レンダール大陸行きの船はどこにいけば乗れますか?」
「ああ、それならここから出て右に真っ直ぐいったところにある、船舶総合相談所が便利ですよ」
「どうもありがとうございます」
冒険者ギルドで道を聞く、結構新鮮だがなかなか悪くはない。
登録したての頃は[全知の理]頼りで行くつもりだったから特に気にしてはいなかったのだが、ギルドには情報提供のサービスというものがあるらしいので、それを有効活用させてもらうことにする。
それにしても、冒険者ギルドはどこの街にもあるな。
まさか本当にどこにでも、ってことはないとは思いたいが、今までギルドのない街を見たことはない。
都市連合国家シュタットにはギルドの総本部もあるらしいので、そこで聞いてみるのもいいかもしれない、と思った。
船舶総合相談所とかいうのはそこまで遠いところではなかった。
ギルドから出て右に歩いて十分、僕は冒険者ギルドに負けず劣らず立派な造りの建物にたどり着いた。
銀色に輝くご立派な看板のおかげですぐにこの建物が目的の建物だとわかった。
その建物はどうやらその大きさに見合うだけの仕事をしているようで、頑丈そうな扉は出入りする人達によって開いたり閉じたりを繰り返している。
出入りする人々も千差万別、屈強そうな冒険者から、ひ弱そうな商人、目を輝かせている若者まで。
さて、僕はどんな扱いを受けることになるのかな、と思いながら僕はその人々の流れの中に身を投じた。
名前 ハクヤ=アイザワ
年齢 7
種族 普人族
レベル 96
職業 魔法剣士lv6
職業履歴 見習い魔術師 見習い剣士 魔術師 剣士
適正 【光】【闇】【時空】【神聖】【深淵】
魔力 error
体力 11823
筋力 10456
俊敏 11902
精神 22865
気力 22865/22865
スキル
[剣術lv7][多重思考lv2][光属性魔法lv10][闇属性魔法lv10][時空属性魔法lv8][鑑定lv6][偽装lv6][隠蔽lv6][隠密lv3][再生lv3][神聖属性魔法lv6][深淵属性魔法lv7]
武技
剣:
固有スキル
[無限の心臓][全知の理][時間凍結][絶対魔力圏][龍装顕現:風龍剣ヴィント]
称号
[神域に辿りつきし者][深淵に辿りつきし者][龍殺し][下克上][無謀なる挑戦者][大物喰らい][反逆の使徒][ゴブリンキラー][ゴブリンスレイヤー][コボルトキラー][スライムキラー][スライムスレイヤー]