022
照りつける日差しのもと、僕達が護衛している馬車は何事もなく進んだ。
馬車に乗っているフィボリオ商会長が僕に声をかけてきた。
「そう言えば、ハクアさんはその年でDランクなんてお強いんですね」
「いえいえ、大したことはありませんよ」
「ご謙遜を。十分に強いんでしょう」
「いや、ライ君の方が強いよ」
クレア、最強議論に参戦す。
こうして、平穏に馬車は進んでいく。
道中でゴブリンやコボルトが数匹出てきて、僕の剣とトルハマーの斧で吹き飛ばされたが、これは平穏のうちに入るだろう。
夜になって、野営をすることになった。
街道の端に馬車を止め、その横にテントを張るのだ。
馬車の中に一人は入れるが、全員はさすがに無理なのである。
テントを広げてライ君の魔法で焚き火をつける。
ルオノヴァーラ魔法学園の最年少主席卒業者は伊達ではなく、無詠唱で火をつけていた。
夕食は黒パンと干し肉だった。
トルハマーさんは一人だけお酒を持っていて、一人だけ飲んでいた。
保存食だからこれは仕方ないことなのだろう、と割り切って食べた。
異空間から食べ物を持ち出そうとしたことは秘密である。
夕食後、6人は3人ずつに分かれた。
白の双櫃と、その他という分け方である。
「それにしても、朝はすまんかったな、坊主。ちゃんと戦えるじゃねえか。下手したら俺よりも強いぐらいだぜ」
トルハマーは、そこまで嫌なやつじゃなかったようだ。
けれど、息がめっちゃ酒くさい。
「いえいえ、そんなことはないですよ」
「嘘をつけ。お前の振り方は明らかに経験者の振り方だ」
「そうですかねー。そう言えば、トルハマーさんも十分にCランクになってもおかしくない実力だと思うんですが」
「ああ、それか。少し前に貴族と問題を起こしたんだ」
「それは一体どんな?」
「ラノリア王国の貴族でなあ、ああ、思い出したら腹が立ってきた。ブラッド=ウォルターとかいう貴族から指名依頼を受けたんだが、その内容がヤバくて断ったら降格ってわけだ」
そいつ、うちの父親だ。
そんなことをやっているのか。
父親が迷惑をかけてすみません、と心の中でつぶやきながら、父親が自分を殺さなかったことを感謝する。
「貴族に冒険者のランクを下げる権利なんて、」
「それがあるんだよな。SランクとかAランクだったら無理だろうが、ただのCランクなら、Eランクまで落とすことなんてギルドに賄賂を支払えばいいだけだ」
「それにしても、ヤバイ内容って一体なんですか」
「暗殺だよ、暗殺。魔法派閥と聖光教派閥の対立が最近さらに激しくなってな、聖光教派閥の重鎮の有能な側近を暗殺しろ、だとさ」
ラノリア王国から早めに足を洗って本当に良かったー。
「そんなことが起こっているんですか。それは大変ですね」
「俺のランクを降格させたのは、脅しみたいな意味もあると思う。まあ、そういうわけで、この国に逃げてきたって感じだ」
「それは災難でしたね」
「お前も気をつけろよ、そこそこ有名になってくると貴族に付け狙われるぞ」
「わかりました。気をつけます」
「まあ、ガキの頃からDランク以上なんだから、AとかSとかになってても大して驚きはしないがな」
「それぐらいを目指しますが、そこまでいくかはわかりませんよ」
「そこでできるはずがない、って言わねえとこが図々しいぜ。せいぜい頑張れよ」
こうして、夜は更けていく。
ちなみに、寝ている間の見張りは三時間ごとのローテーションということになった。
僕、3人、トルハマーの順番だ。
最初は一人ずつのはずだったのだが、ライ君大好きな二人組が強引に主張を押し通した関係でこうなった。
僕が最初の見張りを引き受けたのはふたつ理由がある。
一つ目は、まとまった睡眠が取れること。
二つ目は、秘密裏に魔物を処理できることだ。
僕は、全員が寝静まったのを見届けると、まずはテントの周りに結界を展開する。
そして、半径10キロの圏内で空間探知を発動した。
2キロの圏内には、数十匹の魔物がいる。
どいつもこいつも大して強くはないが、テントの周りにきて睡眠を妨害されるのだけはごめんだ。
なので、深淵属性魔法の腐食の矢を凝縮して発動させる。
腐食、簡単にいうと溶かして分解するめっちゃ凶悪なあれだ。
威力をあげれば、跡形もなく分解することも可能である。
そして、今の僕なら、10キロ先までならほとんど狂いはなく魔物を打ち抜ける。
その後数分で数十匹の魔物は土レベルまで分解された。
なお、腐食を使ったのは魔物の死体が残らないからだ。
もし、魔物が残っていた場合誰かに怪しまれるかもしれない。
こうして、僕は睡眠時間の確保に成功した。
三時間の間、魔物が来ないとわかっていながら見張りをするのは結構大変だったが、ちゃんと眠らずに立っていることができた。
時間になってライ君ハーレムに見張りを引き継ぐと、すぐに眠ることにした。
魔物は来ないと思いますが、頑張ってください。
朝起きてわかったが、結局魔物は来なかったらしい。
まあ、当たり前といえば当たり前だ。
「それにしても、昨夜はやけに魔物が来ませんでしたねー」
「ああ。この辺りは魔物が多いと聞くのに、魔物の気配すら感じられなかった。珍しいこともあるもんだ」
もしかしたら、一体ぐらいは残しておくべきだったのかと思ったが、今となってはもう遅い。
明日は数体ぐらいは魔物を残しておくことに決めた僕だった。
その後、旅は順調に進んだ。
魔物に襲われても後衛の3人はまるで必要なく、剣と斧だけで殲滅されるという末路を辿った。
4日目のこと、僕は空間探知に妙な反応を発見した。
1キロ程前方で13人が街道の脇に潜んでいる。
潜んでいると言っても、僕の空間探知の前には無意味なのだが。
そして、こいつらは多分盗賊だろう。
全員が全員手に武器を持っている。
前後に少し分かれているから、多分挟み撃ちにするつもりなのだろう。
けれど、このパーティーに対してはいささか無謀すぎるだろう。
僕は放っておいても大丈夫だと判断し、そのまま何もしなかった。
盗賊たちが何もして来なければ、そのまま見逃すつもりだ。
できればでて来ない方が賢明だよ、内心でそう忠告した。
けれど多分でてくるだろうな、そう思って木剣を手に取った。
そして、予想は当たった。
「おい、命が惜しければ金目のものを全て置いていけ。言う通りにすれば命までは取らないで置いてやる」
道の真ん中に覆面の男が躍り出て来た。
そして、それに続くように数人の男たちがでてくる。
そして、後ろも瞬く間にふさがれて完全に囲まれた。
「すいません。この盗賊たちはどう対処すればいいのでしょうか?」
僕は、木剣を構えながらトルハマーに確認をとる。
「盗賊は殺しても罪にはならないが、犯罪奴隷としてある程度の値段で売れるから普通は捕まえることの方が多い。多分こいつらはこの護衛が子供ばかりだから油断してでて来たんだろうな。俺一人ならどうにかなると。まあ、こいつらはバカと言っちゃバカだが、それとはいえ全く怯えていないお前らみたいな子供も異常だと思うぞ」
「いえ、負けるつもりはないので」
「まあ、そうだろうな」
「じゃあ、全員を殺さないで意識を奪えばいいんですね?」
「おい、そこ何を話している!さっさと武器を捨てて投降しろ!」
自分たちの破滅に気がついていない盗賊のお頭が哀れに見えて来た。
僕は、無言で木剣を構えて意思表示をする。
トルハマーも戦斧を無言で構える。
「身の程知らずが!やっちまえ!」
親分の言葉を合図に、盗賊達全員が武器を持って襲いかかって来た。
どの武器もそこまで質は良くなく、中には武器と言えるのか怪しいものを持っているものもいる。
「後ろは任せます!」
「「「わかった」」」
白の双櫃の3人に後ろの敵を任せて、僕とトルハマーは前方の敵に突っ込んだ。
襲いくる武器を難なくかわし、木剣を頭に胴に叩き込む。
トルハマーは斧の柄だけで攻撃していたので、どうやら僕ほど効率は良くないようだ。
戦闘は一瞬で終わった。
いや、これは戦闘と呼ぶよりむしろ蹂躙と呼んだ方がいいのかもしれない。
親分を始めとする前側の盗賊は30秒と経たずに壊滅した。
手加減はしたので死ぬことは多分ないと思うが、少なくとも一時間は目を覚ますことはないだろう。
ふと、後ろを振り返ると、そっちもすでに戦闘は終わっていた。
全員が土属性魔法での拘束魔法で、抵抗する間も無く捕縛されたようだ。
詠唱は聞こえなかったから、多分ライ君とやらの無詠唱魔法だろう。
なんだか盗賊が本当に可哀想になって来た。
まあ、可哀想だからと言って逃がす権利は僕にはないが。
ちなみに、あの二人組は平常運転でライ君をべた褒めしていた。
そういえば、僕はこいつらが戦っているのを見たことがない。
ライ君一人で済んでしまっているからか、ライ君の戦いについていけるほどの実力がないのか、ライ君の勇姿を見届けるためにあえて戦わないのかは、僕の知るところではない。
ちなみに、フィボリオ商会長は馬車の中でじっとしていたが、僕たち護衛に信頼を置いていたのであまり心配はなかったと言っていた。
「だって、普通のDランクの動きじゃないですよ、魔物を掃除するように屠る動きも、盗賊を前にして動揺すらしないのも。盗賊の方が可哀想に見えてきます」
確かにそうかもしれない、と思った。
帝都まではあとそれほど遠くないから、盗賊を捕まえた状態で長い時間旅をしたくはないので、強行軍で帝都まで行ってしまおうということになった。
盗賊達の手を縄で縛って一列に数珠繋ぎにして、馬車にくくりつける。
その姿を見て、ここが異世界だから成立しているけれど日本だったら確実にアウトだな、と思ってしまった。
また、人を道具のように売ることにかなり抵抗を覚えてはいたが、ここは異世界だと思って納得せざるを得なかった。
強行軍になっても、体力のある僕、トルハマーとライ君、そして馬車に乗っているフィボリオさんは特になんともなかった。
大変だったのはライ君の取り巻き二人、そして哀れな盗賊達である。
ライ君の取り巻き二人はライ君のためなら、と言って頑張っていたが、盗賊達は捕まって炎天下で歩かされてと本当に救いようがない。
まあ、自業自得なので仕方がないといえば仕方がないが。
こうして、僕たちは帝都に到着した。
名前 ハクヤ=アイザワ
年齢 7
種族 普人族
レベル 95
職業 魔法剣士lv5
職業履歴 見習い魔術師 見習い剣士 魔術師 剣士
適正 【光】【闇】【時空】【神聖】【深淵】
魔力 error
体力 11451
筋力 10023
俊敏 11302
精神 21983
気力 21983/21983
スキル
[剣術lv7][多重思考lv2][光属性魔法lv10][闇属性魔法lv10][時空属性魔法lv8][鑑定lv6][偽装lv6][隠蔽lv6][隠密lv3][再生lv3][神聖属性魔法lv6][深淵属性魔法lv6]
武技
剣:
固有スキル
[無限の心臓][全知の理][時間凍結][絶対魔力圏][龍装顕現:風龍剣ヴィント]
称号
[神域に辿りつきし者][深淵に辿りつきし者][龍殺し][下克上][無謀なる挑戦者][大物喰らい][反逆の使徒][ゴブリンキラー][ゴブリンスレイヤー][コボルトキラー][スライムキラー][スライムスレイヤー]