015
ギルドマスター(仮)は、僕をFランク冒険者にする、と言った。
「それはどういうことでしょうか?」
ある程度返答を予想しながら尋ねる。
「お前の戦闘力はH級において置けるようなものじゃない。だからギルマス権限でランクアップさせてやる。以上だ」
なんとまあ清々しいほどの予想通りの答え。
そして、(仮)を外してもいいようだ。
「ほら、ランクアップさせてやるから早くカードをよこせ。こっちは忙しいんだ」
「はい、お願いします」
ギルドカードを放り投げる。
「おおーっと、落としかけたじゃねえか。放るなよー」
ギルドマスターが半ばふざけたように言う。
「でも結局取れましたよね」
「ははは、そりゃそうだ。すぐランクアップの手続きを、、ってここじゃできないか。一階でやるからついてこい」
それだけ言うと、ギルドマスターは階段を走って登って行った。
ふと、審判を務めていたギルドの職員の方を見ると、何を言いたいかが一発で判るような表情をしていた。
まるでまたか、とでも言いたそうな表情をしながら、ギルド職員は僕に階段の方を見て目配せをした。
僕は、別段急ぐ必要はないと思ったので、階段を普通に歩いて一階まで登った。
「遅かったじゃんえか、どれだけ待ったと思ってんだ」
一階に着くや否や階段の前で待ち構えていたギルドマスターが声をかけてきた。
「あまり待っていないと思うんですが?」
「ハハッ、そりゃそうだ。ほら、ギルドカードだ」
ギルドマスターはギルドカードを放り投げてきた。
難なく右手でキャッチして、言い返す。
「僕に対しては投げるなと言う割にはそっちは投げてくるんですね」
「お互い様だ。ちゃんとFランクに上がっているかどうかチェックしておけ」
「確かにそうですね、じゃあ、す、み、ま、せ、ん、で、し、た」
棒読みで謝罪し、ギルドカードを確かめる。
ハクア=ヤザワ Fランク
ちゃんと、更新されてFランクになっている。
「これでお前もFランクだ。Fランクからは討伐依頼を受けられるようになるから気をつけろ、と言ってもお前はまだ依頼を受けていないし、低級の討伐依頼で苦戦するとは思えないがな」
「ありがとうございます」
「じゃあ、こっちは忙しいのでもう行くぞ。そうだ、今度時間が空いたら俺と模擬戦をしてもらう」
それだけ言うと、ギルドマスターは階段を駆け上って行った。
自由人、という言葉が似合いそうな雰囲気だが、これでもギルドマスターの地位にいるんだから仕事はきっちりこなしているのだろう。
そういえば、もう夕方だ。
時計を見ると、いつのまにか七時を廻っている。
どこか、宿屋を探したいと思ったが、いつのまにか冒険者ギルド内は混雑している。
昼間の空き時間(と言っても仕事はあるのだろうが)にギルド職員に尋ねるならまだしろ、この状況でオススメの宿屋を尋ねるのは憚られる。
と言うわけで、恒例のアカレコ先生への質問タイムである。
この近くのオススメの宿屋は?
<まず、冒険者ギルド内にある宿屋です。大銅貨1枚で泊まることができる、とても安い宿です。
そして、ギルドの左隣にある、『赤コボルト亭』です。一泊大銅貨5枚です。ある程度お手頃な値段とそこそこの料理で、冒険者に人気の宿です。
最後は、ギルドを出て右に行ってしばらくのところにある、宿屋『花鳥風月』です。一泊銀貨5枚と大銅貨5枚と高額ですが、料理が値段に有り余って美味しい、と評判の高級チェーン宿で、各部屋に浴室が付いています>
最後の一軒にちょっとツッコミを入れたい。
異世界に来てチェーンがあるとは思わなかったよ!
多分、名前からして転生者が創業した宿だろう。
けれど、少しは世界観というものを考えようよ!
金貨3枚を決闘で手に入れたので、僕は『花鳥風月』に泊まることもできる。
けれど、無駄に浪費するのも良くないと思い、今日は冒険者ギルドの宿を選択することにした。
この世界の貨幣は、価値が低いものから、賎貨、鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨、王金貨となるらしい。
そして、10枚で一つ上の貨幣と等価である。
ものの値段から察すると、賎貨一枚は日本円にして1円ぐらいの価値だろう。
それを考えると、大銅貨1枚で泊まることのできる冒険者ギルドの宿というのは破格の値段だ。
ただし、冒険者ギルドに宿が付いていることについてはもう突っ込みを入れる気すらない。
宿は地下3階から地下5階だった。
僕はさっき通った階段を引き返した。
地下3階に宿の受付があった。
「お泊まり希望のお客様ですか?」
それにしても受付というのは女性がやるものだと誰が決めたのだろうか?
ここの受付も女性だった。
「はい、一泊お願いしたいです」
「わかりました。一泊大銅貨1枚です。先払いでお願いします」
「これでお願いします」
大銅貨を1枚出してカウンターの上に置く。
「確かに受け取りました。お部屋は511となります」
そう言って、511と数字の彫られた鍵を渡された。
「夕食は夜18時から26時までの間に、朝食は朝4時から9時までの間に、地下二階のギルド食堂で鍵を提示すれば食事が出てきます。では、良い休息を」
「ありがとうございます」
礼を言って部屋を目指した。
部屋は511、つまるところ地下五階だ。
二階分階段を降りて511と書かれた部屋の木製のドアの前に立つ。
少し錆びついた錠前に鍵を差し込んで回し、ドアノブを引く。
「これって何!ウサギ小屋?」
そう叫んでしまうほど宿の部屋は狭かった。
部屋にはベッドが一台あるだけで、それ以外には何もない、というかあっても入らないほど狭い。
そして、ベッドは有っても布団がない。枕らしき出っ張りが有るだけだ。
大銅貨1枚分の値段と考えれば納得がいく、のかな?
特に何もすることがないので、夕食を食べに行くことにした。
階段をまた登って地下二階の食堂を目指す。
地下二階の食堂は宿以外の客も利用できるようで、というか宿以外の客の方が多い。
食堂のカウンターで鍵を提示すると、すぐ食事が出てきた。
黒パンと具のないスープ、以上。
黒パンはとても硬く、スープにつけて柔らかくしないと食べられない程だった。
これぞ大銅貨1枚クオリティー。
結局、大してお腹も膨れないまま部屋に戻って、異空間から干し肉や木の実を出してつまんだ。
さて、明日のことについて考えてみよう。
明日は早起きして朝食を食べて、依頼に出発する。以上。
早起きすれば良い依頼があるかもしれない。
ギルドカードのアラームを朝の3時50分にセットして、異空間から布団を取り出して、寝る。
宿に泊まってまで自分の布団で寝るというのは結構虚しかった。
明日はもうギルドの宿は選ばない、と心に決めた。
「ピピピピピ」
電子音が響く。やっぱり、なれようとも思ってもこの違和感は拭えない。
ファンタジー世界に電子音を持ち込んだのは誰なのか、本当に聞き出したい。
思考を停止して、布団をしまって朝食を食べに行く。
なお、朝食は黒パンと干し肉一枚だった。
そして、朝早くから依頼を受けようと考えている冒険者は多くはないにしても一定数いるらしく、食堂にやってくる冒険者がちらほらいた。
宿の部屋の鍵を返し、一階へ向かう。
一階へつくや否や、誰かが二階からものすごい速度で走ってきて入り口のの扉を飛び出して行った。
あれは、多分ギルドマスターだ。
一体こんなところで何をしているんだろう?
そんなことを考えていると、昨日のギルド職員が追いかけるように一階まで走ってきて立ち止まると、諦めたような顔つきになってこぼした。
「また逃げられた、、」
「どうしたんですか?」
少しいたたまれなくなって声をかけた。
「ギルドマスターがね、今日も書類仕事を押し付けて討伐に行っちゃったんですよ」
苦笑いしながら答えるギルド職員。
「今日も、ということは?」
「はい。いつもこんな感じです」
「毎日逃げているんですか?」
「どうやって止めても逃げられます。職員になったら安定した生活が送れるようになると思っていたのに、実態はギルマスの仕事を代わりにこなしながら自分の仕事をする毎日です。討伐が早く終わった日だけは自分の仕事をしてくれるのでそういう日は楽なんですが」
昨日ギルドマスターは仕事をきっちりこなしているんだろうと思っていたが、それは間違いのようだった。
「心中お察しします」
マジでいたたまれない仕事だ。
ブラック企業とはこういうもののことを言うのだろうか。
「じゃあ、初依頼頑張ってくださいねー」
そう言って職員は二階へ戻って行った。
なんと言うか、ファイト。
気を取り直して依頼の掲示板を見る。
まず、 H、Gランクの依頼を見て見ると、確かに討伐依頼などはない。
ほとんどが街中での依頼で、G級には少しだけ街の外に出る採取依頼などがある。
依頼の例としては、配達、工事の手伝い、店舗の護衛、薬草採取などである。
特に報酬の高い依頼はなく、最高でも大銅貨2枚までだ。
薬草採取を始めとする常駐系の採取依頼は出来高制だが、どう頑張っても大銅貨に届くかどうかだろう。普通なら。
目を移してFランクの依頼を見てみる。
Fになっても討伐系の依頼は多くない。
常駐依頼のゴブリン、コボルトのみだ。
報酬は最高でも大銅貨5枚までだ、と思っていたらなんだか一個だけ変に報酬の高い依頼があった。
新人冒険者に絡む依頼
依頼主:ギルド本部
条件:二人組であること、Fランクであること
報酬:銀貨5枚
内容:その日ギルドに登録した新人に絡む。
ただし、相手が30歳以下で、武器を持っている場合のみ。
絡むときは、Fランク冒険者のカマセとイヌーと名乗ること。
絡んだ場合、相手が怯えなかったら決闘を申し込むこと。
決闘には、相手には武器を賭けさせ、自分たちは金貨3枚を賭けること。
また、敗北した場合、金貨3枚はギルド本部から補填される。
なお、一日中登録してくる新人がいなくても、報酬は支払われる。
ギルド本部!あんたらの仕業か!
ここから、013話の冒頭に戻る。
名前 ハクヤ=アイザワ
年齢 7
種族 普人族
レベル 87
職業 なし
適正 【光】【闇】【時空】【神聖】【深淵】
魔力 error
体力 10412
筋力 9361
俊敏 10512
精神 20231
気力 20231/20231
スキル
[剣術lv5][多重思考lv2][光属性魔法lv10][闇属性魔法lv10][時空属性魔法lv8][鑑定lv6][偽装lv6][隠蔽lv6][隠密lv2][再生lv3][神聖属性魔法lv5][深淵属性魔法lv5]
固有スキル
[無限の心臓][全知の理][時間凍結][絶対魔力圏][龍装顕現:風龍剣ヴィント]
称号
[神域に辿りつきし者][深淵に辿りつきし者][龍殺し][下克上][無謀なる挑戦者][大物喰らい][反逆の使徒]