013
僕は、知った。冒険者ギルドでのテンプレはギルド本部公認であるという事実に。
話はさかのぼる、一日前に。
僕はエルヴァスティー帝国の冒険者ギルドに、冒険者登録をするために来た。
ちなみに言っておくと道中で盗賊や魔物に襲われるお姫様を助けることはなかった。
道中で襲いかかってくる有象無象の魔物達(主にゴブリン)を一撃で倒してそのまま異空間に放り込みながら進んで来たが、それは特筆すべき事項ではないだろう。
エルヴァスティー帝国はリンドロード大陸最大の国家だ。
そして、世界で7人しかいないSランク冒険者のうちの一人がいるらしい
当然、冒険者ギルドの支部はいくつもある。
そして、僕はそのうちの一つ、西方にある冒険者ギルド支部にいた。
僕が冒険者になる主な理由はものすごく単純だ。
金、それに尽きる。
実際、一人で旅をするつもりならば金はどうかんがえても必要だ。
あと、冒険者という身分は便利、ダンジョンに入れる、ヴィントが勧めた、テンプレを踏襲したい、などの理由がある。
街に入る時の審査などはなかった。
普通はここで仮身分証を発行するのがテンプレなのかもしれないが、それはなかった。
辺境の街なので、治安維持にそこまで気を使う必要がないのかもしれない。
冒険者ギルドの扉を開ける、扉は大人のために作られているので今の僕の身長だと少し高い。
魔法で開ける方が楽だろうけれどこんなところであまり目立つ訳にはいかない。
大人しく手を伸ばして木製のドアを開けた。
ドアを開くと数多の好奇の視線が僕に寄せられる、わけでもなくギルド内は閑散としていた。
昼間だからなのだろうか、ギルド内にいるのはカウンターにいる受付嬢らしき人物と昼間からテーブルに座って酒を煽っている二人組の男だけだった。
僕はその二人組には目もくれずにカウンターを目指した。
「冒険者ギルドへようこそ、本日のご用件は何でしょうか?」
受付嬢は事務作業的なセリフ回しで言った。
一般人の子供が偶然倒せた魔物の素材を売るために冒険者登録をするのは珍しくない、ということは事前に知っている。
[全知の理]様様である。
「冒険者登録をしたいのですが」
「登録料は銀貨2枚です」
これも事前情報通り。
集落では金銭は必要ないので、と言って獣王様から冒険者登録に必要な銀貨2枚を渡されている。
ポケットに手を突っ込み銀貨2枚を取り出すふりをする。実際は異空間から取り出しているだけなのだが。
銀貨2枚をカウンターの上に置く。
ちなみに、銀貨2枚というのは実際のところ結構な高額だ。
救済手段も用意されているようだが、今は関係ない。
「確かに承りました。では、こちらの紙に必要事項をお書き込みください」
受付嬢は手慣れた様子で、薄っぺらく少し黄色がかった紙を渡して来た。
その紙には名前、年齢、属性、使用する武器、特筆すべき所持スキル、備考欄があった。
事前に仕入れていた情報通りである。
そして、書く義務があるのは名前と年齢だけであり、それ以外は任意、とも情報を得ていた。
一応確認をとる。
「名前と年齢は必須だけれどそれ以外は任意ですよね?」
「はい、ただしパーティーを組む際に有利になるので、できるだけ全部埋める方が多いです」
「わかりました。ありがとうございます」
紙に目を写し、事前から考えていた通りに書く。
名前 ハクア ヤザワ 年齢 7 属性 無 武器 剣 特筆すべきスキル 無し
名前は藍澤白哉からのアナグラムである。
そして、冒険者ギルドのカードは<偽装lv5><隠蔽lv5>以上で完全に詐称できると知っている。
なぜ偽名を使うのか、それは冒険者として問題を起こした時にすぐに名前を消すためである。
けれど、偽名を使って登録したことを喜ぶ日が来ないことを願う。
「無属性、ですか」
そういえば、無属性はあまり待遇が良くないのはどの国でも同じだった。
「はい、そうです。主に剣を使うので問題はありません」
「わかりました。では、この板の上に手を置いてください」
この板は事前に仕入れていた情報によると、ギルドカードを作成するための魔道具らしい。
そして、この段階で<偽装lv5><隠蔽lv5>をかけておく必要がある。
名前 ハクア=ヤザワ(ハクヤ=アイザワ)
年齢 7
種族 普人族
レベル 12(87)
職業 なし
適正 無(【光】【闇】【時空】【神聖 】【深淵】)
魔力 151/151(error)
体力 103(10412)
筋力 93(9361)
俊敏 105(10512)
精神 202(20231)
気力 202/202(20231/2031)
スキル
[剣技lv2][隠密lv1]
([剣術lv5][多重思考lv2][光属性魔法lv10][闇属性魔法lv10][時空属性魔法lv8][鑑定lv6][偽装lv6][隠蔽lv6][隠密lv2][再生lv3][神聖属性魔法lv5][深淵属性魔法lv5])
固有スキル
([無限の心臓][全知の理][時間凍結][絶対魔力圏][龍装顕現:風龍剣ヴィント])
称号
([神域に辿りつきし者][深淵に辿りつきし者][龍殺し][下克上][無謀なる挑戦者][大物喰らい][反逆の使徒])
偽装と隠蔽をかけた後のステータスである。これならあまり問題にならないだろう。
「では、カードができるまでの間冒険者についての説明をさせていただきます」
すぐにカードができるわけではないらしい。
「はい、お願いします」
冒険者についての説明の重要なところをまとめるとこうなる。
冒険者ランクはHからSまで。
一般的にHは見習い、Gは初心者、EFは中堅、CDから一流、Bからは人外、Aからは英雄クラス、そしてSは国家級破壊兵器。
高ランクになればなるほど待遇が良くなる。
そして、Aランク以上の冒険者には二つ名がつく。
また、緊急依頼というものもあり、Fランク以上は強制的に参加しなければならない。
パーティーを組んだ場合はパーティー内で一番高い冒険者のランクの依頼まで受けることができる。
冒険者ギルドは冒険者同士の争いに基本的には関与しない、ただし冒険者同士の争いを利用して賭けを行って儲けることはある。
冒険者ギルドのギルドカードをなくしたら再発行には金貨一枚が必要。
ギルドカードの偽装は犯罪で行ったら全ギルド支部で指名手配される賞金首になる。
依頼は自分のランク以下の依頼のみを受けることができて、受けられる範囲ならどんな依頼を選択しても良い。ただし高ランクの冒険者が低ランクの依頼をひたすら受ける、など明らかに低ランクの邪魔をするようなことは禁止されている。
どんな時でも、冒険者が依頼に困らないよう常駐依頼がいくつか存在する。
討伐依頼を受けた後、ギルドカードに依頼が表示され、倒した数が自動的にカウントされる。そのため、魔物を倒した後に依頼を受けることはできない。
また、パーティーを組んで依頼を受けた場合はリーダーのギルドカードに依頼が表示される。
依頼達成に失敗したら依頼の報酬の四割分の額を違約金として依頼主に、一割分をギルドに支払う必要がある。ただし、常駐依頼は依頼主はギルドということになるので、四割の方もギルドに流れる。
依頼中に発生した負傷、死亡などについては基本的には冒険者ギルドは一切保証しない、ただし冒険者保険システムというものが一応存在する。
Fランク以上の冒険者はギルドである程度までの情報提供のサービスを受けられる、例えば、街の中の道案内、魔物の生息域と行動、など。ただし、ランクに応じて一部情報を制限することがある。
冒険者ギルドは常に魔物の素材の買取を行っている、ギルドで売るメリットとしては買取時の値段が一定というものがある。
商人に売ってもいいが、その場合にトラブルが発生してもギルドは一切関与しない。
また、Dランク以上になると指名依頼が入ることもある、ただし指名依頼は断ることもできる。
冒険者がギルドの緊急依頼への参加を度々正当ではない理由で拒否する、素行に問題がある、などの場合一定期間の活動停止、最悪ギルド除名もある。
などなどである。
これもまた事前に知っていたことだったので特に新鮮味はなかったが、確認という意味では役に立った。
けれど、今後あまりにも面白みが少ないないようだったら[全知の理]の使用制限をする必要があるかもしれない。
話が終わった頃には、ギルドカードが出来上がっていた。
ギルドカードに表示されていたのは、
ハクア=ヤザワ ランクH
とその下には大きな空欄。おそらくここにステータスや依頼状況を表示するのだろう。
偽装と隠蔽を掛けた意味なくない!と心の中で突っ込んだ。
「ステータスは冒険者にとっては大切な道具でもあるので、本人が開示しようとしない限りステータスは表示されません!」
受付嬢さんは得意げに言った。
「それでは、良い冒険者ライフを」
良い冒険者ライフを送るために、とりあえず今は金策をしよう。
「ここまでくる道中で魔物を数体仕留めたのですが、買い取りをお願いできますか?」
「はい、どうぞ。でも魔物を持っているようには思えないんですが?」
「ああ、ここにあります」
そう言って僕は異空間を解放する。
道中で買った魔物が山のように現れる。
つまり、ゴブリン113匹、ゴブリンメイジ4匹、ゴブリンアーチャー3匹の死体がギルド内に現れた。
「ああ、はい、わかりました。アイテムボックス持ちの方ですね。では全て買い取りでよろしいでしょうか?」
えっ、あまり驚かないの?
「はっ、はい。全部買い取りをお願いします」
「では少しお待ちください」
受付嬢さんは慣れた手つきでゴブリンの死体を数えていく。
「ゴブリン113匹で一匹あたり銅貨1枚なので銀貨1枚と大銅貨1枚と銅貨3枚。ゴブリンアーチャー3匹で一匹あたり銅貨4枚なので大銅貨1枚と銅貨2枚。ゴブリンメイジ4匹で、一匹あたり銅貨5枚なので大銅貨2枚。合計で銀貨一枚と大銅貨4枚と銅貨5枚です。よろしいですか?」
「はい、ありがとうございます」
すると、受付の横にある扉から数人の男たちが出てきて、ゴブリンをあっという間に運び去っていった。
「では代金です。改めて、良い冒険者ライフを」
代金を受け取ってポケットにしまう。
もしかして転生者に逢った時の対応マニュアルでもあるんだろうか、と思えるほど全てがスムーズに片付いた。
依頼を受けようかな、と思って依頼が貼られている掲示板を見るために歩き出したら、突然声を掛けられた。
「おいそこの新人、俺様を無視するとはいい度胸だな」
テンプレの気配しかしない。
名前 ハクヤ=アイザワ
年齢 7
種族 普人族
レベル 87
職業 なし
適正 【光】【闇】【時空】【神聖 】【深淵】
魔力 error
体力 10412
筋力 9361
俊敏 10512
精神 20231
気力 20231/20231
スキル
[剣術lv5][多重思考lv2][光属性魔法lv10][闇属性魔法lv10][時空属性魔法lv8][鑑定lv6][偽装lv6][隠蔽lv6][隠密lv2][再生lv3][神聖属性魔法lv5][深淵属性魔法lv5]
固有スキル
[無限の心臓][全知の理][時間凍結][絶対魔力圏][龍装顕現:風龍剣ヴィント]
称号
[神域に辿りつきし者][深淵に辿りつきし者][龍殺し][下克上][無謀なる挑戦者][大物喰らい][反逆の使徒]