011
主人公の名前を変更しました、第13話の関係で。
僕は、その朝、いつも通りに起きた。
運命の日でも、波乱万丈の日でも、旅立ちの日でも、再開の日でも、悲劇の日でも、どんな日でも普通の朝から始まる。
いつもと変わらず鳥はさえずり、青い空が広がっている。
その日は、僕の旅立ちの日だった。
僕は今まで過ごしてきたこの集落をでて、今日から目的のない旅に出る。
あえて言えば、目的を見つけることこそが目的の旅だろう。
僕が旅に出るのには四つの理由がある。
まずヴィントの遺言、つまりヴィントが僕は旅に出るべきだと言ったからだ。
二つ目は僕の意志、つまりこの力の使い道を見つけたい。
三つ目は統括神からの依頼、つまりこの世界をある程度かき乱してほしいということ。
集落の皆は最初は反対していた者もいたが、僕が何処かへ旅立つのは止められないという結論に達したようだった。
そんな時、僕は昨日獣王様と話した時のことを思い出していた。
「まず、この一年間集落を守ってくれたことを感謝する」
「いえ、こちらこそ集落に7年間住まわせていただいてありがとうございました」
「いやいや、感謝するのは儂らの方じゃ。お主がいてくれたことで儂らの方が多くの物を貰った。子供達に魔法の使い方を教えてくれたおかげで魔法があまり使えないはずの獣人でもある程度使えるようになった。大人達はみな人間を恨んでいたが、お主のおかげで少し変わった。人間の中でも信頼できる者がいると思ってくれたことだけでも大きな和解への一歩じゃ。儂は儂が生きている間に獣人と人間が笑いあえる国を作りたいと思っていた、どうやら儂の生きている間には無理そうだとは思っていたが。けれど、お主がいてくれたおかげでその片鱗を見ることができた」
「いや、特にすごいことをした感覚はないんですが、」
「それでも儂にとっては大きなことだったということだったんじゃ、お主は気づいておらんかったがな。あと、お主との話は楽しかった。また帰ってこいとは言わないが、できれば帰ってきてほしい」
「大丈夫です、長くても数年で帰ってきます」
「これで儂からお主に言うべきことは特に何もない、儂から言うのは筋違いかもしれないが、気を付けて行ってくるがいい」
「はい。ありがとうございました」
獣王様のいつも通りの優しそうな表情の中に懐かしそうな表情が見えた。
けれど、それは僕にはとても悲しそうに見えた。
獣王様は誰にも聞かれないような小さい声で呟いた。
「サーシャ、儂は」
僕が出発するとみんなが知っていた、それほど広い集落ではないので、当たりっちゃ前だ。
そして、皆おのおの見送りに来てくれた。
僕が最初に会った集落の戦士、犬人族のエドヴァルドは言った。
「これは俺が昔使ってた剣だ。そこまで性能は良くないかもしれないが、武器がなくて舐められるよりはマシだろう、持っていけ」
エドヴァルドは片手剣サイズに見える剣を投げてよこした。
その剣はお世辞にも性能が良いと言える剣ではなさそうだったが、年季が入っていて明らかに大切に使われてきた剣のようだった。
「けれど、こんな大切そうな物を貰ってしまっていいんですか?」
「剣は使われてこそ剣ってもんだ。まあ実際あんたは剣がなくても十分すぎるほどに強いが、持っていて困るというわけでもないだろう。あと、剣が使えなくても持っているだけで十分相手を警戒させられるしな」
エドヴァルドはぶっきらぼうに言った。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
「いや、そんなにいい剣じゃねえからすぐ折れても構わねえ。むしろ折れるのを恐れてビクビク使うよりはいっそ派手に折ってくれた方がいい。あと、迷惑料と感謝の印も含んでいると思ってくれ」
エドヴァルドは結構あっさりとした感じの口調で言った。
「でも、迷惑料って?僕はそれほど不自由に感じた覚えは、」
「最初の頃集落の全員でお前を嫌ってたろう、その分だ」
「でも今はとてもよくしてもらっていますし、そんなことを気にする必要はないと」
「こっちがそれじゃあ納得いかないんだ。こっちが納得するためだと思って気にせずに受け取ってくれ」
そう言うと、犬人族の戦士は背を向けて去っていった。
僕は、その剣を肩に掛けて背負った。
今の僕には少し長すぎるような気がした。
しかし、これが単なる序章に過ぎなかったと僕が知るのはそう遠くなかった。
その次にやってきたのは子供達だった。
この世界の「子供」の定義は一応6歳までだ。
冒険者ギルドに登録できるのも7歳から、親の仕事を本格的に手伝い始めるのも7歳から。
貴族の子供が魔法の練習を本格的に始めるために魔法学院の初等部に通い始めるのも7歳。
そのため、子供達の集団というのも基本的に6歳までで構成されていて、6歳の子が普通ならリーダー的な存在になるのである。
僕は、2年程リーダーをやっていたのだが、村の警備(森への侵入者を転移させる簡単なお仕事)をし始めてから僕は子供達の輪に加わることはほとんどなくなっていた。
そして、今はどうやら僕が魔法を最初に教えた子供であるダニエレ君がリーダーになっていた。
ダニエレ君は村の子供達の中で一番魔法が上手く、<火属性魔法lv3>を持っている。
それに今は最年長のうちの一人なので自然とリーダーになるのである。
そして、そのダニエレ君が立派な顔をして、大きな籠を背負って、やってきた。
「アニキ、せーの」
ダニエレ君が号令をかけた。
「「「「「いままで、ありがとうございました!!」」」」」
子供達の不揃いなこえが揃って、綺麗な和音となった。
ああ、ダニエレ君もみんなもとっても立派になったなあ、と感慨深く思った。
そして、ダニエレ君はまず、満面の笑みで木の剣を手渡してきた。
「まず、これはオレたちから。がんばって作ったんだ。ぜひ使って欲しい!」
木の剣は手で彫ったらしくひどく不格好だった。
左右のバランスは悪く、お世辞にもよくできたものだとは言えない。
けれど、ちょうど僕の大きさに合わせて作ったのだろうか、エドヴァルドの剣とは対照的に、ちょうどいい長さだった。
柄も少し曲がっているが、これはこれで味が出ていて持った時に手に程よく馴染む、と言えるような作りである。
そして、「ハクヤ」と彫ってあった。
彼らがこの剣にどれほど苦労したのかが目に見えてわかってくるようだ。
「ありがとう、良い剣だね。大事に使わせてもらうよ」
「気にいってくれて嬉しいぜ。あと、これは全員からだ。みんなで集めたんだ」
それは、様々な種類の木の実や、薬草や、綺麗な石などいろいろなものが入ったとても大きな籠だった。
どこで集めたのか分かるようなものが殆どだったが、これほどの量となるとそう簡単には集めることができないと思う。
僕なら時間加速をして集めることができるが、これだけを集めるのには相当な時間がかかっただろうに。
「へっへーん、驚いたか!オレたちはもうこんなにたくさん集められるんだぜ!」
ダニエレ君は得意そうに言った。
けれど、その得意げな顔の裏には悲しい顔が少し見え隠れしていた。
「ありがとう。本当にすごいね。本当にありがとう!」
僕は満面の笑みを作り、そう返した。
「アニキもまた帰ってこいよな。その時はアニキみたいにすごい魔法を使えるようになって驚かせてやるよ!」
「うん、わかった。楽しみにしているよ!」
ダニエレくんは本当に強くなった、僕に初めて話しかけてきた時の気弱そうな男の子はそこにはもういなかった。
「そうだ、次帰ってきた時にぼうけんの話を聞かせてよ!できればなにかかっこいいぼうけんのおみやげとかが欲しい!」
「じゃあダニエレくんが村の子供達にたくさん魔法を教えられたらお土産がある、でどう?」
「やったー!みてろよー、ぜったいに皆んなに魔法を教えてやる! みんな、聞いたか、魔法を教えればアニキがおみやげをくれるってさ!」
「「「「「よっしゃー」」」」」
えっ、全員!でも、今さらなしとは言えない。
帰ってくる前に全員分のお土産を用意しないといけなくなった。
まあ、それもそれで旅の楽しみと言えるのかな?
子供達が名残惜しそうに去っていくと、まるで待っていたかのように集落の女性陣がやってきた、大きな荷車を押して。
「はい、小麦と野菜十年分」
実際、この集落は獣王様の知識によって普通の村よりは農業効率が上がっている。
あと、獣王様の固有スキル、[覇王の気概]による補正もあるらしいがそこはよくわからない。
しかし、こんなにたくさんの小麦をもらうわけにはいかない、と思って断ったのだが結局押し切られて受け取らされてしまった。
二度あることは三度ある。三度あることは、、四度あるようで次は村の狩りを得意とする男たちがやってきた。
あんたらは来る時間を決めているのか、とも言いたくなるほど、前の女性陣が去ってすぐにやってきた。
「はい、肉一年分」
そうですか、ありがとうございます。
次に来たのは戦士団、と言っても10人程しかいないが。
「最高の鍛冶屋を探してこれで武器を作ってもらえ。あと、できれば俺たちの分も頼む」
倉庫の肥やしと化していたヴィントの素材、のうちの半分ぐらい。
そして、最後にやって来たのは獣王様だった。
そのニヤッとしたような顔を見て、僕はなんとなく察した。
「獣王様、図りましたね?」
「さて、なんのことやら?」
一瞬の沈黙の後に二人揃って笑った。
「そう、その通りじゃ。獣人達のプレゼントの企画を指導して、時間帯を調節したのは儂じゃ」
「やっぱり」
「どうじゃ、気に入ってくれたか?」
「はい、気に入りました。ありがとうございます」
僕は棒読みでそう答えた。
「はっはっは、そうかそうか。後、これは儂からじゃ。と言っても儂が作るのを指導しただけじゃがな」
それは、黒いローブだった。
「お主には重い鎧より軽装の方が似合うじゃろう。これが儂からの餞別じゃ。達者でな」
「はい、獣王様こそお元気で」
そう言うと、獣王様も去って行った。
そして僕は、ようやく身支度をした。
黒いローブを着て、片手剣を背負い、大量の食料などを異空間収納に放り込んだ。
僕はローブを翻すと、いつも見慣れた集落の門をくぐり、東、つまりエルヴァスティー帝国の方角へ向かうことにした。
深淵属性で飛行を実現することも可能だが、あえてここは索敵の魔法だけにして、歩いて帝国へ向かおう。
さあ、冒険が始まる、的なシチュエーションだなと僕は思った。
しかし、僕がこのことを後悔することになるのはそう遠くはなかったのだ。
名前 ハクヤ=アイザワ
年齢 7
種族 普人族
レベル 87
職業 なし
適正 【光】【闇】【時空】【神聖 】【深淵】
魔力 error
体力 10412
筋力 9361
俊敏 10512
精神 20231
気力 20231/20231
スキル
[剣術lv5][多重思考lv2][光属性魔法lv10][闇属性魔法lv10][時空属性魔法lv8][鑑定lv6][偽装lv6][隠蔽lv6][隠密lv2][再生lv3][神聖属性魔法lv5][深淵属性魔法lv5]
固有スキル
[無限の心臓][全知の理][時間凍結][絶対魔力圏][龍装顕現:風龍剣ヴィント]
称号
[神域に辿りつきし者][深淵に辿りつきし者][龍殺し][下克上][無謀なる挑戦者][大物喰らい][反逆の使徒]