表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ブラックホール  作者: 久我島謙治
第一章 ―内閣情報調査室―
6/16

1―5

1―5


 ――西暦2051年2月2日(木)11:03 【東京都千代田区永田町・内閣府庁舎内】


 秀雄は、インターネットの匿名掲示板とくめいけいじばんで工作を行っていた。

 数日前、ついにあのブラックホールネタが日本に上陸したのだ。

 最初は、マイナーな都市伝説サイトで海外ネタとして紹介された程度だったのだが、昨夜、大手の匿名掲示板で話題になったため、急激に日本でも知られるようになった。

 といっても、このことを知ったのは、都市伝説マニアかそういう話に興味がある人間のみだったが……。


 とりあえずの任務は、この話を一刻も早く風化させることだ。


 秀雄は、3つの仮想マシンを起動して、それぞれを別のプロキシサーバに接続していた。

 仮想マシンが接続されたネットワークには、10台のプロキシサーバが用意されていた。

 プロキシサーバは、proxy0~proxy9の10台で、proxy0とproxy9は政府のドメインだったが、他の8台は、様々なISPの動的IPアドレスを利用しているため、一般人と見分けがつかない。


 proxy6に接続した仮想マシンでは、ブラックホール接近の都市伝説を肯定する発言をしていた。「ニビルはこれだったんだ!」「天文学者がリークした情報だから間違いない」「政府は、事実を隠蔽いんぺいしている!」という論調で議論をあおる。


 proxy7に接続した仮想マシンでは、ブラックホール接近の都市伝説を否定する発言をする。「過去にどれだけ似たような都市伝説があったと思ってるんだ?」「NASA職員がリークしたというポールシフトは起きたか?」「馬鹿馬鹿しい」という論調で反論する。


 proxy8に接続した仮想マシンでは、肯定も否定もせず、白けムードにする発言を行う。「せっかくのネタなんですから、楽しみましょうよ」「この祭りを楽しめないなんて……」と議論に水を差す。


 そして、書き込みのログを全て記録しておく。必要な場合、後で運営会社へ問い合わせてIPアドレスを開示させる必要があるかもしれないからだ。

 そのIPアドレスから、プロバイダを割り出し、書き込んだ場所まで特定することが可能だ。


 秀雄が見たところ、肯定派も本気で信じている感じではなかった。過去ログを見ても暇つぶしのネタを楽しんでいるという雰囲気だ。とても、工作を行っている人間が居るとは思えない。

 ただ、一人だけ肯定も否定もしていないが、ブラックホールが地球に接近した場合にどのような影響があるのかを詳しく書き込んでいる人間が居た。まるで科学者のように理論的に質問に答えている。


 その人物は、以下のような内容の書き込みをしている――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ・ブラックホールは、小さなものでも太陽の十倍程度の質量を持つ天体である。

 ・太陽の質量は、太陽系全体の99.86%を占めている。

 ・それほどの巨大質量を持つ天体が太陽系に紛れ込んだらどうなるのか? 太陽を含め、太陽系内の全ての天体がブラックホールに引きられるだろう。

 ・太陽は、大きな質量を持つため、ブラックホールにも影響を与え、ブラックホールの軌道を変更するだろう。速度によっては、時間をかけて太陽と連星になり、『はくちょう座X-1』のようになるかもしれない。しかし、連星になる前に太陽の寿命が尽きる可能性もある。

 ・地球はどうなるのか? どれくらいの距離を通過するかによるが、最低でも公転軌道が歪み地球は天変地異に見舞われるだろう。


―――――――――――――――――――――――――――――


 都市伝説に対して、肯定も否定もしていないが、書き込んでいる内容は、恐怖を煽る内容だった。

 もしかすると、南部課長が言っていた組織の人間かもしれない。

 書き込んだ人間を特定するかどうかの判断は、秀雄が行うことではないが、もしかすると、コンタクトを取ることになるかもしれないと秀雄は考えた。


 内調が直接、掲示板の運営会社やプロバイダへ問い合わせを行うことはないが、警察庁の公安部門を通じて照会を行うことはできる。警視庁からの出向組である南部ならコネで簡単に依頼できるだろう。しかし、会社によっては、情報開示を拒む場合もある。その時には、裁判所へ令状を請求する必要がある。テロ対策でそういった連携がスムーズになっている昨今ではあるが、このような曖昧あいまいな理由で令状が取れるのかどうか秀雄には分からなかった。


「何故、そんなことが分かるの?」


 秀雄は、proxy8に接続された仮想マシンから、その人物に対して書き込みをしてみた。どうせ、回答は得られないだろう。


 ◇ ◇ ◇


 一時間後に掲示板をチェックしてみると、回答が書き込まれていた。意外と律儀りちぎな性格のようだ。


「私は、天文台に勤めておりますので」


 本当の話だろうか?


「天文学者キタ――――(゜∀゜)――――ッ!!」

「ブラックホール接近の話はホントなん?」

「嘘だと言ってよバーニィ」


 平日の昼前だというのにいくつかの反応がある。

 それに対し、自称天文台の職員はこう回答している。


「仮に本当だとしても、我々人類には、どうすることもできませんので、考えても仕方がないでしょう」


 肯定とも否定とも取れない発言だ。


「それに、パニックを避けるため、情報規制がかかるので、一般の人には知らされません」


 と意味深なことも書いている。


『怪しいな……』


 秀雄は、この書き込みをしている人物こそ、南部課長が言っていた組織の人間なのではないのだろうかと考えた。


―――――――――――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ