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ザ・ブラックホール  作者: 久我島謙治
第一章 ―内閣情報調査室―
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 ――西暦2051年1月30日(月)09:19 【東京都千代田区永田町・内閣府庁舎内】


 秀雄は、先週、南部課長から命令された仕事の報告書を作成していた。


 この時代、一般家庭でもテラビットクラスの高速回線が当たり前になっていて、ストレージはクラウドが標準となっていたが、情報機関である内調では、独自のネットワークを構築して、インターネットからは接続できないようになっていた。

 内閣府の庁舎内からインターネットへアクセスするためには、仮想マシンを起動して、仮想マシンのみが利用できるネットワークを使ってプロキシサーバへアクセスする必要があった。仮想マシンのファイルは、ROM――Read Only Memory:読み取り専用のメモリ――に記録されているため、起動時に毎回初期化されているのと同じ状態だ。そのため、データを仮想マシンへ保存してもそのデータは残らず、次回起動したときには消えてしまっている。しかし、仮想マシンを起動している端末とのデータのやりとりは、クリップボードを経由して行うことができる。


 プロキシサーバには、どの仮想マシンがどのサイトへアクセスしたか記録が残るため、迂闊うかつなことはできない。しかし、アダルトサイトへアクセスしたが、何も言われなかったと言っていたやからも居たくらいなので、チェックはゆるいようだ。

 仕事上、どんなサイトにアクセスするか分からないということもあるだろう。

 秀雄も先週は、ニビルだのマヤ神話だのヒバゴンだのについて書かれたサイトを巡っていた。

 はたから見れば、遊んでいると思われてもおかしくはない。


 先週末には、まとめ終わっていた資料に涼子から聞いたブラックホールの噂話うわさばなしを追加して報告書を作成した。

 それを、外部メモリにコピーする。一般的に、こういった記録メディアに情報を移して持ち歩くほうがセキュリティ的に危険だと言われている。

 何故、南部はこのような方法で提出するように指示したのだろうか? 秀雄は疑問に思った。

 内調のデータベースだと他の人間に見られる可能性があるためだろうか?

 もしかして、その組織のスパイが内調内部に潜んでいる可能性があるとか?

 いくらなんでもそれは荒唐無稽こうとうむけいだと秀雄は自らの考えを否定する。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ――西暦2051年1月30日(月)10:11 【東京都千代田区永田町・内閣府庁舎内】


「失礼します」

「おう、待ってたぞ」

「遅くなりまして申し訳ございません」


 秀雄は、南部課長に記録メディアを渡した。

 南部は、端末に記録メディアを差し込んで、ファイルをコピーした。そして、レポートを開いてチェックする。


「で、どうだった?」

「はい、国内では特に目新しい情報は見つかりませんでしたが、海外では、ブラックホールが接近しているという都市伝説が最近話題になっているようです」

「ほぅ、よく海外のサイトまで調べたな」

「私は、国内のサイトしか調べていなかったのですが、知人に噂話を聞いたので確認してみたのです」

「涼子ちゃんか?」

「……ええ、そうです」


 内調では、職員の交友関係は詳しく調べられる。情報機関として当然のことだが、あまりいい気はしない。


「それで、どうして海外のネタを追加したんだ?」

「国内で目新しい情報が無かったこともありますが、もしかしたら、犯人グループがまず海外で広めてはくを付けようと考えているかもしれないと思ったからです」

「なるほどなぁ……」


 南部は、記録メディアを取り出して、秀雄に返した。


「とりあえず、海外は調査する必要はない。そのブラックホールネタが国内で噂され始めたら、念のため、火消しを行ってくれ」

「どのような手段を取るのが良いでしょうか?」

「分断が無難だろうな……」


 この場合の分断とは、えて、肯定派、否定派、どちらの意見にも賛同して議論を炎上させた後、白けさせるということだろう。人間、熱くなって語りくせば、熱が冷めるものだ。

 その後は、噂が風化してしまい、「ああ、そんな話もあったね」と昔話のように語られるようになるだろう。


「畏まりました」

「では、頼んだぞ」

「はっ、では失礼いたします」


 秀雄は、南部課長の部屋から退出した。


―――――――――――――――――――――――――――――

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