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――西暦2051年1月28日(土)11:41 【東京都千代田区丸の内・喫茶店内】
秀雄は、とある女性と丸の内にある喫茶店で待ち合わせをしていた。
「待った?」
ショートカットの快活そうな女性が秀雄に声をかける。
「いいや、俺もさっき来たばかりだよ」
彼女の名前は、「水谷涼子」。内調の総務部で働いている女性だ。
秀雄と涼子は、高校の同級生だ。高校二年のとき同じクラスとなり、共通の友人である雄一の話題で仲良くなり、一学期の終わり頃、秀雄のほうから告白してOKを貰って以来、付き合っている。
「どうしたの?」
椅子に座った涼子が秀雄に問いかけた。自分をじっと見てくる秀雄の視線に対してだろう。
「いや、雄一は涼子のことが好きだったんだろうなと考えてた」
「そう?」
「涼子も好きだったんじゃないの?」
「そうね。当時は、あなたと同じくらい気になっていたわ。伊藤君は何だか放っておけない感じがするのよね」
「確かに……」
「母性本能をくすぐるタイプというか、きっと彼なら失踪した先でも美人にあれこれと世話を焼かれてるんじゃないかと思うわ」
「それ、ありそうだな」
雄一は、男女問わず世話を焼きたくなるキャラだった。秀雄も何だかんだ言って勉強の面倒を見たりしたものだ。
「伊藤君が失踪した近くの田んぼにミステリーサークルがあったって話を知ってる?」
「今度は、宇宙人による誘拐説かい?」
「宇宙人とは限らないけど、何か関係があると思わない?」
「そもそも、その情報の確度はどれくらいなのさ?」
「それは……UFO関連の都市伝説サイトに載ってた程度だけど……」
秀雄は、話題を変えた。
「今日は、どうする? ここで、簡単に食事をした後に映画でも見に行く?」
「そうね。今日から公開される映画で面白そうなものがあったからそれを観ましょう」
「分かった。でも、入れるかな?」
人気の映画だと公開初日に入るのは難しいだろう。
「マイナーな映画だから大丈夫だと思うわ」
二人は、店員を呼んで昼食を注文した――。
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昼食を食べて、店を出た二人は、行きつけの映画館へ向かった。
涼子は、かなりの映画好きだった。履歴書の趣味の欄に映画鑑賞と書くくらいだ。
そのため、選ぶ映画が割とマニアックだったりする。
また、アクティブな性格の彼女は、恋愛映画よりもアクション映画を好む。
そういうところが、好ましいと秀雄は思っていた。サバサバした性格で一緒にいてもあまり気を使わなくて済むのだ。
今日、彼女が選んだ映画は、巨大隕石が地球に衝突しそうになり、それを阻止するために政府関係者などが奔走するという内容のパニック映画だった。使い古された題材なので新鮮味には欠けたが、邦画で政府の対応に重点が置かれていたのは、内調に勤務する秀雄には他人事ではなく意外と楽しめた。しかし、低予算の映画らしくCGの出来がイマイチだったり、前述した通り政治的な問題に重点が置かれていたため、一般の人が楽しめるとは思えなかった。それでも館内は、満員に近い状態だったが。
映画を観た二人は、地下鉄丸ノ内線で秀雄のワンルームマンションがある新宿区四谷へ向かう。
スーパーで買い物をして、秀雄の部屋に着いたのは、夕方の5時前だった。
土曜日は、涼子が手料理を作ってくれることが多いのだ。
「今日の映画、どうだった?」
秀雄は、夕飯の支度を始めた涼子に映画の感想を聞いてみる。
「悪くはなかったわね。酷いCGだったけど」
「確かに」
そういえば、今やっている仕事も今日観たパニック映画のような都市伝説を調べるというものだった。
「最近、今日の映画みたいに地球が滅亡するって、噂話は聞いたことがない?」
「なにそれ?」
「いや、ちょっと終末伝説について調べててさ」
「ああ、あれね。海外のサイトで話題になっていたけど、ブラックホールが地球に接近しているって都市伝説ね」
その話は、初耳だった。
「この一週間いろいろ調べたけど、日本語サイトでは、そんな話は話題になっていなかったんだけど?」
「確かに日本では、まだ噂になっていないかも? ニビルなんかも海外のほうが凄いのよ」
涼子は、都市伝説の類も好きだった。英語が堪能なので、海外サイトもよくチェックしている。
外国語が得意ではない秀雄は、仕事以外では海外のサイトを見に行くことがあまりない。
秀雄は、テーブルに置いてあったノートパソコンを起動した。
サーチエンジンを開き、「blackhole approached the earth」をキーワードに検索してみると、海外のサイトが大量にヒットした。
一つ一つを開いて、有用そうなサイトのURL――Uniform Resource Locator:インターネット上のアドレス――を記録していく。
「この噂の出処って分かる?」
「本当かどうか知らないけど、天文学者が匿名でリークしたって言われているわ。でも、過去にもNASAの職員がリークしたって話がいくつもあったから、怪しいものだと思うけど。そうやって、都市伝説に箔付けしてるのよ」
架空の科学者に発言させることで、都市伝説に真実味を出しているということだろう。
これは、自分の仕事と関係がある話なのだろうか?
南部課長は、我が国をターゲットにした組織と言っていた。
だったら、この都市伝説は、全く関係がない話なのだろうか。それとも、先に海外で広めることによって箔付けしているのだろうか。
その可能性もあるので、一応報告書にも記載しておいたほうがいいだろう。
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二人は、涼子が作った手料理を食べたあと、風呂に入り愛し合った。
そして、涼子は、翌日の昼過ぎに帰って行った――。
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