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ザ・ブラックホール  作者: 久我島謙治
第二章 ―奇病―
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 ――西暦2051年2月16日(木)14:14 【沖縄県名護市・シュワブ訓練地区】


センパー・ファイ!(生涯忠誠)


「「センパー・ファイ、サー!」」


ガン・ホー!(闘え) ガン・ホー!(闘え) ガン・ホー!(闘え)


 ――タタタン! タタタン! タタタタッ……!


「グレネード!」


 ――ドーンッ!


「ディスウェイ! ディスウェイ!」


「キープムーブ! キープムーブ!」


 ――ヒューッ……ドゴーン!


「レッツ・ゴー!」


「カモーン!」


「「サー・イエッサー」」


 ――ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ……!


 ◇ ◇ ◇


「ホント戦争は、地獄だぜ!」

「ただの合同演習で何言ってんスか、キャプテン」

「ハハハ、気分だよ気分」


 ブライアン・A・マクブライド大尉は、日本に駐留する第三海兵遠征軍に所属する士官だ。年齢は29歳で妻と5歳になる息子がキャンプ・シュワブ内に建設された住宅に住んでいる。


 アメリカ海兵隊(USマリーン)は、アメリカ軍を構成する5つの軍隊――空軍、海軍、陸軍、海兵隊、沿岸警備隊――の一つである。

 沿岸警備隊コーストガードは、警察に近い準軍事組織のため、実質的なアメリカ軍としては海兵隊が一番規模が小さな組織だ。ここ半世紀の間に軍縮で縮小されたため、2051年現在の現役将兵の数は、約15万人となっていた。


 海兵隊の主な任務は、戦争初期に揚陸作戦を行い、橋頭堡きょうとうほの確保を行うことである。

 一般的に戦争が起きた場合、空軍や陸軍は部隊を編成して戦地に送るまで時間がかかるため、空母を中心とした空母打撃群が先行展開して空爆を行う。そして米海軍の揚陸艦で運ばれた海兵隊が上陸、橋頭堡を構築するのだ。

 2010年前後に起きた金融危機後に国内の格差拡大が問題視され、軍事費を削減して社会保障費に回す政策に転換されたため、前方展開していた兵力が大幅に削減された。こうした、米軍再編の動きは2010年代からあったが、本格化したのは2030年代以降だった。


 アメリカは、冷戦終結後も莫大な軍事費を費やし、軍事力で他国を寄せ付けない一極体制を築いた。その結果、大国同士の国家間戦争が起きる可能性が極めて低くなり、代わりにテロ組織等との低強度紛争が増えたのだ。

 そうなると、大規模な部隊やそれらが運用する装備などは削減され、「ストライカー戦闘旅団」などの緊急即応部隊は、有用性が高くなったために増員された。

 米軍全体では、予算の削減と軍縮へ向かったが、こういった軍改革は随時行われている。


 日本の沖縄にある海兵隊の基地は、総称として「キャンプ・バトラー」と呼ばれるが、個別の基地は、「キャンプ・ゴンザルベス」「キャンプ・シュワブ」「キャンプ・ハンセン」「キャンプ・マクトリアス」「キャンプ・コートニー」「ホワイト・ビーチ」「キャンプ・シールズ」「キャンプ・フォスター」「キャンプ・レスター」「キャンプ・キンザ」と沖縄本島に点在していた。

 同じ在日米軍でも神奈川県のキャンプ座間に駐留するアメリカ陸軍に比べ海兵隊の拠点が多いのは、新兵訓練施設(ブートキャンプ)や実弾演習のための広い訓練場所が必要だからだ。

 そして、2030年代には、在日米軍海兵隊の軍用飛行場だった普天間飛行場がキャンプ・シュワブに隣接した辺野古へ移設されていた。


 ◇ ◇ ◇


 ――ウゥウウゥーーー! ウゥウウゥーーー!


 突然、野外スピーカーから警報が鳴り響いた。


「演習中止! 基地に戻れ!」


 緊急事態が起きたため、基地の警戒態勢がデフコン2に引き上げられたのだ――。


―――――――――――――――――――――――――――――


 ――西暦2051年2月16日(木)19:18 【東シナ海・海上・アメリカ級強襲揚陸艦「LHA-6 アメリカ」艦内】


 ブライアンの部隊は、現在、東シナ海の海上に居た――。


 演習中止の後、キャンプ・シュワブの訓練場から基地に呼び戻され、ブリーフィングが行われた。

 内容は、韓国政府の要請で韓国軍の救援に向かうというものだった。

 NLL――北方限界線――を超えて北朝鮮軍が韓国に侵攻してきたというのだ。


 ブライアンたちは、ブリーフィングを終えた後、一度帰宅して遠征の準備をしつつ、家族と過ごして、約2時間後には辺野古飛行場に集合した。

 丁度、佐世保基地に配備されている強襲揚陸艦「アメリカ」が訓練のため辺野古沖に展開していたこともあり、作戦に参加するため、ブライアンたちは、辺野古飛行場からMV-22B オスプレイで揚陸艦に運ばれた。

 そして、同訓練に参加していたズムウォルト級ミサイル駆逐艦を随伴して韓国のソウル近郊の仁川へ向かっているところだ。

 ニミッツ級空母の9番艦「ロナルド・レーガン」も横須賀基地から出港準備中だとブリーフィングで聞かされていた。


 百年前の朝鮮戦争でも海兵隊は大活躍をしていた。不利な戦況で投入されたにも関わらず、仁川に上陸してから10日ほどでソウルを奪還したのだ。

 現在の戦力比を考えれば、韓国軍のほうが圧倒的に有利なため、ブライアンたちの役割は、それほど重要ではないだろう。この出動は、米韓同盟に則った行動でしかない。

 その同盟関係も在韓米軍が完全撤退した後、米韓連合司令部が消滅したことにより、便宜的なものでしかない。

 現在アジア方面に前方展開している米軍基地は、グアムと日本、規模は小さいがフィリピンにもあった。


「キャプテン、今回の作戦をどう思われます?」


 ジョーンズ曹長が話しかけてきた。

 ブライアンの指揮する中隊の最古参隊員だ。年齢は、ブライアンよりも7歳年上の36歳だった。

 ジョーンズの質問は、任務についてではなく、何故今の時期に北がNLLを超えて侵攻してきたかについてだろう。


「中国の内戦が遠因じゃないだろうか……」


 北朝鮮が行動を起こす原因として思い当たることといえば、密接な関係にある中国しかない。


「確かに原因が中国にあると考えるのが合理的でしょう。しかし、ブリーフィングにあったように空や海に全く動きが無いことや、事前に戦争の準備をしていた気配がないのはおかしいと思いませんか?」


 韓国軍からの報告では、航空優勢どころか空爆をしても迎撃にすら現れない、海上を警戒しても艦船は一隻も接近して来ないという話だった。

 それに通常は、戦争の気配は衛星の画像を分析することで知ることができる。その辺りは、米軍だけではなく同盟国である日本の情報収集衛星でも分析しているはずなのだ。


「その通りだが、独裁者の考えることなど理解できるはずもない。敵が核兵器を保有している以上、この機会に我が国の安全のためにも叩いておく必要があるだろう」


 核兵器を保有している国なので、楽観視はできない。現在、韓国空軍と共同で核施設や核ミサイルを配備していると目星が付いている箇所に空爆が行われている。アメリカ第5空軍は、日本の三沢飛行場から第35戦闘航空団所属のF-35Aを空爆に参加させているとのことだった。明日には、横須賀を出航した第七艦隊のジッパー――Gipper:空母CVN-76の愛称――も参加するだろう。


「キャプテンのおっしゃる通りではありますが、どうも腑に落ちないのです。今までは、核を手に巧妙な外交を行っていた国がどうしてこんな暴挙に出たのか」

「瀬戸際外交を巧妙と言うのは違うと思うがな」

「ハハハ、確かに……」


 戦争は、外交手段の一つである。そのため、軍事力をチラつかせて他国を威圧し、援助を引き出すというやり方が間違っているとは言えない。世界には様々な国があるのだ、丸腰では侵略されてしまうだろう。

 そう言う点では、ブライアンが駐留している日本という国は特殊だと思う。第二次世界大戦の敗北により連合国から軍事力を保有することを事実上禁じられたこともあるが、何故か世論も軍事力というものに対してアレルギーを持った国となったのだ。

 マスコミに周辺国からの工作員が入り込みプロパガンダを行っているのだろう。それは合衆国でも同じで、リベラルという毒がマスメディアを汚染している。


「百年前、アメリカ海兵隊(USマリーン)は朝鮮戦争で勇敢に戦った。アメリカ海兵隊(USマリーン)の名に恥じない戦いをしよう」

「イエッサー!」


 数時間後には、仁川港に到着する予定だ。


 そして、作戦開始は明朝だった――。


―――――――――――――――――――――――――――――

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