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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【腹黒】トゥーレ
8/79

駆け引き

 楽しんでいただければと思います。

 ※2018.9.12割り込みにて更新分となります。

 アマリアさんとの婚約が両家公認の元になった後、私は今後のことに憂いを馳せていた。

 ここまでくればアマリアさんが伴侶となるのは間違いようもない。

 けれども残念なことに、アマリアさんの抱く私への好きという感情は未だに役者などへと胸をときめかせるような、男女の恋情とは言い難いものでしかなかった。

 こちらの想いは幾度も伝えているけれども、伝わっていない感が否めないのだ。もちろんあの出会い方に大きな要因があることは自覚はしている。けれどもアマリアさんは予想を上回る変化のなさを見せているのだ。


 どうしたものか。


 思案し、そして私は新しい視点を得るためにアマリアさんの幼馴染みの元へと向かった。


 唯一無二の親友、キラ・ダマートさん。

 工房の事務員さんで、やや男性的なところがあり幼い頃からアマリアさんの守り役でもあったようだ。

 アマリアさんの趣味で男装をすることもしばしあり、同年代からやや年下の女性には非常に人気がある。

 曰く、男性よりも格好いいのだとか。


 そんな親友と会ることができたなら、新たな発見があることは確実だろう。その発見を元にアマリアさんを攻めようという思惑である。

 そうして伺ったアマリアさんの幼馴染は、話に聞いていたように明け透けな態度の女性だった。


「強引な自信家で腹黒い策略家」


 と言われた時は見透かされていると理解した。彼女は私のことを正しく評価している、と。

 けれどもそれをアマリアさんに明かすでもなく、おそらくは心底私のことなんかどうでもよかったのだろう。

 そんなキラさんの動向を見ているうちに、私は彼女には本心でぶつかった方がいいと判断した。

 そして私がアマリアさんには害をなさない存在であると知らしめると同時、アマリアさんからの愛を受ける方法を乞うた。直球で。

 心の底から迷惑、というのは表情から受け取れた。

 どうしたものか。思考を回らせているとキラさんはふとその目に憂いを帯びだ。

 ――それがきっかけだったのか。突然乗り気になってくれたのは幸いだった。

 そこから語られるキラさんの言葉の数々に私は真剣に耳を傾けた。


 そしてそれをもとに、私はゆっくりと案を練った。

 より濃厚な攻めをというキラさんの言葉だけでなく、そこから更に心を揺さぶるようなものはないか、と。


 + + +


 そんな数日後の休日、私はアマリアさんの勤める仕立て屋へとやってきた。

 仕立て屋へ来る時はいつもアマリアさんを迎えに行く理由の為に裏口に行っていたけれども、今日は違った理由の為に店の表から入店する。


「いらっしゃいませ」


 すぐに顔を上げてやってきたのはいつもアマリアさんを押し出すようにして連れてきてくれるデザイナーさんだった。


「本日はどのような御用向きで?」


 いつもは明るくさばさばした態度の女性だけども、さすがは勤務中。貴族御用達の店に相応しい笑顔の対応だった。


「普段着を数着仕立てていただきたいのです」


「それはそれは、ありがとうございます。トゥーレ騎士様に当店の服を着ていただけるなんて、光栄ですわ」


 どうぞこちらへ、とデザイナーさんは手早く私を二階の一室へと案内した。

 それからデザインや生地を詰めてさっと打ち合わせを済ませる。


「仕立てはアマリアにさせますね」


 私が何をいうでもなく、デザイナーさんは心得ているとばかりに笑った。


「それはありがとうございます。アマリアさんが仕立ててくれるなんて、それだけで嬉しいです」


「あとは採寸になるので、呼んできます。少々お待ちくださいませ」


 そうしてデザイナーさんが退室していくのをみて一つ息をつく。

 ここからが勝負である。


 先日キラさんから得た情報を元に、採寸にやってきたアマリアさんへ迫るのだ。

 自宅で半裸で迫ってしまっては流石にアマリアさんの逃げ道がなくなってしまう。ないとは思うけれどもそれで恐怖を与えて嫌われては元も子もない。どうしてもその点だけは考慮しなければならない。

 その点、アマリアさんの職場である仕立て屋は採寸で服を脱ぐことも自然であるし、直接人の目のある場所で迫るわけではないものの、壁を隔てたむこうに人がいるとなれば逃げ道もできる。非常に好条件な場所だった。


「お待たせいたしました」


 やや時間があってやってきたのは、デザイナーさんとアマリアさんだった。

 ここに来るまでの所要時間は恐らく不意打ちで訪ねてきた私にアマリアさんが驚きのあまり何かをしでかしたのだろう。


「アマリア、頼んだわよ」


「……っはい」


 ぽんとデザイナーさんがアマリアさんの肩に手を置き、それから私に片目をつぶった。


「それじゃ、ごゆっくり」


 あのデザイナーさんは常に私の思うように動いてくれるので助かる。

 しっかりとドアが閉じられるのを確認して、私はゆっくりとアマリアさんを見た。


「こんにちは」


「こんにちは、騎士様」


 にっこりと微笑むアマリアさんはとても可愛らしい。

 最近私に慣れてきたアマリアさんだけど、色気を押しだせば顔を赤くさせてどきどきするところは変わりがない。――とはいえ、キラさんによれば押しが足りないらしい。


「以前話していたように、仕立てをお願いしにきました」


「突然だったので驚きましたけど、みんな喜んでいます。精一杯素敵なものをお仕立てしますね」


 とても純粋で健気な発言に、こちらも素直に喜んでしまう。


「よろしくお願いします」


「じゃあ採寸させてもらいますね」


 にこにこと笑みを浮かべるアマリアさんはそう言って巻き尺を取り出し、それを受けて私はシャツのボタンに手をかけた。


「――え?」


 思いがけない行動にアマリアさんの目が点になる最中、手早くシャツを脱ぎさる。


「っっ!?」


 上半身裸になった私にアマリアさんが目を白黒させて数歩後ずさった。

 予想通りの行動に笑いがこみ上げる。本当に可愛い。

 けれども表に出しては予定通りには進まない。私は澄ました顔でアマリアさんを見つめた。


「どうかしましたか?」


 服を脱ぐことはごく当然のこととばかりに尋ねれば音がするのではというくらい勢いよく首がふられた。顔が真っ赤だ。


「ふ、服は……着たままでも……」


 か細い声でアマリアさんが言葉を紡いだ。


「そうなんですか?」


 そこで初めて私は驚きの表情を浮かべて見せる。ついで、言い訳を。


「今までお願いしていたところでは毎回脱がされていたので、てっきりそうなのかと」


 これは半分事実である。仕立屋に足を運ぶと毎回脱がされ、採寸の女性にべたべたと触られるのが常だった。

 何度か店を変えたものの同じような対応にうんざりして、結局今は幼い頃に服を仕立ててもらっていた店に戻り、今は脱がされることはない。


「まぁ、脱いでしまいましたし、こちらの方が正確に測れますよね?」


 首を傾げて服を着るようにという指示を出せないように尋ねれば、唇を震わせてアマリアさんがこくこくと小さく頷いた。

 ちなみにアマリアさんの目は私の上半身に釘づけである。

 大方妄想していた私の身体を目の当たりに、恥ずかしいという意識よりも見たいという欲求が強かったのだろう。


「アマリアさん?」


 ややあって声をかければ、アマリアさんはびくりと体を震わせてから慌ただしく両手を振った。


「ひぁ……な、何でもないですっ、ごめんなさい!」


「ひょっとして、見惚れました?」


 くすくすと笑って悪戯に目を輝かせれば、アマリアさんはそこでようやく恥ずかしさに目を伏せた。


「いえ、そんな、ことはっ」


「そう、ですか」


 否定された私は浮かべていた笑みを消し、肩を落として見せた。


「好きな女性が見惚れてくれないとは、とても残念でなりません」


 苦笑しつつも声のトーンすら落ちた私にアマリアさんは目を瞬かせた。


「――え?」


 本当に予期しないセリフだったのだろう、それまでの赤い顔は何処へやら、目を丸くして私を見つめている。


「アマリアさんは私のことをどう思っていますか?」


 まずはとっかかり。

 いつもは軽く迫るところを真剣な状態から尋ねる。


「どう、って。騎士様は強くて、優しくて――」


「そうではなくて、私の事を好きですか?」


 真っ直ぐに目を覗きこむと、困惑した色が窺えた。


「好きですよ?」


 落ち着いた状態のアマリアさんの、まるで恥ずかしげのない一言。

 どう考えても恋情からではないと言えるその様子にひっそりと苦笑する。


「それは人としてですか?それとも、異性として?」


 言われた言葉の意図がわからないのか、アマリアさんは何度も瞬きを繰り返しながら私を見上げていた。

 しばらく考えているのを観察して、やがて大きな疑問を抱えながらも一つの答えへと辿り着きそうなアマリアさんの表情に私は胸中で呟いた。

 ――そろそろか。

 私はゆっくりとそんなアマリアさんの両肩に手を置いた。


「私は、アマリアさんを異性として好きですよ」


「――!?」


 私が囁けば、アマリアさんの目がこぼれんばかりに見開かれた。

 そのまま抱き寄せて耳元で続ける。


「いつも真っ直ぐで、よく表情の変わるアマリアさんが可愛い。からかったり、エスコートする時に顔を赤らめるのが可愛い。美味しいものを幸せそうに食べる姿が可愛い。好きなものを笑顔で語るところも」


 腕の中でアマリアさんは完全に固まっていた。

 首まで真っ赤にして、少しだけ目が潤んでいる。


「こんなにも愛しているのに、アマリアさんはほんの一握りでも私のことを異性として意識はしてくださらないのですか?」


 顔を覗きこむと必至に目が動いていて、頭の中が混乱しているのがよくわかる。


「婚約までしたというのに、いつまでたってもアマリアさんからの愛を得られない。――このままでは苦しくて気が狂いそうです」


 アマリアさんの頭が処理できるようにとゆっくりとした口調で告げる。


「苦しくて、切なくて、いっその事、アマリアさんのことを食べてしまえば――楽になるでしょうか?」


 言い終わると同時、アマリアさんの柔らかい下唇を食む。

 そこでようやくアマリアさんはびくりと体を震わせた。

 それからしばらくして、私は抱きこんでいた腕を下ろすと再び耳元で囁いた。


「愛している、アマリア」


 丁寧口調も、さん付もない渾身の色気を纏った台詞。

 そんな私の攻めに。


「――っっ!」


 わなわなと唇を震わせ、こぼれんばかりに涙を溢れさせたアマリアさんは駆け出した。


「えっ、ちょっとアマリア!?」


 勢いよく部屋を飛び出し、近くにいたらしい店の誰かの制止も聞かずに階段を駆け降りる音が響く。

 そんな物音に私は喉を震わせて笑った。


 ああ、本当にアマリアさんは可愛らしい。

 これで少しは恋愛対象として意識してくれればいいのだけど。

 上機嫌に笑いながら、誰かが入ってくる前にと素早くシャツを着こむのだった。


 + + +


 それからしばらくして。

 アマリアさんがこれ以上ないほどに意識してくれているのは、誰がどう見ても明らかなほどになった。

 勿論今までもそうだったものの、意識の仕方が違うのだ。

 よほど仕立屋でのことは衝撃だったようでなによりである。

 今までよりも確実に先に進んでいるように感じた私は、次の一手に出ることにした。

 今度は引きつつも決して放置せずに存在感を示すのだ。

 図らずも騎士団が繁忙期に差し掛かって来た今日、非常にちょうどいい頃合いである。

 しばらく会えない旨を伝えれば、アマリアさんはほっとしたような、それでいて寂しげな表情を宿した。


「本当に、会いたいのは山々なのですが、こればかりはどうしようもありません」


 心底残念だと私はため息をつくと、気を取り直すかのように顔を上げた。


「かわりにと言ってはなんですが、これを受け取っていただきたいのです」


 そう言いながら胸元のポケットから金の懐中時計を取り出すと、アマリアさんの手をとってそこに乗せた。

 私の名の刻まれた、騎士団から与えられた懐中時計である。細かい彫りの入ったそれは、誰が見ても一級品とわかるものだ。


「いっいただけません」


 アマリアさんは自分の手のひらに視線を落とすと、一瞬身体を震わせた後に落とさないようにか両手で懐中時計を持ち直した。


「たとえ一時的に預かるのだとしても、これはダメですっ」


 拒否されるのはもちろん想定内のこと。

 私はそれに首を振り真摯な眼差しをアマリアさんに向けた。


「どうしてもアマリアさんに持っていてほしいのです。最愛の、アマリアさんに」


「さっ……」


 見る間い顔を赤くしたアマリアさんは途端に固まったようだ。

 ゆっくりとアマリアさんの手を包みこむようにして懐中時計をやんわりと握りこませる。


「お願いします。私の心はアマリアさんにあるのだと、示させて下さい」


 アマリアさんとの接触当初は思考を固まらせて畳み込んでいたけれども、今はアマリアさんの意思で選ぶことを意識して色気は出していない。

 いつまでも流されるように物事を進めさせるのでは今後の進展はない。アマリアさんには自分のペースで、自分の意思をもって思考してもらうことでこそ、意識してもらえるのではと考えたのである。


「わかりました」


 やがて視線を彷徨わせたアマリアさんが小さく、けれどもしっかりと頷いた。

 それをみてほっとして微笑むと、今度は窺うようにアマリアさんの顔を覗きこんだ。


「それで、もう一つお願いがありまして」


「はい?」


 懐中時計を握り込んだアマリアさんが、きょとんとした大きな目を向けてきた。

 少し言いにくそうにしながらも、私は続ける。


「できればアマリアさんの物をお借りしたいのですが」


 これについては私の純粋な希望である。会えなくなるというのなら、当然の思いだ。

 私の要望にアマリアさんはしばらく身の回りを確認した。


「えっと」


 アマリアさんが髪、ポケット、バッグの中としばらく探して考えあぐねている中で、私は取り出された複数の小物の一点に目がついた。


「こちらは?」


 白いハンカチのようだけれども、女性用にしては縁取りのレース分大きいように感じる。


「既製品に自分でレースをつけたものです。ちょっと面白いパターンで、どうかなって思って付けてみたんですけど……大きさ的に不恰好になっちゃいました」


 照れ笑いをするアマリアさんの説明に、私は即決した。


「ではそちらをいただいても?」


「え、これですか?」


「ええ。私にとってはアマリアさんにより近いものがいいので」


 アマリアさんの物なだけでなく手掛けたものであるなら、そちらの方が言いに決まっている。

 さらりと言えばアマリアさんが羞恥に俯いた。

 ああ、本当に気持ちを隠すことのできない人である。


「でも、それは失敗作みたいなものなので」


 なおも渋るアマリアさんに、私はハンカチを手にとってそれをより小さく畳み直した。


「どうですか?」


 そう言って胸ポケットに挿しこめば、レース部分しか見えなくなりポケットチーフのように見える。

 ハンカチ自体は吸水性のいい素材だけれどもレースはやや光沢のある糸で編まれているせいか、違和感はない。

 アマリアさんもそう思ったのかしばらく唸ったものの、何かを決めたとばかりに頷いた。


「次に会う時までに、もっときちんとしたポケットチーフを作っておきます」


 これは思わぬ収穫である。

 アマリアさん自らが進んで私のために何かを作ってくれるまでに至るのはもう少し先かと思っていたから。


「とても――楽しみにしています」


 胸元に手を当ててそう言った私はおそらく幸福に満たされた顔だったことだろう。

 アマリアさんはそんな私の表情にはっとして、それから照れくさそうにしたものだから、つい額に唇を落としてしまうのだった。


 + + +


 それからの日々はアマリアさんに伝えた様に忙しいものとなった。

 というのもこの時期は駐在騎士のおよそ半分近くが一ヶ月以内に異動を始めるのだ。王都勤務だった騎士が地方へ向かい、また地方に点在している騎士は今期入団の見習い騎士を引率して王都に入り、同時に各地の報告を行う。

 私は変わらず王都勤務となることから、人数の少なくなっている王都により一層目を光らせなければならず、休みもあってないようなものであった。


「では、よろしくお願いします」


 打ち合わせを終えて頭を下げると、その場にいた三人もまたそれぞれに返答した。

 一人は叙任したばかりの元準騎士君で二人は護衛部の騎士である。


「よろしく頼む」


 この時期騎士団はほとんどの部署が多忙を極める。そんな中で唯一変わらずの姿勢を保ち続ける護衛部を王都の広報部が借り受けるのは毎年のことだ。


「よろしくおねがいしますっ」


 硬い表情をしているのは元準騎士君である。

 基本的に二人一組での行動となる駐在騎士は今時期、準騎士か応援の護衛騎士を相方として任務に当たる。そうなれば駐在騎士が指示出しをするのは当然のことで、叙任したばかりとはいえ元準騎士君がその役を担うのはごく自然のことではあるものの、共に行動するのは護衛部の中堅騎士。大先輩である騎士に自分が指示出しをしなければならないことに抵抗を感じているのだろう。

 王都勤務の新人騎士にとっては第一の試練のようなものである。


「最初から王都勤務なのは評価が高いという事です。君ならやれますよ」


 そう言って肩を叩けば、更に中堅騎士も激励した。


「駐在としての経験は君の方が圧倒的なのだから、気にする必要はないよ」


 けれども元準騎士君はよりいっそう硬い表情で眉間に力を入れて「はい」と返事をした。

 おや、余計に硬くなってしまったかな?

 良かれと思ったものの上手くはいかなかったようで、それを感じ取った中堅騎士と苦笑し、数秒考えてから極上の――脅迫の――笑みを浮かべた。


「もしできないようでしたら、元教育担当として――」


「問題ありません完璧にやり遂げます」


 おや、途中で遮られてしまった。


「その調子です」


 さらに笑みを深くして見せれば「腹黒っていうか鬼畜だよな」とぼそっと呟かれて、中堅騎士と頷きあう。これで少しは肩の力がおりただろう。


「ではまた後ほどここで」


「はい」


 そうして元準騎士君は中堅騎士を、私は同期の護衛騎士を連れて持ち場への巡回を始めた。

 人の出入りが多くなる時期は犯罪や諍いが多くなる。騎士団だけでなく軍もより一層巡回を強めているところでもある。気を引き締めてかからなければならない。


「凄いな。昨日一昨日と応援で出てるが、流石は一番人気。こんなに注目を受けることはなかったぞ」


 と、同期の騎士が思わずと言った体で言葉を漏らした。


「式典で陛下の護衛に当たる時に受ける熱狂的な視線よりも大したことはありませんよ」


 さらりと返せば同期の騎士は首を振った。


「それは別次元だろう。好意の眼差しだけでなくあちこちからの殺意も混じっているし、第一あれは陛下に向けられる視線であって我々に向けられているわけではない」


 言われて辺りを見回して――そこで見つけた人物に私は微笑んだ。

 可愛らしい丸い目に動きやすいように束ねられた栗色の髪。

 そっとアマリアさんが手がけたハンカチを挿した胸ポケットの辺りを軽く叩いて見せると、アマリアさんは目を大きくさせて、それから顔を赤くさせた。


「どうかしたか?」


 私のさりげない動作に同僚は尋ね、私はアマリアさんから視線を外して向き直った。


「好きなものはすぐに目に入るものですね」


「ああ、婚約者か」


「ええ」


 そうして巡回の続きを始める。

 本当は声をかけたいけれども今は応援すら呼ぶような繁忙期。お互い視線があっただけでもよしとするしかない。

 代わりと言ってはなんだけけど、私は三日と開けずに贈り物をしている。アマリアさんの好きなお菓子や花、雑貨。こういった時期の為にとあらかじめ用意していたそれらを今、最大限に有効活用している。

 話すことはできないけれども、逆にそれらの贈り物による遠巻きな演出はこれまで咄嗟の感情で動いてきたアマリアさんにとって全く違った印象となることだろう。ゆっくりとした時間の中で迫られることなく私という存在を確かめ、思考してくれるに違いない。


「大丈夫なのか、彼女。人気すぎて刺されたりとか」


「もちろん彼女に害が及ばぬように全力を尽くしています」


 万全とはいかないまでも私もいろいろと試行錯誤を繰り返しながらアマリアさんに害が及ばぬように気をつけてはいる。

 どんなに忙しくとも私が婚約者を思っているのだと広く印象付ければ、あえてアマリアさんに手をつけるような人もいないと見越して、おしゃべりな店員達の多いあちこちの店で贈り物を手配しているのもその為である。


「まぁ騎士の伴侶や婚約者に手を出すとどうなるかってのは、王都に居れば嫌というほど分かってるだろうしな」


 という言葉に静かに肯定する。

 騎士の伴侶などに手を出すと、それが妬みなどによるものであれば周囲からは村八分の扱いを受けるわけであり、人質として手を出した場合ともなればこれ以上ないほどの徹底的証拠や余罪を突きつけられた上で裁きを受けることになる。表世界からはもちろん裏世界からも退場することは少なくない。

 それはともかく――


「さて、私語はここまでにしましょうか」


 歩み進めた先はだんだんと貧困層へと変化している。

 この辺りはまだ元準騎士君には荷が重い地域であり、必ず経験豊富な騎士が付くこととなっている。


「今は不穏な報告もされてはいませんが、いつ何があってもおかしくはありませんからね」


「ああ」


 そうして私達は真っ直ぐに前を見据えて任務に励むのであった。

 読んでいただきありがとうございます。

 続きは来週更新の予定となっています。

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